性器マイコプラズマ感染症(Mycoplasma genitalium)とは、性行為によって感染する細菌性の病気で、マイコプラズマ・ジェニタリウムという非常に小さな細菌が原因です。
性器マイコプラズマ感染症は比較的新しく発見されたもので、増加傾向にあり、多くの方は無症状のまま経過し、女性では骨盤内炎症性疾患が起こります。
性器マイコプラズマ感染症の主な症状
性器マイコプラズマ感染症は、無症状のこともあれば深刻な合併症が起こることもあります。
女性の主な症状
性器マイコプラズマ感染症にかかった女性で一番よくみられる症状は、腟からの異常な分泌物の増加です。
分泌物は普通透明または白色で、時に黄色や緑色のこともあります。
また、排尿時の痛みや頻尿といった尿路症状も見られ、下腹部の痛みや不快感、性交時の痛み(性交痛)といった症状も見られます。
症状 | 特徴 |
腟分泌物 | 量の増加、色の変化 |
尿路症状 | 排尿痛、頻尿 |
腹部症状 | 下腹部痛、不快感 |
性交症状 | 性交時の痛み |
男性の主な症状
男性の場合症状が現れにくいものの、症状が現れると主に尿道に関連した症状が見られます。
男性に見られる症状
- 尿道からの異常な分泌物
- 排尿時の痛みや不快感
- 頻尿
- 尿道のかゆみや焼けるような感覚
症状は他の性感染症と似ているため、医療機関で診断を受けてください。
性別 | 主な症状 | 特徴 |
女性 | 腟分泌物、尿路症状、腹部症状 | 症状が比較的現れやすい |
男性 | 尿道症状、排尿時の不快感 | 症状が現れにくい場合がある |
無症状のケース
性器マイコプラズマ感染症は無症状のまま経過することも多く、特に男性では、感染していても全く症状が現れないことがあります。
女性も軽い症状や一時的な症状のみで気づかないことがあり、無症状のケースでは、感染に気づかないまま他の人に感染を広げてしまう危険性があり注意が必要です。
性別 | 無症状の割合 | 注意点 |
男性 | 約70% | 感染に気づきにくい |
女性 | 約50% | 軽度の症状で見過ごす可能性がある |
合併症のリスク
性器マイコプラズマ感染症を長い間ほおっておくと、より深刻な合併症を引き起こします。
女性では骨盤内炎症性疾患(PID)を発症するリスクが高まり、PIDは、子宮、卵管、卵巣などの生殖器に炎症が起こる病気で、慢性的な骨盤痛や不妊症などの問題が生じます。
男性は強い痛みを伴う精巣上体炎を発症することがあり、これは精子を運ぶ管に炎症が生じる病気です。
無症状だった患者さんが定期検診で感染が発覚し、早期の治療により合併症を防げたケースがあり、症状のあるかないかにかかわらず定期的な検査をすることが大切だと実感しています。
性別 | 主な合併症 | リスク |
女性 | 骨盤内炎症性疾患(PID) | 慢性骨盤痛、不妊症 |
男性 | 精巣上体炎 | 強い痛み、生殖機能への影響 |
性器マイコプラズマ感染症の原因
性器マイコプラズマ感染症は、マイコプラズマ・ジェニタリウムという細菌に感染することで起こります。
主な感染経路
性器マイコプラズマ感染症の感染経路は、性的な接触によるものです。
マイコプラズマ・ジェニタリウムにすでに感染している人との性行為によって別の人に広がっていきます。
性行為の種類 | 感染の危険性 |
腟を介した性交 | とても高い |
口を使った性行為 | やや高い |
キスをすること | あまり高くない |
感染しやすくなる要因
細菌が原因ではありますが、感染の危険性はいくつかの要因によって高くなります。
注意すべき点
- 複数の相手と性的な関係を持つ
- 性行為の際にコンドームを使用しない
- 過去に他の性感染症にかかったことがある
- 体の免疫機能が低下している状態
マイコプラズマ・ジェニタリウムの特徴
マイコプラズマ・ジェニタリウムは、一般的な細菌とは少し違う特徴を持っていて、細胞の外側を覆う壁がありません。
特徴 | 詳しい説明 |
大きさ | 200-300ナノメートルと極小 |
細胞を覆う壁 | 存在しない |
増える速さ | ゆっくりとしている |
抗生物質への耐性 | 比較的簡単に獲得してしまう |
体の中での感染の仕組み
マイコプラズマ・ジェニタリウムは、尿道や子宮の入り口付近にある細胞の表面にくっつき、炎症を起こします。
