乳腺症(mastopathy)とは、乳房内に発生する良性の変化や症状のことです。
この病態は体内のホルモン変動が大きく関与していて、症状は乳房の疼痛や腫脹、結節が見られます。
多くのケースでこうした症状は一過性で悪性疾患ではありませんが、定期的な自己診察や医療機関での検診を心がけてください。
乳腺症の種類(病型)
乳腺症の病型は、乳管過形成、腺症、小葉過形成、異形乳管過形成、異形小葉過形成です。
乳管過形成と腺症
乳管過形成は、乳管を形成する細胞が増える状態ですが、悪性化のリスクは低いです。
腺症は乳腺組織全体に変化が生じ、乳腺小葉の数が増加し同時に結合組織の線維化が進行します。
病型 | 特徴 | 悪性化リスク |
乳管過形成 | 乳管細胞の増殖 | 比較的低い |
腺症 | 乳腺小葉の増加と線維化 | 低い |
小葉過形成
小葉過形成は乳腺小葉を構成する細胞が増える状態で、正常な細胞が増加するため良性の変化です。
異形成
異形乳管過形成と異形小葉過形成は、それぞれ乳管と小葉の細胞に異常が認められる状態です。
細胞の形や配列に変化が生じ、悪性化する可能性があります。
乳腺症の主な症状
乳腺症の症状は乳房の疼痛、腫瘤、分泌物の異常です。
乳房の疼痛と腫瘤形成
乳腺症において最も見られる症状として、乳房の疼痛と腫瘤形成が挙げられます。
乳房の疼痛は月経周期と連動し月経前期に強く、腫瘤は触診により発見されることが少なくありません。
乳頭分泌物の異常
乳頭からの分泌物の変化も見過ごせない症状で、分泌物の色調、量、性状に変化が生じ、透明、黄色、緑色、血性があります。
乳管内の細胞増殖や炎症性と関連していることが多いです。
乳房形態の変化
乳腺症の進行に伴い、乳房の形態に変化が生じます。
変化の種類 | 特徴的な所見 |
腫脹 | 局所的または全体的な膨隆 |
陥凹 | 皮膚表面のくぼみや引きつれ |
非対称性 | 左右乳房の容積や形状の不均衡 |
皮膚症状
乳腺症に伴い、皮膚症状が観察されます。
- 紅斑
- 掻痒感
- 乳頭および乳輪の色素沈着
- 皮膚の収縮
皮膚症状は、乳腺組織の病態が表皮に及ぶことが原因です。
症状の個体差と変動性
乳腺症の臨床像
症状の特性 | 様相 |
持続期間 | 一過性から慢性まで幅広い |
重症度 | 軽微なものから重篤なものまで多岐にわたる |
発現パターン | 周期性または不規則性を呈する |
また、同一患者さんでも時期により症状の変動が認められます。
症状カテゴリー | 例 |
視覚的変化 | 乳房の腫脹、皮膚の変色 |
触覚的変化 | しこり、硬結の形成 |
感覚的症状 | 疼痛、違和感、掻痒感 |
分泌物の異常 | 乳頭からの分泌増加、色調変化 |
乳腺症の原因
乳腺症の発症メカニズムには、女性ホルモンのバランス異常を中心に、遺伝的背景、環境要因、日常の生活習慣などが相互に作用し合っています。
ホルモンバランスの影響と生理的変化
エストロゲンとプロゲステロンの比率が乱れることで、乳腺組織に変化が生じる可能性が高まります。
月経周期、妊娠期、閉経期の移行に伴い、ホルモンバランスが大きく変動し、乳腺組織の状態に影響を及ぼすのです。
ライフステージ | ホルモンバランスの変化 | 乳腺組織への影響度 |
月経周期 | 周期的変動 | 中程度 |
妊娠期 | 急激な上昇 | 高度 |
閉経期 | 全体的な低下 | 中~高度 |
遺伝的素因と家族歴
家族内に乳腺症や乳がんの罹患歴がある方は、乳腺症を発症するリスクが高いです。
遺伝子変異が乳腺組織のホルモン感受性を高め、乳腺症の発症につながります。
環境因子
内分泌攪乱物質の化学物質へ長期にさらされることや、医療目的以外の放射線被曝が乳腺組織に悪影響を及ぼします。
ただし、環境要因と乳腺症の発症との間の直接的な因果関係を立証するには、さらなる追跡調査が必要です。
環境要因 | 影響の可能性 | 研究の進捗状況 |
化学物質曝露 | 中程度 | 継続的研究中 |
放射線被曝 | 低~中程度 | 長期的影響を調査中 |
大気汚染 | 調査中 | 初期段階の研究 |
複合的要因
ホルモンバランスの乱れ、遺伝的素因、環境要因、生活習慣など、複数の要素が相互に影響し合うことで乳腺組織の状態が決定されていきます。
例えば、慢性的なストレスによるホルモンバランスの崩れと遺伝的背景が重なることで、乳腺症のリスクが相乗的に高まります。
要因の組み合わせ | リスク増加の程度 | 介入の難易度 |
ホルモン+遺伝 | 高度 | 中~高 |
環境+生活習慣 | 中程度 | 中 |
遺伝+環境 | 中~高度 | 高 |
診察(検査)と診断
乳腺症の診断は、視診、触診、画像診断、そして病理検査を複合的に活用して進めます。
初診時における問診と視触診
乳腺症の診察では患者さんの年齢、月経歴、妊娠・出産歴、家族歴を聞き取ります。
続いて行われる視診では、乳房の形状や大きさの左右差、皮膚の変化、乳頭の状態を観察します。
画像診断
画像診断は乳腺症の評価において重要な手段です。
検査方法 | 特徴と利点 |
マンモグラフィ | 乳房全体の構造を俯瞰的に評価し、微細な石灰化も検出可能 |
超音波検査 | しこりの性状を詳細に観察でき、若年者にも安全に実施可能 |
MRI | 高精度で病変を描出し、乳管内の異常も鮮明に可視化 |
