水酸化酵素(P450c21)欠損症 – 婦人科

水酸化酵素(P450c21)欠損症(21-hydroxylase deficiency)とは、副腎皮質で重要な役割を果たす酵素が欠損することによって引き起こされる遺伝性の疾患です。

この疾患では体内でコルチゾールというホルモンの生成が十分に行われません。

コルチゾールはストレスへの対応や血糖値の調整など、私たちの体にとって欠かせない働きをしています。

また、男性ホルモンの過剰生成も起こりやすくなり、女性の場合は外性器の男性化などの症状が現れることがあります。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

水酸化酵素(P450c21)欠損症の主な症状

水酸化酵素(P450c21)欠損症の主な症状には、塩喪失、低血糖、男性化、成長障害などがあります。

塩喪失と電解質バランスの乱れ

水酸化酵素(P450c21)欠損症では体内の塩分バランスが崩れ、脱水症状や電解質異常が生じる可能性があります。

塩喪失の症状には嘔吐、下痢、食欲不振、体重減少などが含まれ、重度の場合はショック状態に陥ることもあるため、注意が必要です。

症状特徴
嘔吐頻繁に起こる
下痢水様性のことが多い
食欲不振持続的に見られる
体重減少急激に進行する場合がある

低血糖と代謝への影響

コルチゾールの不足により血糖値の調整が困難になることがあり、低血糖症状として、倦怠感、めまい、冷や汗、意識障害などが現れます。

乳幼児期では低血糖による発達への影響が懸念されるため、早期の対応が必要です。

低血糖の影響特徴
短期的影響めまい、冷や汗、意識障害
長期的影響発達遅延のリスク
対応の必要性早期発見と迅速な処置
生活上の注意食事の管理、定期的な血糖測定

男性化症状

水酸化酵素(P450c21)欠損症では男性ホルモンの過剰生成が起こったり、女性患者さんでは外性器の男性化や多毛、声の低音化などの症状が現れることがあります。

男性患者さんでは、思春期早発や身長の伸びの早期停止なども見られることがあります。

主な男性化症状

  • 外性器の肥大化
  • 体毛の増加
  • 声の変化
  • にきびの増加
  • 筋肉量の増加

成長と発達への影響

水酸化酵素(P450c21)欠損症では成長障害や骨年齢の進行が見られることがあり、最終的な身長にも影響を及ぼします。

また、思春期の発来時期が通常と異なることもあり、経過観察が必要です。

影響特徴
成長速度変化が見られることがある
骨年齢進行が早まる可能性がある
最終身長影響を受ける場合がある
思春期発来早期または遅延することがある

水酸化酵素(P450c21)欠損症の原因

水酸化酵素(P450c21)欠損症は主に遺伝子の変異によって引き起こされる先天性疾患で、原因は21-水酸化酵素をコードするCYP21A2遺伝子の異常です。

遺伝子の変異により21-水酸化酵素の機能が低下または喪失し、副腎皮質ステロイドホルモンの合成に支障をきたすことで発症します。

遺伝子変異の種類

CYP21A2遺伝子の主な変異は、点変異、欠失、挿入、遺伝子変換などです。

これらの変異は酵素の機能に異なる影響を与え、症状の重症度にも関連することがわかっています。

変異の種類特徴
点変異単一の塩基が変化
欠失遺伝子の一部が欠ける
挿入余分な塩基が挿入される
遺伝子変換類似遺伝子との組換えが起こる

遺伝形式

水酸化酵素(P450c21)欠損症は常染色体劣性遺伝の形式をとり、両親からそれぞれ変異した遺伝子を受け継ぐ必要があります。

片方の親から変異遺伝子を受け継いだ場合その子どもは保因者となりますが、通常は症状を示しません。

両親が保因者である場合子どもが疾患を発症する確率は25%です。

酵素機能低下のメカニズム

21-水酸化酵素の機能低下は、副腎皮質ステロイドホルモンの合成経路に直接的な影響を及ぼします。

この酵素はプロゲステロンを11-デオキシコルチコステロンに、また17-ヒドロキシプロゲステロンを11-デオキシコルチゾールに変換する役割を担っています。

機能が低下すると変換が正しく行われずコルチゾールやアルドステロンの産生が減少する一方で、前駆物質である17-ヒドロキシプロゲステロンやアンドロステンジオンが蓄積し、アンドロゲン過剰状態を引き起こすのです。