細菌が体に入ると体の防御システムが働き始めますが、完全に細菌を追い出すことは難しいです。
診察(検査)と診断
性器マイコプラズマ感染症の診断は、臨床症状の評価から始まり、確定診断のための検査まで、段階的なアプローチが必要です。
初診時の臨床診断
性器マイコプラズマ感染症の診断は、患者さんの症状や病歴の詳しい聞き取りから始まり、患者さんの性行動や過去の性感染症罹患歴などの情報を集め、感染リスクを評価。
次に、外陰部や腟、子宮頸部の視診と触診を行い、炎症や分泌物の異常などの徴候を確認し、性器マイコプラズマ感染症の可能性を検討することになります。
診断ステップ | 内容 | 目的 |
問診 | 症状、性行動、既往歴の聴取 | 感染リスクの評価 |
視診・触診 | 外陰部、腟、子宮頸部の観察 | 炎症や異常の確認 |
検体採取の方法
性器マイコプラズマの検出には検体採取が大切で、女性の患者さんでは子宮頸管または腟から綿棒を使用して分泌物を採取。
男性は尿道口から綿棒を入れ尿道分泌物を採取する、というのがよくとられる方法です。
また、初尿(排尿の最初の部分)を採取することもあります。
性別 | 採取部位 | 採取方法 | 注意点 |
女性 | 子宮頸管または腟 | 綿棒による分泌物採取 | 無菌操作の徹底 |
男性 | 尿道 | 綿棒による分泌物採取または初尿 | 適切な挿入深度の確保 |
検査方法の選択
性器マイコプラズマの検出には、主に以下の検査方法が用いられます。
- 核酸増幅検査(NAAT)PCR法など
- 培養検査
- 血清学的検査(抗体検査)
NaAT、特にPCR法は高感度なので現在最も信頼性の高い検査方法とされており、培養検査は時間がかかりますが、薬剤感受性試験が可能であるというメリットがあります。
血清学的検査は過去の感染を含めて検出するため、現在時点での感染の判断には適していません。
検査方法 | 特徴 | 所要時間 | 主な用途 |
NAAT(PCR法) | 高感度・特異的 | 数時間~1日 | 迅速な診断 |
培養検査 | 薬剤感受性試験可能 | 3~7日 | 治療方針の決定 |
血清学的検査 | 過去の感染も検出 | 1~2日 | 疫学調査 |
確定診断の手順
性器マイコプラズマ感染症の確定診断をするには、検査結果を慎重に判断します。
NaAT(PCR法)で陽性の場合、高い確率で現在の感染を示しても偽陽性の可能性を考慮することが必要です。
培養検査で陽性だと確実に今感染していると判断できますが、培養陰性でもNaAT陽性の場合は、感染の可能性を否定できません。
複数の検査方法を組み合わせることで、診断の精度を高めます。
性器マイコプラズマ感染症の治療法と処方薬、治療期間
性器マイコプラズマ感染症の治療では、抗生物質を使います。
抗生物質による治療
性器マイコプラズマ感染症を治療する際、まず選ばれるのがマクロライド系という種類の抗生物質です。
よく使われる薬として、アジスロマイシンやクラリスロマイシンがあります。
抗生物質の名前 | 特徴や使い方の説明 |
アジスロマイシン | 一度に飲む量が多いが、1回で済む |
クラリスロマイシン | 長い期間飲み続ける必要がある時に効果的 |
治療にかかる期間は普通は1週間から2週間ほどですが、症状がどのように良くなっていくかによって、期間を調整することもあります。
治療を行う際に気をつけること
薬が効かない細菌(耐性菌)ができてしまうのを防ぐため、いくつか注意が必要です。
- 医師から処方された薬を、指示された通りにきちんと飲む
- 症状が良くなったように感じても、勝手に薬を飲むのをやめない
- パートナーの人も同じ時期に治療を受ける
- 治療中は性行為を控えるようにする
他の治療方法について
マクロライド系の抗生物質が効かない患者さんには、フルオロキノロン系という別の種類の抗生物質を使うことがあります。
代わりに使う薬 | どんな時に使うか |
モキシフロキサシン | 症状が重い場合や、再び感染した場合 |
レボフロキサシン | 他の抗生物質が効果を示さなかった場合 |
治療の効果を確認する方法
治療を始めてから4週間後にもう一度検査を行い、病気の原因となる細菌がなくなったかどうかを確認します。
