月経前症候群(PMS)(premenstrual syndrome)とは、月経前の約1〜2週間に現れる身体的・精神的な症状の総称です。
PMSの症状は個人差が大きく、イライラや気分の落ち込み、頭痛、むくみなどが現れ日常生活に支障をきたすこともあります。
月経前症候群にはホルモンバランスの変動が大きく関与しています。
月経前症候群(PMS)の主な症状
月経前症候群(PMS)は、多様な身体的・精神的症状を伴う婦人科疾患です。
症状は個人差が大きく、月経前に現れ月経開始とともに軽快します。
PMSの一般的な症状
PMSの症状は身体的なものと精神的なものに大別され、月経開始の7〜10日前から現れ始め、月経とともに軽減または消失することが多いです。
身体的症状には乳房の張りや痛み、むくみ、頭痛、腹部膨満感などがあり、精神的症状としては、イライラ感、気分の落ち込み、不安感、集中力の低下などが挙げられます。
症状の組み合わせや程度は人によって異なり、同じ人でも月ごとに変化することも珍しくありません。
身体的症状 | 精神的症状 |
乳房の張り | イライラ感 |
むくみ | 気分の落ち込み |
頭痛 | 不安感 |
腹部膨満感 | 集中力低下 |
症状の程度と生活への影響
PMSの症状は軽度の場合は日常生活にほとんど支障はありませんが、中等度から重度になると仕事や学業に影響が出ることがあります。
症状の程度 | 生活への影響 |
軽度 | ほとんど影響なし |
中等度 | 一部活動に支障 |
重度 | 著しい生活障害 |
身体的症状
PMSの身体的症状は多岐にわたります。
主な症状
- 乳房の張りや痛み 乳房が腫れて触ると痛みを感じる。
- むくみ 手足や顔がむくんで、指輪がきつくなったり靴が履きづらくなる。
- 頭痛 緊張型頭痛や片頭痛が起こることがある。
- 腹部膨満感 お腹が張って苦しく感じる。
- 便秘や下痢 排便の状態が変化する。
- 体重増加 一時的に体重が増える。
- 肌荒れ ニキビが増えたり、肌の状態が悪化。
身体的症状 | 具体的な状態 |
乳房の変化 | 張りや痛みを感じる |
消化器症状 | 便秘や下痢が起こる |
体重変化 | 一時的な増加がある |
皮膚の変化 | ニキビや肌荒れが生じる |
精神的症状の詳細
PMSの精神的症状も多様です。
イライラ感は最も一般的な症状の一つで、些細なことで怒りっぽくなったり、周囲とのコミュニケーションが難しくなったりすることがあります。
気分の落ち込みや不安感も多くの人が経験する症状で、集中力の低下は仕事や学業に影響を与えることがあります。
他にもみられる症状は、過食や特定の食品(特に甘いものや塩辛いもの)への渇望、不眠や過眠などです。
精神的症状 | 具体例 |
イライラ感 | 些細なことで怒る |
気分の落ち込み | 何もする気が起きない |
不安感 | 将来のことを過度に心配する |
集中力低下 | 仕事や勉強に集中できない |
月経前症候群(PMS)の原因
月経前症候群(PMS)の原因は複雑で単一の要因ではなく、複数の要因が絡み合って引き起こされます。
主な要因は、ホルモンの変動、神経伝達物質の不均衡、遺伝的要因、環境要因などです。
ホルモンの変動とPMS
月経周期に伴うホルモンの変動、特に、黄体期におけるエストロゲンとプロゲステロンの急激な変化が、身体的および精神的な症状を引き起こします。
ホルモンの変動は脳内の神経伝達物質にも影響を与え、気分の変化や身体症状を起こす原因です。
ホルモン | 黄体期の変化 |
エストロゲン | 急激な減少 |
プロゲステロン | 急激な増加後、減少 |
神経伝達物質の不均衡
ホルモンの変動に加え、神経伝達物質の不均衡もPMSの原因として注目されており、特に、セロトニンやガンマアミノ酪酸(GABA)などの神経伝達物質が関与しています。
神経伝達物質は気分や情動の調整に関わっており、その不均衡がPMSの精神症状を引き起こす可能性があるのです。
神経伝達物質 | PMSとの関連 |
セロトニン | 気分の安定に関与 |
GABA | 不安の軽減に関与 |
遺伝的要因の影響
PMSの発症には遺伝的な要因も関与していることが分かっており、家族内でPMSの症状が似ていることや双子研究などから、遺伝的な素因がPMSの発症リスクを高める可能性が示唆されています。
