排卵性出血 – 婦人科

排卵性出血(ovulation bleeding)とは、排卵期に起こる軽度の出血のことです。

主に排卵前後に見られ、ホルモンの急激な変化が原因とされています。

排卵性出血は通常の月経とは異なり、量が少なく持続時間も短いのが特徴です。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

排卵性出血の種類(病型)

排卵性出血は、卵胞期出血、排卵期出血、黄体期出血に分けられ、それぞれが月経周期の異なる段階で発生します。

卵胞期出血

卵胞期出血は月経が終わってから排卵までの期間に発生する出血です。

この時期は卵巣内で卵胞が成長しエストロゲンの分泌が徐々に増加していきますが、何らかの理由でエストロゲンの分泌が不安定になると子宮内膜が剥がれ落ちて出血することがあります。

卵胞期出血は通常の月経と比べて量が少なく持続期間も短いです。

排卵期出血

排卵期出血は排卵の時期に起こる出血です。

排卵直前にエストロゲンの急激な上昇と下降が起こり、これが引き金となって子宮内膜の一部が剥がれ落ちることで出血が生じます。

また、排卵時に卵巣から放出された卵子が卵巣表面を傷つけることで、少量の出血が起こることもあります。

排卵期出血の特徴

  • 量が少ない
  • 淡い色調(ピンクや茶色)
  • 1~2日程度で収まる

黄体期出血

黄体期出血は排卵後から次の月経が始まるまでの期間に発生する出血です。

この時期は排卵後に形成された黄体からプロゲステロンが分泌され子宮内膜を維持しますが、黄体機能が不十分だったりプロゲステロンの分泌が急激に低下したりすると子宮内膜の一部が剥がれ落ちて出血することがあります。

黄体期出血の特徴

特徴内容
発生時期排卵後7~10日頃
出血量少量~中等量
持続期間1~3日程度
色調赤褐色や暗赤色

排卵性出血の主な症状

排卵性出血は、卵胞期、排卵期、黄体期の各時期に特有の出血パターンや随伴症状が現れます。

卵胞期出血の症状

卵胞期出血は通常量が少なく持続時間は短く、1〜2日程度で収まることがほとんどです。

特徴詳細
出血量少量
出血色薄いピンク色または茶色
持続時間1〜2日程度
随伴症状軽度の下腹部痛、腰痛

排卵期出血の症状

排卵期出血は、通常の月経と比べて軽度です。

排卵期出血に伴って、片側の下腹部に鋭い痛みを感じる方もいて、これは「ミッテルシュメルツ」と呼ばれる排卵痛の一種で、通常は数分から数時間で自然に軽快します。

黄体期出血症状

黄体期出血の出血は、量が比較的少なく、数日間に及ぶこともありますが、個人差が大きく、1日だけの場合もあれば、1週間近く続く場合もあります。

黄体期出血には、軽度の腹部不快感や乳房の張りといったPMS(月経前症候群)に似た症状が伴うことがあります。

出血時期出血の特徴随伴症状
卵胞期少量、薄いピンク色または茶色軽度の下腹部痛、腰痛
排卵期少量、赤色〜茶色片側下腹部の鋭い痛み(排卵痛)
黄体期少量〜中等量、暗い赤色または茶色PMS様症状(腹部不快感、乳房の張り)

排卵性出血の原因

排卵性出血の主な要因としてホルモンバランスの乱れ、卵巣や子宮の状態変化、ストレスや生活習慣の影響などが挙げられます。

ホルモンバランスの乱れ

排卵性出血の主要な原因の一つは、ホルモンバランスの乱れです。

月経周期において、エストロゲンとプロゲステロンのバランスが崩れることで、子宮内膜の不安定化や異常な剥離が起こり、出血につながることがあります。

ホルモンバランスの乱れによる排卵性出血の関連性

ホルモン影響
エストロゲン急激な増減が内膜不安定化を引き起こす
プロゲステロン分泌不足が内膜維持を困難にする

卵巣機能の変化

排卵時に卵胞が破裂する際、卵巣表面に小さな傷がつくことがあり、この傷から少量の出血が生じます。

また、卵胞の発育や黄体の形成が不十分な場合、ホルモン分泌に影響を与え、結果として出血を引き起こすことがあります。

子宮内膜の状態

何らかの理由で内膜が脆弱化していたり、過剰に肥厚していたりすると、周期以外でも剥離が起こりやすくなり、排卵期や黄体期に予期せぬ出血が生じることがあります。

子宮内膜の状態と排卵性出血の関係

内膜の状態出血リスク
脆弱化高い
過剰肥厚中程度
正常低い

その他の要因

甲状腺機能異常や多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)などの内分泌疾患も、ホルモンバランスに影響を与え、排卵性出血を引き起こす可能性があります。

