思春期出血 – 婦人科

思春期出血(adolescent uterine bleeding)とは、思春期の女性に見られる不規則な子宮からの出血のことです。

この症状は、女性ホルモンの分泌が不安定な思春期に多く見られます。身体の発達過程で起こる自然な現象で、程度や持続期間はさまざまです。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

思春期出血の種類(病型)

思春期出血は、無排卵性思春期出血と器質性子宮出血の主要な病型に分類されます。

無排卵性思春期出血

無排卵性思春期出血は、思春期出血の中でも最も一般的な病型で、排卵が起こらないことが特徴です。

排卵が行われないため、黄体形成がなく、プロゲステロンの分泌が不十分となります。

その結果、子宮内膜が正常に剥離せず、不規則な出血が生じることがあります。

無排卵性思春期出血の主な特徴

特徴詳細
出血パターン不規則
出血量変動が大きい
持続期間数日から数週間
ホルモン状態エストロゲン優位

無排卵性思春期出血は、視床下部-下垂体-卵巣軸の未熟性が主な要因です。

器質性子宮出血

器質性子宮出血は、子宮や性器に器質的な異常がある場合に見られる病型です。

器質性子宮出血の原因となる可能性のある主な病態

  • 子宮筋腫
  • 子宮内膜ポリープ
  • 子宮奇形
  • 性器感染症

思春期出血の主な症状

思春期出血は、無排卵性思春期出血では不規則な出血パターンが、器質性子宮出血では持続的な出血が見られることが多いです。

無排卵性思春期出血の症状

無排卵性思春期出血の特徴は、月経周期の不規則性にあり、通常の月経と比べて、出血の間隔が一定せず、予測が困難なことがあります。

出血量も一定ではなく、少量から多量までさまざまです。

また、出血の持続期間も一定ではなく、数日で終わる場合もあれば、数週間続くこともあります。

不規則な出血パターンは、ホルモンバランスの乱れが原因です。

症状特徴
月経周期不規則
出血量変動あり
持続期間数日〜数週間

無排卵性思春期出血の主な症状

  • 不規則な出血間隔(15日〜3ヶ月程度)
  • 出血量の変動(少量の出血から多量出血まで)
  • 出血期間の不定(2〜3日の短期間から2週間以上の長期間まで)
  • 月経痛がない、または軽度である場合が多い
  • 随伴症状(疲労感、めまい、頭痛など)が出現することもある