トモシンセシス | 乳房の断層画像を得られ、重なりによる見落としを防止 |
組織検査
画像検査で異常所見が疑われるときは、組織検査を実施します。
- 細胞診:細い針を用いて組織の一部を採取し、細胞レベルでの異常を確認
- 針生検:比較的太い針を使用して組織片を採取し、組織学的な評価を行う
- 吸引式組織生検:より大きな組織片を採取でき、病変の性質をより詳細に分析
- 切開生検:局所麻酔下で小切開を加え、直視下で病変部位を採取
臨床診断から確定診断
臨床診断は、問診、視触診、各種画像検査の結果を総合的に評価することが大切です。
診断ステップ | 内容 |
臨床所見の評価 | 患者さんの訴える症状や触診で得られた結果を分析 |
画像所見の解釈 | マンモグラフィや超音波検査の結果を評価 |
病理結果の精査 | 組織検査から得られた標本を検討 |
乳腺症の治療法と処方薬、治療期間
乳腺症の治療は薬物療法を中心としつつ、日常生活の改善や定期的な経過観察を組み合わせます。
薬物療法のオプション
乳腺症に対する薬物療法には、以下のようなアプローチがあります。
- ホルモン調整薬(低用量経口避妊薬、黄体ホルモン製剤など)
- 抗炎症薬物
- 東洋医学的アプローチ(漢方製剤)
ホルモン調整療法
ホルモン調整療法では低用量経口避妊薬や黄体ホルモン製剤を用いて、体内のホルモンバランスを調整することが目的です。
薬剤を用いることで乳腺組織に対する過剰な刺激を抑え、症状を減らせます。
薬剤分類 | 作用機序 | 副作用 | 使用上の注意点 |
低用量経口避妊薬 | エストロゲン・プロゲステロンの補充による調整 | 悪心、頭痛、体重変動 | 血栓リスクの評価が必要 |
黄体ホルモン製剤 | プロゲステロンの補充による調整 | 体重増加、浮腫、気分変動 | 長期使用時の骨密度低下に注意 |
抗炎症薬と漢方製剤
抗炎症薬は、乳腺の腫脹や疼痛などの急性症状を緩和する目的で使用します。
短期的な症状コントロールに高い効果を示すのが、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)です。
漢方製剤は体質改善や慢性的な症状の緩和に使います。
治療アプローチ | 期待される効果 | 使用期間 | 長期使用時の留意点 |
NSAIDs | 急性症状の迅速な緩和 | 短期(数日~数週間程度) | 胃腸障害や腎機能への影響に注意 |
漢方製剤 | 体質改善、慢性症状の漸進的緩和 | 長期(数ヶ月以上) | 個々の体質に合わせた処方調整が必要 |
治療期間
乳腺症は3~6ヶ月程度の治療介入で、症状改善が認められることが多いです。
治療期間 | 症例 | フォローアップの頻度 |
短期(3ヶ月未満) | 軽度~中等度の急性症状 | 2~4週間ごと |
中期(3~6ヶ月) | 中等度の慢性症状 | 1~2ヶ月ごと |
長期(6ヶ月以上) | 重度または難治性の症状 | 2~3ヶ月ごと |
乳腺症の治療における副作用やリスク
乳腺症に対する治療に用いられるいずれの方法にも、副作用やリスクがあります。
薬物療法に伴う副作用
乳腺症の薬物療法ではホルモンバランスを調整する薬剤を使用しますが、身体にさまざまな副作用をもたらします。
薬剤の種類 | 副作用 | 副作用の特徴 |
経口避妊薬 | 悪心、頭痛、体重増加 | ホルモンバランスの変化に起因 |
ダナゾール | 男性化症状、肝機能障害 | アンドロゲン作用による影響 |
タモキシフェン | ほてり、不正出血、血栓症 | 抗エストロゲン作用に関連 |
ゴナドトロピン放出ホルモン作動薬 | 更年期様症状、骨密度低下 | エストロゲン低下に伴う症状 |
外科的治療に付随するリスク
重症例や薬物療法が効かないときには、外科的治療を検討します。
手術に伴うリスク
- 術中・術後の出血:乳房は血流が豊富なため、注意が必要
- 創部感染:術後管理が重要
- 麻酔関連の合併症:全身麻酔を要する場合に留意
- 乳房の形状変化:審美的な問題につながる可能性
- 傷跡の形成:ケロイド体質の患者さんでは特に注意
- 乳頭・乳輪の感覚異常:神経損傷による長期的な影響
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
診断のための検査費用
乳腺症の診断には、マンモグラフィや超音波検査が行われます。
検査名 | 概算費用(3割負担の場合) |
マンモグラフィ | 1,500円~3,000円 |
乳房超音波検査 | 1,000円~2,500円 |
より詳細な検査が必要な際は、MRIやCTを選択します。
薬物療法の費用
乳腺症の治療では、ホルモン療法や漢方薬が用いられます。
- 低用量ピル 1ヶ月分:2,000円~5,000円
- 漢方薬 1ヶ月分:3,000円~8,000円
- 鎮痛剤(NSAIDs):500円~2,000円
定期的な経過観察の費用
乳腺症の管理には、定期的な経過観察が欠かせません。
項目 | 頻度 | 概算費用(3割負担の場合) |
外来診察 | 1~3ヶ月ごと | 1,000円~2,000円 |
フォローアップ超音波検査 | 3~6ヶ月ごと | 1,000円~2,500円 |
以上
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