子宮体癌(子宮内膜癌)(endometrial cancer)とは、子宮内膜から発生する悪性腫瘍のことです。
閉経後の女性に多く見られますが、若年層での発症もあります。
初期症状は不正出血で、病状が進行すると腹痛や腰痛などの不快な症状が現れます。
子宮体癌(子宮内膜癌)の種類(病型)
子宮体癌(子宮内膜癌)はエストロゲンが関与しているかどうかで、Ⅰ型とⅡ型の2つに大別されます。
Ⅰ型(エストロゲン依存性)
Ⅰ型は子宮体癌全体の約8割を占め、長年にわたるエストロゲンの過剰刺激によって誘発されます。
特徴 | 詳細 |
好発年齢 | 閉経前後~閉経後 |
組織型 | 類内膜癌(高分化型、中分化型が多い) |
エストロゲン | 受容体陽性 |
プロゲステロン | 受容体陽性 |
Ⅰ型の患者さんは、肥満、糖尿病、高血圧といった生活習慣病を併発していることが多いです。
また、妊娠・出産経験がなかったり少ない方、閉経後に長期間ホルモン補充療法を受けている方も発症リスクが上昇します。
Ⅱ型(非エストロゲン依存性)
Ⅱ型は子宮体癌全体の約2割を占め、Ⅰ型と比較すると予後が不良です。
このタイプは、エストロゲンの影響をほとんど受けずに発生するため、発症メカニズムはⅠ型とは大きく異なります。
特徴 | 詳細 |
好発年齢 | 閉経後の高齢者に多い |
組織型 | 漿液性癌、明細胞癌など |
エストロゲン | 受容体陰性または弱陽性 |
プロゲステロン | 受容体陰性または弱陽性 |
Ⅱ型は進行速度が速く、診断時にはすでに進行期に達している例が少なくありません。 また、Ⅰ型とは対照的に、肥満や糖尿病との関連性は低いです。
子宮体癌(子宮内膜癌)の主な症状
子宮体癌(子宮内膜癌)の症状は、進行度や発生部位によって変わってきます。
不正出血
子宮体癌で最もよく見られる症状は不正出血で、とりわけ閉経後の女性に見られる出血は注意が必要です。
不正出血の特徴
- 閉経後に突如現れる出血
- 月経周期とは無関係に生じる出血
- 通常よりも量の多い月経
- 茶褐色の帯下(おりもの)
Ⅰ型(エストロゲン依存性)の症状
Ⅰ型子宮体癌は、エストロゲンの影響を受けて発生します。
症状 | 特徴 |
不正出血 | 閉経後や月経周期と無関係に生じる予期せぬ出血 |
おりもの | 血性や水様性の帯下が増加 |
骨盤痛 | 病状が進行すると軽度の痛みを感じることも |
下腹部不快感 | 違和感や膨満感を覚えることがある |
Ⅰ型は進行が緩やかであるため、早期発見されることが多いです。
Ⅱ型の症状
Ⅱ型子宮体癌はエストロゲンとは無関係に発生し、進行が急速です。
症状 | 詳細 |
腹痛 | 下腹部に持続的な痛みを感じる |
腰痛 | 腫瘍の増大に伴う圧迫で生じる |
体重減少 | 明確な原因がないにもかかわらず急激に体重が落ちる |
倦怠感 | 全身のだるさや疲労感が顕著になる |
進行期の症状
子宮体癌が進行段階に入ると、次のような症状が現れます。
- 腹部の膨満感や違和感
- 排尿時の痛みや困難
- 慢性的な便秘
- 持続的な全身倦怠感や食欲不振
年齢別の症状
子宮体癌は年齢によって出る症状が違ってきます。
年齢層 | 症状 | 留意すべき点 |
閉経前 | 過多月経、不規則な出血パターン | 通常の月経異常との鑑別が必要 |
閉経後 | わずかな不正出血、おりものの性状変化 | ごくわずかな出血でも要精査 |
高齢者 | 持続的な腹痛、原因不明の体重減少 | 他の消化器系疾患との鑑別が重要 |
全年齢 | 下腹部の不快感、慢性的な倦怠感 | 症状の持続期間や程度に注意 |
子宮体癌(子宮内膜癌)の原因
子宮体癌(子宮内膜癌)の発生にはホルモンバランスの乱れ、遺伝的背景、生活習慣が挙げられます。
ホルモンバランスの影響
