ミュラー管奇形 – 婦人科

ミュラー管奇形(Müllerian duct anomalies)とは、女性の生殖器系の発達に関わる先天性の異常のことです。

胎児期における子宮や卵管の形成過程で起こる変異によって起こり、ミュラー管と呼ばれる構造の発達が正常に進まないことで、子宮や卵管の形や構造にさまざまな違いが生じます。

ミュラー管奇形は女性の生殖機能に影響を与え、不妊や流産のリスクを高めます。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

ミュラー管奇形の種類(病型)

ミュラー管奇形は女性の生殖器系の発達に影響を与える先天性異常で、7つの主要な病型があります。

病型I~III 低形成/欠損、単角子宮、重複子宮

病型Iは低形成または欠損と呼ばれ、ミュラー管の発達が不完全または完全に欠如している状態で、子宮や腟の一部または全体が欠如しています。

病型IIは単角子宮と呼ばれ、一方のミュラー管のみが正常に発達した状態です。この場合子宮は通常より小さく、片側のみが発達しています。

病型IIIは重複子宮として知られ、両側のミュラー管が完全に分離したまま発達した状態です。この病型では、二つの子宮腔と二つの子宮頸部が存在することがあります。

病型特徴
I低形成/欠損
II単角子宮
III重複子宮

病型IV~VI 双角子宮、中隔子宮、弓状子宮

病型IVは双角子宮と呼ばれ、二つのミュラー管が部分的に融合した状態で、子宮底部に深い切れ込みがあり、二つの子宮腔が形成されています。

病型Vは中隔子宮として知られ、二つのミュラー管が外側では融合しているものの、内側の中隔が残存している状態です。この場合、子宮腔が中隔によって二分されています。

病型VIは弓状子宮と呼ばれ子宮底部に軽度の陥凹がある状態で、他の病型と比較して比較的軽度な異常です。

病型特徴
IV双角子宮
V中隔子宮
VI弓状子宮

病型VII DES薬剤関連異常

病型VIIは、DES(ジエチルスチルベストロール)薬剤関連異常として分類されます。

これは、妊娠中にDESを服用した母親から生まれた女性に見られる特殊な形態異常です。

ミュラー管奇形の主な症状

ミュラー管奇形の主な症状には月経異常、不妊、妊娠合併症などがあり、病型によって症状の程度や種類が変わります。

病型別の主な症状

I型(低形成/欠損)

子宮や腟の一部または全体が欠損しているため、月経がないまたは非常に少量であることが多く、性交渉が困難な場合も。

II型(単角子宮)

子宮が片側のみ発達した状態で、月経痛が強く、不妊や流産のリスクが高まる。

III型(重複子宮)

二つの子宮と二つの腟が存在し、月経困難症や不規則な出血が生じやすい。

IV型(双角子宮)

子宮が二つに分かれており、流産や早産のリスクが高くなる。

V型(中隔子宮)

子宮内腔が中隔によって分離されており、反復流産や不妊の原因に。

VI型(弓状子宮)

子宮底部がわずかに凹んだ形状で、他の型に比べて症状は軽度ですが、妊娠中の合併症のリスクが若干高まる。

VII型(DES薬剤関連異常)

妊娠中にジエチルスチルベストロール(DES)という薬剤に曝露されたことによる異常で、子宮頸部や腟の異常、不妊などの症状が現れる。

共通する主な症状

病型によって症状の現れ方は異なりますが、ミュラー管奇形全般に共通する主な症状がいくつかあります。

症状詳細
月経異常無月経、過少月経、月経困難症など
不妊妊娠しにくい、または妊娠が成立しない
妊娠合併症流産、早産、胎位異常のリスク増加
性交痛性交時の痛みや不快感

ミュラー管奇形の原因

ミュラー管奇形の原因は複雑で多岐にわたりますが、主に遺伝的要因と環境要因が関与しています。

ミュラー管の発生と発達

ミュラー管は女性の生殖器系の基盤となる重要な胚構造です。

胎児期の約6週目に形成が始まり、その後の発達過程で子宮、卵管、腟上部を形成し、発達過程はさまざまな要因によって影響を受けます。

遺伝的要因

ミュラー管の形成と分化に関与している特定の遺伝子の変異や染色体異常が、ミュラー管の正常な発達を妨げます。

遺伝子関連する奇形
HOXA10子宮奇形
HOXA11子宮奇形
WNT4ミュラー管欠損

遺伝的要因は家族性ミュラー管奇形の説明にもなり、一部の家系では、複数の世代にわたってミュラー管奇形が見られます。

環境要因

環境要因もミュラー管奇形の発生に関与し、胎児期の母体環境や外部からの刺激がミュラー管の発達に影響を与えることがあります。

代表的な環境要因

  • 母体の薬物摂取(特にDES)
  • 母体の栄養状態
  • 母体のホルモンバランスの乱れ
  • 胎児期の感染症
環境要因影響
DES摂取T字型子宮
栄養不足発育不全