器質性子宮出血の症状

一方、器質性子宮出血は、子宮や腟に器質的な問題がある場合に起こる出血です。

この型の主な特徴は、持続的な出血や大量出血にあります。

無排卵性思春期出血とは異なり、出血パターンがより規則的であることが多いです。

症状特徴
出血パターン比較的規則的
出血量多量
随伴症状貧血、腹痛など

思春期出血の原因

思春期出血の原因は、ホルモンバランスの乱れと器質的異常などです。

ホルモンバランスの乱れ

思春期出血の最も一般的な原因は、ホルモンバランスの乱れです。

この時期、視床下部-下垂体-卵巣軸が成熟過程にあり、ホルモン分泌が不安定になりやすくなることで、子宮内膜の周期的な変化が乱れ、不規則な出血につながります。

思春期におけるホルモンバランスの特徴

ホルモン特徴
エストロゲン分泌量が変動しやすい
プロゲステロン分泌不足が起こりやすい
ゴナドトロピン分泌パターンが不安定

器質的異常

思春期出血のもう一つの重要な原因は、子宮や卵巣の器質的異常です。

これらの異常は、直接的に出血を引き起こしたり、ホルモンバランスに影響を与えることで、不規則な出血パターンを生じさせることがあります。

器質的異常の主な例

  • 子宮筋腫
  • 子宮内膜ポリープ
  • 子宮奇形
  • 卵巣嚢腫

全身疾患の影響

思春期出血は、全身疾患の一症状として現れることもあります。

思春期出血に関連する可能性のある全身疾患

疾患カテゴリー具体例
内分泌疾患甲状腺機能異常、多嚢胞性卵巣症候群
血液疾患血小板減少症、凝固異常
代謝性疾患糖尿病、肥満
自己免疫疾患全身性エリテマトーデス

ストレスと生活習慣の影響

思春期は心身ともに大きな変化を経験する時期で、ストレスや生活習慣の乱れも思春期出血の誘因です。

精神的なストレスは、視床下部-下垂体-卵巣軸の機能に影響を与え、ホルモンバランスを崩す可能性があります。

また、不規則な生活リズムや極端な食生活、過度の運動なども、体重の急激な変化やエネルギーバランスの乱れを通じて、思春期出血のリスクを高める要因です。

遺伝的要因

思春期出血の発症には、遺伝的な要因も関与していることがあります。

初経年齢や月経周期の特徴には遺伝的な傾向が見られることがあり、思春期出血の発症パターンに影響を与える可能性もあります。

診察(検査)と診断

思春期出血の診断は、詳細な問診、身体診察、各種検査などが必要です。

問診では月経歴や出血パターンの確認が重要で、身体診察では全身状態と局所所見を評価します。

問診の重要性

主な問診項目には、初経年齢、月経周期の規則性、出血の量や持続期間、随伴症状などが含まれ、また、既往歴、家族歴、生活習慣なども確認されます。

問診項目具体的な内容
月経歴初経年齢、周期の規則性
出血状況量、持続期間、周期外出血
随伴症状腹痛、疲労感、めまいなど

身体診察の実施

身体検査では、身長、体重、血圧、脈拍などのバイタルサイン、貧血の有無や栄養状態などを確認します。

局所所見の確認では、必要に応じて内診が行われ、子宮や卵巣の大きさ、形状、硬さなどが評価されます。

ただし、思春期の患者さんの場合、内診を行わずに超音波検査で代替することも多いです。

各種検査の実施

問診と身体診察に加えて、検査が実施されることもあります。

主な検査項目

  • 血液検査(貧血の有無、ホルモン値の確認など)
  • 尿検査(妊娠の可能性の確認など)
  • 超音波検査(子宮や卵巣の状態確認)
  • 子宮頸部細胞診(必要に応じて)
  • MRIやCTなどの画像診断(器質的疾患が疑われる場合)

検査は、患者さんの状態や症状に応じて選択され、診断の精度を高めるとともに、他の疾患の可能性を排除する役割も果たします。

検査項目主な目的
血液検査貧血、ホルモン異常の確認
超音波検査子宮・卵巣の形態評価
画像診断器質的疾患の確認

思春期出血の治療法と処方薬、治療期間

思春期出血の治療法には、ホルモン療法、非ホルモン療法、そして必要に応じて外科的治療があり、治療期間は数週間から数か月、場合によっては長期に及ぶことがあります。

ホルモン療法

ホルモン療法は、体内のホルモンバランスを整え、規則的な月経周期を確立すことが目標です。

主に用いられるホルモン製剤

製剤名主な作用
経口避妊薬エストロゲンとプロゲステロンの補充
プロゲスチン製剤子宮内膜の安定化
GnRHアゴニスト卵巣機能の一時的抑制
  • 経口避妊薬 エストロゲンとプロゲステロンを含む複合ホルモン剤で、多くの場合3週間服用し1週間休薬するサイクルで使用。
  • プロゲスチン製剤 子宮内膜を安定させる効果があり、周期的または連続的に投与。
  • GnRHアゴニスト 一時的に卵巣機能を抑制するため、重度の出血や貧血がある場合に短期間使用。

非ホルモン療法

非ホルモン療法は、ホルモン療法が適さない場合や、補助的な治療として用いられます。

主な非ホルモン療法

  • 止血剤(トラネキサム酸など)
  • 鉄剤(貧血がある場合)
  • 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)