エストロゲンが長期間にわたって過剰に作用することが、子宮内膜細胞の異常増殖を促進する要因になります。
状態 | リスク |
エストロゲン単独投与 | 高 |
エストロゲン・プロゲステロン併用 | 低 |
エストロゲンとプロゲステロンのバランスが保たれていることが、子宮体癌の予防において重要です。
生活習慣とリスク因子
生活習慣も子宮体癌の発生リスクに影響を与えます。
リスクを高める要因
- 肥満
- 運動不足による代謝機能の低下
- 高脂肪・高カロリー食の継続的な摂取
- 過度な飲酒習慣
これらの生活習慣は体内のホルモンバランスに悪影響を及ぼし、慢性的な炎症状態を起こすことで、がん発生のリスクを上昇させます。
遺伝的要因
一部の子宮体癌では、遺伝的な背景が発症にかかわっています。
遺伝性症候群 | 関連する遺伝子 |
リンチ症候群 | MLH1, MSH2 |
カウデン症候群 | PTEN |
遺伝性症候群を有する方は、子宮体癌の発生リスクが高くなります。
ただし、遺伝的要因が関与する子宮体癌は全体の5-10%程度にとどまっており、大多数のケースでは後天的なことが原因です。
その他のリスク因子
上記以外にも、いくつかの要因が子宮体癌のリスクを増大させます。
- 未経妊・未経産による子宮内膜への持続的なホルモン刺激
- 閉経の遅れ(55歳以降)に伴うエストロゲン暴露期間の延長
- 子宮内膜増殖症の既往歴
- タモキシフェン(乳癌治療薬)の長期使用による子宮内膜への影響
要因 | リスク上昇の程度 |
未経妊・未経産 | 2-3倍 |
閉経の遅れ | 1.5-2倍 |
子宮内膜増殖症 | 3-4倍 |
タモキシフェン使用 | 2-3倍 |
50代後半の患者さんで、閉経後にホルモン補充療法を長期間継続していた方が子宮体癌を発症したケースがあります。
この患者さんは肥満傾向も併せ持っており、複数のリスク因子が重なったことが発症につながりました。
診察(検査)と診断
子宮体癌(子宮内膜癌)の診断は初期の臨床診断から確定診断に至るまで、さまざまな検査や手法が用いられます。
初診時の問診と視診
初診時には、問診と視診を実施します。
- 不正出血の有無、頻度や量
- 月経歴、妊娠・出産歴、閉経の有無
- 家族歴(特に癌の既往に注目)
- 既往歴や現在の服薬状況、アレルギーの有無
視診では外陰部や膣口の状態を観察し、異常出血の程度を確認します。
内診と経腟超音波検査
内診では子宮の大きさ、硬さ、可動性、腫瘤の存在や周囲組織との癒着も判断します。
経腟超音波検査は、子宮内膜の厚さや腫瘤の有無を非侵襲的に評価するのに重要な手法です。
検査項目 | 評価内容 | 特徴 |
内診 | 子宮の大きさ、硬さ、可動性 | 触診による直接的な情報収集 |
経腟超音波 | 子宮内膜厚、腫瘤の有無、子宮筋層の状態 | 非侵襲的で詳細な画像情報が得られる |
経腹超音波 | 大きな腫瘤や腹水の有無 | 広範囲の観察が可能 |
直腸診 | 直腸周囲の浸潤や腫瘤の評価 | 進行例での局所進展の確認に有用 |
子宮内膜細胞診と組織診
子宮内膜細胞診は、子宮内膜から直接細胞を採取して顕微鏡で観察する検査方法です。
組織診では、子宮内膜を一部採取して病理学的に詳細に評価します。
検査方法 | 特徴 | 長所 | 短所 |
細胞診 | 子宮内膜の細胞を採取 | 簡便で低侵襲 | 偽陰性の可能性あり |
組織診 | 子宮内膜の一部を採取 | 確実性が高い | やや侵襲的 |
子宮鏡下生検 | 直視下で疑わしい部位を採取 | 局所的な病変の診断に有効 | 専門的な技術が必要 |
全面掻爬 | 子宮内膜全体を採取 | 広範囲の評価が可能 | 侵襲性が高い |
悪性の疑いが強く示唆された場合は、さらなる精密検査へと進みます。
画像診断
MRIやCTスキャンなどの画像診断は、腫瘍の進行度や周囲組織への浸潤状況を評価するのに有用です。
