ガートナー嚢胞 – 婦人科

ガートナー嚢胞(Gartner’s duct cyst)とは、女性の生殖器系に現れる良性の嚢胞状病変です。

この嚢胞は、母親のお腹の中にいる時期に形成されるウォルフ管という構造の名残から発生します。

ガートナー嚢胞は主に腟の側面や子宮の入り口付近にできやすく、大きさはさまざまです。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

ガートナー嚢胞の主な症状

ガートナー嚢胞は多くで自覚症状がありませんが、時として症状が現れます。

目立った症状がないケースが多い背景

ガートナー嚢胞はほとんどの場合小さく、周りの組織を押しつぶすほどではないため、何も症状がないまま経過し、別の理由での検査や健康診断の際に偶然発見されることが多いです。

症状が出現する際の兆候

症状が現れるときは、次のような兆候に気づくでしょう。

  • 腟や外陰部に何か違和感がある
  • 排尿時に不快に感じる
  • 性行為の際に痛みを感じる
  • 下腹部にずっと鈍い痛みがある

症状は嚢胞が大きくなったり、炎症を起こすと出やすくなります。

嚢胞の大きさによる症状の違い

大きさ症状
小さめ(1cm未満)ほとんど何も感じない
中くらい(1-3cm)軽い不快感や違和感がある
大きめ(3cm以上)はっきりとした痛みや圧迫感がある

普段の生活への影響

多くの方は特に支障なく過ごせますが、嚢胞が大きくなると以下のような影響が出ます。

  • 椅子に座っている時に不快感がある
  • 運動をしている時に何か違和感がある
  • 性生活に支障が出る
  • 膀胱炎などの尿路感染症にかかりやすくなる

すぐに受診した方がいい症状

できるだけ早く医療機関に相談すべき症状

  • 突然強い痛みが現れた
  • 出血を伴う症状がある
  • 熱が出たり、おりものに悪臭がある
  • 嚢胞の大きさが急に増す

症状の経過と変化

時期症状の特徴
初期ほとんど気づかない程度の軽い違和感
中期時々感じる不快感や軽い痛み
進行期持続的な痛みや明らかな違和感

ガートナー嚢胞の原因

ガートナー嚢胞は、胎児が成長する過程で起こる異常が原因です。

ガートナー嚢胞の発生メカニズム

女児の生殖器は、「ミュラー管」という構造から作られますが、最初は男児の体を作る「ウォルフ管」という構造も存在しています。

女児の体ではウォルフ管はだんだん小さくなって最後には消えてしまいますが、何かの理由でこの過程がうまく進まないことがあるのです。

その結果ウォルフ管の一部が残ってしまい、袋のような形になってガートナー嚢胞になります。

遺伝的要因の関与

遺伝子に変化があると、ウォルフ管が消えずに残ってしまうことがあります。

遺伝子の変化は家族の中で受け継がれることもありますし、理由もなく突然現れることもあります。

遺伝的な要因どんな特徴があるか
家族から受け継ぐ場合親族の中で起こりやすい
突然現れる場合特定の家系に限らず起こる

胎内環境の影響

胎児がお母さんのお腹の中にいる時の環境も、ガートナー嚢胞ができる原因になる可能性があります。

母親の食事の状態や、ストレス、薬を飲んでいるかなどがウォルフ管が正しく消えていく過程を邪魔し、お腹の中の胎児の生殖器の発育に影響を与えることがあるのです。

ホルモン環境の役割

男児か女児かが決まっていく過程では、男性ホルモンや女性ホルモンのバランスが大切です。

ホルモンのバランスが崩れると、ウォルフ管が消えずに残ってしまうことがあります。

ホルモンの種類どんな働きをするか
男性ホルモン男の子の体の特徴を作る
女性ホルモン女の子の体の特徴を作る

ガートナー嚢胞発生のリスク因子

ガートナー嚢胞ができる危険性を高める要因には、以下のようなものがあります。

  • 家族の中で同じ病気になった人がいる(親や姉妹にガートナー嚢胞がある)
  • 胎児がお腹にいる時に、母親が強いストレスを受けていた
  • 胎児がお腹にいる時に、薬の影響を受けていた
  • 母親の体の中のホルモンのバランスが崩れていた

診察(検査)と診断

ガートナー嚢胞を正確に診断するには、いくつかの検査方法と段階的な診断が必要です。

最初の診察でのやりとり

ガートナー嚢胞の診断はどんな不快な感じがあるか、いつからどのくらい続いているのかなどを、聞いていきます。

普段の生活の様子や家族の病歴なども、大事な情報です。

体の診察で分かること

問診の後は実際に体を診察し、嚢胞があるか、どの辺りにあるか、どのくらいの大きさなのかを調べます。

画像で見る嚢胞の様子

体の診察だけでは分からないことを詳しく調べるため、画像検査を行うことがあります。

  • 腟の中から超音波で見る検査
  • MRI
  • CT
検査の種類どんなことが分かるか
腟からの超音波その場ですぐに嚢胞の様子が分かる、痛みもなく簡単
MRI嚢胞の中身や周りの様子がとてもよく分かる
CT嚢胞の中に石灰化があるかなども分かる

