子宮腺筋症 – 婦人科

子宮腺筋症(adenomyosis)とは、子宮の内側を覆う組織(子宮内膜)が子宮筋層内に入り増える疾患で、30代から50代の女性に見られる病気です。

症状は月経痛の悪化や月経量の増加、下腹部の痛みなどが挙げられ、不妊の原因にもなります。

子宮腺筋症には、ホルモンバランスの乱れや出産経験などが関与しています。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

子宮腺筋症の主な症状

子宮腺筋症の症状は、月経痛や月経量の増加、下腹部痛です。

月経に伴う症状

子宮腺筋症の症状は、月経周期に関連して現れます。

多くの患者さんが経験する激しい月経痛は、通常の月経痛よりもかなり強いです。

また、月経量も増え、貧血やめまい、極度の疲労感が起こる要因になります。

主要な症状特徴と影響
激しい月経痛通常の痛みを凌駕し、日常活動に重大な支障
月経量の著増貧血、めまい、疲労感を誘発し、QOLを低下

持続的な痛みと不快感

子宮腺筋症に起因する痛みは月経期間中にとどまらず、慢性的に持続するケースも少なくありません。

下腹部の痛みや圧迫感、さらには腰痛が長期にわたって続きます。

排泄機能への影響と関連症状

子宮の肥大化に伴い隣接する膀胱や直腸を圧迫することで、排尿や排便に関連する症状が現れます。

  • 頻尿や尿意切迫感
  • 排尿時の違和感や痛み
  • 慢性的な便秘傾向
  • 排便時の不快感や痛み
排泄関連症状発現頻度
頻尿・尿意切迫高い
排尿時痛中程度
慢性便秘中~高
排便時不快感中程度