ただし、遺伝子だけでPMSが決定されるわけではなく、環境要因との相互作用です。
環境要因とライフスタイルの影響
ストレス、食生活、運動習慣、睡眠の質など、さまざまな要因がPMSの発症や症状の程度に影響を与えます。
環境要因 | PMSへの影響 |
ストレス | 症状の悪化 |
食生活の乱れ | 栄養バランスの崩れ |
運動不足 | 身体的・精神的ストレスの蓄積 |
睡眠不足 | ホルモンバランスの乱れ |
診察(検査)と診断
月経前症候群(PMS)の診断は主に問診と症状の記録に基づいて行われ、患者さんの症状パターンを詳しく聞き取り、必要に応じて身体診察や検査を実施します。
問診の重要性
PMSの診断において問診は最も重要な要素です。
- 症状の種類や程度
- 月経周期との関連性
- 日常生活への影響
- 既往歴や家族歴
- 生活習慣
問診からの情報はPMSの診断だけでなく、他の疾患との鑑別にも役立ちます。
問診項目 | 具体例 |
主な症状 | 身体的・精神的症状の詳細 |
症状の時期 | 月経周期との関連 |
生活への影響 | 仕事や日常生活への支障 |
既往歴 | 過去の病歴や治療歴 |
症状記録の方法
PMSの診断には少なくとも2〜3周期分の症状記録が必要です。
記録項目 | 内容例 |
症状の種類 | 身体的・精神的症状 |
症状の程度 | 軽度・中等度・重度 |
発症日 | 月経開始からの日数 |
持続期間 | 症状が続いた日数 |
身体診察と検査
問診と症状記録に加えて必要に応じ身体診察や検査が行われることがあります。
- 一般的な身体診察 血圧測定、体重測定など
- 婦人科的診察 必要に応じて
- 血液検査 甲状腺機能、貧血の有無など
- 超音波検査 卵巣や子宮の状態確認
診察や検査はPMSの診断を確定するためというよりも、他の疾患を除外するために行われることが多いです。
検査項目 | 目的 |
血液検査 | 甲状腺機能や貧血の確認 |
超音波検査 | 卵巣や子宮の状態評価 |
婦人科的診察 | 子宮や卵巣の異常の有無確認 |
精神状態評価 | うつ病などの精神疾患の除外 |
診断基準
PMSの診断にはいくつかの診断基準が用いられ、代表的なものは米国産婦人科学会(ACOG)の診断基準です。
ACOG診断基準 | 内容 |
症状 | 1つ以上の情動・行動症状 |
時期 | 黄体期に症状が出現 |
改善 | 月経開始後数日以内に症状が改善 |
影響 | 社会生活や対人関係に支障をきたす |
月経前症候群(PMS)の治療法と処方薬、治療期間
月経前症候群(PMS)の主な治療法は、生活習慣の改善、薬物療法、心理療法などです。
治療期間は個人差が大きく、数か月から長期にわたることもあります。
生活習慣の改善による治療
PMSの治療において生活習慣の改善は基本的かつ重要なアプローチで、食事、運動、睡眠などの日常生活の見直しにより、多くの方が症状の軽減を経験します。
バランスの取れた食事と適度な運動はホルモンバランスの調整や体調管理に効果があり、生活習慣の改善は即効性はありませんが、継続することで徐々に効果が現れることが多いです。
改善項目 | 推奨される取り組み |
食事 | 野菜・果物の摂取増加、カフェイン・塩分の制限 |
運動 | 週3-5回の有酸素運動 |
睡眠 | 規則正しい睡眠リズムの確立 |
ストレス管理 | リラクゼーション技法の実践 |
通常、3-6か月程度の期間をかけて生活習慣の改善を試みます。
薬物療法による治療
生活習慣の改善だけで十分な効果が得られない際には薬物療法が考慮されます。
PMSの薬物療法
- 低用量ピル(経口避妊薬)
- 抗うつ薬(SSRI)
- 利尿薬
- 鎮痛剤
- 漢方薬
薬剤は症状の種類や程度に応じて選択され、例えば、精神症状が強い場合はSSRIが、むくみが顕著な場合は利尿薬が検討されることがあります。
薬剤の種類 | 主な効果 | 一般的な使用期間 |
低用量ピル | ホルモン調整 | 3-6か月以上 |
SSRI | 気分の安定 | 2週間-数か月 |
利尿薬 | むくみの軽減 | 必要時に短期間 |
鎮痛剤 | 痛みの緩和 | 必要時に短期間 |
