頻発月経(polymenorrhea)とは、通常よりも頻繁に月経が訪れる状態のことです。
月経周期は21日から35日程度とされていますが、頻発月経の場合は周期が21日未満と短くなります。
頻発月経(ひんぱつげっけい)の原因はホルモンバランスの乱れや子宮内膜の異常、ストレスなどで、若い女性から更年期前後の女性まで、幅広い年齢層で発症する可能性があります。
頻発月経の主な症状
頻発月経は思春期、成熟期、更年期によって症状の現れ方や影響が異なります。
思春期の頻発月経
思春期の頻発月経はホルモンバランスが安定していない時期に起こりやすい現象です。
月経量が通常よりも多くなったり逆に少なくなったり、月経痛が強くなる場合もあります。
症状 | 特徴 |
月経周期 | 21日未満 |
月経量 | 変動が大きい |
月経痛 | 増強することがある |
不規則性 | 周期の予測が困難 |
成熟期の頻発月経
成熟期の女性に見られる頻発月経の主な症状は、月経周期の不規則性です。
短い周期で月経が訪れることに加え周期自体が安定せず、月経量が増加し貧血のリスクが高まることもあります。
症状 | 影響 |
月経周期の不規則性 | 生活リズムの乱れ |
月経量の増加 | 貧血のリスク上昇 |
月経痛の変化 | 仕事への影響 |
疲労感 | 日常生活の質低下 |
更年期の頻発月経
更年期に入るとホルモンバランスの変化に伴い月経周期や量に変化が現れます。
主な症状
- 月経周期の短縮(21日未満)
- 不規則な出血
- 月経量の増加または減少
- 更年期特有の症状(ホットフラッシュ気分の変動など)との併発
年齢別の症状の比較
各年代における頻発月経の症状を比較すると次のような特徴が見られます。
年代 | 主な特徴 |
思春期 | ホルモンバランスの不安定さによる症状 |
成熟期 | 不規則性と月経量の変化が顕著 |
更年期 | 他の更年期症状との併発が多い |
頻発月経の原因
頻発月経の原因はホルモンバランスの乱れや器質的な問題、そして生活習慣の影響などが主な要因です。
ホルモンバランスの乱れによる影響
頻発月経の主要な原因の一つは、ホルモンバランスの乱れです。
女性の月経周期は主に卵巣から分泌されるエストロゲンとプロゲステロンというホルモンによって調整されていますが、ホルモンバランスが崩れると正常な月経周期が乱れ頻発月経につながることがあります。
要因 | 説明 |
ストレス | 過度のストレスは視床下部-下垂体-卵巣軸に影響を与え、ホルモン分泌を乱す |
甲状腺機能障害 | 甲状腺ホルモンの異常は性ホルモンの分泌にも影響を及ぼす |
多嚢胞性卵巣症候群 | 卵巣のホルモン分泌異常を引き起こし、月経周期を乱す |
排卵障害 | 排卵が正常に行われないことで、ホルモンバランスが乱れる |
器質的要因
ホルモンバランス以外にも子宮や卵巣の器質的な問題が頻発月経の原因となる場合があります。
子宮内膜ポリープや子宮筋腫などの良性腫瘍は、子宮内膜の状態を変化させ頻発月経を引き起こすことがあります。
また、子宮内膜症や子宮腺筋症といった疾患も、月経周期の乱れを招く要因です。
生活習慣と環境要因
不規則な生活リズムや極端な食事制限過度の運動などは、体内のホルモンバランスに影響を与え月経周期を乱す可能性があります。
そして、環境ホルモンへの暴露や過度のストレスなども頻発月経のリスクを高める原因です。
生活習慣と環境要因に関連する頻発月経の原因
- 極端なダイエットや栄養不足
- 過度の運動や激しいトレーニング
- 不規則な睡眠パターン
- 長時間労働やシフトワーク
- 環境ホルモンを含む化学物質への暴露
複合的な要因の相互作用
頻発月経の原因は単一のものではなく複数の要因が複雑に絡み合っている場合が多いです。
要因の組み合わせ | 影響の例 |
ストレス + 不規則な生活 | ホルモンバランスの乱れと生活リズムの崩れが相乗効果を生む |
遺伝的素因 + 環境要因 | 遺伝的な感受性が高い場合、環境ホルモンの影響を受けやすい |
器質的問題 + ホルモン異常 | 子宮筋腫とホルモンバランスの乱れが重なり、症状が悪化 |
年齢 + 生活習慣 | 更年期前後の女性が不規則な生活を送ることで、症状が顕著になる |
診察(検査)と診断
頻発月経の診断は詳細な問診、身体診察、各種検査を組み合わせて行われます。
問診の重要性