不妊リスクの上昇

子宮内膜の異常増殖や子宮の構造的な変化により、受精卵の着床や胎児の正常な発育に影響を及ぼすことがあります。

子宮腺筋症の原因

子宮腺筋症の原因は子宮内膜組織の異常な増殖と移動で、さらに、ホルモンバランスの乱れや炎症反応も発症に深く関係しています。

子宮内膜組織の異常増殖と侵入

子宮腺筋症の原因は、子宮内膜組織が本来あるべき場所をはずれ、子宮筋層内へ侵入・増殖することです。

通常、子宮内膜は子宮腔内面を覆う組織ですが、何らかの要因でこの組織が筋層内に入り込むと、そこで増殖を続けてしまいます。

ホルモンバランスの乱れと影響

エストロゲンの過剰分泌は、子宮内膜組織の異常な増殖を加速させます。

ホルモン子宮腺筋症への作用
エストロゲン内膜組織増殖促進
プロゲステロン内膜組織安定化

炎症反応と免疫系の関与

子宮腺筋症の発症には、炎症反応や免疫系の働きも関係しています。

子宮筋層内に侵入した内膜組織に対し体の免疫系が反応し、炎症を起こすのです。

炎症反応が長期化すると、さらなる組織の異常増殖や症状の悪化を招きます。

遺伝的素因と環境要因

子宮腺筋症の発症には、遺伝的な素因も関与していることが明らかになってきました。

要因影響の程度
遺伝的素因中程度
環境要因高い

また、環境要因の影響も見過ごせません。

日常的なストレスや不規則な生活リズム、環境ホルモンへさらされることも、子宮腺筋症の発症リスクを高める要因です。

子宮への物理的影響と構造変化

子宮への物理的な影響も、子宮腺筋症の発症の原因の一つです。

次のような状況が、子宮内膜組織の増殖や移動を促します。

  • 帝王切開などの子宮手術歴
  • 複数回の出産経験
  • 子宮内膜掻爬術の既往

年齢と子宮腺筋症

年齢もまた発症に関係していて、子宮腺筋症は30代後半から40代の女性に多く見られます。

年齢層発症リスク
20代以下低い
30代前半やや低い
30代後半~40代高い
50代以上低下傾向

この年齢層での発症頻度が高い背景には、長年にわたるホルモンの影響や、出産・妊娠の経験があります。

ただし、若年層や閉経後の女性でも発症するので注意が必要です。

診察(検査)と診断

子宮腺筋症の診断は問診と身体診察、画像検査、さらに病理検査へと段階的に進んでいきます。

問診と身体診察

問診では、患者さんの症状、月経に関する履歴、過去の妊娠・出産経験、他の既往歴について、聞き取ります。

次の段階として、内診を含む総合的な身体診察を実施。

内診では子宮の大きさや形状の変化、さらには圧迫時の痛みの有無を確認します。

診察プロセス重点的確認事項
詳細な問診症状の性質、月経パターン、妊娠・出産歴、他の健康上の問題
綿密な内診子宮の形態変化、大きさの異常、圧痛の存在

画像診断

画像診断は、子宮腺筋症の正確な診断を行ううえで欠かせまん。

検査方法

  • 経腟超音波検査:子宮の全体的な大きさや内部構造の変化を非侵襲的に観察
  • MRI検査:子宮筋層の微細な変化や異常を高解像度で評価
  • CT検査:他の骨盤内疾患との詳細な鑑別に役立つ総合的な画像情報を提供

確定診断

子宮腺筋症の確定診断は、病理組織学的な検査が必要です。

ただし、子宮温存を希望する患者さんの場合、診断のための組織採取が困難であるため、画像検査を使った臨床診断を行います。

一方、子宮全摘出術を選択したときは、摘出した子宮の病理検査から最終的な確定診断をくだします。

診断アプローチ特性と意義
臨床的診断症状の詳細、身体所見、画像診断結果を総合的に評価
病理学的確定診断摘出標本の微視的観察による最終的な判断

鑑別診断

子宮腺筋症の正確な診断を行うえで、似ている症状が出る他の婦人科疾患との鑑別が不可欠です。

鑑別対象となる疾患

  • 子宮筋腫:良性腫瘍ながら類似症状を呈する
  • 子宮内膜症:骨盤内の他の部位に内膜組織が存在
  • 子宮頸部・体部癌:悪性腫瘍との鑑別が極めて重要
  • 骨盤内炎症性疾患:感染症による症状との区別
鑑別対象疾患鑑別ポイント
子宮筋腫画像上の特徴的所見、症状パターンの違い
子宮内膜症骨盤内の他部位の病変有無、症状の特徴
子宮癌細胞診・組織診の結果、画像所見の違い
骨盤内炎症炎症マーカーの上昇、急性期症状の有無

子宮腺筋症の治療法と処方薬、治療期間

子宮腺筋症の治療は薬物療法と手術療法があり、それぞれの特性と効果を知ったうえで選ぶことが大切です。

薬物療法

子宮腺筋症に対する薬物療法は患者さんの苦痛を和らげ、病変の進行を抑制することが目的です。

低用量ピルやプロゲスチン製剤などのホルモン療法が挙げられます。

ホルモン剤は子宮内膜の過剰な増殖を抑え、疼痛や異常出血を減らします。

薬剤名期待される効果
低用量ピル月経痛の軽減、過多月経の改善
プロゲスチン製剤子宮内膜増殖の抑制

治療期間は3〜6ヶ月程度です。

GnRHアゴニスト療法

GnRHアゴニストは、一時的に閉経に似た状態を誘発することで子宮腺筋症の症状を改善する薬剤です。

この治療法は顕著な効果が期待できる一方で副作用も強いため、慎重に使用します。

治療期間は原則として6ヶ月が上限です。

NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)

NSAIDsは、子宮腺筋症に伴う痛みの緩和に高い効果を発揮する薬剤です。

月経痛や慢性化した下腹部痛に対して使用し、即効性があります。

薬剤タイプ使用するタイミング
速効性タイプ疼痛発生時の頓用
持続性タイプ定期的な予防的服用

NSAIDsは長期にわたる使用が認められていますが、胃腸障害には十分な注意が必要です。

子宮温存を目指した手術療法

子宮温存手術は、将来妊娠を希望する患者さんや若年層の方に行われます。

  • 子宮腺筋症病巣の選択的除去術
  • 子宮動脈の塞栓術
  • 高密度焦点式超音波治療(HIFU)