ホルモン変化
コルチゾール減少
アルドステロン減少
17-ヒドロキシプロゲステロン増加
アンドロステンジオン増加

遺伝子検査の重要性

水酸化酵素(P450c21)欠損症の正確な診断には遺伝子検査が不可欠で、CYP21A2遺伝子の変異を特定することで、疾患の確定診断が可能です。

遺伝子検査の有用性

  • 変異の種類や位置の特定
  • 酵素活性の予測
  • 症状の重症度の推測
  • 家族内の保因者スクリーニング

診察(検査)と診断

水酸化酵素(P450c21)欠損症の診断は、臨床症状の観察、血液検査、画像診断、遺伝子検査などを組み合わせて行われます。

初診時の問診と身体診察

水酸化酵素(P450c21)欠損症が疑われる際、詳細な問診と身体診察を行い、家族歴、出生時の状況、発育状況などについて聞き取りを行います。

身体診察で行われるのは、外性器の形態や体毛の状態、血圧測定などです。

問診項目確認内容
家族歴類似症状や遺伝性疾患の有無
出生時情報低血糖や電解質異常の有無
発育状況成長曲線や二次性徴の発現時期
現在の症状脱水傾向や倦怠感の有無

血液検査による生化学的評価

水酸化酵素(P450c21)欠損症の診断では主に17-ヒドロキシプロゲステロン(17-OHP)やアンドロステンジオン、テストステロンなどのホルモン値を測定します。

また、電解質バランスや血糖値の確認も大切です。

検査項目主な目的
17-OHP酵素欠損の程度を推定
アンドロステンジオン副腎アンドロゲン過剰の評価
電解質塩喪失の有無を確認
血糖値低血糖のリスクを評価

画像診断による副腎の評価

超音波検査やCT、MRIなどの画像診断も行われ、副腎の大きさや形状を確認し、他の副腎疾患との鑑別に役立てます。

画像診断法特徴
超音波検査非侵襲的で繰り返し実施可能
CT副腎の詳細な構造を観察
MRI軟部組織のコントラストが優れている
核医学検査機能的な情報を得られる

ACTH負荷試験

ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)負荷試験は、副腎機能を評価する上で不可欠な検査です。

合成ACTHを投与し、その前後でのコルチゾールや17-OHPの血中濃度変化を測定します。

正常な副腎ではACTH投与後にコルチゾール産生が増加しますが、水酸化酵素(P450c21)欠損症では反応が乏しいことがあります。

  • ACTH投与前の基礎値測定
  • ACTH投与30分後の測定
  • ACTH投与60分後の測定
  • 結果の解釈と評価

遺伝子検査による確定診断

水酸化酵素(P450c21)欠損症の確定診断には遺伝子検査が用いられることがあり、CYP21A2遺伝子の変異を解析することで診断の確実性を高めます。

遺伝子検査の利点内容
診断の確実性疾患の有無を明確に判断
重症度予測遺伝子変異と臨床像の関連性を評価
家族スクリーニング保因者や未発症患者の早期発見
遺伝カウンセリング将来の家族計画に関する情報提供

水酸化酵素(P450c21)欠損症の治療法と処方薬、治療期間

水酸化酵素(P450c21)欠損症の治療は主にホルモン補充療法を中心とし、患者さんの状態に応じて長期的に行われます。

治療の目的は不足しているホルモンを補充し、過剰なアンドロゲンの産生を抑制することです。

ホルモン補充療法の基本

水酸化酵素(P450c21)欠損症の治療ではホルモン補充療法は中心的で、主に使用されるのは、グルココルチコイドとミネラロコルチコイドです。

ホルモンを補充することで副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の過剰分泌を抑制し、アンドロゲンの産生を正常化させます。

