単純性体重減少性無月経 – 婦人科

単純性体重減少性無月経(amenorrhea associated with simple weight loss)とは、体重が急激に減少したことが原因で月経が止まってしまう状態のことです。

ダイエットや激しい運動、ストレスなどによって起こることがあり、体重が減少すると体内のホルモンバランスが乱れ、月経周期に影響を与えます。

単純性体重減少性無月経は主に思春期から青年期の女性に多く見られ、健康上の問題につながる可能性があるため注意が必要です。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

単純性体重減少性無月経の主な症状

単純性体重減少性無月経の主な症状は、月経の停止や不規則化、体重減少、疲労感などです。

月経の停止または不規則化

単純性体重減少性無月経の最も顕著な症状は、月経の停止または不規則化です。

通常の月経周期が乱れ3か月以上月経が来ないことがあり、また、月経周期が長くなったり短くなったりすることもあります。

体重減少

急激な体重減少はこの疾患の特徴的な症状の一つで、体重が通常の15%以上減少すると月経が止まる可能性が高くなります。

身長体重減少の目安
150cm6.75kg以上
160cm7.70kg以上
170cm8.65kg以上

疲労感と体力低下

体重減少に伴い全身の疲労感や体力の低下を感じることがあり、日常生活に支障をきたすほどの強い倦怠感を覚えることもあります。

その他の身体症状

単純性体重減少性無月経には、以下のような症状が伴うことがあります。

  • 冷え症
  • 便秘
  • 頭痛
  • めまい
  • 不眠
身体症状説明
皮膚の乾燥栄養不足による皮膚の状態悪化
毛髪の脆弱化ホルモンバランスの乱れによる髪質の変化

単純性体重減少性無月経の症状は個人差が大きくすべての症状が同時に現れるわけではありませんが、3か月以上続く場合は受診が必要です。

症状の持続期間推奨される対応
1〜2か月経過観察
3か月以上医療機関受診

単純性体重減少性無月経の原因

単純性体重減少性無月経の主な原因は体重減少に伴う身体的ストレスと栄養不足にあり、ホルモンバランスの乱れが月経周期に影響を与えます。

体重減少と無月経の関連性

単純性体重減少性無月経は、急激な体重減少や過度なダイエットが引き金です。

体重が急激に減少すると身体にストレスがかかり、ホルモンバランスが崩れ、特に、体脂肪率が低下するとエストロゲンの分泌量が減少し、正常な月経周期を維持することが困難になります。

エストロゲンは月経周期の調節に重要な役割を果たしているため分泌量が減少すると、卵巣機能に影響を与え無月経につながる可能性があります。

栄養不足がもたらす影響

過度なダイエットや極端な食事制限は、身体に必要な栄養素が不足する原因です。

栄養不足はホルモン分泌に関わる臓器の機能低下を引き起こし、月経周期に影響を与えます。

ビタミンやミネラルの不足は、ホルモンバランスの乱れを助長する要因です。

栄養素ホルモンバランスへの影響
亜鉛エストロゲン分泌に関与
ビタミンB群ホルモン代謝に関与
ビタミンD卵巣機能に関与
卵胞発育に関与

ストレスと無月経の関係

急激な体重減少やダイエットによるストレスは、視床下部-下垂体-卵巣系(HPO軸)に影響を与えます。

ストレスにより視床下部からのゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)の分泌が抑制されると、下垂体からの黄体形成ホルモン(LH)と卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌も抑制されることに。

ストレスの影響ホルモンへの作用
視床下部GnRH分泌抑制
下垂体LH・FSH分泌低下
卵巣エストロゲン減少

体脂肪率の低下とホルモンバランス

体脂肪はエストロゲンの産生と貯蔵に関与しているため、体脂肪率が極端に低下するとエストロゲンの分泌量が減少し、月経周期の乱れや無月経につながる可能性が高まります。

体脂肪率が17%を下回ると正常な月経周期を維持するのが難しくなるとされており、長期的には骨密度の低下や不妊などの問題を引き起こすこともあるので注意が必要です。

体脂肪率月経周期への影響
22%以上正常範囲
17-22%注意が必要
17%未満無月経のリスク大

運動と無月経の関連性

激しい運動やトレーニングは体重減少や体脂肪率の低下をもたらし、同時に身体にストレスを与えます。

特に長距離ランナーやバレエダンサーなど、厳しい体型管理が求められるアスリートに多く見られ、運動による過度なエネルギー消費は身体のホルモンバランスを崩す一因です。

単純性体重減少性無月経のリスクが高まる要因

  • 急激な体重減少(1ヶ月で体重の10%以上)
  • 極端な低カロリー食
  • 過度な運動
  • 摂食障害(拒食症など)
  • ストレスの蓄積

心理的要因の影響

単純性体重減少性無月経の発症には心理的要因も関与しています。

強いストレスや不安、うつ状態などの心理的ストレスは、視床下部-下垂体-副腎系(HPA軸)を活性化させ、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を増加。

