胎児染色体異常 – 婦人科

胎児染色体異常(chromosome abnormalities in embryos)とは、受精卵や胎児の染色体に数や構造の異常が生じている状態のことです。

染色体は遺伝情報を担う構造体で、人間の細胞には23対46本存在し、数や形に変化が起こると胎児の発育や健康にいろいろな影響が現れます。

胎児染色体異常は、受精の瞬間や胎児が成長する過程で突発的に発生し、両親の年齢や環境要因などが関与しています。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

胎児染色体異常の主な症状

胎児染色体異常の症状は、染色体異常の型によって大きく異なります。

身体所見

胎児染色体異常では特徴的な身体所見が観察され、妊娠中の超音波検査や出生直後の診察で確認できます。

染色体異常身体所見
ダウン症候群扁平な顔貌、小さな鼻、特徴的な眼裂
エドワーズ症候群小顎症、著しい成長遅延
パトー症候群口唇口蓋裂、多指症

成長発達遅延

胎児染色体異常では、胎児期から始まる成長発達の遅延が認められます。

見られる症状は、身長や体重の増加が標準的な成長曲線から逸脱することや、運動発達の獲得に時間を要することです。

内臓機能障害

胎児染色体異常では、心臓や消化器系、呼吸器系など、複数の臓器系に影響を及ぼします。

内臓機能障害

  • 先天性心疾患
  • 消化器系奇形
  • 腎泌尿器系異常
  • 呼吸器系障害

内臓機能障害は出生直後に見られることもあれば、成長過程で徐々に明らかになることもあります。

知的障害と学習困難

知的障害を伴う胎児染色体異常もあり、認知機能や適応行動に影響を与えます。

染色体異常知的障害の程度
ダウン症候群軽度〜中等度
エドワーズ症候群重度
クラインフェルター症候群軽度または正常範囲

感覚器障害

胎児染色体異常は、視覚や聴覚などの感覚器にも影響を与えます。

感覚器障害
視覚斜視、近視、白内障
聴覚難聴、反復性中耳炎

胎児染色体異常の原因

胎児染色体異常は、年齢的な影響や環境要因、遺伝的な背景など、多くの要素が関与しています。

加齢がもたらす影響

年齢を重ねることは、胎児染色体異常のリスクを高める要因で、母体の年齢が35歳を超えると、染色体異常が起こる可能性が増加します。

卵子の質的な変化が起こり、年を取るにつれて、卵子内の染色体を正しく分離する仕組みに不具合が生じやすくなることが原因です。

母体年齢染色体異常の発生率
20-24歳0.2% (1/500)
35-39歳1.5% (1/65)
40-44歳5% (1/20)

環境が及ぼす影響

放射線を浴びることや、特定の化学物質に触れることで、染色体の構造や数に異常が生じることがあります。

また、喫煙や過度のアルコール摂取も、胎児の染色体に悪影響を与える可能性があります。

遺伝的な要因

遺伝的な背景も、胎児の染色体異常を起こす一因です。

父親か母親のどちらかが、均衡型転座(染色体の一部が別の染色体に付着している状態)などの染色体の構造異常を持っている場合、子どもに不均衡型転座(染色体の一部が余分にあるか、欠けている状態)が生じる確率が高くなります。

また、遺伝子に変異があると染色体が不安定になりやすく、胎児の染色体異常につながることも。

遺伝的要因リスクが増える程度
均衡型転座を持つ人中くらい
染色体不安定性症候群かなり高い
特定の遺伝子の個人差少し〜中くらい

精子や卵子ができる過程での異常

胎児の染色体異常の原因として、精子や卵子(配偶子)ができる過程での問題もあります。

精子や卵子ができる際の細胞分裂(減数分裂)で、染色体がうまく分かれないことがあり、染色体の数が正常ではない配偶子が発生。

この現象は卵子ができる過程で起こりやすく、年齢が上がるにつれてリスクが高くなります。

配偶子ができる過程で起こる異常

  • 染色体が正しく分かれない
  • 細胞分裂を助ける紡錘体(細胞の骨組みのようなもの)の形成に問題が生じる
  • DNAの修復を行う仕組みがうまく働かない
  • 染色体の端っこ(テロメア)の長さに異常が生じる

いくつもの要因が絡み合う

胎児の染色体異常は、要因が複雑に絡み合って起こることが多いです。

年齢を重ねて卵子の質が下がっていることに加えて環境からの悪い影響を受けると、染色体異常が起こるリスクが相乗的に上がったり、生まれ持った遺伝的な背景と周りの環境の影響が重なることで、染色体異常が起こりやすくなります。

重なる要因リスクが増える程度
高齢 + 環境からの悪い影響かなり高い
遺伝的な素因 + 環境からの悪い影響中くらい〜かなり高い
高齢 + 遺伝的な素因かなり高い

診察(検査)と診断

胎児染色体異常を診断するにはスクリーニング検査から始め、より精密な検査へと段階的に進めていきます。

非侵襲的スクリーニング検査

胎児染色体異常の診断で行われるスクリーニング検査は、胎児や妊婦に直接的なリスクを与えることなく、染色体異常の可能性を評価できます。

検査名実施時期特徴
母体血清マーカー検査妊娠15-20週妊婦の血液中の特定マーカーを測定
超音波検査妊娠11-13週胎児頸部浮腫(NT)を測定

出生前検査(NIPT)

