子宮内膜ポリープ(endometrial polyps)とは、女性の子宮内膜に生じる良性の隆起性病変のことです。
子宮内膜は月経周期に応じて規則的に変化しますが、ポリープは周期とは無関係に独自のペースで成長を続けます。
わずか数ミリ程度のものから数センチに及ぶものまで幅広く、単発的に発生することもあれば複数箇所に見られることもあり、不規則な出血や月経痛の原因の一つです。
子宮内膜ポリープの主な症状
子宮内膜の症状は、不規則な出血や過多月経、月経痛の増強です。
不規則な出血
子宮内膜ポリープがあると、月経と月経の間の時期に少量の出血や、茶色がかったおりものが見られるケースがあります。
不規則出血の特徴 | 詳細 |
頻度 | 予測不可能 |
量 | わずかな量から中程度 |
色 | 鮮やかな赤色から濃い茶色 |
持続期間 | 数日間から数週間にわたる |
過多月経
子宮内膜ポリープを発症すると、月経時の出血量が増加します。
普段より多い出血量や、月経期間が長引くといった変化が見られ貧血のリスクを高めるため、十分な注意が必要です。
月経痛の増強
子宮内膜ポリープの影響で、月経時の痛みがこれまでより強くなります。
今までほとんど月経痛を感じなかった方が急に強い痛みを覚えるようになったら、子宮内膜ポリープの可能性を考慮に入れましょう。
月経痛の変化 | ポリープがない状態 | ポリープがある状態 |
痛みの程度 | 軽度から中程度 | 中程度から激しい痛み |
痛みの部位 | 下腹部全体に広がる | 下腹部の特定の箇所に集中 |
鎮痛剤の効果 | 十分な効果が得られる | 効果が限定的または一時的 |
不妊
ポリープの存在によって受精卵が子宮内膜に着床しにくくなり、不妊の一因になることがあります。
原因不明の不妊と診断された場合は、子宮内膜ポリープの有無を確認するための検査を検討することが大切です。
その他の気をつけるべき症状
子宮内膜ポリープに関連するその他の症状
- 性交渉時の痛み
- 下腹部に感じる不快感や圧迫感
- トイレが近くなる(頻尿)
- 腰の痛み
症状はポリープの大きさや位置によってさまざまな形で現れます。
子宮内膜ポリープによる症状は他の婦人科系の疾患でも見られるので、これらの症状に気づいたときは、婦人科医の診察を受けてください。
症状 | 発生頻度 | 特徴 |
不規則な出血 | 高い | 月経周期とは無関係に突然発生する |
過多月経 | 中程度 | 通常より多い出血量や長期化する月経期間 |
月経痛の増強 | 中程度 | 既存の月経痛が悪化または新たに痛みが生じる |
不妊 | 低~中程度 | 原因不明の不妊の背景にある可能性がある |
子宮内膜ポリープの原因
子宮内膜ポリープが発生する原因は、エストロゲンという女性ホルモンが過剰に分泌されたり、長期間にわたって影響を受けたりすることが大きく関係しています。
女性ホルモンのバランス
子宮内膜ポリープの発生は、エストロゲンとプロゲステロンという2つの女性ホルモンのバランスに大きく左右されます。
エストロゲンは子宮の内側を覆う組織(子宮内膜)を厚くする働きがあり、プロゲステロンはエストロゲンの作用を抑える役割を持っています。
この2つのホルモンのバランスが崩れエストロゲンの影響が強くなりすぎると、子宮内膜の一部が必要以上に成長してしまい、ポリープとして内側に突き出てくるのです。
ホルモンの種類 | 子宮内膜への影響 |
エストロゲン | 内膜を厚くする |
プロゲステロン | 内膜の成長を抑える |
年齢によるリスク
子宮内膜ポリープは30代後半から50代、特に閉経の前後の時期にある女性に多く見られます。
この年齢層の女性はホルモンのバランスが不安定になりやすく、エストロゲンの影響が相対的に強くなるためです。
遺伝的な要素
遺伝子に変異があるとホルモンの受け取り方や細胞の増え方に影響を与え、ポリープができやすいです。
遺伝子の名前 | ポリープができる過程での役割 |
KRAS遺伝子 | 細胞を増やす働きを強める |
PTEN遺伝子 | 異常な細胞の増殖を抑える機能が弱まる |
生活環境や習慣
普段の生活や環境も、子宮内膜ポリープができるかどうかに関係しています。
ポリープができるリスクを高める要因
- 肥満気味
- 血圧が高い
- 糖尿病がある
- たばこを吸う
