ロキタンスキー症候群(MRKH症候群) – 婦人科

ロキタンスキー症候群(MRKH症候群)(Mayer-Rokitansky-Küster-Hauser syndrome)とは、女性の生殖器系に先天異常があるまれな疾患で、子宮や腟の一部または全部が生まれつき欠損しています。

外見上は通常の女性と変わりませんが、月経が始まらないことが主な症状で、思春期に発見されることが多いです。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

ロキタンスキー症候群(MRKH症候群)の主な症状

ロキタンスキー症候群(MRKH症候群)の主な症状は、原発性無月経と腟の欠損または短小です。

原発性無月経

原発性無月経は、ロキタンスキー症候群の最も顕著な症状です。

二次性徴の他の特徴は通常通り発達するものの、子宮の欠損または未発達が原因で初経を迎えることがありません。

腟の異常

腟の欠損または短小も、この症候群の重要な特徴です。

腟の長さや深さは患者さんによって異なりますが、多くの場合、通常より短いか完全に欠損しており、性交渉や妊娠に影響を与えます。

症状特徴影響
原発性無月経初経が来ない自己認識の変化
腟の異常欠損または短小性生活への影響

外性器と二次性徴

ロキタンスキー症候群の患者さんの外性器は、通常、正常に発達しています。

また、乳房の発育やむだ毛の発生など、他の二次性徴も問題なく進行するため、外見からこの症候群を判断することは困難です。

その他の身体的特徴

ロキタンスキー症候群では、生殖器系以外の身体的特徴も見られることがあります。

  • 腎臓の異常(片側腎臓の欠損や馬蹄腎など)
  • 骨格系の異常(脊椎の異常や指の奇形など)
  • 聴覚障害

症状は患者さんによって異なり、必ずしも全ての方に現れるわけではありませんが、総合的な健康管理の観点から注意が必要です。

器官系潜在的な異常考えられる影響
腎臓片側腎臓欠損、馬蹄腎腎機能への影響
骨格脊椎異常、指の奇形運動機能への影響
聴覚聴力低下コミュニケーションへの影響

ロキタンスキー症候群(MRKH症候群)の原因

ロキタンスキー症候群(MRKH症候群)の主な原因は胎児期における中腎管(ミュラー管)の発達障害にあり、中腎管の正常な発達が阻害されることで、子宮や腟上部の形成不全が生じます。

遺伝的要因

ロキタンスキー症候群の発症には遺伝的要因が深く関わっていて、特定の遺伝子変異が中腎管の発達に影響を与えることが明らかになっています。

遺伝子関連する機能
WNT4生殖器官の発達
HOXA体の構造形成

遺伝子に変異が生じて中腎管の正常な発達が妨げられることが、ロキタンスキー症候群を引き起こす一因です。

単一の遺伝子変異だけでなく、複数の遺伝子が相互に作用することで発症するケースもあります。

診断の難しさと原因解明の重要性

ロキタンスキー症候群の原因が複雑であるため、早期診断が難しい場合があります。

多くの患者さんは初経が見られないことをきっかけに診断されますが、それまでは無症状です。

診断の手がかり特徴
初経の欠如思春期に見られる主な症状
解剖学的検査子宮や腟上部の欠損を確認

診察(検査)と診断

ロキタンスキー症候群(MRKH症候群)の診断は、詳細な問診、身体診察、画像検査などの複数のステップを経て行われます。

初期の臨床診断

ロキタンスキー症候群の診断は通常、患者さんが原発性無月経を主訴に受診したときに始まり、詳細な問診を行い、家族歴や既往歴、二次性徴の発現状況などを確認します。

身体診察では外性器の発達状態や二次性徴の進行度を評価し、他の無月経の原因を除外しながら、ロキタンスキー症候群の可能性を検討することに。

画像診断

画像検査は、内部生殖器の状態を評価するうえで不可欠です。

主な検査

  • 経腹超音波検査
  • 骨盤MRI検査
  • 腹部CT検査

これらの検査により子宮や腟の欠損または未発達の状態を確認し、同時に腎臓や骨格系の異常の有無も評価します。

検査方法主な目的特徴
経腹超音波検査子宮・卵巣の評価非侵襲的で繰り返し実施可能
骨盤MRI検査内部生殖器の詳細評価軟部組織の描出に優れる
腹部CT検査腎臓や骨格系の異常確認全身の評価が可能

内分泌学的検査

卵巣機能や他の内分泌異常の有無の確認のため、血中のFSH、LH、エストラジオールなどのホルモンレベルを測定します。

ロキタンスキー症候群の患者さんではホルモンレベルは正常範囲内にあり、この結果は他の内分泌疾患との鑑別に必要です。

ホルモン正常値臨床的意義
FSH3.5-12.5 mIU/mL卵巣機能の評価
LH2.4-12.6 mIU/mL排卵機能の評価
エストラジオール30-400 pg/mL卵巣からのエストロゲン分泌の評価