ジエチルスチルベストロール(DES)はミュラー管奇形の原因の一つで、過去にDESを妊娠中に服用した母親から生まれた女性には、特徴的なT字型子宮が見られます。

複合的要因

多くの場合ミュラー管奇形は複数の要因が組み合わさっており、遺伝的素因を持つ個体が特定の環境要因に曝露されることで、奇形が現れます。

要因の組み合わせ結果
遺伝的素因 + 環境要因奇形の顕在化
複数の遺伝子変異重度の奇形

診察(検査)と診断

ミュラー管奇形の診断は詳細な問診と身体診察から始まり、画像検査を経て確定診断に至ります。

問診と身体診察

ミュラー管奇形の診断は、まず詳細な問診から始まります。

問診では月経の状況、妊娠歴、性交時の痛みの有無などについて丁寧に聞き取りを行い、初経の遅れや無月経、月経痛の程度、不妊や流産の既往歴などは、診断の手がかりとなる重要な情報です。

身体診察では外陰部の観察や内診を行い、腟や子宮の形態異常の有無を確認しますが、身体診察だけでは詳細な形態異常を把握することが難しいため、画像検査が必要となります。

画像検査

ミュラー管奇形の診断において、画像検査は非常に重要です。

検査方法特徴
超音波検査非侵襲的で簡便、子宮の外形や内腔の観察が可能
MRI検査高解像度で詳細な画像が得られ、軟部組織の観察に優れる
子宮卵管造影検査子宮内腔や卵管の形態を評価できる
3D超音波検査子宮の立体的な構造を把握できる
  • 超音波検査 初期スクリーニングとして頻繁に用いられ、子宮の外形や内腔の観察が可能。経腟超音波検査ではより詳細な観察ができる。
  • MRI検査 高解像度で詳細な画像が得られ、軟部組織の観察に優れているため、子宮の形態や位置、周囲組織との関係を詳細に評価でき、ミュラー管奇形の診断に非常に有用。
  • 子宮卵管造影検査 造影剤を用いて子宮内腔や卵管の形態を評価する検査方法で、子宮の内腔形態や卵管の開通性を確認できるため、不妊症の評価にも役立つ。
  • 3D超音波検査 子宮の立体的な構造を把握でき、特に子宮内腔の形態異常を評価する際に有用。

臨床診断と分類

画像検査の結果をもとに臨床診断を行います。

ミュラー管奇形の分類用いられるのは、米国生殖医学会(ASRM)の分類システムです。

分類特徴
I型低形成/欠損
II型単角子宮
III型重複子宮
IV型双角子宮
V型中隔子宮
VI型弓状子宮
VII型DES関連異常

ミュラー管奇形の治療法と処方薬、治療期間

ミュラー管奇形の治療法には、手術的アプローチと非手術的アプローチがあります。

非手術的アプローチ

非手術的アプローチは、軽度の奇形や症状が軽微な場合に選択されます。

経過観察や薬物療法が含まれ、定期的な診察と画像検査を通じて奇形の進行や合併症の発生を監視します。

薬物療法は主に症状の緩和と月経周期の調整が目的です。

薬剤主な効果
経口避妊薬月経痛の軽減
鎮痛剤疼痛管理

手術的アプローチ

手術的アプローチは重度の奇形や症状が顕著な場合に検討され、解剖学的異常の修正と症状の改善が目的です。

代表的な手術法

  • 中隔切除術
  • 子宮形成術
  • 腹腔鏡下手術
  • 子宮鏡下手術

手術の選択は奇形の種類や程度、患者さんの年齢や妊娠希望などを考慮して決定されます。

手術法適応
中隔切除術中隔子宮
子宮形成術双角子宮

中隔切除術は中隔子宮の治療に効果的であり、子宮形成術は双角子宮などの複雑な奇形の修正に用いられます。

処方薬と治療期間

ミュラー管奇形の治療に用いられる処方薬は、主に症状管理と術後のフォローアップに使用され、治療期間は個々の患者さんの状態や選択された治療法によって大きく異なります。