術後の回復期間は、2〜4週間程度です。

子宮全摘出術

子宮全摘出術は、子宮腺筋症に対する根治的な治療法です。

妊娠の希望がなく、他の保存的治療法では十分な効果が得られなかった場合に実施します。

手術方法は腹腔鏡下手術と開腹手術です。

手術方法特徴
腹腔鏡下手術低侵襲性、早期回復
開腹手術広範囲の処置が可能

術後の回復期間は約4〜6週間になります。

子宮腺筋症の治療における副作用やリスク

子宮腺筋症には保存的な薬物療法と侵襲的な手術療法があり、各治療法には副作用とリスクがあります。

薬物療法に伴う副作用

薬物療法は子宮腺筋症の症状管理において用いられる方法ですが、いくつかの副作用に対して注意を払う必要があります。

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)

  • 消化器系への悪影響:胃腸障害、胃潰瘍のリスク増加
  • 腎機能への影響:長期使用による腎機能低下の可能性

ホルモン療法(低用量ピル、プロゲスチン製剤など)

  • 消化器症状:悪心・嘔吐、食欲不振
  • 体型変化:体重増加、浮腫
  • 不規則な出血:治療初期の不正出血、経血量の変化
薬物療法の種類副作用注意を要する患者さん
NSAIDs胃腸障害、腎機能障害消化器疾患既往者、高齢者
ホルモン療法悪心・嘔吐、体重増加、不正出血血栓症リスク保有者、喫煙者

GnRHアゴニスト療法

GnRHアゴニスト療法は子宮腺筋症の症状改善に高い効果を示す一方で、長期使用に伴う特有のリスクがあります。

  • 骨密度の進行性低下:骨粗鬆症のリスク増大
  • 更年期様症状の出現:ホットフラッシュ、発汗、気分変動など
  • 脂質代謝への悪影響:コレステロール値の上昇

リスクを最小限に抑えるため、GnRHアゴニスト療法の使用期間は6ヶ月以内です。

子宮温存手術

子宮温存を希望する患者さんに対して行われる手術療法には、以下のようなリスクがあります。

術中・術後の合併症

  • 予期せぬ出血:大量出血のリスク
  • 術後感染:抗生剤投与が必要となる感染症の発症
  • 子宮穿孔:手術操作による子宮壁の損傷

長期的な影響

  • 術後の癒着形成:将来的な妊孕性への影響
  • 病巣の再発:不完全な病巣除去による症状の再燃

また、技術的な制約から病巣の完全除去が困難であることが多く、そのため術後の再発リスクも無視できない要素です。

子宮温存手術の種類リスク長期的な懸念事項
病巣除去術出血、感染、子宮穿孔癒着形成、再発
子宮形成術子宮壁の脆弱化将来の妊娠時のリスク増加

子宮全摘出術

子宮全摘出術は大きな手術であるため、リスクがあります。

周術期のリスク

  • 大量出血:輸血が必要となるような出血
  • 重度の感染:抗生剤治療を要する術後感染症
  • 周辺臓器損傷:膀胱、尿管、直腸などの近接臓器の不慮の損傷

術後の合併症

  • 深部静脈血栓症:下肢の浮腫、痛みを伴う血栓
  • 更年期様症状:卵巣も同時に摘出した場合に生じる急激なホルモン変化

UAE(子宮動脈塞栓術)

UAEは新しい低侵襲治療法であるものの、次のような特有のリスクが報告されています。

短期的な副作用

  • 塞栓後症候群:一過性の発熱、腹痛、悪心などの症状群

重大な合併症

  • 子宮壊死:極めてまれではあるが、子宮組織の壊死
  • 卵巣機能不全:早発閉経のリスク

長期的な影響

  • 不妊リスク:卵巣機能や子宮内膜環境への影響
UAE実施後の期間想定されるリスク患者さんへの影響
短期(数日~数週間)塞栓後症候群一時的な不快症状
中期(数ヶ月~1年)子宮壊死、卵巣機能低下追加手術の必要性、ホルモンバランスの乱れ
長期(数年以上)不妊、早発閉経挙児希望への影響、生活の質の変化