ガートナー嚢胞かどうかを確かめる

画像検査で嚢胞らしきものが見つかったあとは、ガートナー嚢胞かを確かめるために検査を行います。

  • 細い針を刺して中の液体を調べる
  • 小さな組織を取って顕微鏡で見る

似ている病気との鑑別

ガートナー嚢胞は、他の良性や悪性の嚢胞とよく似ているので、鑑別が必要です。

  • バルトリン腺にできる嚢胞
  • 子宮の入り口にできる嚢胞
  • 腟の壁にできる嚢胞
  • がんの一種
似ている病気どこが違うか
バルトリン腺の嚢胞腟の入り口近くにできやすい
子宮の入り口の嚢胞子宮の入り口だけにできる
腟の壁の嚢胞腟のどこにでもできる可能性がある

ガートナー嚢胞の治療法と処方薬、治療期間

ガートナー嚢胞を持つ多くの方は治療せずに様子を見ていきますが、中には手術が必要になる方もいます。

経過観察による管理

症状がなかったり軽い症状のあるガートナー嚢胞の場合、まずは様子を見ることが一番よい選択肢です。

定期的に超音波検査を行い、嚢胞の大きさや形に変化がないか確認していきます。

ほとんどの嚢胞は自然に小さくなったりなくなったりするので、積極的に治療をする必要がないことが多いです。

半年から1年くらいの間隔で検査を行います。

薬による治療法

症状のあるガートナー嚢胞に対しては痛みや不快な感じを和らげるために、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を用います。

また、嚢胞を小さくするために、低用量ピルを使うことも。

薬の名前どんな効果があるか
イブプロフェン痛みや炎症を軽くする
ナプロキセン長い時間効く痛み止め

2〜3ヶ月薬を飲み続け、効果がどうだったかを確認します。

手術による治療

大きな嚢胞やずっと症状が続く嚢胞に対しては、手術による治療を選ぶことがあります。

実施される手術方法

  • 嚢胞を全部取り除く手術 腟から行う方法で、嚢胞を完全に取り除く。
  • おなかに小さな穴を開けて行う手術 体への負担が少ない方法で嚢胞を取り除く。
  • おなかを大きく切開する手術 複雑なケースや大きな嚢胞の時に。
  • 嚢胞に穴を開ける手術 嚢胞の中身を出して、壁の一部を切り取る。

手術が終わってから回復するまでの期間は、1〜2週間くらいです。

手術後の経過観察

手術の後は定期的に病院に来ていただき、経過を見ていくことが大切です。

手術から1ヶ月後、3ヶ月後、6ヶ月後、1年後と段階的に診察を行い、その後は年に1回の検診をお勧めします。

経過観察の時期確認すること
手術から1ヶ月傷が良くなっているか
手術から3ヶ月体の機能が戻っているか
手術から6ヶ月嚢胞が再び出来ていないか
手術から1年長期的な経過

ガートナー嚢胞の治療における副作用やリスク

ガートナー嚢胞を治す方法にはいくつかの選択肢があり、どの方法にも気をつけなければならない副作用やリスクがあります。

経過観察の注意点

症状があまりひどくない時はしばらく様子を見ますが、嚢胞が急に大きくなったり、菌が入り悪化する可能性も考えておく必要があります。

針で中身を抜く治療のリスク

針で嚢胞の中身を抜く治療は体への負担が比較的少ない方法であるものの、以下のようなリスクがあります。

  • 菌が入る
  • 出血する
  • また嚢胞ができてしまう
起こりうること頻度
菌が入るあまり多くない
出血するとても珍しい
また嚢胞ができるときどきある

薬を注入する治療の副作用

嚢胞の中に特殊な薬を入れて固める治療では、次のような副作用が報告されています。

  • 治療した部分が痛くなる
  • 炎症反応が起こる
  • 周りの健康な組織にも影響が出る

副作用は大抵一時的なものです。

手術で取り除く時のリスクと合併症

手術で完全に取り除く方法は根本的な治療法ですが、手術に伴うリスクがあります。

  • 麻酔による問題
  • 出血が止まりにくくなる
  • 傷口から菌が入る
  • 手術部分の周りの組織を傷つけてしまう
  • 傷跡が残る
合併症の種類頻度
麻酔による問題あまり多くない
出血が多くなることときどきある
傷口から菌が入ることあまり多くない

レーザー治療の副作用

レーザーを使う治療は比較的新しい方法です。

  • レーザーの熱で軽いやけどをする
  • 治療した部分の色が変わる
  • 周りの健康な組織を傷つけてしまう

再び嚢胞ができるリスク

ガートナー嚢胞の治療後、再び嚢胞ができるリスクがあります。

再発する要因

  • 嚢胞を完全に取り除くのが難しかった場合
  • 周りの組織に炎症が起きている
  • ホルモンのバランスが変化する

再び嚢胞ができるともう一度治療が必要になり、患者さんの負担が大きくなります。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

保険適用の検査

ガートナー嚢胞の診断や経過観察に必要な検査は、多くの場合保険適用です。

検査項目概算費用(3割負担の場合)
超音波検査1,500円〜3,000円
MRI検査10,000円〜15,000円

薬物療法にかかる費用

症状緩和のための薬物療法費用

薬剤名概算費用(30日分、3割負担)
非ステロイド性抗炎症薬1,000円〜3,000円
経口避妊薬2,000円〜5,000円

手術療法の費用

  • 腹腔鏡下手術約15万円〜25万円(3割負担、入院費込み)
  • 開腹手術約20万円〜30万円(3割負担、入院費込み)
  • 経腟的手術約10万円〜20万円(3割負担、入院費込み)

金額は、平均的な入院期間(5〜7日)を元にしています。

以上

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