上皮性腫瘍 – 婦人科

上皮性腫瘍(epithelial tumors)とは、卵巣に生じる腫瘍で、上皮細胞から発生します。

良性と悪性の両方があり、性質や進行度に応じて症状や身体への影響が変化します。

発症にはいろいろな要因が関係していますが、現在のところ完全な原因解明には至っていません。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

上皮性腫瘍の種類(病型)

卵巣の上皮性腫瘍には、漿液性嚢胞腫瘍、粘液性嚢胞腫瘍、類内膜腫瘍、明細胞腫瘍という4つの病型があります。

漿液性嚢胞腫瘍

漿液性嚢胞腫は、上皮性腫瘍の中で最もよく見られます。

卵巣表層上皮や卵管上皮から発生し、薄い壁を持つ嚢胞性の病変として現れることが多いです。

特徴詳細
発生部位主に卵巣
内容物漿液性液体
壁の性状薄い

粘液性嚢胞腫瘍

粘液性嚢胞腫瘍は粘液を産生する細胞から発生する腫瘍で、大型化し多房性の構造が見られます。

内部には粘稠度の高い粘液性の液体が充満し、これが診断の際の重要な手がかりです。

特徴粘液性嚢胞腫瘍漿液性嚢胞腫瘍
内容物粘稠性の高い粘液漿液性液体
構造多房性が多い単房性が多い
サイズ大型化傾向様々

類内膜腫瘍

類内膜腫瘍は子宮内膜に似た構造を持つ腫瘍で、子宮内膜症と関連があります。

類内膜腫瘍の特徴

  • 子宮内膜に類似した構造
  • 子宮内膜症との関連性
  • 複雑な腺管構造

明細胞腫瘍

明細胞腫瘍は明るい細胞質を持つ細胞から構成される腫瘍で、珍しい病型です。

充実性と嚢胞性の混合パターンを示し、内部にグリコーゲンを豊富に含む細胞があります。

特徴明細胞腫瘍類内膜腫瘍
細胞の特徴明るい細胞質子宮内膜様
発生頻度比較的珍しいより一般的
構造充実性と嚢胞性の混合主に腺管構造

上皮性腫瘍の主な症状

上皮性腫瘍は病状が進むにつれて、おなかの張り、骨盤部の痛み、想定外の出血が現れます。

漿液性嚢胞腫瘍の症状

漿液性嚢胞腫瘍は初めのうちは自覚症状がないケースが多いですが、進行に伴い以下のような兆候が出てきます。

  • おなかが張る感覚や不快感
  • 骨盤部のにぶい痛みや圧迫を感じる
  • トイレの回数が増える、または排尿時に違和感がある
症状特徴
おなかの張り徐々に進行する
骨盤の痛みにぶい痛みが続く
頻尿夜間に目立つ

