更年期出血(perimenopausal bleeding)とは、女性の生殖期から閉経期への移行期に起こる不規則な出血のことです。
40代後半から50代前半にかけて現れ、エストロゲンの分泌が不安定になることで、子宮内膜の状態も変化し、不規則な出血につながります。
この時期の出血パターンは個人差が大きく、量や頻度もさまざまです。
更年期出血の種類(病型)
更年期出血は器質性出血と機能性出血に分類されます。器質性出血は器質的な変化による出血、機能性出血はホルモンバランスの乱れによる出血のことです。
器質性出血
器質性出血は子宮や卵巣などの生殖器に器質的な変化が生じたことによって起こる出血です。
器質性出血の原因となる病変
- 子宮筋腫
- 子宮内膜ポリープ
- 子宮頸部や体部の悪性腫瘍
- 子宮内膜症
機能性出血
機能性出血はホルモンバランスの乱れが主な原因となって生じます。
ホルモンバランスの乱れは子宮内膜の不規則な増殖や剥離を引き起こし、結果として不規則な出血パターンが起こるのです。
更年期出血の主な症状
更年期出血は不規則な出血パターンや量の変化が見られます。
器質性出血の症状
器質性出血は子宮や卵巣に何らかの病変がある場合に生じ、更年期に限らずいろいろな年代で起こりうるものですが、更年期に発見されることも少なくありません。
これはホルモンバランスの変化によって潜在的な病変が顕在化することがあるためです。
器質性出血の症状
症状 | 特徴 |
不規則な出血 | 月経周期に関係なく起こる |
大量出血 | 通常の月経よりも多い場合がある |
長期間の出血 | 1週間以上続くことがある |
痛みを伴う出血 | 下腹部痛や腰痛を伴うことがある |
器質性出血の原因となる病変は多岐にわたりますが、代表的なものは子宮筋腫、子宮内膜ポリープ、子宮頸がん、子宮体がんなどです。
子宮筋腫では圧迫感や頻尿といった症状が、子宮頸がんでは接触出血が見られることがあります。
また、子宮体がんでは不正出血が初期症状として現れることがあるため、特に注意が必要です。
機能性出血の症状
更年期に入ると卵巣機能の低下に伴いホルモンの分泌が不安定になり、これが機能性出血の主な要因です。
エストロゲンとプロゲステロンのバランスが崩れることで、子宮内膜の周期的な変化が乱れ、不規則な出血につながります。
機能性出血の症状
- 月経周期の乱れ(短縮または延長)
- 出血量の変化(増加または減少)
- 不規則な出血(月経以外の時期の出血)
- 月経期間の変化(延長または短縮)
症状は個人差が大きく、また同じ人でも時期によって変化することがあります。
症状の変化 | 詳細 |
月経周期 | 21日未満や35日以上に変化 |
出血量 | 通常の2倍以上や極端に少量 |
出血期間 | 7日以上や1-2日程度に変化 |
医療機関への受診の必要性
更年期出血の症状は多岐にわたり、原因もさまざまです。
以下のような症状がある場合は、早めの受診をおすすめします。
- 極端に多い出血や長期間続く出血
- 月経と月経の間の不規則な出血が頻繁に起こる
- 下腹部痛や腰痛を伴う出血
- 性交時の出血
更年期出血の原因
更年期出血の主な原因はホルモンバランスの変化と器質的な問題の2つに大別されます。
ホルモンバランスの変化による原因
更年期出血の最も一般的な原因は、ホルモンバランスの変化です。
この時期には卵巣機能の低下に伴い、エストロゲンとプロゲステロンの分泌量が変動します。
ホルモン | 変化 |
エストロゲン | 減少 |
プロゲステロン | 減少 |
エストロゲンの相対的な優位状態が続くと、子宮内膜が過剰に肥厚し、不規則な出血につながります。
器質的な問題による原因
更年期出血のもう一つの主要な原因は、生殖器の器質的な問題です。
器質的な問題による更年期出血の主な原因
- 子宮筋腫
- 子宮内膜ポリープ
- 子宮頸部や体部の悪性腫瘍
- 子宮内膜症
器質的な問題はそれぞれ異なる機序で出血を引き起こします。
その他の要因
更年期出血の原因にはホルモンバランスの変化や器質的な問題以外にも、いくつかの要因が関与することがあります。