ホルモン主な役割
グルココルチコイド糖質代謝調整、ストレス対応
ミネラロコルチコイド電解質バランス維持

グルココルチコイド補充療法

グルココルチコイド補充療法で用いられるのは、主にヒドロコルチゾンです。

小児期には成長への影響を考慮し、短時間作用型のヒドロコルチゾンが好まれ、成人では、長時間作用型のプレドニゾロンやデキサメタゾンが選択されることもあります。

投与量は患者さんの年齢や体格、症状の重症度に応じて個別に調整され、小児期では成長に与える影響を最小限に抑えつつ、十分な効果を得られるよう細やかな調整が必要です。

薬剤名作用時間主な使用対象
ヒドロコルチゾン短時間小児
プレドニゾロン中時間成人
デキサメタゾン長時間成人

ミネラロコルチコイド補充療法

ミネラロコルチコイド補充療法には、主にフルドロコルチゾンが使用されます。

この薬剤は電解質バランスの維持に重要で、塩喪失型の患者さんにとって不可欠な治療です。

投与量は、血清電解質濃度や血圧、血漿レニン活性などを指標に調整され、患者さんの状態に応じて調整されます。

観察項目頻度目的
血清電解質濃度定期的電解質バランスの評価
血圧測定毎受診時循環動態の評価
血漿レニン活性必要時ホルモン分泌状態の評価

治療期間と経過観察

水酸化酵素(P450c21)欠損症の治療は生涯にわたって継続され、定期的な経過観察が大切です。

通常3〜6ヶ月ごとに受診し、血液検査や身体診察が行われます。

観察項目頻度注意点
身長・体重測定3〜6ヶ月ごと成長曲線の評価
血液検査3〜6ヶ月ごとホルモン値の確認
骨年齢評価年1回程度骨成熟度の確認
二次性徴の評価思春期前後性的発達の確認

予後と再発可能性および予防

水酸化酵素(P450c21)欠損症は対応により良好な予後が期待できる疾患で、早期発見と継続的な管理が重要であり、再発のリスクを最小限に抑えることが可能です。

予後の一般的な傾向

水酸化酵素(P450c21)欠損症の予後は、早期に発見され対応された場合、多くの患者さんで通常の生活を送ることが可能です。

しかし、診断が遅れたり対応が不十分だったりすると、合併症のリスクが高まることがあります。

予後に影響する要因影響の内容
診断時期早期発見ほど良好な予後
対応の適切さ適切な対応で合併症リスク低下
患者の理解度自己管理の質に影響
医療チームの連携包括的なケアの提供

長期的な健康管理の重要性

水酸化酵素(P450c21)欠損症は生涯にわたる管理が必要な疾患で、定期的な通院と検査でホルモンバランスを保つことが大切です。

長期管理の要点具体的な内容
定期通院ホルモン値のモニタリング
生活習慣管理食事・運動の調整
緊急時対応急性副腎不全への備え

予防的アプローチ

水酸化酵素(P450c21)欠損症の「予防」は、症状の悪化や合併症の予防を意味します。

主な予防的アプローチ

  • 定期的な医療機関受診と検査
  • 処方薬の確実な服用
  • ストレス管理技術の習得
  • 健康的な生活習慣の維持
  • 緊急時の対応準備

水酸化酵素(P450c21)欠損症の治療における副作用やリスク

水酸化酵素(P450c21)欠損症の治療では主にホルモン補充療法が行われますが、長期的な使用に伴う副作用やリスクがあります。

グルココルチコイド関連の副作用

グルココルチコイド長期使用の副作用は、骨粗鬆症、体重増加、皮膚の菲薄化、高血糖などです。

特に成長期の小児では成長抑制の可能性があるため慎重な投与量調整が必要となり、患者さんの年齢や体格、生活環境などを考慮しながら投与計画を立てることが求められます。

副作用リスク因子予防策
骨粗鬆症高用量、長期使用カルシウム・ビタミンD摂取
体重増加過剰投与、食事管理不足適切な食事・運動指導
皮膚菲薄化長期使用、高齢者皮膚ケア、外用薬の併用
高血糖糖尿病素因、高用量血糖モニタリング、食事指導