- ストレスが多い
薬の影響
更年期障害の症状を和らげるためのホルモン補充療法(HRT)や、乳がんの治療に使われるタモキシフェンはエストロゲンに似た作用があるため、長期間使用すると、ポリープができるリスクが高まります。
薬の名前 | ポリープができる過程での影響 |
ホルモン補充療法(HRT) | エストロゲンに似た作用がある |
タモキシフェン | 子宮内膜を刺激する |
診察(検査)と診断
子宮内膜ポリープの診断は、初期の臨床診断から精密機器を用いた詳細な検査による確定診断まで、複数の方法を組み合わせます。
問診
問診で患者さんが感じている症状や月経の状況、これまでの病歴などについて聞き取ります。
内診
内診では子宮の大きさや形、硬さ、痛みを感じるかどうかを確認します。
子宮内膜ポリープがある程度の大きさに成長していると、内診の段階で何らかの異常を感じ取ることが可能です。
内診での確認項目 | 通常の状態 | 気をつけるべき所見 |
子宮の大きさ | 鶏卵程度 | 明らかな腫れ |
子宮の感触 | 適度な弾力 | 硬くなっている |
触った時の痛み | なし | 痛みを訴える |
経腟超音波検査
ポリープの疑いがある際は、腟の中に細長い棒状の超音波の機械(プローブ)を入れて、子宮内膜の様子を詳しく観察します。
子宮鏡検査
子宮鏡検査は、細い内視鏡を子宮の中に入れて、直接子宮の内側を見られるので、子宮内膜ポリープを最も確実に診断できる方法です。
ポリープの形や表面の様子を細かく確認でき、同時に必要があれば組織の一部を採取できます。
子宮鏡検査の特徴 | よい点 | 気をつけるべき点 |
直接目で見られる | 診断の精度が高い | 多少の不快感がある |
組織が取れる | 詳しい検査ができる | 感染に注意が必要 |
治療も可能 | 小さなポリープなら切除できる | 高度な技術が必要 |
組織診断
子宮内膜ポリープの最終的な確定診断は、顕微鏡で組織を詳しく調べる組織診断です。
子宮鏡検査や子宮内膜全体をかき出す検査(全面掻爬術)でえられた組織を、病理検査に回して、顕微鏡で細かく観察し、ポリープが良性か悪性か見分けます。
その他の補助的な検査
子宮内膜ポリープの診断過程では、状況に応じて以下のような補助的な検査も行われます。
- 子宮と卵管の形を調べる造影検査(HSG)
- 体の断層写真を撮るMRI検査
- 貧血がないかを調べる血液検査
- 子宮内膜の細胞を採取して調べる細胞診
補助的検査 | どんなときに使うか | 何がわかるか |
子宮卵管造影 | 不妊の心配がある場合 | 子宮や卵管の形 |
MRI検査 | 詳しい画像が必要な時 | 骨盤内の詳細な構造 |
血液検査 | 全身状態の確認 | 貧血の有無など |
細胞診 | がんの疑いがある時 | 異常細胞の有無 |
子宮内膜ポリープの治療法と処方薬、治療期間
子宮内膜ポリープの治療方法は様子を見守る経過観察や、薬を使う方法、手術で取り除く方法があります。
経過観察
症状がなく小さなポリープの場合は、しばらく様子を見守る経過観察が選ばれます。
ポリープが自然に小さくなったり消えるのを期待して行われ、閉経前の女性によく行われる方法です。
経過観察中は3〜6ヶ月ごとに超音波検査を受け、半年から1年に1回子宮の内側の組織を少し取って調べる検査(子宮内膜生検)を受けます。
ポリープの大きさや形に変化がない限り、この方法で様子を見続けることに。
検査の種類 | どのくらいの間隔で行うか |
超音波検査 | 3〜6ヶ月ごと |
子宮内膜生検 | 6〜12ヶ月ごと |
薬を使った治療方法
薬を使う治療は女性ホルモンのバランスを整えることで、ポリープを小さくし症状を軽くすることが目的です。
- GnRHアゴニスト 女性ホルモンの分泌を抑える薬
- 黄体ホルモン剤 女性ホルモンの一種を補う薬
- 低用量ピル 避妊にも使われるホルモン調整薬
これらの薬はエストロゲンの働きを抑え、子宮の内側の組織が必要以上に増えるのを防ぎます。
治療期間は3〜6ヶ月です。
手術で取り除く方法
手術でポリープを直接取り除く方法は、症状が強いときや、薬による治療があまり効果的でなかった場合に選ばれます。
手術の名前 | 特徴 |
子宮鏡下ポリープ切除術 | 体への負担が少なく、回復が早い |
子宮内膜全面掻爬術 | 子宮の内側を広く処置できる |
