高プロラクチン血症(hyperprolactinemia)とは、体内のプロラクチンというホルモンの分泌量が異常に増加した状態のことです。
プロラクチンは主に脳の下垂体から分泌され通常は授乳期の母乳生成を促す役割がありますが、過剰に分泌されると女性では月経不順や不妊、男性では性機能障害などの症状が現れることがあります。
原因は良性の脳腫瘍や薬の副作用、甲状腺機能低下症などです。
高プロラクチン血症の種類(病型)
高プロラクチン血症では、下垂体腺腫性(プロラクチノーマ)、視床下部機能障害、薬剤性、原発性甲状腺機能低下症が代表的な病型です。
下垂体腺腫性(プロラクチノーマ)
下垂体腺腫性高プロラクチン血症はプロラクチノーマと呼ばれる下垂体腺腫が原因です。
この腫瘍はプロラクチンを過剰に分泌し、血中プロラクチン濃度を上昇させます。
プロラクチノーマの分類は、微小腺腫(直径10mm未満)と巨大腺腫(直径10mm以上)です。
分類 | 腫瘍の大きさ |
微小腺腫 | 直径10mm未満 |
巨大腺腫 | 直径10mm以上 |
微小腺腫は女性に多く見られ巨大腺腫は男性に多い傾向があり、腫瘍の大きさや位置によって周囲の組織への圧迫症状が現れる場合もあります。
視床下部機能障害
視床下部機能障害による高プロラクチン血症は、視床下部からのドーパミン分泌が低下することで引き起こされます。
視床下部機能障害の原因
- 腫瘍(頭蓋咽頭腫など)
- 肉芽腫性疾患
- 外傷
- 放射線照射の影響
薬剤性
薬剤性高プロラクチン血症は、特定の薬物の使用によって引き起こされる病型です。
関与する主な薬剤
薬剤分類 | 代表的な薬剤例 |
抗精神病薬 | リスペリドン、ハロペリドール |
抗うつ薬 | 三環系抗うつ薬、SSRIs |
制吐剤 | メトクロプラミド、ドンペリドン |
降圧薬 | メチルドパ、ベラパミル |
これらの薬剤は主にドーパミン受容体の遮断やドーパミン作用の抑制を通じて、プロラクチン分泌を増加させます。
原発性甲状腺機能低下症
原発性甲状腺機能低下症も高プロラクチン血症を引き起こす要因の一つです。
甲状腺機能が低下すると甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)の分泌が増加し、プロラクチン濃度が上昇します。
甲状腺機能低下症の影響 | 結果 |
TRH分泌増加 | プロラクチン分泌刺激 |
甲状腺ホルモン低下 | 代謝率低下 |
また、甲状腺ホルモンの低下はプロラクチンの代謝率を低下させ、血中濃度が上昇します。
病型 | 主な特徴 |
下垂体腺腫性 | 下垂体腫瘍によるプロラクチン過剰分泌 |
視床下部機能障害 | ドーパミン分泌低下によるプロラクチン抑制不全 |
薬剤性 | 特定薬剤使用によるプロラクチン分泌増加 |
原発性甲状腺機能低下症 | TRH増加によるプロラクチン分泌刺激 |
高プロラクチン血症の主な症状
高プロラクチン血症は病型によって症状の現れ方が異なります。
高プロラクチン血症の症状
高プロラクチン血症では性別や年齢にかかわらず共通して見られる症状があります。
症状 | 詳細 |
頭痛 | 軽度から中程度の頭痛が持続することがあります |
視覚異常 | 視野狭窄や複視などの視覚的な問題が生じる場合があります |
倦怠感 | 全身の疲労感や体力低下を感じることがあります |
体重増加 | ホルモンバランスの乱れにより、体重が増加する傾向があります |
女性特有の症状
女性の場合高プロラクチン血症によって生殖機能に関連した特有の症状が現れることがあります。
女性特有の症状
- 月経不順または無月経
- 不妊
- 乳汁漏出(授乳中でないのに乳首から母乳が出る)
- 性欲減退
- 骨密度の低下
男性特有の症状
男性の場合も高プロラクチン血症によって、性機能や生殖機能に関連した症状が現れることがあります。
男性特有の症状
症状 | 詳細 |
性欲減退 | リビドーの低下や性的興奮の減少が見られます |
勃起障害 | 勃起の困難や持続時間の短縮が生じる場合があります |