要因 | 説明 |
ストレス | 内分泌系に影響を与え、出血パターンを乱す可能性がある |
肥満 | 脂肪組織でのエストロゲン産生が増加し、ホルモンバランスに影響を与える |
甲状腺機能異常 | 全身のホルモンバランスに影響を与え、月経周期を乱す可能性がある |
診察(検査)と診断
更年期出血の診断は問診では出血パターンや関連症状を確認し、身体診察では子宮や卵巣の状態を評価します。
さらに、超音波検査や内分泌検査などの補助的検査も重要です。
問診
更年期出血の問診では患者さんから詳細な情報を聴取し、症状の特徴や経過を把握します。
問診で確認される点
- 出血のパターン(頻度、量、持続期間)
- 出血に伴う症状(痛みの有無など)
- 既往歴や家族歴
- 服用中の薬剤
- 生活習慣
不規則な出血パターンは機能性出血を示唆する可能性がありますが、持続的な出血や痛みを伴う場合は器質的な問題を疑う必要があります。
また、ストレスや生活習慣の変化が症状に影響を与えている可能性も。
身体診察
身体診察でのチェック項目
診察項目 | 確認内容 |
視診 | 外陰部の状態、出血の有無 |
内診 | 子宮の大きさ、硬さ、可動性 |
双合診 | 卵巣の腫大や圧痛の有無 |
腹部触診 | 腹部腫瘤の有無、圧痛の有無 |
内診では子宮頸部の状態も確認され、子宮頸がんのスクリーニングとして細胞診が行われる場合もあります。
画像診断と血液検査
身体診察に加えて画像診断や血液検査などの補助的検査が行われます。
主な検査項目
検査種類 | 目的 |
経腟超音波検査 | 子宮・卵巣の形態評価 |
血液検査 | 貧血の評価、ホルモン値の確認 |
子宮頸部細胞診 | 子宮頸がんのスクリーニング |
子宮内膜細胞診 | 子宮内膜の状態評価 |
- 経腟超音波検査 子宮筋腫や子宮内膜ポリープなどの器質的病変を検出するのに有用です。また、子宮内膜の厚さを測定することで、子宮内膜増殖症や子宮体がんのリスク評価にも役立ちます。
- 血液検査 貧血の程度や甲状腺機能、性ホルモン値などを確認し、背景にある内分泌学的な問題を評価します。特に、エストロゲンやプロゲステロンのバランスは、更年期出血の機能性要因を理解するうえで重要な指標です。
更年期出血の治療法と処方薬、治療期間
更年期出血の治療法には、ホルモン療法、非ホルモン療法、外科的治療があり、これらを組み合わせて患者さんの状態に合わせた対応が行われます。
ホルモン療法
ホルモン療法は体内のホルモンバランスを調整することで、子宮内膜の安定化を図ることが目的です。
主に用いられるホルモン剤
ホルモン剤 | 主な効果 |
エストロゲン | 子宮内膜の安定化 |
プロゲステロン | 子宮内膜の増殖抑制 |
ホルモン剤は単独または併用して使用されることがあります。
数か月から1年程度の継続が必要で、個人差が大きいです。
非ホルモン療法
ホルモン療法が適さない患者さんや、ホルモン療法の補助として非ホルモン療法が選択されることがあります。
非ホルモン療法
- 鉄剤の投与(貧血対策)
- 止血剤の使用
- 抗炎症薬の投与
- 漢方薬の使用
治療期間は数週間から数か月程度が多いですが、長期にわたる場合もあります。
外科的治療
器質的な問題が更年期出血の原因の場合、外科的治療が選択されることがあります。
主な外科的治療法
治療法 | 対象となる病変 |
子宮筋腫摘出術 | 子宮筋腫 |
子宮内膜ポリープ切除術 | 子宮内膜ポリープ |
子宮全摘出術 | 重度の器質的問題 |
外科的治療は問題となっている組織を直接除去することで、出血の原因を取り除きます。
通常、数日から数週間の入院が必要です。
術後の経過観察期間を含めると、完全な回復まで数か月を要することもあります。
予後と再発可能性および予防
更年期出血は多くの場合閉経後に自然に改善しますが、再発のリスクもあります。
予後の一般的な傾向
更年期出血は完全に症状が消失するまでには個人差があり、数か月から数年かかる場合もあります。
また、閉経後も一定期間は不規則な出血が続くこともあるため、経過観察が必要です。
一般的な予後の傾向
原因 | 予後の傾向 |