コルチゾールの過剰分泌はHPO軸の機能を抑制し、無月経を引き起こす可能性があります。

心理的要因ホルモンへの影響
ストレスコルチゾール増加
不安GnRH分泌抑制
うつ状態LH・FSH分泌低下

診察(検査)と診断

単純性体重減少性無月経の診断は、詳細な問診、身体診察、各種検査を通じて行われ、臨床診断では患者の症状や体重変化、生活習慣の変化などを総合的に評価します。

問診と身体診察

単純性体重減少性無月経の診断ではまず詳細な問診と身体診察が行われます。

問診では月経の状況、体重の変化、食生活や運動習慣、ストレスの有無などについて詳しく聞き取りが行われ、身体診察では身長、体重、BMIの測定、甲状腺の触診、乳房の視診・触診などが実施されます。

問診項目確認内容
月経歴最終月経日、周期の変化
体重変化減少量、期間
生活習慣食事、運動、ストレス

血液検査

一般的な血液検査では貧血の有無、栄養状態、甲状腺機能などを確認し、また、ホルモン検査では、卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体形成ホルモン(LH)、エストラジオール、プロラクチンなどの値を測定します。

血液検査は他の無月経の原因を除外するために欠かせません。

血液検査項目確認内容
一般検査貧血、栄養状態
ホルモン検査FSH、LH、エストラジオール

画像検査

必要に応じて骨盤超音波検査や骨密度検査などの画像検査が行われることがあります。

  • 骨盤超音波検査 子宮や卵巣の状態を確認し、他の婦人科疾患の可能性を除外。
  • 骨密度検査 長期的な無月経による骨量減少のリスクを評価するために実施されることがある。
検査項目目的
骨盤超音波子宮・卵巣の状態確認
骨密度検査骨量減少リスクの評価

