子宮体癌 – 婦人科

子宮体癌(endometrial carcinoma)とは、子宮内膜から発生する悪性腫瘍のことです。

子宮の内側を覆う組織(子宮内膜)に異常が生じ、細胞が無秩序に増殖することで発症します。

閉経後の女性に多く見られますが、年齢に関係なく発症する可能性があるため、若い方も注意が必要です。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

子宮体癌の種類(病型)

子宮体癌は、Ⅰ型(エストロゲン依存性)とⅡ型という2つの主要な病型に分類されます。

Ⅰ型(エストロゲン依存性)子宮体癌

Ⅰ型子宮体癌は、女性ホルモンの一つであるエストロゲンの影響を受けて発生します。

この型は子宮体癌全体の約80%を占めていて、比較的予後が良好です。

  • 閉経を迎えた後の女性に多い
  • 肥満や糖尿病といった生活習慣病との関連性が強い
  • がん細胞の分化度が高い組織型が多く見られる
  • がんの進行速度が比較的緩やかである
特徴詳細
好発年齢50歳以上の方に多い
関連因子肥満、糖尿病、高血圧などの生活習慣病
主な組織型類内膜癌が中心
進行速度比較的ゆっくりとしている

Ⅱ型子宮体癌

一方、Ⅱ型子宮体癌は、エストロゲンの影響をほとんど受けずに起きます。

子宮癌の約20%で、Ⅰ型と比べると予後があまり良くありません。

項目内容
発症年齢比較的高齢の方に多い
主な組織型漿液性癌や明細胞癌などが中心
進行速度急速に進行することが多い
予後一般的に不良とされる

子宮体癌の主な症状

子宮体癌の症状は不正出血や帯下の変化など、女性特有の徴候が現れますが、初期段階では自覚しにくいです。

子宮体癌で見られる症状

子宮体癌で最も多く見られる症状は、月経とは関係のない不正出血です。

閉経を迎えた女性に突然出血があったり、閉経前の女性でも月経周期に関係なく出血が起きたときは、婦人科を受診してください。

また、これまでの月経と比べて出血量が急に増え、月経期間が通常より長引きます。

帯下(おりもの)の変化も見逃せない症状の一つで、量が増えて、色や臭いが普段と異ります。

Ⅰ型(エストロゲン依存性)の症状

Ⅰ型の子宮体癌はエストロゲンの影響を受けやすく、ゆっくり進行することが多いです。

症状説明
不正出血閉経後や月経期以外に予期せぬ出血が見られる
帯下の変化量が増え、時に血液が混じることもある
下腹部の違和感軽度の痛みや違和感を感じることがある
排尿の変化トイレに行く頻度が増えたり、排尿時に違和感がある

Ⅰ型の初期段階では症状が軽微なことがあるため、定期的な検診を受けることが早期発見につながります。

Ⅱ型の子宮体癌の症状

Ⅱ型の子宮体癌はⅠ型と比較して進行が速く、症状も早い段階で現れ、閉経後の女性に多く起こります。

  • 長く続く不正出血
  • 悪臭を伴う帯下の増加
  • 下腹部の痛みや圧迫感の持続
  • 急激な体重減少や全身のだるさ

Ⅱ型は症状が急速に悪化するため、早期発見・治療が重要です。

子宮体癌の進行に伴う症状の変化

子宮体癌の症状はがんの進行度によって変わり、よりはっきりしてきます。

進行度症状
初期軽度の不正出血、わずかな帯下の変化
中期持続的な不正出血、帯下の増加、下腹部の不快感
後期激しい腹痛、急激な体重減少、全身のだるさ、貧血による症状

子宮体癌の原因

子宮体癌が発生する背景には女性ホルモンのバランスが崩れること、遺伝子の特定の変異、環境要因や生活習慣などがあります。

女性ホルモンのバランス変化

エストロゲンが必要以上に分泌され、長期間にわたって子宮内膜に作用し続けることで、内膜細胞が異常に増殖します。

女性ホルモンのバランスを崩す要因

要因体内での変化
肥満脂肪細胞でエストロゲンが余分に作られる
高齢での出産体内のホルモン環境が大きく変動する
閉経後のホルモン補充療法エストロゲンに長期間さらされる

遺伝子レベルでの影響

特定の遺伝子の変異、家族の中に子宮体癌を患った方がいることで、子宮体癌を発症するリスクが高くなります。

例えば「リンチ症候群」と呼ばれる遺伝性の病気では、子宮体癌を含むいくつかの種類のがんが発生しやすいです。

遺伝的要因子宮体癌との関連
特定の遺伝子変異発症リスクが上昇する
家族歴リスク評価の重要な指標となる
リンチ症候群複数のがん(子宮体癌含む)のリスクが高まる

環境要因と生活習慣

子宮体癌のリスクに関わる環境因子や生活習慣

  • 体重が標準よりも多い、あるいは肥満の状態にある
  • 日常的な運動が不足している
  • 糖尿病を患っている
  • 高血圧の状態が続いている
  • たばこを吸う習慣がある