- MRI 子宮筋層への浸潤度を詳細に評価し、局所進展の程度を明確に把握
- CT スキャン リンパ節転移や遠隔転移の検索に優れ、全身の状態を広範囲に評価
- PET-CT 代謝活性の高い転移巣の検出に特に有効で、微小転移の発見にも威力を発揮
さらに、胸部X線検査や骨シンチグラフィーも、遠隔転移を確認するために実施されます。
確定診断と病期分類
最終的な確定診断は、手術で摘出した組織の詳細な病理学的検査が必要です。
国際的に標準化されたTNM分類やFIGO分類を用いて病期を決定し、また、免疫組織化学染色やゲノム解析などの先進的な手法も、より詳細な腫瘍の評価に活用されつつあります。
分類方法 | 評価項目 | 特徴 |
TNM分類 | 原発腫瘍、リンパ節転移、遠隔転移 | 国際的に広く使用される |
FIGO分類 | 解剖学的進展度 | 婦人科癌に特化した分類 |
組織学的分類 | 腫瘍の組織型、分化度 | 予後予測や治療方針決定に重要 |
分子生物学的分類 | 遺伝子変異、タンパク発現 | 個別化医療への応用が期待される |
子宮体癌(子宮内膜癌)の治療法と処方薬、治療期間
子宮体癌(子宮内膜癌)の治療は手術療法を中心に、放射線療法、化学療法、ホルモン療法を患者さんの状態に応じて選びます。
手術療法
手術療法は、単独または併用して実施されます。
- 子宮全摘出術(子宮を完全に摘出する手術)
- 両側卵巣卵管切除術(卵巣と卵管を両側とも摘出する手術)
- 骨盤リンパ節郭清(骨盤内のリンパ節を広範囲に切除する手術)
- 傍大動脈リンパ節郭清(進行例において大動脈周囲のリンパ節も切除する手術)
手術の範囲や方法はがんの進行度、患者さんの年齢、全身状態、さらには妊孕性(妊娠する能力)温存の希望を総合的に考慮して決定します。
手術後の入院期間は1〜2週間程度で、退院後の回復期間を含めると、おおよそ1〜2か月です。
放射線療法
放射線療法は、外部から放射線を照射する外部照射と、子宮腔内に線源を挿入して行う腔内照射を組み合わせて行います。
治療期間は、5〜6週間程度です。
治療目的 | 適応 |
術前照射 | 手術前に腫瘍を縮小させる目的 |
術後照射 | 手術後の局所再発を予防する目的 |
根治的照射 | 手術が不可能な症例に対する治療 |
症状緩和 | 進行・再発例における症状コントロール |
化学療法
化学療法は、進行期の症例や再発例に対して実施される全身治療です。
レジメン名 | 使用される抗がん剤 |
TC療法 | パクリタキセルとカルボプラチンの併用 |
AP療法 | ドキソルビシンとシスプラチンの併用 |
化学療法は3〜4週間を1サイクルで、4〜6サイクル程度継続されます。
全治療期間は約3〜6か月です。
ホルモン療法
ホルモン療法は、高分化型の子宮体癌や再発例に対して用いられる治療法です。
- 酢酸メドロキシプロゲステロン(MPA):プロゲステロン製剤
- 酢酸メゲストロール(MGA):プロゲステロン製剤
- タモキシフェン(TAM):選択的エストロゲン受容体モジュレーター
ホルモン療法は長期間の継続投与が必要で、6か月から1年以上続けます。
治療効果の評価と経過観察
子宮体癌の治療効果は、画像検査や腫瘍マーカーの測定を通じて行われます。
検査項目 | 検査頻度 |
画像検査 | 通常3〜6か月ごとに実施 |
腫瘍マーカー | 1〜3か月ごとに測定 |
婦人科診察 | 1〜3か月ごとに実施 |
治療後の経過観察は5年間継続して行われ、その後も定期的な検診が必要です。
子宮体癌(子宮内膜癌)の治療における副作用やリスク
子宮体癌の治療には手術、放射線療法、化学療法、ホルモン療法があり、それぞれの治療法には特有の副作用やリスクが伴います。
手術療法の副作用とリスク