近年、妊婦の血中に存在する胎児由来のセルフリーDNA断片を分析する出生前検査(NIPT)が導入され、診断精度が飛躍的に向上しました。

NIPTは、従来のスクリーニング検査と比較して、高い感度と特異度を有しています。

染色体異常NIPT検出率偽陽性率
トリソミー2199%0.1%未満
トリソミー1897%0.1%未満

ただしNIPTは確定診断ではなく、検査結果が陽性の場合、確定診断が必要です。

確定診断

スクリーニング検査で高リスクと判定されると、直接胎児の細胞を採取し染色体分析を行う確定診断が考慮されます。

確定診断法

  • 絨毛検査 妊娠10-13週に実施
  • 羊水検査 妊娠15週以降に実施
  • 臍帯血採取 妊娠18週以降に実施

検査は流産や感染症のリスクが伴うため、慎重な検討と十分なカウンセリングが必要です。

染色体分析と遺伝子検査

採取された胎児細胞はさまざまな方法で分析され、従来のG分染法による核型分析に加え、分子遺伝学的手法が積極的に活用されています。

検査法特徴検出可能な異常
G分染法顕微鏡下で染色体を観察数的異常、大きな構造異常
FISH法特定の染色体領域を蛍光標識微細な欠失・重複

また、マイクロアレイ染色体検査や次世代シーケンサーを用いた全ゲノム解析など、より詳細な遺伝子レベルの異常を検出する手法も導入されつつあります。

胎児染色体異常の治療法と処方薬、治療期間

胎児染色体異常に対する治療は、妊娠中の母体と胎児のケアと、出生後の対応に分かれます。

妊娠中の治療方法

妊娠中の胎児染色体異常に対しては定期的に超音波検査や羊水検査を行い、胎児の発育状況や合併症の有無を観察します。

治療方法目的
超音波検査胎児の発育を確認する
羊水検査染色体異常を確定診断する
胎児治療特定の合併症に対処する

薬による治療

胎児染色体異常に直接効く薬はありませんが、葉酸(ようさん)を摂取することは、神経管閉鎖障害のリスクを下げるのに効果があります。

また、染色体異常に伴って起こる合併症に対して、必要に応じて薬による治療が行われることも。

出生後の治療方法

出生後の治療は、染色体異常の種類や、起こる健康上の問題に応じて、計画します。

早期介入プログラムや、体の機能を改善するためのリハビリテーション(理学療法や作業療法)が大切です。

また、合併症によっては、外科的処置が必要になることもあります。

治療方法目的
早期介入プログラム発達を支援する
リハビリテーション運動機能や認知機能を向上させる
外科的処置特定の合併症に対処する

治療期間と長期的なフォローアップ

胎児染色体異常の治療は妊娠中から始まり、出生後も継続します。

治療期間とフォローアップの内容

  • 妊娠中:定期的な超音波検査と母体の健康管理
  • 新生児期:合併症のスクリーニングと早期介入
  • 乳幼児期:発達支援プログラムを開始する
  • 学童期以降:教育支援と社会適応をサポートする

胎児染色体異常の治療における副作用やリスク

胎児染色体異常の治療には、さまざまな副作用やリスクが伴います。

薬物療法に関連する副作用

胎児染色体異常の治療では薬物療法が選択されることがありますが、薬剤は胎盤を通過し、胎児に影響を与えます。

薬剤副作用
コルチコステロイド(副腎皮質ホルモン剤)胎児発育遅延、妊婦の血糖値上昇
抗てんかん薬先天異常のリスク増加、新生児の出血傾向

侵襲的処置に伴うリスク

一部の胎児染色体異常では、侵襲的な治療処置が必要です。

伴うリスク

  • 羊水穿刺による流産(約0.5-1%の確率で発生)
  • 胎児への直接的な損傷
  • 感染症のリスク増加
  • 早産のリスク上昇

胎児手術を行う場合は、リスクがさらに高ます。

妊婦への影響

胎児染色体異常の治療は、妊婦さんの身体にも影響を与えます。

影響詳細
妊娠高血圧症候群治療に伴うストレスや薬剤の影響で発症リスクが上昇
血栓症長期安静や薬物療法に伴うリスク増加

出生後の発達への影響

胎児期の治療は、出生後の発達にも影響を与える可能性があります。

コルチコステロイド(副腎皮質ホルモン剤)の使用は、出生後の神経発達に影響を与え、また、早産や低出生体重児となるリスクも高まるので注意が必要です。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

出生前診断にかかる費用

出生前遺伝学的検査(NIPT)は15万円から20万円、羊水検査は約10万円から15万円、絨毛検査は約12万円から18万円です。

検査費用は保険適用外のため、全額自己負担となります。

検査種類費用範囲
NIPT15-20万円
羊水検査10-15万円
絨毛検査12-18万円

胎児治療に関する費用

染色体異常に対して胎児治療が行われる際の費用は、治療の内容により大きく変動します。

例:胎児輸血療法は、1回あたり約50万円から100万円かかります。

染色体異常の治療は、保険適用です。

以上

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