精子減少 | 精子の数や質が低下し、不妊の原因となることがあります |
女性化乳房 | 乳腺組織が発達し、乳房が腫大することがあります |
病型別の特徴的な症状
高プロラクチン血症は原因によって複数の病型があり、各病型によって症状の現れ方や程度に違いがあります。
下垂体腺腫性(プロラクチノーマ)
プロラクチノーマは下垂体に発生する良性腫瘍で、腫瘍のサイズによって症状の程度が異なります。
大型の腫瘍(マクロプロラクチノーマ)は視神経を圧迫し、以下のような症状が現れます。
症状 | 詳細 |
視野狭窄 | 周辺視野が徐々に狭くなっていきます |
複視 | 物が二重に見える症状が現れることがあります |
頭痛 | 持続的な頭痛や頭重感を感じることがあります |
小型の腫瘍(ミクロプロラクチノーマ)では視神経への圧迫は少ないため、主にホルモンの過剰分泌による症状が中心です。
視床下部機能障害
視床下部の機能障害によって引き起こされる高プロラクチン血症では、プロラクチン以外のホルモンにも影響が及ぶことがあります。
主な症状
- 体温調節障害
- 食欲異常(増加または減少)
- 睡眠障害
- 情動の変化(うつ症状など)
薬剤性
薬剤性の場合原因となる薬剤の種類や服用量によって症状の現れ方が異なり、患者さんの服薬状況や既往歴を慎重に確認する必要があります。
原発性甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症に伴う高プロラクチン血症では甲状腺ホルモンの不足によって生じる症状と、プロラクチンの過剰分泌による症状が複合的に現れます。
特徴的な症状
- 易疲労感
- 寒がり
- 体重増加
- 便秘
- 皮膚の乾燥
- 脱毛
- 月経異常(女性の場合)
- 筋力低下
- 記憶力や集中力の低下
高プロラクチン血症の原因
高プロラクチン血症には、下垂体腫瘍、薬剤の影響、内分泌系の異常、ストレスなどが関与しています。
下垂体腫瘍(プロラクチノーマ)
高プロラクチン血症の最も一般的な原因の一つが下垂体腫瘍、特にプロラクチノーマです。
プロラクチノーマは下垂体前葉に発生する良性腫瘍で、過剰なプロラクチンを分泌します。
薬剤性要因
多くの薬剤が高プロラクチン血症を引き起こす可能性があり、ドーパミンの作用を阻害したりセロトニンの活性を高めたりすることで、プロラクチンの分泌を促進します。
代表的な薬剤
- 抗精神病薬(リスペリドン、ハロペリドールなど)
- 抗うつ薬(三環系抗うつ薬、SSRIsなど)
- 制吐剤(メトクロプラミド、ドンペリドンなど)
- 降圧薬(メチルドパ、ベラパミルなど)
内分泌系の異常
甲状腺機能低下症や副腎不全などの内分泌系の異常も、高プロラクチン血症の原因です。
甲状腺機能低下症では甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)の分泌が増加し、これがプロラクチンの分泌も促進します。
内分泌異常 | プロラクチンへの影響 |
甲状腺機能低下症 | TRH増加によるプロラクチン分泌促進 |
副腎不全 | コルチゾール低下によるプロラクチン代謝低下 |
副腎不全の場合コルチゾールの低下がプロラクチンの代謝を遅らせ、結果として血中濃度が上昇することがあります。
視床下部-下垂体系の異常
視床下部や下垂体茎の損傷、腫瘍、炎症などの病変も高プロラクチン血症の原因となる可能性があります。
視床下部は、プロラクチン分泌を抑制するドーパミンを産生する重要な部位です。
この部位に異常が生じるとドーパミンの産生や分泌が低下し、プロラクチンの過剰分泌につながります。
視床下部-下垂体系の異常 | 影響 |
視床下部の損傷 | ドーパミン産生低下 |
下垂体茎の断裂 | ドーパミン輸送障害 |
また、下垂体茎の断裂などにより視床下部から下垂体へのドーパミンの輸送が阻害されても、同様の結果になります。
診察(検査)と診断
高プロラクチン血症の診断は詳細な問診から始まり、血液検査や画像診断などの複数の検査を組み合わせて行われます。