外科的治療

外科的治療は、器質的異常が原因だったり、他の治療法で改善が見られない場合に検討されます。

主な外科的治療

治療法適応
子宮鏡下手術子宮内ポリープや粘膜下筋腫の切除
腹腔鏡下手術卵巣嚢腫の摘出など
開腹手術複雑な子宮奇形の修正など

手術後の回復期間は、術式によって異なりますが、通常1〜2週間から数か月程度です。

治療期間

ホルモン療法の場合、通常3〜6か月程度の治療期間が設定されることが多いです。

非ホルモン療法の治療期間は、症状の程度や改善状況によって個別に判断され、外科的治療の場合、手術自体は1回で完了します。

予後と再発可能性および予防

思春期出血の予後は一般的に良好で、多くの場合、年齢とともに症状は改善しますが、一部では持続や再発がみられます。

思春期出血の一般的な予後

思春期出血の予後は、多くの場合良好で、年齢が上がるにつれて、ホルモンバランスが安定し、症状が自然に改善することが多いです。

予後の分類特徴
良好症状が自然に改善
中程度一部症状が持続
要注意症状が長期化

再発のリスクと要因

思春期出血は再発の可能性がある症状です。

ホルモンバランスの乱れが続く場合や、ストレスが長期化する際に再発が見られることがあります。

また、器質的な問題が原因の場合、問題が解決されないと再発のリスクが高くなります。

長期的な健康管理の重要性

定期的な婦人科検診を受けることで、潜在的な問題を早期に発見し、対処できます。

長期的な健康管理項目

管理項目内容
定期検診年1回以上の婦人科検診
自己観察月経周期や出血状況の記録
生活習慣規則正しい生活の維持

思春期出血の治療における副作用やリスク

思春期出血の治療には、ホルモン療法や非ホルモン療法、外科的処置などさまざまな方法がありますが、それぞれに特有の副作用やリスクがあります。

ホルモン療法に関連する副作用とリスク

ホルモン療法の主な副作用は、吐き気や嘔吐、頭痛、乳房の張りなどです。

多くの場合、治療開始後数か月以内に軽減または消失することが多いですが、一部の患者さんでは、長期にわたって不快感が続くこともあります。

ホルモン療法に関連する主な副作用

副作用発現頻度
吐き気・嘔吐比較的高い
頭痛中程度
乳房の張り中程度
体重増加やや低い

また、ホルモン療法に伴うより重大なリスクとして、血栓症が挙げられます。

非ホルモン療法に関連する副作用とリスク

止血剤の一種であるトラネキサム酸では、まれに消化器症状や軽度の頭痛が報告されています。

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を使用する際には、胃腸障害や腎機能への影響に注意が必要です。

非ホルモン療法で使用される主な薬剤と注意点

  • トラネキサム酸 消化器症状、頭痛に注意
  • NSAIDs 胃腸障害、腎機能への影響に注意
  • 鉄剤 便秘、胃部不快感が生じる可能性あり

副作用は、多くの場合、一時的なものであり、薬剤の調整や対症療法により管理が可能です。

外科的処置に関連するリスク

外科的処置が必要となる場合、手術に伴う一般的なリスクに加え、生殖器に特有のリスクも考慮する必要があります。

主な外科的処置と伴うリスク

外科的処置主なリスク
子宮鏡下手術子宮穿孔、感染症
腹腔鏡下手術臓器損傷、癒着形成
開腹手術出血、麻酔関連合併症

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

外来診療の基本的な費用

思春期出血の外来診療では、診察や基本的な検査が行われます。

これらの費用は保険適用となる場合が多く、自己負担額は通常3割で、診察と血液検査を合わせて5,000円から10,000円程度です。

検査費用の内訳

主な検査とその概算費用

検査項目概算費用(3割負担の場合)
血液検査2,000円〜5,000円
超音波検査3,000円〜6,000円
ホルモン検査5,000円〜10,000円
MRI検査15,000円〜30,000円

薬物療法にかかる費用

思春期出血の治療には、ホルモン療法などの薬物療法が用いられることがあります。

  • 低用量ピル 1ヶ月分 2,000円〜5,000円
  • 止血剤 1週間分 500円〜1,500円
  • 鉄剤(貧血治療) 1ヶ月分 1,000円〜3,000円
  • プロゲステロン製剤 1ヶ月分 3,000円〜7,000円

これらの薬剤費は保険適用となる場合が多いですが、一部自己負担となることもあります。

入院治療が必要な場合の費用

重度の症状や合併症がある場合、入院治療が必要となることがあります。

入院費用の目安

入院期間概算費用(3割負担の場合)
3日間50,000円〜100,000円
1週間100,000円〜200,000円
2週間200,000円〜400,000円

以上

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