これらの要因は、直接的あるいは間接的に子宮体癌が発生するリスクを高めます。

生活習慣子宮体癌のリスクへの影響
定期的な運動リスクを下げる方向に働く
喫煙リスクを上げる方向に働く
バランスの取れた食事リスクを下げる方向に働く

年齢と子宮体癌

子宮体癌は閉経を迎えた後の女性に多く見られます。

年を重ねると体内のホルモンバランスが変化し、また、長い年月の間に多様な要因が積み重なっていくことが関係しているのです。

年齢層子宮体癌の発生傾向
閉経前比較的まれ
閉経後発生リスクが上昇
高齢者さらにリスクが高まる

診察(検査)と診断

子宮体癌の診断は、問診、身体診察、画像検査、組織の採取と分析という段階を経て進められます。

問診と内診による初期評価

患者さんの気になる症状、今までにかかった病気、ご家族の病歴などを伺います。

特に、月経とは関係のない出血の有無やその続いた期間、月経周期の乱れの詳細は重要な点です。

問診の後は内診を行い、子宮の大きさや硬さ、周りの組織との関係などを確認していきます。

内診の種類方法
腟鏡診特殊な器具を使って子宮の入り口や腟の壁の状態を直接目で見て確認します
双合診お腹と腟の中から同時に触診し、子宮や卵巣の状態を手で感じ取って評価します

初めの段階の評価から子宮体癌の可能性が考えられるときは、さらに詳しい検査へと進んでいきます。

画像検査

子宮体癌の診断で活用される画像検査は、経腟超音波検査、CT検査、MRI検査です。

経腟超音波検査では、子宮の内側を覆う粘膜(内膜)の厚さや表面の状態を細かく観察できます。

CT検査やMRI検査は、腫瘍がどこまで広がっているか、他の臓器に転移していないかを調べるのに効果的です。

画像検査の種類調べられる内容
経腟超音波体への負担が少なく、子宮内膜の状態を簡単に確認できる便利な検査方法です
CT検査体の広い範囲を一度に調べられ、腫瘍の広がりや周囲の臓器への影響を評価できます
MRI検査軟らかい組織の違いをはっきりと区別でき、腫獀の性質についても詳しく分かります

組織診断

子宮体癌を確実に診断するには、組織を採取して調べることが不可欠です。

  • 子宮内膜細胞診 細い器具で内膜の細胞採取し、顕微鏡で観察
  • 子宮内膜組織診 少し太めの器具を使い、より多くの組織を採取して詳しく調べる
  • 子宮鏡下生検 特殊なカメラで子宮の中を直接見ながら、気になる部分の組織を採取
  • 子宮内膜全面掻爬術 子宮の内膜全体をていねいにかき取り、広い範囲を調べる
組織診断の方法詳細
子宮内膜細胞診手軽に行えますが、細胞が少ないため見逃す可能性
子宮内膜組織診より多くの組織を採取でき、詳しい評価が可能
子宮鏡下生検子宮の中を見ながら採取するので、疑わしい部分を確実に調べられる
子宮内膜全面掻爬術子宮内膜全体を調べられますが、体への負担が大きいため慎重に判断

組織を調べる検査は子宮体癌かどうかを確定できるだけでなく、がんの種類や悪性度も判断できます。

子宮体癌の治療法と処方薬、治療期間

子宮体癌の治療は手術が中心ですが、それに加えて放射線を使った治療、抗がん剤を用いる化学療法、女性ホルモンの働きを調整するホルモン療法も、状況に応じて併用されます。

手術療法

子宮全体を摘出する手術と、両側の卵巣および卵管を取り除く手術が行われ、がんの広がり具合によっては、リンパ節を取り除く手術も同時に実施されます。

初期の段階で見つかった場合には、腹腔鏡手術や精密な操作ができるロボットを使った手術など、体への負担が少ない方法を選ぶことも可能です。

手術の種類説明
おなかを大きく切る手術これまで一般的に行われてきた方法
腹腔鏡を使う手術体への負担が少なく、回復も早い
ロボットを使う手術とても細かい操作ができる