症状が続いている場合は使っている薬が効いていない可能性を考え、治療の方法を見直す必要があります。
例えば、最初の治療では完全に治らなかった患者さんに、モキシフロキサシンという薬を14日間使ったところ、良い結果が得られたことがありました。
性器マイコプラズマ感染症の治療における副作用やリスク
性器マイコプラズマ感染症の治療には抗生物質が使用されますが、抗生物質には副作用やリスクがあり、患者さんの体質や既往歴、薬剤の種類によって、副作用の程度や発現頻度は違ってきます。
抗生物質による副作用
性器マイコプラズマ感染症の治療に用いられる抗生物質には、いくつかの副作用があり、消化器系の症状として、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛などがあります。
皮膚症状としては、発疹やかゆみが生じ、また、まれに頭痛やめまいといった神経系の症状が現れることも。
副作用の種類 | 主な症状 | 対処法 |
消化器系 | 吐き気、嘔吐、下痢 | 食事の調整、水分補給 |
皮膚 | 発疹、かゆみ | 保湿剤の使用、冷却 |
神経系 | 頭痛、めまい | 休息、水分補給 |
アレルギー反応のリスク
抗生物質によるアレルギー反応は、重大なリスクの一つです。
軽度のアレルギー反応では蕁麻疹や発疹が発生し、重度の場合、アナフィラキシーショックという生命を脅かす状態に陥ることがあります。
過去に薬剤アレルギーの経験がある患者さんは注意が必要なので、必ず医師に相談してください。
アレルギー反応の程度 | 症状 | 対応 |
軽度 | 蕁麻疹、発疹 | 抗ヒスタミン薬の投与 |
中等度 | 呼吸困難、顔面浮腫 | ステロイド薬の投与 |
重度 | アナフィラキシーショック | エピネフリン投与、集中治療 |
薬剤耐性菌出現のリスク
抗生物質の間違った使用や中途半端な治療などの乱用により、マイコプラズマが抗生物質に対して耐性を獲得することがあります。
耐性菌が現れると今後の治療の選択肢が限られ感染症の管理を難しくするため、リスクを最小限に抑えるためには、医師の指示通りに薬を服用し治療を完了することが大切です。
特定の抗生物質に関連するリスク
性器マイコプラズマ感染症の治療に用いられる特定の抗生物質には、固有のリスクがあります。
- テトラサイクリン系抗生物質光線過敏症、歯の着色
- マクロライド系抗生物質QT間隔延長(心臓のリズム異常)
- フルオロキノロン系抗生物質腱障害、中枢神経系への影響
薬剤を選ぶときには、患者さんとリスクについて話し合ったうえで選びます。
抗生物質の種類 | 特有のリスク | 注意点 |
テトラサイクリン系 | 光線過敏症、歯の着色 | 日光を避ける、小児への使用制限 |
マクロライド系 | QT間隔延長 | 心電図モニタリング |
フルオロキノロン系 | 腱障害、中枢神経系への影響 | 運動制限、精神症状の観察 |
妊娠中の治療リスク
妊娠中の性器マイコプラズマ感染症の治療には特別な配慮が必要で、一部の抗生物質は胎児に悪影響を及ぼすため、使用を制限します。
安全性が確立されている薬剤を選び、少ない投与量で治療を行うことが基本です。
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
検査費用
性器マイコプラズマ感染症の診断には、PCR検査が用いられます。
検査項目 | 費用(3割負担の場合) |
PCR検査 | 3,000円〜4,500円 |
尿検査 | 500円〜800円 |
薬剤費
治療に使われる抗生物質の費用
- アジスロマイシン(3日分) 800円〜1,500円
- クラリスロマイシン(1週間分) 1,500円〜2,500円
- モキシフロキサシン(1週間分) 2,000円〜3,000円
合併症治療
合併症が生じた場合、追加の治療費が出てきます。
合併症 | 追加費用(概算) |
骨盤内炎症 | 5,000円〜10,000円 |
尿道炎 | 3,000円〜7,000円 |
性器マイコプラズマ感染症の治療費は保険適用ですが、完治までに複数回の受診が必要となります。
以上
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