更年期出血 – 婦人科

更年期出血(perimenopausal bleeding)とは、女性の生殖期から閉経期への移行期に起こる不規則な出血のことです。

40代後半から50代前半にかけて現れ、エストロゲンの分泌が不安定になることで、子宮内膜の状態も変化し、不規則な出血につながります。

この時期の出血パターンは個人差が大きく、量や頻度もさまざまです。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

更年期出血の種類(病型)

更年期出血は器質性出血と機能性出血に分類されます。器質性出血は器質的な変化による出血、機能性出血はホルモンバランスの乱れによる出血のことです。

器質性出血

器質性出血は子宮や卵巣などの生殖器に器質的な変化が生じたことによって起こる出血です。

器質性出血の原因となる病変

  • 子宮筋腫
  • 子宮内膜ポリープ
  • 子宮頸部や体部の悪性腫瘍
  • 子宮内膜症

機能性出血

機能性出血はホルモンバランスの乱れが主な原因となって生じます。

ホルモンバランスの乱れは子宮内膜の不規則な増殖や剥離を引き起こし、結果として不規則な出血パターンが起こるのです。

更年期出血の主な症状

更年期出血は不規則な出血パターンや量の変化が見られます。

器質性出血の症状

器質性出血は子宮や卵巣に何らかの病変がある場合に生じ、更年期に限らずいろいろな年代で起こりうるものですが、更年期に発見されることも少なくありません。

これはホルモンバランスの変化によって潜在的な病変が顕在化することがあるためです。

器質性出血の症状

症状特徴
不規則な出血月経周期に関係なく起こる
大量出血通常の月経よりも多い場合がある
長期間の出血1週間以上続くことがある
痛みを伴う出血下腹部痛や腰痛を伴うことがある

器質性出血の原因となる病変は多岐にわたりますが、代表的なものは子宮筋腫、子宮内膜ポリープ、子宮頸がん、子宮体がんなどです。

子宮筋腫では圧迫感や頻尿といった症状が、子宮頸がんでは接触出血が見られることがあります。

また、子宮体がんでは不正出血が初期症状として現れることがあるため、特に注意が必要です。

機能性出血の症状

更年期に入ると卵巣機能の低下に伴いホルモンの分泌が不安定になり、これが機能性出血の主な要因です。

エストロゲンとプロゲステロンのバランスが崩れることで、子宮内膜の周期的な変化が乱れ、不規則な出血につながります。

機能性出血の症状

  • 月経周期の乱れ(短縮または延長)
  • 出血量の変化(増加または減少)
  • 不規則な出血(月経以外の時期の出血)
  • 月経期間の変化(延長または短縮)