子宮鏡下ポリープ切除術は日帰りや1〜2日の入院で済むことが多く、手術後の回復も早いです。
子宮内膜全面掻爬術は、子宮の内側にあるポリープやその他の異常な組織を広い範囲で取り除く方法で、手術を受けた後1〜2週間ほど経過を見守ります。
治療後の経過観察
治療が終わった後もポリープが再び出来てこないかを調べるため、3〜6ヶ月ごとに超音波検査を受けたり、子宮の内側の細胞を調ることが大切です。
また、日頃の生活習慣を見直し体重を保つことも、ポリープの再発を防ぐのに効果があります。
治療後の検査 | どのくらいの間隔で行うか |
超音波検査 | 3〜6ヶ月ごと |
子宮内膜細胞診 | 3〜6ヶ月ごと |
子宮内膜ポリープの治療における副作用やリスク
子宮内膜ポリープを治療する方法には軽観察、薬を使う方法、手術で取り除く方法がありますが、どの方法にも副作用やリスクが伴います。
経過観察を選んだ時のリスク
経過観察を選んだ場合気をつけなければならないのは、ポリープが大きくなったり、がん化したりする可能性です。
閉経を迎えた後の女性はポリープががんに変わるリスクが高いので、より注意深く観察する必要があります。
気をつけるべきこと | どのくらいの割合で起こるか |
ポリープが大きくなる | 100人中20〜30人くらい |
がん化する | 1000人中8〜30人くらい |
薬を使う治療の副作用
薬を使う治療は、さまざまな副作用が出ます。
- 急に暑くなる感覚(ホットフラッシュ)
- 骨がもろくなる(骨密度低下)
- 生理でない時期に出血がある(不正出血)
- 頭が痛くなる
- 吐き気がする
GnRHアゴニストを用いると、一時的に更年期のような症状が現れます。
また、長い間使い続けると骨がもろくなり元に戻らないことがあるので、使用する期間には気をつけてください。
手術で取り除く方法のリスク
手術で取り除く方法には体に負担をかける処置に伴うリスクと、子宮内膜ポリープを切除する時のリスクがあります。
リスクの種類 | どんなことが起こるか |
一般的なリスク | 手術部位の感染、出血が止まらない、麻酔による体調不良 |
特有のリスク | 子宮に穴があく(子宮穿孔)、子宮の内側がくっついてしまう(癒着形成) |
子宮の中を覗きながら行う手術(子宮鏡下手術)では、子宮に穴があいてしまうリスクが100人中1人くらいです。
手術後に子宮の内側が癒着すると、将来妊娠できにくくなる懸念があります。
また、手術中に体の中の水分バランスが崩れて、低ナトリウム血症になることもあります。
手術中や手術後に気をつけること | どのくらいの割合で起こるか |
子宮に穴があく | 100人中1人くらい |
子宮の内側の癒着 | はっきりした数字はわかっていない |
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
診断のための検査費用
経腟超音波検査は保険適用の場合、約500円から1,500円です。
子宮鏡検査は、5,000円から15,000円程度となります。
検査項目 | 保険適用時の概算費用 |
経腟超音波検査 | 500円~1,500円 |
子宮鏡検査 | 5,000円~15,000円 |
外来での治療費用
小さな子宮内膜ポリープは、外来での処置で対応できることがあります。
子宮鏡下ポリープ切除術の費用は、保険適用時で約20,000円から40,000円です。
入院を伴う手術の費用
大きなポリープや複数のポリープがあるときは、入院での手術が必要です。
子宮全面掻爬術の費用は、保険適用時で80,000円から150,000円程度になります。
治療法 | 保険適用時の概算費用 |
子宮鏡下ポリープ切除術(外来) | 20,000円~40,000円 |
子宮全面掻爬術(入院) | 80,000円~150,000円 |
自由診療の場合の費用
子宮鏡下ポリープ切除術の自由診療での費用
- 小さなポリープ(1cm未満):約150,000円~200,000円
- 中程度のポリープ(1-3cm):約200,000円~300,000円
- 大きなポリープ(3cm以上):約300,000円~500,000円
以上
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