多くの場合3-6か月程度の使用で効果を評価し、必要に応じて継続や変更を検討します。
心理療法と代替療法
薬物療法と並行して心理療法や代替療法も有効な選択肢で、認知行動療法(CBT)はPMSに伴う否定的な思考パターンを改善し、ストレス対処能力を高めるのに役立ちます。
また、リラクセーション技法も症状の緩和に効果があるとされており、数週間から数か月にわたって継続的に行われます。
療法の種類 | 主な効果 |
認知行動療法 | 思考パターンの改善 |
リラクセーション技法 | ストレス軽減 |
効果の現れ方には個人差がありますが、多くの場合8-12週程度で一定の効果が得られることが多いです。
予後と再発可能性および予防
月経前症候群(PMS)は対応により多くの場合改善が見込めますが、完全に消失することはまれです。
PMSの予後
PMSの予後は個人によって大きく異なり、予後に影響を与える要因は症状の重症度、ストレス管理能力、生活習慣の改善度などです。
予後の分類 | 特徴 |
良好 | 症状が軽減し、日常生活への影響が最小限 |
中程度 | 症状は残るが、管理可能な状態 |
不良 | 症状が持続し、生活に大きな影響がある |
再発の可能性
PMSは周期的に繰り返す特性があるため、完全に再発を防ぐことは難しいです。
再発のリスク要因としては、ストレスの増加、生活習慣の乱れ、ホルモンバランスの変化などが挙げられます。
再発リスク要因 | 対策例 |
ストレス増加 | リラックス法の実践 |
生活習慣の乱れ | 規則正しい生活リズムの維持 |
ホルモンバランスの変化 | 定期的な婦人科検診 |
睡眠不足 | 十分な睡眠時間の確保 |
予防のためのライフスタイル改善
PMSの予防や再発防止にはライフスタイルの改善が不可欠です。
- バランスの取れた食事と適度な運動
- 十分な睡眠とストレス管理
- カフェインやアルコールの摂取制限
- 規則正しい生活リズムの維持
改善項目 | 具体的な取り組み |
食事 | 野菜や果物の摂取増加、塩分控えめ |
運動 | 週3回以上の有酸素運動 |
睡眠 | 7-8時間の質の良い睡眠 |
ストレス管理 | リラックス法の実践、趣味の時間確保 |
月経前症候群(PMS)の治療における副作用やリスク
月経前症候群(PMS)の治療に用いられる薬物療法、ホルモン療法、サプリメント療法などは特有の注意点があります。
薬物療法の副作用
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)や非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などが使用されることがありますが、注意すべき副作用があります。
薬剤 | 主な副作用 |
SSRI | 吐き気、頭痛、不眠 |
NSAIDs | 胃腸障害、腎機能低下 |
SSRIの場合服用初期に一時的な症状の悪化が見られることがあり、また、長期使用による依存性や離脱症状にも注意が必要です。
ホルモン療法のリスク
ホルモン療法はPMSの症状改善に効果がある一方で、さまざまなリスクを伴います。
経口避妊薬や黄体ホルモン製剤を用いる場合、次のようなリスクに注意が必要です。
- 血栓症のリスク増加
- 乳がんリスクの微増
- 不正出血
- 体重増加
リスクは個人の健康状態や年齢、生活習慣によって異なり、特に喫煙者や高血圧の方は血栓症のリスクがさらに高まる可能性があるため、慎重な対応が求められます。
リスク要因 | 注意すべき点 |
喫煙 | 血栓症リスク増加 |
高血圧 | 心血管系合併症 |
年齢(35歳以上) | 副作用リスク上昇 |
肥満 | 血栓症リスク増加 |
サプリメント療法の注意点
PMSの症状緩和のために用いられるサプリメントにも副作用やリスクがあります。
サプリメント | 潜在的リスク |
カルシウム | 腎結石形成 |
ビタミンB6 | 過剰摂取による神経障害 |
セントジョーンズワート | 他の薬剤との相互作用 |
セントジョーンズワートは多くの薬剤と相互作用を起こす可能性があるため、使用する際は専門家に相談することが大切です。
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