症状は個人差が大きく、また同じ人でも時期によって変化することがあります。

症状の変化詳細
月経周期21日未満や35日以上に変化
出血量通常の2倍以上や極端に少量
出血期間7日以上や1-2日程度に変化

医療機関への受診の必要性

更年期出血の症状は多岐にわたり、原因もさまざまです。

以下のような症状がある場合は、早めの受診をおすすめします。

  • 極端に多い出血や長期間続く出血
  • 月経と月経の間の不規則な出血が頻繁に起こる
  • 下腹部痛や腰痛を伴う出血
  • 性交時の出血

更年期出血の原因

更年期出血の主な原因はホルモンバランスの変化と器質的な問題の2つに大別されます。

ホルモンバランスの変化による原因

更年期出血の最も一般的な原因は、ホルモンバランスの変化です。

この時期には卵巣機能の低下に伴い、エストロゲンとプロゲステロンの分泌量が変動します。

ホルモン変化
エストロゲン減少
プロゲステロン減少

エストロゲンの相対的な優位状態が続くと、子宮内膜が過剰に肥厚し、不規則な出血につながります。

器質的な問題による原因

更年期出血のもう一つの主要な原因は、生殖器の器質的な問題です。

器質的な問題による更年期出血の主な原因

  • 子宮筋腫
  • 子宮内膜ポリープ
  • 子宮頸部や体部の悪性腫瘍
  • 子宮内膜症

器質的な問題はそれぞれ異なる機序で出血を引き起こします。

その他の要因

更年期出血の原因にはホルモンバランスの変化や器質的な問題以外にも、いくつかの要因が関与することがあります。

要因説明
ストレス内分泌系に影響を与え、出血パターンを乱す可能性がある
肥満脂肪組織でのエストロゲン産生が増加し、ホルモンバランスに影響を与える
甲状腺機能異常全身のホルモンバランスに影響を与え、月経周期を乱す可能性がある

診察(検査)と診断

更年期出血の診断は問診では出血パターンや関連症状を確認し、身体診察では子宮や卵巣の状態を評価します。

さらに、超音波検査や内分泌検査などの補助的検査も重要です。

問診

更年期出血の問診では患者さんから詳細な情報を聴取し、症状の特徴や経過を把握します。

問診で確認される点

  • 出血のパターン(頻度、量、持続期間)
  • 出血に伴う症状(痛みの有無など)
  • 既往歴や家族歴
  • 服用中の薬剤
  • 生活習慣

不規則な出血パターンは機能性出血を示唆する可能性がありますが、持続的な出血や痛みを伴う場合は器質的な問題を疑う必要があります。

また、ストレスや生活習慣の変化が症状に影響を与えている可能性も。

身体診察

身体診察でのチェック項目

診察項目確認内容
視診外陰部の状態、出血の有無
内診子宮の大きさ、硬さ、可動性
双合診卵巣の腫大や圧痛の有無
腹部触診腹部腫瘤の有無、圧痛の有無

内診では子宮頸部の状態も確認され、子宮頸がんのスクリーニングとして細胞診が行われる場合もあります。

画像診断と血液検査

身体診察に加えて画像診断や血液検査などの補助的検査が行われます。

主な検査項目

検査種類目的
経腟超音波検査子宮・卵巣の形態評価
血液検査貧血の評価、ホルモン値の確認
子宮頸部細胞診子宮頸がんのスクリーニング
子宮内膜細胞診子宮内膜の状態評価
  • 経腟超音波検査 子宮筋腫や子宮内膜ポリープなどの器質的病変を検出するのに有用です。また、子宮内膜の厚さを測定することで、子宮内膜増殖症や子宮体がんのリスク評価にも役立ちます。
  • 血液検査 貧血の程度や甲状腺機能、性ホルモン値などを確認し、背景にある内分泌学的な問題を評価します。特に、エストロゲンやプロゲステロンのバランスは、更年期出血の機能性要因を理解するうえで重要な指標です。