頻発月経の問診では月経周期の長さ月経量月経痛の有無などについて質問し、また、ストレスや生活習慣の変化既往歴服薬歴なども確認します。
問診項目 | 確認内容 | 重要度 |
月経周期 | 日数規則性 | 高 |
月経量 | 多寡変化 | 高 |
随伴症状 | 痛み不快感 | 中 |
生活習慣 | 食事運動睡眠 | 中 |
身体診察の実施
問診に続いて身体診察を行い、全身状態の確認と共に特に骨盤内の状態を詳しく調べます。
主な診察項目
- 全身状態の観察(体重血圧脈拍など)
- 腹部の触診
- 内診(腟鏡診双合診)
- 乳房の視診と触診
診察により子宮や卵巣の状態腫瘤の有無、炎症の兆候などを確認します。
各種検査の実施
頻発月経の診断に用いられる主な検査
検査名 | 目的 | 特徴 |
血液検査 | ホルモン値貧血の有無など | 簡便で多くの情報が得られる |
超音波検査 | 子宮・卵巣の状態確認 | 非侵襲的で繰り返し実施可能 |
子宮内膜細胞診 | 子宮内膜の状態評価 | 内膜異常の早期発見に有効 |
MRI検査 | 骨盤内の詳細な画像診断 | 軟部組織の詳細な観察が可能 |
検査結果を総合的に判断することで頻発月経の原因や関連する疾患の可能性を探ります。
頻発月経の治療法と処方薬、治療期間
頻発月経の治療は原因に応じて行われ、ホルモン療法や非ホルモン療法、生活習慣の改善など多角的なアプローチが必要です。
ホルモン療法
ホルモン療法は頻発月経の治療において中心的な役割を果たし、体内のホルモンバランスを調整することで月経周期を正常化することが目標です。
低用量ピルや黄体ホルモン剤などが主に使用され、症状の改善や月経周期の安定化に効果を発揮します。
治療法 | 主な作用 | 一般的な治療期間 | 主な副作用 |
低用量ピル | 排卵抑制、月経周期の調整 | 3〜6か月以上 | 悪心、頭痛、体重増加 |
黄体ホルモン剤 | 子宮内膜の安定化 | 周期的に3〜6か月 | 浮腫、乳房痛 |
GnRHアゴニスト | 一時的な閉経状態の誘導 | 最長6か月程度 | 更年期様症状、骨密度低下 |
プロゲスチン徐放性子宮内避妊システム | 局所的なホルモン作用 | 3〜5年 | 不正出血、下腹部痛 |
非ホルモン療法
ホルモン療法が適さない場合や患者さんの希望により非ホルモン療法が選択されることがあります。
- 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs) 月経量の減少や疼痛緩和に効果があり頻発月経の症状管理に役立つ。
- 鉄剤の補充療法 頻発月経による貧血の予防や改善。
非ホルモン療法は単独で用いられることもありますが、多くの場合ホルモン療法と併用されます。
生活習慣の改善
頻発月経の治療において薬物療法と並んで生活習慣の改善も重要です。
生活習慣改善のポイント
- バランスの取れた食事と適切な栄養摂取
- 規則正しい睡眠パターンの確立
- 適度な運動の習慣化
- ストレス管理技法の習得
- 過度の飲酒や喫煙の回避
治療期間と経過観察
ホルモン療法は3〜6か月程度の継続が推奨され、非ホルモン療法や生活習慣の改善は数か月から数年にわたる管理が必要です。
治療アプローチ | 初期治療期間 | 長期管理 | フォローアップ間隔 |
ホルモン療法 | 3〜6か月 | 症状に応じて延長 | 1〜3か月ごと |
非ホルモン療法 | 1〜3か月 | 必要に応じて継続 | 2〜4か月ごと |
生活習慣改善 | 継続的 | 長期的な取り組み | 3〜6か月ごと |
複合的アプローチ | 3〜6か月 | 個別化された継続管理 | 1〜3か月ごと |
予後と再発可能性および予防
頻発月経の予後は原因や個人の状態によって異なりますが、治療により多くの方が症状の改善を経験します。
頻発月経の予後
頻発月経の予後は多くのケースで良好です。
予後の要因 | 影響 | 改善に要する期間 |
原因疾患 | 大きい | 数週間〜数ヶ月 |
年齢 | 中程度 | 個人差が大きい |
生活習慣 | 中程度 | 1〜3ヶ月 |
対応の早さ | 大きい | 数日〜数週間 |
ホルモンバランスの乱れが原因の場合はホルモン調整により、比較的短期間で改善が見られます。
ただし、器質的疾患が背景にある場合は、疾患の治療経過に応じて予後が変わってきます。
再発の可能性