生活習慣改善にかかる費用
サプリメントを利用する場合は、月額3,000円から10,000円程度の費用が発生することがあります。
例えば、ビタミンB6やカルシウムのサプリメントが月額5,000円前後、オメガ3脂肪酸のサプリメントが月額7,000円前後です。
薬物療法の費用
症状が重い場合や生活習慣の改善だけでは効果が不十分な場合、薬物療法が検討されます。
薬剤の種類 | 月額費用(目安) |
低用量ピル | 2,500円〜6,000円 |
SSRI | 4,000円〜9,000円 |
鎮痛剤 | 1,500円〜4,000円 |
漢方薬 | 3,000円〜7,000円 |
薬剤費用は保険適用の場合の自己負担額です。
心理療法の費用
PMSに伴う精神的症状の改善には、心理療法が効果的な場合があります。
認知行動療法やカウンセリングなどの心理療法は、1回あたり6,000円から18,000円程度かかり、通常複数回のセッションが必要です。
総合的な治療費の目安
PMSの治療費は個人の状況によって大きく異なりますが、治療費の目安は以下のとおりです。
- 初期段階(生活改善) 月額5,000円〜12,000円
- 中期段階(薬物療法追加) 月額8,000円〜18,000円
- 後期段階(心理療法追加) 月額25,000円〜45,000円
以上
Dickerson LM, Mazyck PJ, Hunter MH. Premenstrual syndrome. American family physician. 2003 Apr 15;67(8):1743-52.
Hofmeister S, Bodden S. Premenstrual syndrome and premenstrual dysphoric disorder. American family physician. 2016 Aug 1;94(3):236-40.
Biggs WS, Demuth RH. Premenstrual syndrome and premenstrual dysphoric disorder. American family physician. 2011 Oct 15;84(8):918-24.
Yonkers KA, O’Brien PS, Eriksson E. Premenstrual syndrome. The Lancet. 2008 Apr 5;371(9619):1200-10.
Greene R, Dalton K. The premenstrual syndrome. British medical journal. 1953 May 5;1(4818):1007.
Freeman EW. Premenstrual syndrome and premenstrual dysphoric disorder: definitions and diagnosis. Psychoneuroendocrinology. 2003 Aug 1;28:25-37.
Reid RL, Yen SS. Premenstrual syndrome. American Journal of Obstetrics and Gynecology. 1981 Jan 1;139(1):85-104.
Campagne DM, Campagne G. The premenstrual syndrome revisited. European Journal of obstetrics & Gynecology and reproductive biology. 2007 Jan 1;130(1):4-17.
Ryu A, Kim TH. Premenstrual syndrome: A mini review. Maturitas. 2015 Dec 1;82(4):436-40.
Rapkin A. A review of treatment of premenstrual syndrome & premenstrual dysphoric disorder. Psychoneuroendocrinology. 2003 Aug 1;28:39-53.