ホルモンバランスの乱れ | 閉経後に改善することが多い |
器質的疾患(良性) | 適切な対応により改善の可能性が高い |
悪性腫瘍 | 早期発見・早期対応が予後を左右する |
予後を左右する要因は、年齢、全身の健康状態、基礎疾患の有無などです。
再発のリスクと要因
更年期出血の再発リスクは原因となる要因や個人の健康状態によって異なります。
- ホルモンバランスの継続的な変動
- ストレスや生活習慣の乱れ
- 基礎疾患の悪化や新たな疾患の発生
- 加齢に伴う身体機能の変化
更年期症状が長期化したり、閉経前後の期間が延長する場合には、再発のリスクにも注意が必要です。
また、遺伝的要因や環境要因も再発リスクに影響を与える可能性があります。
再発リスクに影響を与える要因
要因 | 影響度 |
ホルモンバランスの変動 | 高い |
ストレス | 中程度 |
生活習慣の乱れ | 中程度 |
基礎疾患の存在 | 高い |
再発のリスクを低減するためには、定期的な婦人科検診を受けることや自己観察を継続することが大切です。
更年期出血の治療における副作用やリスク
更年期出血の治療には、ホルモン療法や非ホルモン療法、外科的治療などのアプローチがありますが、それぞれに副作用やリスクが伴います。
ホルモン療法の副作用とリスク
ホルモン療法の主な副作用
- 悪心・嘔吐
- 乳房の張り
- 頭痛
- 体重増加
- 浮腫
副作用は多くの場合一時的で、体がホルモン剤に慣れるにつれて軽減します。
一方で、より重大なリスクも報告されています。
リスク | 関連するホルモン |
血栓症 | エストロゲン |
乳がん | 複合ホルモン療法 |
リスクは患者さんの年齢や既往歴、家族歴などによって変動します。
非ホルモン療法の副作用とリスク
非ホルモン療法ではホルモン療法に比べて副作用やリスクが少ない傾向にありますが、完全にないわけではありません。
薬物療法に伴う主な副作用
薬剤 | 主な副作用 |
鉄剤 | 便秘、胃部不快感 |
止血剤 | 血栓のリスク増加 |
抗炎症薬 | 胃腸障害、腎機能障害 |
副作用は多くの場合軽度で、投薬の調整や生活習慣の改善によって管理できます。
外科的治療のリスクと合併症
外科的治療は器質的な問題に対して直接的なアプローチを取るため、即効性がある一方で、手術に伴うリスクや合併症の可能性があります。
主なリスクや合併症
- 出血
- 感染
- 麻酔関連の合併症
- 周辺臓器の損傷
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
外来診療の基本的な費用
更年期出血の初期診療は主に外来で行われ、診察や基本的な検査にかかる費用は、健康保険が適用されます。
項目 | 概算費用(3割負担) |
血液検査 | 1,500円~4,000円 |
超音波検査 | 3,000円~6,000円 |
細胞診 | 2,000円~4,000円 |
薬物療法にかかる費用
更年期出血の治療ではホルモン療法や対症療法としてさまざまな薬剤が使用されます。
- ホルモン剤(1か月分) 3,000円~8,000円
- 鎮痛剤(1か月分) 1,500円~4,000円
- 漢方薬(1か月分) 4,000円~10,000円
- 抗炎症薬(1か月分) 2,000円~5,000円
高度な検査にかかる費用
症状が複雑だったり原因の特定が難しい場合には、より詳細な検査が必要になります。
検査項目 | 概算費用(3割負担) |
MRI検査 | 15,000円~30,000円 |
CT検査 | 10,000円~20,000円 |
子宮鏡検査 | 8,000円~15,000円 |
子宮内膜生検 | 5,000円~10,000円 |
手術療法にかかる費用
更年期出血の原因によっては、手術が必要となる場合があります。
- 子宮筋腫の摘出手術(腹腔鏡下) 30万円~50万円
- 子宮全摘出術(腹腔鏡下) 40万円~70万円
- 子宮内膜ポリープ切除術 10万円~20万円
以上
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