手術療法は多くの症例に第一選択となる根治的な治療法ですが、侵襲的な治療であるために、副作用とリスクがあります。
- 術中・術後の出血
- 創部感染や腹腔内感染
- 麻酔に関連する呼吸器系や循環器系の合併症
- 下肢や外陰部のリンパ浮腫
- 腸閉塞や癒着性イレウス
広範囲なリンパ節郭清を伴う手術では、下肢のリンパ浮腫に注意を払う必要があります。
放射線療法の副作用
放射線療法は、照射部位周辺の正常組織にも影響を与えます。
急性期の副作用 | 症状の特徴 | 晩期の副作用 | 長期的影響 |
放射線皮膚炎 | 発赤、乾燥、掻痒感 | 慢性膀胱炎 | 頻尿、排尿痛 |
急性腸炎 | 下痢、腹痛 | 慢性直腸炎 | 出血、狭窄 |
全身倦怠感 | 疲労、だるさ | 骨粗鬆症 | 骨折リスク上昇 |
造血器障害 | 貧血、白血球減少 | 二次がん | 照射野内の新規腫瘍 |
化学療法の副作用
化学療法は全身治療でがん細胞だけでなく正常細胞にも影響を与えるため、多岐にわたる副作用があります。
一般的な副作用 | 発現機序と特徴 | 特定の薬剤による副作用 | 注意点と対策 |
悪心・嘔吐 | 消化器系への刺激 | 末梢神経障害 | 用量依存性、蓄積性 |
脱毛 | 毛根細胞への影響 | 心毒性 | 定期的な心機能評価 |
骨髄抑制 | 造血幹細胞への影響 | 腎機能障害 | 腎保護療法の考慮 |
口内炎 | 粘膜上皮への障害 | 間質性肺炎 | 呼吸器症状の注意 |
下痢 | 腸管粘膜への影響 | 肝機能障害 | 定期的な肝機能検査 |
ホルモン療法のリスク
ホルモン療法は他の治療法と比較すると副作用が少ない治療法ですが、長期に使用するとリスクがあります。
- 血栓症(静脈血栓塞栓症、肺塞栓症)
- 骨密度低下と骨折リスクの上昇
- 不正子宮出血
- 肝機能障害
- 脂質代謝異常
閉経前の患者さんは、卵巣機能抑制に伴う不妊のリスクも十分に考慮しなければなりません。
治療後の長期的リスク
子宮体癌の治療後も、いくつかの長期的なリスクがあります。
- 二次がんの発生リスク 放射線療法や特定の化学療法薬による DNA 損傷が原因
- 心血管疾患のリスク増加 放射線療法や化学療法の心臓への影響、ホルモン療法の代謝への影響が関与
- 骨折リスクの上昇 ホルモン療法や早期閉経による骨密度低下が主因
- 性機能障害 手術や放射線療法による解剖学的変化が原因
- 慢性疼痛 神経障害性疼痛や筋骨格系の変化による
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
手術及び入院費用
手術費用の目安
治療内容 | 概算費用 |
腹腔鏡下手術 | 80万円〜150万円 |
開腹手術 | 100万円〜200万円 |
入院期間は1〜2週間程度で、1日あたりの入院費用は2万円から5万円です。
放射線療法の費用
放射線療法を行う際の費用は、照射回数や方法によって変動します。
治療内容 | 概算費用 |
外部照射(1回) | 2万円〜3万円 |
腔内照射(1回) | 10万円〜15万円 |
外部照射を20〜25回、腔内照射を3〜4回行うことが多く、総額で100万円から150万円程度です。
化学療法の費用
化学療法の費用の目安
- TC療法(パクリタキセル+カルボプラチン)1コース:30万円〜50万円
- AP療法(ドキソルビシン+シスプラチン)1コース:20万円〜40万円
4〜6コース行うため、総額で120万円から300万円程度かかります。
その他の関連費用
定期検査や外来での経過観察にも費用がかかります。
腫瘍マーカー検査(1回5,000円〜1万円)、CT検査(2万円〜3万円)が定期的に必要です。
以上
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