閉経後脂質異常症 – 婦人科

閉経後脂質異常症(postmenopausal dyslipidemia)とは、女性が閉経を経験した後に現れる脂質代謝の乱れのことです。

女性ホルモンのエストロゲン分泌が閉経によって減ると、体の中の脂質バランスが崩れ、体に悪影響を及ぼすLDLコレステロール(悪玉コレステロール)の量が増える一方で、体に良い働きをするHDLコレステロール(善玉コレステロール)の量が少なくなります。

脂質異常は、心臓の病気や脳卒中といった重大な循環器系の病気にかかるリスクを高めるのでコントロールすることが大事です。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

閉経後脂質異常症の主な症状

閉経後脂質異常症の症状には、体重の増加、循環器系への影響、骨の強度低下など、幅広いものがあります。

体重増加と体型の変化

閉経後脂質異常症になると、体重が増えやすくなります。

特にお腹まわりに脂肪がつきやすく、いわゆる「リンゴ型肥満」と呼ばれる体型になりやすく、体型の変化は見た目の問題だけでなく、健康面でも注意が必要な点です。

体型の変化健康への影響
お腹まわりの脂肪増加糖尿病になるリスクが高まる
全身的な体重増加関節への負担が大きくなる

循環器系への影響

閉経後脂質異常症は、心臓や血管にも悪い影響を及ぼします。

LDLコレステロール(悪玉コレステロール)の量が増え、HDLコレステロール(善玉コレステロール)の量が減り、動脈硬化が進みやすくなります。

コレステロール値の変化により、心臓病や脳卒中といった重大な病気にかかるリスクが高くなるのです。

診察した患者さんの中には閉経を迎えた後、突然血圧が高くなり始めた方が多くいました。

閉経前後は特に、定期的に血圧を測ること、血液中の脂質の量を調べる検査を受けることが大切です。

骨の強度低下

閉経後脂質異常症は、骨の健康状態にも関係しています。

エストロゲンが減ることで骨の密度が低くなりやすくなり、骨粗しょう症にかかるリスクが高くなります。

骨の変化健康への影響
骨密度の低下骨折しやすくなる
カルシウム吸収率の低下骨がもろくなる

骨に影響が出ると現れる症状に注意してください。

  • 腰が痛む
  • 背中が痛む
  • 身長が縮む
  • 姿勢が悪くなる

肌や髪の変化

閉経後脂質異常症は外見にも変化を与え、肌のハリが失われ、しわやたるみが目立つようになり、髪の毛が細くなったり、抜け毛が増えることもあります。

部位変化の特徴
乾燥しやすい、しわが増える
細くなる、抜け毛が増える

閉経後脂質異常症の原因

閉経後脂質異常症は、女性ホルモンの低下で起こります。

ホルモンバランスの変化がもたらす影響

閉経後脂質異常症の原因は、エストロゲンの減少です。

閉経に伴いエストロゲンが減ると、動脈硬化のリスクを高めます。

ホルモン閉経前閉経後
エストロゲン高い低い
LDLコレステロール低い高い
HDLコレステロール高い低い

代謝機能の変化がもたらす影響

閉経後は基礎代謝が低下しエネルギー消費量が減少することで、体重増加や内臓脂肪の蓄積が起こりやすくなります。

内臓脂肪の増加はインスリン抵抗性を引き起こし、糖代謝にも影響を及ぼし、脂質異常症のリスクが上昇することに。

遺伝的要因と生活習慣の関与

閉経後脂質異常症の発症には遺伝的な理由も深く関わっていて、家族歴のある方は、発症のリスクが高いです。

また、食生活や運動不足といった日々の生活習慣も、閉経後脂質異常症の発症や進行に大きく関係します。

閉経後脂質異常症のリスクを高める原因

  • 高脂肪・高カロリーな食事を続けること
  • 日常的な運動不足
  • 習慣的な喫煙
  • 過度のアルコール摂取
  • 日々のストレス

他の疾患との相互関係

閉経後脂質異常症は他の健康問題とも関連していて、甲状腺機能低下症や糖尿病などの内分泌疾患は脂質代謝に変化を与え、脂質異常症のリスクを高めます。

関連疾患脂質代謝への影響
甲状腺機能低下症LDLコレステロール上昇
糖尿病中性脂肪上昇、HDLコレステロール低下
肥満LDLコレステロール上昇、HDLコレステロール低下