問診と身体診察
高プロラクチン血症の問診では患者さんの症状、既往歴、家族歴、服薬歴などを聞き取ります。
問診で注目する点
- 月経不順や無月経の有無(女性の場合)
- 不妊の有無
- 乳汁分泌の有無
- 視覚異常の有無
- 頭痛の有無と特徴
- 服用中の薬剤
身体診察では乳房の触診や視野検査などが行われることがあります。
血液検査
高プロラクチン血症の診断では血液検査が重要です。
検査項目 | 目的 |
プロラクチン値 | 血中プロラクチン濃度の測定 |
甲状腺機能検査 | 甲状腺機能低下症の有無の確認 |
肝機能検査 | 肝疾患による高プロラクチン血症の除外 |
腎機能検査 | 腎疾患による高プロラクチン血症の除外 |
画像診断
高プロラクチン血症の原因として下垂体腫瘍が疑われる際には、画像診断が行われます。
MRIは軟部組織の描出に優れ、小さな腫瘍も検出可能です。
内分泌負荷試験
一部の症例では内分泌負荷試験が行われることがあります。これは特定のホルモンや薬剤を投与し、プロラクチンの分泌反応を観察する検査です。
代表的な内分泌負荷試験
- TRH負荷試験
- メトクロプラミド負荷試験
- L-DOPA抑制試験
確定診断
一般的に血中プロラクチン値が基準値の2倍以上に上昇している場合、高プロラクチン血症と診断されます。
プロラクチン値 | 診断 |
正常範囲内 | 高プロラクチン血症の可能性は低い |
基準値の1-2倍 | 境界域、再検査が必要 |
基準値の2倍以上 | 高プロラクチン血症の可能性が高い |
基準値の10倍以上 | 下垂体腫瘍の可能性が高い |
高プロラクチン血症の治療法と処方薬、治療期間
高プロラクチン血症の治療は薬物療法では主にドーパミン作動薬が使用され、手術療法は特定のケースで考慮されます。
薬物療法
高プロラクチン血症の主な治療法は薬物療法です。
最も一般的に使用される薬剤はドーパミン作動薬で、プロラクチンの分泌を抑制する効果があります。
代表的な薬剤
薬剤名 | 一般名 | 特徴 |
パーロデル | ブロモクリプチン | 古くから使用されている |
カバサール | カベルゴリン | 週2回の服用で済む |
テルロン | テルグリド | 副作用が比較的少ない |
手術療法
薬物療法が効果を示さなかったり大きな下垂体腫瘍がある場合に検討されるのが、鼻から内視鏡を挿入して腫瘍を摘出する経蝶形骨洞手術です。
手術の利点と注意点
- 即時的な効果が期待できる
- 腫瘍による圧迫症状を軽減できる
- 専門的な技術を要する
- 合併症のリスクがある
経過観察
軽度の高プロラクチン血症や妊娠を希望しない患者さんの場合、経過観察のみで対応する場合もあります。
検査項目 | 頻度 | 目的 |
血中プロラクチン値 | 3-6ヶ月ごと | 病態の進行を確認 |
MRI検査 | 1年ごと | 腫瘍サイズの変化を確認 |
治療期間
薬物療法の場合通常は最低2年間の継続が推奨されますが、患者さんの状態によってはさらにに長期にわたる治療が必要です。
治療経過中の注意点
- 定期的な血中プロラクチン値の測定
- 薬剤の副作用モニタリング
- 症状の改善度合いの評価
- 画像検査による腫瘍サイズの確認
治療段階 | 期間 | 目標 |
初期治療 | 2-3ヶ月 | プロラクチン値の正常化 |
維持療法 | 1-2年以上 | 症状改善の維持 |
減量期 | 6ヶ月-1年 | 副作用軽減と再発予防 |
予後と再発可能性および予防
高プロラクチン血症の予後は一般的に良好で多くの患者さんで症状の改善が見込めますが、再発のリスクもあるので長期的な経過観察が必要です。
予後の一般的な傾向
高プロラクチン血症は多くの場合で良好な結果が得られ、医学的介入により症状の改善や生活の質の向上が期待できます。
原因別の一般的な予後傾向
原因 | 予後傾向 |
下垂体微小腺腫 | 薬物療法で良好な経過が期待できる |
薬剤性 | 原因薬剤の中止や変更で改善が見込める |
特発性 | 薬物療法で症状コントロールが可能なことが多い |