単純性体重減少性無月経の治療法と処方薬、治療期間

単純性体重減少性無月経治療の目標は、主に体重の回復と栄養状態の改善です。

治療法には食事療法、ホルモン補充療法、心理療法などがあり、個々の状況に応じて適切選択されます。

食事療法による体重回復

食事療法は単純性体重減少性無月経の治療において基本となるアプローチです。

十分なカロリー摂取と栄養バランスの改善を通じて徐々に体重を増加させることが目標となります。

通常、1週間に0.5〜1kgのペースで体重を増やしていくことが推奨されており、体脂肪率を健康的な範囲まで回復させ、ホルモンバランスの正常化を促すことが目標です。

栄養素役割
タンパク質筋肉の修復と維持
炭水化物エネルギー源
脂質ホルモン生成
ビタミン・ミネラル代謝機能の正常化

ホルモン補充療法

ホルモン補充療法は体重が回復しても月経が再開しない場合に検討される治療法です。

エストロゲンとプロゲステロンを組み合わせた低用量ピルが処方されることが多く、ホルモンを補充することで子宮内膜を刺激し、月経を誘発します。

ホルモン補充療法の期間は通常3〜6ヶ月程度ですが、個々の状況に応じて調整されます。

ホルモン効果
エストロゲン子宮内膜の増殖
プロゲステロン子宮内膜の安定化

治療経過のモニタリング

単純性体重減少性無月経の治療では、定期的な経過観察が不可欠です。

体重、体脂肪率、基礎体温、血液検査などを通じて身体の回復状況を評価し、必要に応じて治療法の調整を行います。

治療開始後1〜2週間ごとに体重測定を行い、1〜2ヶ月ごとに血液検査を実施することが多く、ホルモン検査は3〜6ヶ月ごとに行われることが多いです。

検査項目頻度
体重測定1〜2週間ごと
血液検査1〜2ヶ月ごと
ホルモン検査3〜6ヶ月ごと
骨密度検査6ヶ月〜1年ごと

予後と再発可能性および予防

単純性体重減少性無月経は治療により良好な予後が期待できる疾患で、体重回復と生活習慣の改善により多くの場合、月経機能が回復します。

しかし、再発のリスクもあるため長期的な管理が重要です。

予後

単純性体重減少性無月経の予後は、一般的に良好です。

予後指標傾向
月経再開率高い
妊孕性回復良好

ただし、回復までの期間は個人差があり数か月から1年以上かかる場合もあります。

再発の可能性

単純性体重減少性無月経は再発のリスクがある疾患で、特に、以前に経験した患者さんは再度体重が減少したりストレスが増加したりすると、再発することがあります。

再発を防ぐためには継続的な健康管理と定期的な医療機関の受診が大切です。

再発リスク要因影響度
急激な体重減少高い
過度なストレス中程度

長期的な影響

単純性体重減少性無月経が長期間続くと、以下のような健康上の問題が生じる可能性があります。

  • 骨密度の低下
  • 不妊
  • 心血管系のリスク増加
  • 精神的ストレスの蓄積
長期的影響リスク度
骨密度低下高い
不妊中程度

予防

単純性体重減少性無月経の予防には、健康的なライフスタイルの維持が不可欠です。

注意する点

  1. 健康的な体重の維持
  2. バランスの取れた食事
  3. 適度な運動
  4. ストレス管理
予防策具体例
食事十分なカロリーと栄養素摂取
運動過度な運動を避ける

単純性体重減少性無月経の治療における副作用やリスク

単純性体重減少性無月経治療の主な副作用には、急激な体重増加による身体的・心理的ストレス、ホルモン剤使用に伴う不快症状などがあります。

体重回復に伴うリスク

体重回復は治療の中心的な要素ですが、急激な体重増加には注意が必要です。

過度に早い体重増加は、身体的・心理的ストレスを引き起こす可能性があり、むくみや便秘といった身体的不快感や、ボディイメージの変化による心理的ストレスが生じることがあります。

リスクを軽減するため緩やかな体重増加が推奨され、通常1週間に0.5〜1kg程度の増加が目安です。

リスク対策
むくみ適度な運動、水分摂取の調整
便秘食物繊維の摂取、腸内環境の改善
心理的ストレスカウンセリング、段階的な体重増加

ホルモン補充療法のリスク

ホルモン補充療法は効果的な治療法ですが、いくつかの副作用やリスクが伴う可能性があります。

低用量ピルなどのホルモン剤使用に関連する主な副作用には、悪心、頭痛、乳房の張りなどがあり、また、まれではありますが、血栓症のリスクが上昇する可能性がある点にも注意が必要です。

副作用頻度対処法
悪心比較的多い食事の工夫、制吐剤の使用
頭痛比較的多い休息、鎮痛剤の使用
乳房の張りやや多いサポートブラの着用、冷却
血栓症まれ定期的な血液検査、運動の推奨

長期的な健康への影響

単純性体重減少性無月経では、長期的な健康への影響も考慮する必要があります。

特に、骨密度の低下は大切な懸念事項の一つであり、長期間の低エストロゲン状態は骨密度の減少を引き起こし、将来的な骨粗鬆症のリスクを高める可能性があります。

リスクに対処するため、定期的な骨密度検査と必要に応じたカルシウムやビタミンDの補充が推奨され、長期的な骨の健康維持に向けた取り組みが重要です。

長期的リスク対策モニタリング方法
骨密度低下定期的な骨密度検査、栄養補充DEXA検査、血中カルシウム値
不妊ホルモンバランスの回復、継続的な観察基礎体温測定、ホルモン検査
代謝異常適切な栄養管理、定期的な血液検査血糖値、脂質プロファイル

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

診断にかかる費用

単純性体重減少性無月経の診断には、問診、血液検査、超音波検査などが必要です。

検査費用は保険適用されることが多く、自己負担額は抑えられます。

検査項目概算費用(3割負担の場合)
血液検査1,500円〜3,500円
超音波検査2,500円〜5,000円
ホルモン検査2,000円〜6,000円

治療にかかる費用

一般的な治療費の目安は以下の通りです。

  • 栄養指導 1回あたり 1,500円〜2,500円
  • ホルモン療法 月額 3,500円〜12,000円
  • 心理カウンセリング 1回あたり 3,500円〜6,000円
治療項目概算費用(3割負担の場合)
栄養指導1,500円〜2,500円/回
ホルモン療法3,500円〜12,000円/月
心理カウンセリング3,500円〜6,000円/回

以上

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