臨床例では50代後半の患者さんで、閉経後に運動量が減り、ストレス解消のために間食が増えたため、急激に中性脂肪値が上昇したケースがありました。

年代特徴的な変化
40代後半エストロゲン減少開始
50代前半閉経、脂質プロファイルの変化
50代後半代謝機能の低下顕著
60代以降生活習慣病リスク上昇

診察(検査)と診断

閉経後脂質異常症の診断は、いくつかの段階を踏んで進められます。

問診と身体検査

閉経後脂質異常症の診断は、患者さんから詳しい話を聞くことから始まります。

普段の生活の様子や、家族の病歴、今までにかかった病気などについて尋ね、その後、体重や血圧を測ったり、お腹まわりの大きさを確認するなどの身体検査が必要です。

問診内容具体的な内容
日々の生活習慣食事の内容、運動の頻度、たばこを吸うかどうか
家族の病歴心臓病や脂質異常症にかかった人がいるか

血液検査で体の中の状態を調べる

血液検査は閉経後脂質異常症を見つけるうえで、欠かせない検査です。

調べる項目

  • 体内のコレステロール全体の量
  • 悪玉コレステロール(LDLコレステロール)の量
  • 善玉コレステロール(HDLコレステロール)の量
  • 中性脂肪の量

数値を総合的に見て、体の中の脂質バランスが崩れていないかを判断します。

血液検査の項目何がわかるか
総コレステロール体内のコレステロール全体の量
LDLコレステロール動脈硬化を進める悪玉コレステロールの量
HDLコレステロール動脈硬化を防ぐ善玉コレステロールの量
中性脂肪エネルギー源として蓄えられている脂質の量

必要に応じて追加の検査を行う

閉経後脂質異常症は他の健康問題とも関係があるため、場合によっては追加の検査を行います。

心電図検査で心臓の状態を調べたり、首の血管をエコーで見て動脈硬化の程度を確認することで、心臓や血管の健康状態をより詳しく把握できるのです。

追加で行う検査何を調べるのか
心電図検査心臓の電気的な動きを記録し、異常がないか確認する
頸動脈エコー検査首の血管の状態を超音波で見て、動脈硬化の進行度を調べる

閉経後脂質異常症の治療法と処方薬、治療期間

閉経後脂質異常症の治療は、日々の生活習慣を見直すことと、薬による治療を組み合わせて行います。

日常生活の改善

閉経後脂質異常症の治療では、日常生活を見直すことから始めます。

食事の内容を工夫したり適度な運動を取り入れたりすることで、体内の脂質バランスを整えていくことが目標です。

  • 動物性脂肪の摂取を控えめにし、植物性油や魚油をバランスよく取り入れる
  • 野菜や果物、全粒穀物などの食物繊維が豊富な食品を積極的に食べる
  • 週に3回以上、ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動を行う
  • たばこを吸わない、または禁煙に取り組む
  • お酒の量を控えめにする

薬による治療の選び方

生活習慣を改善しても十分な効果が見られないときは、薬剤による治療を考えます。

閉経後脂質異常症の治療に使われる薬剤

お薬の種類主な働き
スタチン悪玉コレステロールを下げる
フィブラート中性脂肪を下げ、善玉コレステロールを増やす
エゼチミブ腸からのコレステロール吸収を抑える
PCSK9阻害薬悪玉コレステロールを大幅に下げる