下垂体大腺腫 | 手術や放射線療法が必要な場合があるが、適切な治療で改善が期待できる |
再発のリスクとモニタリング
高プロラクチン血症は一度改善しても再発するリスクがあり、長期的な経過観察が必要です。
再発リスクを最小限に抑えるためのモニタリング
- 定期的な血中プロラクチン値の測定
- 症状の変化の観察
- 必要に応じた画像検査の実施
- ホルモンバランスの総合的な評価
予防策と自己管理
高プロラクチン血症の完全な予防は難しい面もありますが、リスクを軽減し再発を防ぐための自己管理は大切です。
予防と自己管理のためのポイント
- ストレス管理の実践
- 規則正しい生活リズムの維持
- バランスの取れた食事と適度な運動
- 定期的な健康診断の受診
- 薬剤の自己中断を避け、医師の指示に従う
高プロラクチン血症の治療における副作用やリスク
高プロラクチン血症の薬物療法では消化器症状や頭痛などの一般的な副作用から、まれに心臓弁膜症など、手術療法では感染症や内分泌機能の低下などのリスクがあります。
ドーパミン作動薬の一般的な副作用
高プロラクチン血症の治療で最も一般的に使用されるドーパミン作動薬には、いくつかの副作用が報告されています。
主な副作用
- 吐き気・嘔吐
- めまい
- 頭痛
- 便秘または下痢
- 鼻づまり
- 疲労感
副作用 | 発現頻度 | 対処法 |
吐き気 | 高頻度 | 少量から開始し、徐々に増量 |
めまい | 中程度 | 起床時はゆっくり立ち上がる |
頭痛 | 中程度 | 必要に応じて鎮痛剤を使用 |
ドーパミン作動薬の重大な副作用
ドーパミン作動薬の使用に伴い重大な副作用が発生する可能性があります。
代表的な重大副作用
副作用 | 特徴 | 注意点 |
心臓弁膜症 | 心臓の弁に異常をきたす | 定期的な心エコー検査が推奨 |
肺線維症 | 肺に線維化が起こる | 呼吸困難感に注意 |
精神症状 | 幻覚や妄想が現れる | 特に高齢者で注意が必要 |
手術療法に伴うリスク
高プロラクチン血症の治療として手術療法を選択する場合、手術に伴う一般的なリスクに加え特有のリスクもあります。
- 感染症
- 出血
- 髄液漏
- 内分泌機能の低下
- 視力障害(まれ)
リスク | 発生頻度 | 対策 |
感染症 | 低頻度 | 術後の抗生剤投与 |
髄液漏 | 中程度 | 術中の慎重な操作と術後管理 |
内分泌機能低下 | 中程度 | ホルモン補充療法 |
薬物療法中の妊娠に関するリスク
高プロラクチン血症の治療中に妊娠を希望するまたは妊娠した場合の対応は、慎重に検討する必要があります。
薬剤名 | 妊娠への影響 | 授乳への影響 |
ブロモクリプチン | 比較的安全とされる | 授乳抑制作用あり |
カベルゴリン | データ不十分 | 授乳中は避けるべき |
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
診断に関する費用
高プロラクチン血症の診断には血液検査や画像検査が必要です。
検査項目 | 費用(円) |
血中プロラクチン測定 | 1,080 |
頭部MRI検査 | 12,000~20,000 |
下垂体ホルモン負荷試験 | 15,000~30,000 |
検査費用は保険適用となるため、患者さんの自己負担は3割程度です。
薬物療法の費用
高プロラクチン血症の治療には主にドパミン作動薬が使用されます。
- カベルゴリン(商品名:カバサール)1mg:約200円/錠
- ブロモクリプチン(商品名:パーロデル)2.5mg:約20円/錠
- テルグリド(商品名:テルロン)0.5mg:約100円/錠
手術療法の費用
腫瘍が大きい場合などでは手術が必要となることがあります。
手術名 | 費用(円) |
経蝶形骨洞手術 | 500,000~1,000,000 |
開頭下垂体腫瘍摘出術 | 800,000~1,500,000 |
以上
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