粘液性嚢胞腫瘍の症状

粘液性嚢胞腫瘍の症状

  • 下腹部のはれや違和感
  • 生理不順や想定外の出血
  • おなかや背中の痛み

粘液性嚢胞腫瘍は、大きくなるにつれておなかが張る感覚が顕著です。

腫瘍がねじれたり破れると、突然の強いおなかの痛みが起きます。

症状頻度
おなかの張り高い
不規則な出血中程度
急な腹痛低い

類内膜腫瘍の症状

類内膜腫瘍はエストロゲンの影響を受けやすいため、生理周期に関連した症状が見られます。

  • 生理の出血が不規則になる
  • 骨盤部に痛みを感じる
  • 性行為の際に痛みがある

妊娠しづらくなる原因になるので、お子さんを望んでいる方は注意が必要です。

症状関連する要因
不規則な出血ホルモンのバランス
骨盤の痛み腫瘍の大きさ
妊娠しづらい卵巣の働き

明細胞腫瘍の症状

明細胞腫瘍は、他の上皮性腫瘍に比べると特殊な症状を示します。

  • おなかが張る感覚やしこりを触れる
  • 体重が減る
  • 体全体がだるい感じがする

明細胞腫瘍は血栓症、足がむくんだり痛みを感じたり、血液中のカルシウム濃度が高くなることによる症状(喉が渇く、尿の量が増える、吐き気)が見られます。

症状特記事項
おなかの張りだんだん進行する
体重減少食欲が落ちる
血栓の症状足のむくみや痛み

上皮性腫瘍の原因

上皮性腫瘍の発生には、遺伝的要因、環境因子、ホルモンバランスの乱れ、生活習慣が深く関与しています。

遺伝的要因

特定の遺伝子変異や家族歴が腫瘍発生のリスクを高め、BRCA1やBRCA2遺伝子の変異は、卵巣癌を含む上皮性腫瘍のリスクを著しく増加させます。

遺伝子関連する腫瘍タイプ
BRCA1漿液性卵巣癌
BRCA2卵巣癌、乳癌
MLH1リンチ症候群関連腫瘍

ただし、遺伝子変異があるから必ずしも腫瘍が発生するわけでなく、変異がなくても腫瘍が発生する方もいますので、総合的な判断が必要です。

環境因子

環境因子も上皮性腫瘍の発生に関与していて、化学物質へさらされること、放射線、職業環境が、腫瘍発生のリスクを高めます。

上皮性腫瘍発生に関係のある環境因子

  • 化学物質(農薬、工業用化学物質など)
  • 放射線被曝(医療用や職業性の放射線曝露を含む)
  • 大気汚染(特に都市部における微小粒子状物質など)
  • 職業環境(特定の産業における有害物質への長期曝露)

ホルモンバランスの乱れ

エストロゲンの過剰な分泌は、卵巣や子宮の上皮性腫瘍の原因の一つです。

閉経後のホルモン補充療法や、長期の経口避妊薬の使用、妊娠や授乳期間中のホルモン環境の変化が挙げられます。

ホルモン関連因子リスクへの影響
早期初経リスク増加
晩期閉経リスク増加
未経産リスク増加
多産リスク減少

生活習慣

肥満、運動不足、喫煙、乱れた食生活も、腫瘍発生に関係しています。

生活習慣要因リスクへの影響
肥満リスク増加
運動不足リスク増加
喫煙リスク増加
健康的な食事リスク減少

診察(検査)と診断

上皮性腫瘍を診断する過程は、まず患者さんからお話を伺うことから始まり、その後、体の診察、画像を使った検査、血液検査、最後に組織を顕微鏡で調べるという順序で進んでいきます。

問診と身体の診察

上皮性腫瘍を診断する問診では、患者さんが感じている体の変化や経過、これまでにかかった病気、ご家族の病歴についてお聞きします。

次に行われる体の診察では、触診や内診を行います。

診察の種類どんなことがわかるか
お話を伺う症状や病歴を知る
おなかを触るしこりがあるかどうか、その特徴
内診骨盤の中にある臓器の状態

画像を使った検査

画像を使った検査は、腫瘍についてより詳しい情報を得るためのものです。

  • 腟からの超音波検査:腫瘍の大きさ、形、中身の様子を見る
  • CT検査:腫瘍がどこまで広がっているか、周りの臓器への影響を調べる
  • MRI検査:腫瘍の性質をより細かく知る
  • PET-CT:腫瘍が良性か悪性か、他の場所に広がっていないかを確認する

血液検査(腫瘍マーカー検査)

腫瘍マーカー検査は、血液の中に含まれる特定のタンパク質の量を調べることで、腫瘍がある可能性や、どの程度進んでいるかを推測する検査です。

上皮性腫瘍の場合、CA125、CA19-9、CEAを調べます。

マーカーの名前どんな種類の腫瘍でよく使うか
CA125漿液性(しょうえきせい)腫瘍
CA19-9粘液性(ねんえきせい)腫瘍
CEA上皮性腫瘍

ただし、腫瘍以外の理由でも数値が上がることがあるので、この検査だけで診断することはできません。

組織を顕微鏡で調べる(確定診断)

上皮性腫瘍を確実に診断するには腫瘍の一部を採取して、顕微鏡で細かく観察する組織診断が欠かせません。

  • 細胞診:おなかの中にたまった水や腟からの分泌物から細胞を集める
  • 針生検:細い針を使って腫瘍の一部を採取する
  • 手術中の迅速診断:手術をしている最中に腫瘍の一部を取り調べる