ミネラルコルチコイド関連の副作用

ミネラルコルチコイドの使用に伴う主な副作用として高血圧や浮腫が挙げられ、これらは電解質バランスの乱れに起因し、塩分摂取量との関連が深いです。

心血管系への負担を増大させる可能性があるため、定期的な血圧測定や電解質チェックを行うことが推奨されます。

副作用監視項目管理方法
高血圧血圧値定期的な測定、生活指導
浮腫体重変化、むくみ塩分制限、利尿薬の検討
低カリウム血症血清カリウム値カリウム補充、食事指導
心機能への影響心電図所見定期的な心機能評価

副腎クリーゼのリスク

水酸化酵素(P450c21)欠損症の患者さんでは、ストレス時に副腎クリーゼを発症するリスクがあり注意が必要です。

これは体調不良や手術などの身体的ストレス時に、通常の投与量では副腎皮質ホルモンが不足することで起こります。

ストレス要因対応策注意点
発熱投与量増加体温に応じた段階的増量
手術術前後の補充量調整麻酔科医との連携
外傷速やかな補充療法救急時の自己注射指導
激しい運動状況に応じた増量運動強度の把握

長期使用によるリスク

ホルモン補充療法の長期使用に伴うリスクとして、以下のような点が挙げられます。

  • 免疫機能の低下
  • 骨密度の減少
  • 代謝異常
  • 心血管系への影響

リスクは、個々の患者さんの状態や生活習慣によって異なります。

薬剤相互作用のリスク

水酸化酵素(P450c21)欠損症の治療に用いる薬剤、特にグルココルチコイドは多くの薬剤と相互作用を示す可能性があります。

抗凝固薬や非ステロイド性抗炎症薬との併用では出血リスクが高まり、また一部の抗てんかん薬はグルココルチコイドの代謝を促進し効果を減弱させることがあるので注意が必要です。

併用薬相互作用注意点
抗凝固薬出血リスク上昇凝固能モニタリング
NSAIDs胃腸障害リスク上昇胃粘膜保護薬の併用
抗てんかん薬グルココルチコイド効果減弱投与量調整の検討
CYP3A4阻害薬グルココルチコイド血中濃度上昇副作用モニタリング

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

外来診療にかかる費用

水酸化酵素(P450c21)欠損症の外来診療では、定期的な血液検査や画像検査が行われます。

血液検査の費用は、17-OHプロゲステロン測定で約4,000円、ACTH測定で約5,000円です。

腹部CT検査は約15,000円、腹部MRI検査は25,000円程度かかります。

また、ホルモン補充療法に使用するヒドロコルチゾンの薬剤費は、月額5,000円から10,000円です。

項目概算費用
17-OHプロゲステロン測定4,000円/回
ACTH測定5,000円/回
腹部CT検査15,000円/回
腹部MRI検査25,000円/回

入院治療にかかる費用

急性副腎不全などで入院治療が必要になった場合、入院費用が発生します。

入院費用は一般病棟で1日あたり約30,000円、集中治療室で1日あたり約100,000円です。

副腎クリーゼの治療に必要な水溶性ヒドロコルチゾンの注射剤は、1回あたり約1,000円になります。

医療費助成制度

水酸化酵素(P450c21)欠損症は指定難病に認定されており、医療費助成制度を利用でき、自己負担額が軽減されます。

以上

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