薬剤は、患者さんの脂質の状態や心臓病のリスク、副作用の可能性などを検討して決めていきます。

女性ホルモン補充療法

閉経後脂質異常症の治療では、女性ホルモンを補う方法(ホルモン補充療法)も一つの選択肢として考えられます。

女性ホルモンの一種であるエストロゲンを補うことで、悪玉コレステロールを減らしたり、善玉コレステロールを増やしたりするのが目的です。

ただし、ホルモン補充法にはデメリットがあるので、患者さん一人ひとりの状況をよく考えて判断する必要があります。

ホルモン補充療法の良い点ホルモン補充療法の注意点
脂質のバランスが良くなる乳がんになる危険性が少し高まる
更年期の症状が和らぐ血液が固まりやすくなる可能性がある
骨を丈夫に保つ子宮内膜がんになる危険性が少し高まる

治療期間と定期的な検査の重要性

閉経後脂質異常症の治療は、時間がかかります。

治療を始めたら定期的に血液検査を行い、脂質の状態がどのように変化しているか、薬の副作用は出ていないかなどを確認することが大切です。

治療開始からの期間主な確認事項
1ヶ月後副作用の有無、初期の脂質改善状況
3ヶ月後脂質プロファイルの変化、生活習慣の改善状況
6ヶ月後治療目標達成の確認、長期的な副作用のチェック
1年後以降継続的な効果の維持、新たな健康リスクの評価

閉経後脂質異常症の治療における副作用やリスク

閉経後脂質異常症での薬剤による治療や生活習慣を改善する方法などは、それぞれに注意点があります。

薬剤治療で気をつけたい副作用

閉経後脂質異常症の治療でよく使われるのは、コレステロールを下げるスタチン系や、食物繊維のような働きをする繊維系の薬です。

お薬の種類主な副作用
スタチン系筋肉の痛み、肝臓の機能低下
繊維系おなかの調子が悪くなる、栄養の吸収が悪くなる

スタチン系の薬を飲むと筋肉の痛みや力が弱くなることがあります。

まれに、横紋筋融解症という深刻な状態になることもあるため、筋肉の痛みが強くなったり、尿の色が濃くなったりしたら、すぐに相談してください。

また、肝臓の機能に影響を与えることもあるので、定期的に血液検査を受けて、肝臓の状態を調べるることが欠かせません。

副作用の種類注意すべき症状
筋肉の異常筋肉痛、筋力低下、尿の色が濃くなる
肝機能障害疲れやすい、食欲不振、皮膚や白目が黄色くなる

ホルモン補充療法を受ける際の注意点

閉経後脂質異常症の治療の一つとして、ホルモン補充療法が検討されることがあります。

ホルモン補充療法を受ける際には、リスクについて医師とよく相談しましょう

  • 乳がんになる可能性が少し高くなる
  • 血液が固まりやすくなり、血栓症になる危険性が高まる
  • 子宮内膜がんになる可能性が高まる(黄体ホルモンという別のホルモンを一緒に使わない場合)
ホルモン補充療法のリスク注意すべき点
乳がん定期的な乳がん検診を受ける
血栓症足のむくみや痛みに注意する
子宮内膜がん不正出血があれば医師に相談する

他の薬との飲み合わせ

閉経後脂質異常症の患者さんは他の病気のお薬も飲んでいることが多く、薬同士の相互作用に気をつける必要があります。

一例として、コレステロールを下げる薬と特定の抗生物質を一緒に飲むと、副作用が出やすいです。

患者さんが風邪薬を飲んだことで、コレステロールを下げるお薬の効き目が強くなり、筋肉の痛みがひどくなってしまったケースがありました。

このようなリスクを避けるために、現在飲んでいるすべての薬(サプリメントも含め)を伝えてください。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

定期検査の費用

閉経後脂質異常症の管理には、定期的な血液検査が必要です。

検査項目頻度概算費用
脂質検査3ヶ月に1回2,000円
肝機能検査6ヶ月に1回1,500円

薬物療法にかかる費用

薬物療法を行う場合、以下のような費用が発生します。

  • スタチン製剤 月額3,000円から8,000円
  • フィブラート系薬剤 月額2,500円から6,000円
  • エゼチミブ 月額4,000円から7,000円

ホルモン補充療法の費用

ホルモン補充療法をすると、追加の費用がかかります。

投与方法月額費用
経口薬3,000円から7,000円
貼付剤4,000円から9,000円

*閉経後脂質異常症の治療は保険が適用されます。

以上

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