診察(検査)と診断

排卵性出血の診断は、詳細な問診、身体診察、各種検査を組み合わせて行われます。

問診の重要性

問診では、月経周期の規則性、出血のタイミングや持続期間、出血量、随伴症状、また、過去の婦人科疾患の既往歴や、現在服用中の薬剤についても確認します。

身体診察の実施

腹部の触診では下腹部の圧痛や腫瘤の有無を確認し、排卵性出血以外の疾患の可能性を評価します。

内診では、腟鏡を用いて子宮頸部や腟壁の状態を観察し、出血の有無や性状を確認するとともに、子宮頸部の炎症や異常な病変がないかも検査します。

また、双合診を行い、子宮や卵巣の大きさ、位置、硬さ、圧痛の有無などを評価し、子宮筋腫や卵巣嚢腫などの器質的疾患の可能性を除外することが大切です。

超音波検査

経腟超音波検査を用いることで、子宮や卵巣の状態をより詳細に観察することが可能です。

観察項目評価内容
子宮内膜厚さ、性状
卵巣大きさ、卵胞の有無
骨盤内腫瘤や液体貯留の有無

ホルモン検査の実施

ホルモン検査は月経周期の正確な評価や排卵の確認に不可欠です。

検査するホルモン

  • 卵胞刺激ホルモン(FSH)
  • 黄体形成ホルモン(LH)
  • エストラジオール
  • プロゲステロン

LHの急激な上昇(LHサージ)は排卵の指標となり、排卵性出血の診断に有用です。

その他の補助的検査

必要に応じて、以下のような補助的検査を行うことがあります。

検査名目的
子宮頸部細胞診子宮頸がんのスクリーニング
子宮内膜細胞診子宮内膜の異常の評価
血液検査貧血や炎症の有無の確認

これらの検査は、排卵性出血の診断そのものというよりも、他の婦人科疾患を除外するために行われます。

排卵性出血の治療法と処方薬、治療期間

排卵性出血の治療法は、原因や重症度によって異なりますが、主にホルモン療法や対症療法が用いられます。

ホルモン療法

ホルモン療法は体内のホルモンバランスを整えることで、不規則な出血を抑制し、正常な月経周期を取り戻すことを目的としています。

主に使用されるホルモン剤は、低用量ピルや黄体ホルモン剤です。

ホルモン剤主な効果
低用量ピル排卵抑制、周期調整
黄体ホルモン剤子宮内膜安定化

対症療法

対症療法は、排卵性出血に伴う症状を緩和するために行われます。

主に鎮痛剤や止血剤が用いられ、出血量の多い際や痛みを伴う際に効果的です。

対症療法薬使用目的
鎮痛剤痛みの軽減
止血剤出血量の抑制

漢方療法

体質改善や全身状態の調整を目的として、個々の症状や体質に合わせた漢方薬が処方されることがあり、代表的な漢方薬は、当帰芍薬散や加味逍遙散などです。

これらの漢方薬は、ホルモンバランスの調整や血流改善に効果があるとされています。

治療期間

軽度の場合は数週間程度で改善が見られることもありますが、重度だったり原因が複雑なときは、数ヶ月以上の治療期間を要することがあります。

重症度一般的な治療期間
軽度2~4週間
中等度1~3ヶ月
重度3ヶ月以上

予後と再発可能性および予防

排卵性出血は多くの場合特別な介入なしで自然に改善しますが、再発の可能性があります。

予後の一般的な傾向

ほとんどの方で排卵性出血は一時的なものであり、長期的な健康への悪影響は限定的ですが、頻繁に発生したり、量が多い場合には注意が必要です。

予後の分類特徴
良好自然軽快、健康への影響は最低限
要観察頻繁な再発、随伴症状の持続

再発の可能性と要因

再発のパターンは個人によって異なり、毎月の排卵時に起こる方もいれば、数か月に一度の頻度で発生する方もいます。

再発に影響を与える要因

  • ホルモンバランスの変動
  • ストレスレベル
  • 体重の急激な変化
  • 生活リズムの乱れ
  • 薬剤の使用(特に、ホルモン剤)