頻発月経は一度改善しても再発する可能性があります。
再発リスクに影響を与える主な要因
- ストレス
- 不規則な生活リズム
- 急激な体重変動
- 過度の運動や激しいダイエット
- ホルモンバランスの変化
予防策
頻発月経の予防には日常生活での心がけが重要です。
効果的な予防法
予防法 | 効果 | 実践の難易度 |
規則正しい生活 | 高い | 中程度 |
ストレス管理 | 高い | やや難しい |
バランスの良い食事 | 中程度 | 中程度 |
適度な運動 | 中程度 | 比較的容易 |
頻発月経の治療における副作用やリスク
頻発月経の治療にはホルモン療法や非ホルモン療法などのアプローチがありますが、副作用やリスクもあります。
ホルモン療法に関連する副作用とリスク
低用量ピルや黄体ホルモン剤などのホルモン製剤は体内のホルモンバランスに影響を与えるため、一部の患者さんに不快な症状をもたらすことがあります。
吐き気、頭痛、体重増加、気分の変化などが一般的な副作用です。
また、ホルモン療法には血栓症のリスク増加という重大な懸念事項があり、特に喫煙者や高齢の患者さんでは注意が必要となります。
治療法 | 主な副作用 | 重大なリスク | 注意が必要な患者群 |
低用量ピル | 吐き気、頭痛、体重増加 | 血栓症、高血圧 | 喫煙者、35歳以上、肥満 |
黄体ホルモン剤 | 浮腫、乳房痛、不正出血 | うつ症状、骨密度低下 | うつ病既往者、骨粗鬆症リスク群 |
GnRHアゴニスト | 更年期様症状、骨密度低下 | 長期使用による骨粗鬆症 | 閉経前女性、骨密度低下者 |
プロゲスチン徐放性子宮内システム | 不正出血、下腹部痛 | 子宮穿孔(極めてまれ) | 子宮奇形、過去の子宮手術歴 |
非ホルモン療法における注意点
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などの非ホルモン療法も頻発月経の管理に用いられますが、注意すべき副作用があります。
NSAIDsの長期使用は胃腸障害や腎機能障害のリスクを高め、高齢の患者さんや既往歴のある方では慎重に使用することが大切です。
鉄剤補充療法には便秘や胃部不快感などの消化器症状も現れることがあります。
長期使用に伴うリスク
頻発月経の治療は長期にわたることが多く、特有のリスクにも注意が必要です。
- ホルモン療法の長期使用 乳がんや子宮体がんのリスクを僅かに増加させる。
- GnRHアゴニストの長期使用 骨密度の低下を引き起こし骨粗鬆症のリスクを高める。
治療法 | 長期使用のリスク | 推奨されるモニタリング | モニタリング頻度 |
ホルモン療法 | 乳がん、子宮体がんリスク増加 | 定期的な乳房検診、子宮頸がん検診 | 年1回以上 |
GnRHアゴニスト | 骨密度低下、骨粗鬆症 | 定期的な骨密度測定 | 6-12か月ごと |
NSAIDs | 胃腸障害、腎機能障害 | 定期的な血液検査、腎機能検査 | 3-6か月ごと |
鉄剤補充療法 | 鉄過剰、肝機能障害 | 血清フェリチン測定、肝機能検査 | 3-6か月ごと |
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
基本的な診察・検査費用
頻発月経の診断には問診や基本的な検査が行われます。
項目 | 概算費用(3割負担の場合) |
血液検査 | 1,500円〜3,500円 |
超音波検査 | 2,500円〜5,000円 |
子宮頸部細胞診 | 2,000円〜4,000円 |
薬物療法の費用
頻発月経の治療ではホルモン剤や漢方薬が処方されることがあります。
薬剤 | 1ヶ月あたりの概算費用(3割負担の場合) |
ピル | 2,500円〜6,000円 |
漢方薬 | 3,500円〜8,000円 |
プロゲステロン製剤 | 2,000円〜5,000円 |
高度な検査・治療の費用
原因の特定や合併症の検査のため、より詳細な検査が必要になることがあります。
- MRI検査 18,000円〜35,000円
- 子宮鏡検査 12,000円〜25,000円
- 内分泌検査 6,000円〜12,000円
- 卵巣機能検査 8,000円〜15,000円
以上
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