非手術的アプローチの場合治療は長期にわたることが多く、症状の変化に応じて調整されます。

手術的アプローチでは、術後の回復期間と長期的なフォローアップが必要です。

治療法一般的な治療期間
非手術的アプローチ数ヶ月~数年
手術的アプローチ術後1~3ヶ月の回復期間

術後は感染予防や疼痛管理のための薬剤が短期的に処方され、長期的にはホルモン療法や避妊薬の使用が検討されます。

妊娠希望がある場合の治療

妊娠を希望する患者さんで手術的介入が必要な場合は、妊娠前に行われることが多く、術後は妊娠までの待機期間が設けられ、通常3~6ヶ月程度です。

治療段階期間
術前評価1~2ヶ月
手術1~3時間
術後回復3~6ヶ月

予後と再発可能性

ミュラー管奇形の予後は多くの場合、管理により良好な結果が得られ再発の可能性は低いものの、一部の合併症には注意が必要です。

予後について

ミュラー管奇形の予後は多くの場合良好な生活の質を維持することが可能で、特に軽度の奇形(弓状子宮など)では、日常生活への影響はほとんどありません。

一方、重度の奇形(子宮欠損など)では、生殖機能に大きな影響を与える場合があります。

奇形の種類予後の傾向
弓状子宮良好、妊娠・出産も可能
中隔子宮手術後は良好な予後
双角子宮妊娠管理が必要だが、出産可能
単角子宮妊娠・出産に注意が必要

再発可能性

ミュラー管奇形自体は先天性の疾患であるため、奇形に関連する合併症は繰り返し発生する可能性があります。

合併症再発の傾向
不妊継続的な問題となる場合あり
流産繰り返すリスクあり
月経痛継続的に発生する可能性あり
子宮内膜症再発のリスクあり

注意が必要なのは不妊や流産の問題で、奇形の種類や重症度によっては繰り返し発生します。

また、月経痛や子宮内膜症などの関連症状も、継続的に管理が必要です。

長期的な管理

ミュラー管奇形と診断された場合長期的な管理が大切で、定期的な経過観察により合併症の早期発見と対応が可能です。

管理項目内容
定期検診年1-2回の婦人科受診
画像検査必要に応じてMRIや超音波検査
妊娠管理妊娠中のハイリスク管理
症状観察月経痛や不正出血の観察

ミュラー管奇形の治療における副作用やリスク

ミュラー管奇形の治療は患者さんの生活の質を向上させる一方で、さまざまな副作用やリスクを伴う場合があります。

非手術的アプローチにおける副作用とリスク

非手術的アプローチでは主に薬物療法が用いられ、いくつかの副作用があります。

経口避妊薬は月経痛の軽減や月経量の調整に効果がある一方で、副作用が報告されています。

  • 悪心・嘔吐
  • 頭痛
  • 体重増加
  • 気分の変動
副作用発生頻度
血栓症まれ
高血圧ややまれ

血栓症は特に喫煙者や35歳以上の女性で発生リスクが高まり、高血圧は定期的な血圧測定によるモニタリングが必要です。

手術的アプローチにおける副作用とリスク

手術的アプローチはより直接的に解剖学的異常を修正できますが、侵襲的な処置であるためリスクも高いです。

手術に関連する主なリスク

  • 出血
  • 感染
  • 麻酔によるトラブル
  • 周辺臓器の損傷
手術法主なリスク
腹腔鏡手術腸管損傷
開腹手術癒着

開腹手術は視野が広く確保できる利点がありますが、術後の癒着リスクが高くなります。

長期的な影響とリスク

ミュラー管奇形の治療後も長期的な影響について考慮し、特に妊娠に関連するリスクは慎重に評価することが必要です。

治療後の妊娠に関連するリスク

  • 流産率の上昇
  • 早産
  • 子宮内胎児発育遅延
  • 異常胎位
奇形の種類妊娠関連リスク
中隔子宮流産率上昇
双角子宮早産リスク上昇

中隔子宮の場合、手術による中隔切除後も流産リスクが完全には消失せず、双角子宮では子宮の容量が通常より小さいため、早産のリスクが高まります。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

診断にかかる費用

ミュラー管奇形の主な検査と費用

検査項目概算費用
超音波検査5,000円〜10,000円
MRI検査20,000円〜50,000円
子宮卵管造影15,000円〜30,000円
子宮鏡検査20,000円〜40,000円

検査費用は健康保険が適用されるため、患者さんの自己負担は3割程度です。

手術費用

手術が必要な場合、費用は手術の種類や入院期間によって変わります。

手術の種類概算費用
子宮鏡下手術300,000円〜500,000円
腹腔鏡下手術400,000円〜800,000円
開腹手術500,000円〜1,000,000円
ロボット支援手術800,000円〜1,500,000円

*入院費や麻酔費も含まれます。

術後のフォローアップ費用

手術後のフォローアップにも費用がかかります。

  • 定期的な外来診察(1回あたり3,000円〜5,000円)
  • 超音波検査(5,000円〜10,000円)
  • 薬剤費(月額5,000円〜10,000円)
  • 術後MRI検査(20,000円〜50,000円)

以上

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