予防と自己管理

排卵性出血の完全な予防は困難ですが、頻度や程度を軽減するための自己管理は可能です。

以下のような生活習慣の改善が有効とされています。

  • バランスの取れた食事
  • 適度な運動
  • 十分な睡眠
  • ストレス管理
  • 定期的な健康診断

これらの習慣は、ホルモンバランスの安定化に寄与し、排卵性出血の発生を減少させます。

また、基礎体温の測定や月経周期の記録など、自己観察を行うことも大切です。

排卵性出血の治療における副作用やリスク

排卵性出血の治療には主にホルモン療法や対症療法が用いられ、副作用として悪心、頭痛、体重増加などがあります。

ホルモン療法の副作用

ホルモン療法は排卵性出血の治療に効果的ですが、いくつかの副作用が報告されていますが、服用開始から数ヶ月以内に軽減または消失することが多いです。

副作用発現頻度
悪心・嘔吐比較的高い
頭痛中程度
体重増加低~中程度

血栓症のリスク

ホルモン療法において、特に注意が必要なのが血栓症のリスクです。

エストロゲンを含む製剤の使用により、血液が凝固しやすくなり、深部静脈血栓症や肺塞栓症などの重篤な合併症が生じる可能性があります。

特に、喫煙者、高血圧患者、肥満の方、35歳以上の女性で血栓症のリスクが高まります。

肝機能への影響

ホルモン剤の使用はまれに、肝機能障害や黄疸などの症状を起こすことがあり、特に、既往歴に肝疾患がある患者さんや、アルコール多飲の方は注意が必要です。

肝機能への影響注意が必要な患者
肝機能障害肝疾患の既往歴あり
黄疸アルコール多飲者

骨密度への影響

黄体ホルモン単独療法を長期間続けると、エストロゲン欠乏状態になり、骨密度の低下を招く恐れがあり、将来的な骨粗鬆症のリスクを高める可能性があります。

定期的な骨密度検査と、カルシウム摂取の増加や運動療法などの予防策が重要です。

対症療法の副作用

鎮痛剤や止血剤などの対症療法に使用される薬剤にも、いくつかの副作用があります。

主な副作用

  • 胃腸障害(胃痛、消化不良)
  • アレルギー反応
  • 眠気や倦怠感
  • 肝機能障害(長期使用の場合)
  • 血小板機能低下(アスピリン等の使用時)

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

検査費用

超音波検査は5,000円〜10,000円程度です。

血液検査は基本項目で3,000円〜5,000円、ホルモン検査を含むと10,000円〜20,000円程度かかります。

検査種類費用目安
超音波検査5,000円〜10,000円
血液検査(基本)3,000円〜5,000円
ホルモン検査7,000円〜15,000円

薬剤費用

低用量ピルなどのホルモン剤は1か月分で3,000円〜8,000円程度です。

鎮痛剤や止血剤は1か月分で1,000円〜3,000円程度かかります。

処置費用

必要に応じて行われる処置の費用は以下の通りです。

  • 子宮内膜細胞診 5,000円〜8,000円
  • 子宮鏡検査 10,000円〜20,000円
  • 子宮内膜生検 15,000円〜25,000円

総合的な治療費用

排卵性出血の治療費用は軽度の場合、基本的な検査と薬剤処方で10,000円から20,000円程度です。

一方、詳細な検査や継続的な管理が必要な場合、1回の受診で30,000円以上かかる可能性もあります。

治療内容概算費用
軽度(基本検査+薬剤)10,000円〜20,000円
中等度(詳細検査+処置)20,000円〜40,000円
重度(複数回の検査+処置)40,000円以上

健康保険が適用されるため、実際の自己負担は上記金額の3割です。

以上

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