遺伝子検査

遺伝子検査も診断の助けとなり、ロキタンスキー症候群に関連する遺伝子変異の検査を行うことで、診断の確実性を高められます。

ただし、現時点では全ての症例で遺伝子変異が同定されるわけではなく、遺伝子検査の結果解釈には専門的な知識が必要です。

確定診断

ロキタンスキー症候群の確定診断は、検査結果を総合的に評価して行われます。

主な診断基準

  1. 原発性無月経の存在
  2. 正常な女性型外性器
  3. 正常な二次性徴の発現
  4. 子宮の欠損または痕跡的存在
  5. 正常な卵巣機能

条件を満たし他の無月経の原因が除外されれば、ロキタンスキー症候群と診断されます。

ロキタンスキー症候群(MRKH症候群)の治療法と処方薬、治療期間

ロキタンスキー症候群(MRKH症候群)の治療は個々の患者さんの状態や希望に応じて、非外科的治療と外科的治療の二つのアプローチがあります。

非外科的治療法

非外科的治療法は主に腟の拡張を目的としており、侵襲性が低く、患者さん自身で行えるという利点があります。

非外科的治療の代表的な方法は、フランク法やインガム法です。

治療法特徴
フランク法ダイレーターを用いた腟拡張
インガム法自己指圧による腟拡張

治療期間は通常6ヶ月から1年程度です。

外科的治療法

外科的治療法はマッキンドー法やダビドフ法などの腟形成術が主な選択肢で、非外科的治療が効果を示さない場合や、患者さんが希望する際に検討されます。

術式特徴
マッキンドー法皮膚移植を用いた腟形成
ダビドフ法腹膜を用いた腟形成

手術後の回復期間は通常2〜4週間程度ですが、完全な回復には数ヶ月を要することもあります。

術後は定期的な経過観察と、必要に応じてダイレーターを用いた腟拡張の継続が必要です。

ホルモン療法

ホルモン療法はMRKH症候群の直接的な治療ではありませんが、二次性徴の発達を促進するために用いられることがあります。

主に使用されるホルモン剤は、エストロゲン、プロゲステロン、複合ホルモン剤などです。

ホルモン剤主な効果
エストロゲン女性化、骨密度維持
プロゲステロン子宮内膜保護

ホルモン療法は長期的に継続されることが多く、定期的な医師の診察と調整が欠かせません。

予後と再発可能性

ロキタンスキー症候群(MRKH症候群)の予後は一般的に良好ですが、個々の患者さんの状況によって異なり、再発の可能性は低いものの、長期的なフォローアップが必要です。

予後の全体像

MRKH症候群の予後は良好ですが、治療方法によっても違ってきます。

予後に影響する要因影響の内容
診断時期早期診断ほど良好
介入の種類外科的/非外科的選択

再発可能性の評価

MRKH症候群自体は先天性の状態であるため、再発」という概念はあてはまりません。

ただし、外科的介入後の合併症や機能的問題が生じる可能性は考慮する必要があります。

術後合併症発生頻度
腟狭窄5-10%
瘢痕形成3-7%

ロキタンスキー症候群(MRKH症候群)の治療における副作用やリスク

ロキタンスキー症候群(MRKH症候群)の治療には、非外科的アプローチと外科的アプローチがあり、それぞれに特有の副作用やリスクがあります。

非外科的アプローチの副作用とリスク

非外科的アプローチでは主にダイレーターを用いた腟拡張法が行われますが、こ侵襲性が低いものの、次のような副作用やリスクがあります。

  • 不快感や痛み
  • 出血
  • 感染症
  • 心理的ストレス

長期的には定期的なダイレーターの使用が必要となり、患者さんの日常生活や心理面に影響を与えることもあります。

副作用・リスク頻度対処法
不快感・痛み高い鎮痛剤の使用、技術の改善
出血中程度圧迫止血、処置の一時中断
感染症低い清潔操作の徹底、抗生剤投与
心理的ストレス個人差あり心理カウンセリング、サポートグループ

外科的アプローチの副作用とリスク

外科的アプローチには一般的に以下のようなリスクが伴います。

  1. 麻酔に関連するリスク
  2. 出血
  3. 感染
  4. 術後の痛み
  5. 瘢痕形成
  6. 臓器損傷

特に腸管を用いた腟形成術では、腸管に関連する合併症のリスクも考慮する必要があります。

手術法主なリスク発生頻度
McIndoe法皮弁壊死、狭窄5-10%
Vecchietti法膀胱・直腸損傷1-3%
腸管利用法腸閉塞、分泌物過多3-7%

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

非外科的治療の費用

非外科的治療の主な選択肢であるダイレーター法の費用は比較的低額です。ダイレーターのセットは約5,000円から15,000円程度で購入できます。

治療法費用
ダイレーター法5,000円〜15,000円
心理カウンセリング1回5,000円〜10,000円

外科的治療の費用

腟形成術などの外科的治療は、高額な費用が必要です。

手術の種類概算費用
腹腔鏡下腟形成術80万円〜120万円
開腹腟形成術100万円〜150万円
腸管利用腟形成術120万円〜180万円
マッキンドー法70万円〜100万円

手術後の入院費は1日あたり約1万円から3万円程度で、通常5日から7日の入院が必要です。

保険適用について

MRKH症候群の治療は多くの場合保険適用ですが、一部の治療や検査は自己負担になります。

保険適用される主な項目

  • 診断のための画像検査(MRI、超音波検査)
  • 腟形成術
  • 術後のフォローアップ

自己負担となることが多い項目として、ダイレーターの購入費や一部の心理カウンセリングがあります。

長期的な費用

MRKH症候群の治療は長期にわたり、定期検診やホルモン補充療法などの費用があります。ホルモン補充療法の薬剤費は月額5,000円から10,000円程度です。

以上

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