上皮性腫瘍の治療法と処方薬、治療期間

上皮性腫瘍の治療方法は手術、抗がん剤を使う化学療法、放射線を使う放射線療法があります。

手術療法

手術の目標は腫瘍を完全に取り除くことで、腫瘍の周りの組織や臓器も一緒に取り除きます。

手術方法対象になるがん
開腹手術大きな腫瘍、進んだがん
腹腔鏡手術初期のがん、良性の腫瘍

腹腔鏡手術は患者さんの体への負担が少ないので開腹手術よりも回復が早く、入院期間は1〜2週間くらいです。

化学療法

化学療法は抗がん剤でがん細胞の増殖を抑える治療法で、悪性の腫瘍(がん)に使用されます。

上皮性腫瘍によく使われる抗がん剤

  • パクリタキセル
  • カルボプラチン
  • ドキソルビシン
  • シスプラチン

抗がん剤は一つだけ使うこともあれば、いくつか組み合わせて使うこともあります。

化学療法は3〜4週間を1セットとして何回か繰り返し、治療期間は4〜6か月です。

放射線療法

放射線療法は上皮性腫瘍の治療で、手術や化学療法と一緒に使うことが多いです。

放射線療法の種類どんな特徴があるか
体の外から照射する方法体の外から放射線を当てる
腫瘍の近くから照射する方法腫瘍のすぐ近くに放射線源を置く

放射線療法の期間は4〜6週間で、1日1回、週に5回です。

分子標的療法

分子標的療法はがん細胞の特定の部分だけをピンポイントで攻撃し、PARP阻害剤は遺伝子に変異がある卵巣がんに効果があります。

分子標的薬は長い期間飲み続け、数か月、ときには数年続けることもあります。

治療法を組み合わせる

上皮性腫瘍では手術の前に化学療法を行ったり、手術の後に放射線療法を行ったり、いくつかを組み合わせます。

どの治療をどういう順番で使うかは、腫瘍の特徴や患者さんの状態を考慮して決めていきます。

上皮性腫瘍の治療における副作用やリスク

上皮性腫瘍の治療は手術で取り除く、抗がん剤を使う、放射線を当てるなどのいくつかの選択肢があり、それぞれに副作用やリスクがあります。

手術に関連する副作用とリスク

手術は多くの上皮性腫瘍の治療において中心になる方法ですが、いくつかの副作用やリスクがあります。

  • 出血
  • 感染
  • 臓器を傷つけてしまうこと
  • 麻酔に関連する問題
  • 血栓症
副作用/リスクどのくらいの頻度で起こるか
出血それほど珍しくない
感染あまり多くない
臓器を傷つけることとても珍しい

抗がん剤治療(化学療法)に関連する副作用とリスク

抗がん剤治療はがん細胞を攻撃する一方で、正常な細胞にも影響を与えてしまうためいろいろな副作用が現れます。

  • 吐き気・嘔吐
  • 髪の毛が抜けること
  • 疲れやすくなること
  • 食欲がなくなること
  • 血液を作る骨髄の働きが弱くなること(白血球が減る、貧血になる、血小板が減るなど)
副作用どうやって対処するか
吐き気吐き気止めのお薬を使う
髪の毛が抜けることかつらを使う
疲れやすくなること休むことと体を動かすことのバランスを取る

一部の抗がん剤では卵巣の働きに問題を起こし妊娠しにくくなったり、若いうちの閉経(生理が来なくなること)に注意が必要です。

放射線治療に関連する副作用とリスク

放射線治療は放射線を当てた部分とその周りに副作用が出ることがあります。

  • 皮膚が赤くなったり、色が変わったりすること
  • 疲れやすくなること
  • おなかの具合が悪くなること(下痢や腹痛など)
  • おしっこをする時に痛みを感じること
副作用いつ頃現れるか
皮膚が赤くなること治療中~治療直後
疲れやすくなること治療中~治療後数週間
後から現れる影響治療後数ヶ月~数年

骨盤のあたりに放射線を当てた後数年経ってから腸閉塞といった、後から現れる例もあります。

ホルモン療法に関連する副作用とリスク

ホルモンの働きを抑える治療(ホルモン療法)が用いられることがありますが、これにも特有の副作用があります。

  • 急に体が熱くなる感覚(ほてり)
  • 汗をかきやすくなること
  • 骨がもろくなること(骨密度が低下する)
  • 血液が固まりやすくなること(血栓のリスクが上がる)
副作用どうやって対処するか
ほてり部屋の温度を調節する、お薬を使う
骨がもろくなることカルシウムをたくさん取る、運動をする

免疫療法に関連する副作用とリスク

体の免疫の力を使って治療する方法(免疫療法)にも副作用があります。

  • 自分の体を攻撃してしまう反応(皮膚が赤くなる、おなかを壊す、肝臓の働きが悪くなるなど)
  • 疲れやすくなる
  • 点滴をしている時に起こる反応(インフュージョンリアクション)

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

手術療法の費用

手術療法は上皮性腫瘍治療の中心です。

手術の種類概算費用(3割負担の場合)
腹腔鏡下手術15万円〜30万円
開腹手術20万円〜40万円

費用には、入院費や麻酔料も含まれています。

化学療法の費用

化学療法の費用

  • 主な抗がん剤治療の費用(1クール、3割負担の場合)
  • パクリタキセル+カルボプラチン併用療法:10万円〜15万円
  • ドキソルビシン単独療法:5万円〜8万円
  • ベバシズマブ併用療法:20万円〜30万円

複数クールの治療が必要になるため、総費用は数十万円から百万円以上に及びます。

放射線療法の費用

放射線療法の費用は、照射回数や使用する機器によって変わります。

治療の種類概算費用(3割負担の場合、全治療期間)
外部照射30万円〜50万円
腔内照射20万円〜40万円

以上

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