更年期出血の治療法と処方薬、治療期間

更年期出血の治療法には、ホルモン療法、非ホルモン療法、外科的治療があり、これらを組み合わせて患者さんの状態に合わせた対応が行われます。

ホルモン療法

ホルモン療法は体内のホルモンバランスを調整することで、子宮内膜の安定化を図ることが目的です。

主に用いられるホルモン剤

ホルモン剤主な効果
エストロゲン子宮内膜の安定化
プロゲステロン子宮内膜の増殖抑制

ホルモン剤は単独または併用して使用されることがあります。

数か月から1年程度の継続が必要で、個人差が大きいです。

非ホルモン療法

ホルモン療法が適さない患者さんや、ホルモン療法の補助として非ホルモン療法が選択されることがあります。

非ホルモン療法

  • 鉄剤の投与(貧血対策)
  • 止血剤の使用
  • 抗炎症薬の投与
  • 漢方薬の使用

治療期間は数週間から数か月程度が多いですが、長期にわたる場合もあります。

外科的治療

器質的な問題が更年期出血の原因の場合、外科的治療が選択されることがあります。

主な外科的治療法

治療法対象となる病変
子宮筋腫摘出術子宮筋腫
子宮内膜ポリープ切除術子宮内膜ポリープ
子宮全摘出術重度の器質的問題

外科的治療は問題となっている組織を直接除去することで、出血の原因を取り除きます。

通常、数日から数週間の入院が必要です。

術後の経過観察期間を含めると、完全な回復まで数か月を要することもあります。

予後と再発可能性および予防

更年期出血は多くの場合閉経後に自然に改善しますが、再発のリスクもあります。

予後の一般的な傾向

更年期出血は完全に症状が消失するまでには個人差があり、数か月から数年かかる場合もあります。

また、閉経後も一定期間は不規則な出血が続くこともあるため、経過観察が必要です。

一般的な予後の傾向

原因予後の傾向
ホルモンバランスの乱れ閉経後に改善することが多い
器質的疾患(良性)適切な対応により改善の可能性が高い
悪性腫瘍早期発見・早期対応が予後を左右する

予後を左右する要因は、年齢、全身の健康状態、基礎疾患の有無などです。

再発のリスクと要因

更年期出血の再発リスクは原因となる要因や個人の健康状態によって異なります。

  • ホルモンバランスの継続的な変動
  • ストレスや生活習慣の乱れ
  • 基礎疾患の悪化や新たな疾患の発生
  • 加齢に伴う身体機能の変化

更年期症状が長期化したり、閉経前後の期間が延長する場合には、再発のリスクにも注意が必要です。

また、遺伝的要因や環境要因も再発リスクに影響を与える可能性があります。

再発リスクに影響を与える要因

要因影響度
ホルモンバランスの変動高い
ストレス中程度
生活習慣の乱れ中程度
基礎疾患の存在高い

再発のリスクを低減するためには、定期的な婦人科検診を受けることや自己観察を継続することが大切です。

更年期出血の治療における副作用やリスク

更年期出血の治療には、ホルモン療法や非ホルモン療法、外科的治療などのアプローチがありますが、それぞれに副作用やリスクが伴います。

ホルモン療法の副作用とリスク

ホルモン療法の主な副作用

  • 悪心・嘔吐
  • 乳房の張り
  • 頭痛
  • 体重増加
  • 浮腫

副作用は多くの場合一時的で、体がホルモン剤に慣れるにつれて軽減します。

一方で、より重大なリスクも報告されています。

リスク関連するホルモン
血栓症エストロゲン
乳がん複合ホルモン療法

リスクは患者さんの年齢や既往歴、家族歴などによって変動します。

非ホルモン療法の副作用とリスク

非ホルモン療法ではホルモン療法に比べて副作用やリスクが少ない傾向にありますが、完全にないわけではありません。

薬物療法に伴う主な副作用

薬剤主な副作用
鉄剤便秘、胃部不快感
止血剤血栓のリスク増加
抗炎症薬胃腸障害、腎機能障害

副作用は多くの場合軽度で、投薬の調整や生活習慣の改善によって管理できます。

外科的治療のリスクと合併症

外科的治療は器質的な問題に対して直接的なアプローチを取るため、即効性がある一方で、手術に伴うリスクや合併症の可能性があります。

主なリスクや合併症

  • 出血
  • 感染
  • 麻酔関連の合併症
  • 周辺臓器の損傷

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

外来診療の基本的な費用

更年期出血の初期診療は主に外来で行われ、診察や基本的な検査にかかる費用は、健康保険が適用されます。

項目概算費用(3割負担)
血液検査1,500円~4,000円
超音波検査3,000円~6,000円
細胞診2,000円~4,000円

薬物療法にかかる費用

更年期出血の治療ではホルモン療法や対症療法としてさまざまな薬剤が使用されます。

  • ホルモン剤(1か月分) 3,000円~8,000円
  • 鎮痛剤(1か月分) 1,500円~4,000円
  • 漢方薬(1か月分) 4,000円~10,000円
  • 抗炎症薬(1か月分) 2,000円~5,000円