放射線療法

放射線治療は手術の前にがんを小さくし、手術の後にがんが再び現れるのを防ぐことが目的です。

放射線治療には体の外から放射線を当てる方法と、子宮の中に機械を入れて内側から放射線を当てる方法の2種類があります。

治療期間は4〜6週間で、1日に1回、週に5日のペースで放射線を当てるのが基本です。

放射線治療の種類治療の効果
体の外から当てる方法広い範囲に効果がある
内側から当てる方法ピンポイントで強い治療ができる

抗がん剤

抗がん剤はがんが進行していたり一度治療した後に再発したとき、あるいは手術の後の再発を防ぐために使われます。

プラチナという金属を含む薬と、タキサンと呼ばれる薬を組み合わせるのが標準的な方法です。

よく使われる抗がん剤

  • カルボプラチン 他の薬に比べて副作用が出にくい
  • パクリタキセル 髪の毛が抜けるという副作用があるが、効果が高い
  • ドキソルビシン 心臓への影響に注意が必要だが、がん細胞への攻撃力が強い

3〜4週間を1回の単位として、4〜6回繰り返し治療を行うことが多いです。

ホルモン療法

ホルモン療法は、がん細胞が女性ホルモンの影響を受けやすいタイプ、がんの再発、あるいは他の治療法が難しい患者さんに検討します。

ホルモン療法は、エストロゲンの働きを抑えることで、がん細胞の増殖を抑えます。

薬の名前どのように働くか
メドロキシプロゲステロン酢酸エステル女性ホルモンの一種であるプロゲステロンのように作用する
アナストロゾールエストロゲンを作り出す酵素の働きを止める

治療は長い期間にわたって続けられます。

分子標的薬

最近では分子標的薬と呼ばれる新しいタイプの薬が、子宮体癌の治療の選択肢として出てきました。

分子標的薬は特定の遺伝子に変異がある患者さんに対して、効果が期待できるものです。

子宮体癌の治療における副作用やリスク

子宮体癌の治療は、手術、放射線療法、抗がん剤治療を組み合わせて行われ、効果が期待できる一方で、体に負担をかけてしまう副作用やリスクがあります。

手術療法に伴う体への負担とリスク

手術で最もよく見られる副作用は、手術後の痛みや体の不快感です。

また、手術を行った部位に細菌が入り込んで感染したり、予期せぬ出血が起こるリスクもあります。

手術の範囲によっては、近くにある他の臓器を誤って傷つけてしまうことも。

副作用・リスク説明
痛み手術後数日間続くことが多く、痛み止めなどで対処
感染傷口や体の中で細菌が増え、熱が出ることも
出血手術中や手術後に想定外の出血が起こる
臓器損傷手術の際に周りの臓器を間違えて傷つけてしまう

放射線療法による体への影響

放射線療法はがん細胞を死滅させる効果的な治療法ですが、同時に体の正常な細胞にも影響を与えます。

放射線療法に伴う副作用

  • 放射線を当てた部分の皮膚の赤み・乾燥
  • 体全体がだるく感じる
  • 下痢・腹痛
  • トイレに行く回数が増えたり、排尿時に不快感
  • 膀胱や直腸に炎症

放射線療法の副作用は放射線を当てる場所や量によって違いがあるので、詳しく説明してもらうことが大切です。

抗がん剤治療に伴う体の変化

抗がん剤治療は体全体に影響を与えます。

  • 吐き気
  • 脱毛
  • 倦怠感
  • 食べ物がおいしく感じられなくなる
  • 口の中が荒れる
  • 下痢や便秘
副作用説明
吐き気治療直後から数日間続くことがあり、吐き気止めの薬で対処
髪の毛が抜ける頭の髪だけでなく、体全体の毛が抜ける可能性
だるさ治療期間中ずっと続くことが多く、休息をしっかりとる
食欲不振食べ物の味が変わって感じる

長く続く可能性がある副作用とリスク

卵巣を取り除く手術を受けると、更年期障害のような症状が急に現れます。

また、リンパ節を取り除く手術を行ったあとには、足がむくむ(リンパ浮腫)リスクがあります。

放射線療法による長期的な副作用は、膀胱や直腸の働きが悪くなることです。

長期的副作用説明
更年期症状顔がほてったり汗をかいたりする症状や、骨がもろくなることがあります
リンパ浮腫足がむくんだり、違和感が長く続いたりします
臓器の機能低下膀胱や直腸の働きが悪くなり、日常生活に影響が出ることがあります

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

手術療法にかかる費用

腹式単純子宮全摘出術の健康保険適用後の自己負担額(3割負担)は約15~25万円程です。

腹腔鏡下手術やロボット支援手術を選択すると、さらに10~20万円程度上乗せされます。

術式自己負担額(3割負担)
腹式単純子宮全摘出術約15~25万円
腹腔鏡下手術約25~45万円
ロボット支援手術約35~55万円

放射線療法の費用

外部照射は1回あたりの自己負担額(3割負担)が約5,000~8,000円です。

標準的な治療(25回程度)で、総額12~20万円程度となります。

化学療法の費用

カルボプラチン+パクリタキセル)は、1クール(3週間)あたりの自己負担(3割負担)は15~25万円程度です。

標準的な6クールの治療で、総額約90~150万円になります。

以上

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