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

薬物療法にかかる費用

低用量ピルやプロゲスチン製剤は、1ヶ月あたり5,000円から15,000円程度です。

薬剤名月額費用(保険適用前)
低用量ピル5,000円~10,000円
プロゲスチン製剤8,000円~15,000円

GnRHアゴニスト療法を選択すると、1回の注射で15,000円から30,000円ほどかかり、6ヶ月間の治療で総額約90,000円から180,000円となります。

手術療法の費用

子宮温存手術の場合、腹腔鏡下手術で30万円から50万円、開腹手術で40万円から70万円程度かかることが多いです。

子宮全摘出術となるとさらに高額で、50万円から100万円以上かかります。

手術方法費用範囲(保険適用前)
腹腔鏡下手術30万円~50万円
開腹手術40万円~70万円
子宮全摘出術50万円~100万円以上

その他の治療法にかかる費用

子宮動脈塞栓術や集束超音波治療などの新しい治療法も、検討されることがあります。

  • 子宮動脈塞栓術:40万円~60万円
  • 集束超音波治療:50万円~80万円

ただし、保険適用外のこともあるため、事前に医療機関に確認してください。

以上

References

Ferenczy A. Pathophysiology of adenomyosis. Human reproduction update. 1998 Jul 1;4(4):312-22.

Azziz R. Adenomyosis:: Current perspectives. Obstetrics and gynecology clinics of North America. 1989 Mar 1;16(1):221-35.

Bergeron C, Amant F, Ferenczy A. Pathology and physiopathology of adenomyosis. Best practice & research Clinical obstetrics & gynaecology. 2006 Aug 1;20(4):511-21.

Garcia L, Isaacson K. Adenomyosis: review of the literature. Journal of minimally invasive gynecology. 2011 Jul 1;18(4):428-37.

Levy G, Dehaene A, Laurent N, Lernout M, Collinet P, Lucot JP, Lions C, Poncelet E. An update on adenomyosis. Diagnostic and interventional imaging. 2013 Jan 1;94(1):3-25.

Vannuccini S, Petraglia F. Recent advances in understanding and managing adenomyosis. F1000Research. 2019;8.

Parazzini F, Vercellini P, Panazza S, Chatenoud L, Oldani S, Crosignani PG. Risk factors for adenomyosis. Human reproduction (Oxford, England). 1997 Jun 1;12(6):1275-9.

Vercellini P, Viganò P, Somigliana E, Daguati R, Abbiati A, Fedele L. Adenomyosis: epidemiological factors. Best practice & research Clinical obstetrics & gynaecology. 2006 Aug 1;20(4):465-77.

Benagiano G, Brosens I. History of adenomyosis. Best practice & research Clinical obstetrics & gynaecology. 2006 Aug 1;20(4):449-63.

Matalliotakis IM, Kourtis AI, Panidis DK. Adenomyosis. Obstetrics and Gynecology Clinics. 2003 Mar 1;30(1):63-82.

免責事項

当記事は、医療や介護に関する情報提供を目的としており、当院への来院を勧誘するものではございません。従って、治療や介護の判断等は、ご自身の責任において行われますようお願いいたします。

当記事に掲載されている医療や介護の情報は、権威ある文献(Pubmed等に掲載されている論文)や各種ガイドラインに掲載されている情報を参考に執筆しておりますが、デメリットやリスク、不確定な要因を含んでおります。

医療情報・資料の掲載には注意を払っておりますが、掲載した情報に誤りがあった場合や、第三者によるデータの改ざんなどがあった場合、さらにデータの伝送などによって障害が生じた場合に関しまして、当院は一切責任を負うものではございませんのでご了承ください。

掲載されている、医療や介護の情報は、日付が付されたものの内容は、それぞれ当該日付現在(又は、当該書面に明記された時点)の情報であり、本日現在の情報ではございません。情報の内容にその後の変動があっても、当院は、随時変更・更新することをお約束いたしておりませんのでご留意ください。