高度な検査にかかる費用

症状が複雑だったり原因の特定が難しい場合には、より詳細な検査が必要になります。

検査項目概算費用(3割負担)
MRI検査15,000円~30,000円
CT検査10,000円~20,000円
子宮鏡検査8,000円~15,000円
子宮内膜生検5,000円~10,000円

手術療法にかかる費用

更年期出血の原因によっては、手術が必要となる場合があります。

  • 子宮筋腫の摘出手術(腹腔鏡下) 30万円~50万円
  • 子宮全摘出術(腹腔鏡下) 40万円~70万円
  • 子宮内膜ポリープ切除術 10万円~20万円

以上

References

Goldstein SR, Lumsden MA. Abnormal uterine bleeding in perimenopause. Climacteric. 2017 Sep 3;20(5):414-20.

Seltzer VL, Benjamin F, Deutsch S. Perimenopausal bleeding patterns and pathologic findings. Journal of the American Medical Women’s Association (1972). 1990 Jul 1;45(4):132-4.

Sudhamani S, Sirmukaddam S, Agrawal D. Clinicopathological study of abnormal uterine bleeding in perimenopausal women. Journal of the Scientific Society. 2015 Jan 1;42(1):3-6.

Astrup K, Olivarius ND, MØller S, Gottschau A, Karlslund W. Menstrual bleeding patterns in pre-and perimenopausal women: a population-based prospective diary study. Acta obstetricia et gynecologica Scandinavica. 2004 Jan 1;83(2):197-202.

Vitale SG, Watrowski R, Barra F, D’Alterio MN, Carugno J, Sathyapalan T, Kahramanoglu I, Reyes-Muñoz E, Lin LT, Urman B, Ferrero S. Abnormal uterine bleeding in perimenopausal women: the role of hysteroscopy and its impact on quality of life and sexuality. Diagnostics. 2022 May 9;12(5):1176.

Goldstein SR, Zeltser I, Horan CK, Snyder JR, Schwartz LB. Ultrasonography-based triage for perimenopausal patients with abnormal uterine bleeding. American journal of obstetrics and gynecology. 1997 Jul 1;177(1):102-8.

Jain A, Santoro N. Endocrine mechanisms and management for abnormal bleeding due to perimenopausal changes. Clinical obstetrics and gynecology. 2005 Jun 1;48(2):295-311.

Sreelakshmi U, Subhashini T. Abnormal uterine bleeding in perimenopausal age group women: a study on clinicopathological evaluation and management. International Journal of Reproduction, Contraception, Obstetrics and Gynecology. 2018 Jan 1;7(1):192-8.

Kumari A, Kumar R. Abnormal uterine bleeding in perimenopausal age: An observational study. Indian J Obstet Gynecol Res. 2018;5(4):539-43.

Stetkiewicz T, Stachowiak G, Pertyński T. Abnormal bleeding in the perimenopausal period. Menopause Review/Przegląd Menopauzalny. 2010 Jul 1;9(4):236-9.

免責事項

当記事は、医療や介護に関する情報提供を目的としており、当院への来院を勧誘するものではございません。従って、治療や介護の判断等は、ご自身の責任において行われますようお願いいたします。

当記事に掲載されている医療や介護の情報は、権威ある文献(Pubmed等に掲載されている論文)や各種ガイドラインに掲載されている情報を参考に執筆しておりますが、デメリットやリスク、不確定な要因を含んでおります。

医療情報・資料の掲載には注意を払っておりますが、掲載した情報に誤りがあった場合や、第三者によるデータの改ざんなどがあった場合、さらにデータの伝送などによって障害が生じた場合に関しまして、当院は一切責任を負うものではございませんのでご了承ください。

掲載されている、医療や介護の情報は、日付が付されたものの内容は、それぞれ当該日付現在(又は、当該書面に明記された時点)の情報であり、本日現在の情報ではございません。情報の内容にその後の変動があっても、当院は、随時変更・更新することをお約束いたしておりませんのでご留意ください。