早発卵巣不全(POF/POI) – 婦人科

早発卵巣不全(POF/POI)(primary ovarian failure and insufficiency)とは、40歳未満の若い女性に起こる卵巣機能が低下したり止まったりする状態です。

卵巣からの女性ホルモンの分泌が減少し、月経不順や無月経といった症状が現れ、不妊の原因にもなります。

早発卵巣不全の発症には、遺伝的な要因や自己免疫の病気、化学療法や放射線治療の影響などが関係しているものの、原因が特定できないことも多いです。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

早発卵巣不全(POF/POI)の種類(病型)

早発卵巣不全(POF/POI)には、「早期卵胞喪失型」と「ゴナドトロピン抵抗性卵巣症候群型」という2つがあり、卵巣の働きが低下するメカニズムの違いによって分けられています。

早期卵胞喪失型

早期卵胞喪失型は卵巣の中にある卵子のもとになる卵胞が、普通の人よりも早くなくなってしまうも病型です。

早期卵胞喪失型の特徴

  • 卵巣の中の卵胞の数が激減
  • 血液中のFSH(卵胞刺激ホルモン)が増加
  • エストロゲンの分泌の減少

早期卵胞喪失型は、遺伝や免疫系の病気と関係があります。

特徴詳しい説明
卵胞の数とても少なくなっているか、ほとんどなくなっています
FSHの値40 mIU/mL以上と、かなり高くなっています
エストロゲン少なくなっています

ゴナドトロピン抵抗性卵巣症候群型

ゴナドトロピン抵抗性卵巣症候群型は、卵巣がFSHやLHというホルモンの刺激に反応しにくくなっている病型です。

ゴナドトロピン抵抗性卵巣症候群型の特徴

  • 卵巣の中に卵胞はあるが、十分に成長しない。
  • 血液中のFSHの値は普通か、少し高い。
  • エストロゲンの分泌量はいろいろな状態を行き来する。

ゴナドトロピン抵抗性卵巣症候群型はFSHやLHの受容体に問題があったり、卵巣の中の物質のバランスが崩れたりすることが原因です。

特徴詳しい説明
卵胞の数普通か、少し減っている
FSHの値普通か、少し高い
エストロゲン普通だったり低かったりと、変化

早発卵巣不全(POF/POI)の主な症状

早発卵巣不全(POF/POI)の症状には月経不順や無月経、ホットフラッシュ、不妊があります。

月経関連の症状

早発卵巣不全で最もよく見られる症状は、月経周期の乱れです。

患者さんの多くは月経不順や無月経を経験し、これは卵巣機能の低下により、正常な排卵が行われなくなることが原因です。

月経周期の変化

症状特徴患者さんへの影響
月経不順周期が不規則になる生活リズムの乱れ
過少月経経血量が減少する妊娠可能性の低下
無月経月経が完全に停止する不妊リスクの増加

ホルモン関連の症状

卵巣機能の低下は女性ホルモンにも影響を及ぼし、エストロゲンの減少から、身体的・精神的症状が現れます。

代表的な症状

  • ホットフラッシュ(顔や上半身のほてりや発汗)
  • 寝汗による睡眠の質の低下
  • 気分の変動や情緒不安定
  • 腟の乾燥による不快感
  • 性交痛による親密な関係への影響

骨密度への影響

エストロゲンは骨の健康の維持に必要で、早発卵巣不全によりエストロゲンが減ると、骨密度の低下が起こり骨粗しょう症のリスクが高まります。

年齢別の骨密度低下のリスク

年齢骨密度低下のリスク予防や対策の重要性
20代中程度定期的な運動習慣の確立
30代高いカルシウム摂取の意識的な増加
40代非常に高い専門医による定期的な検査と管理

不妊と生殖機能への影響

早発卵巣不全は卵巣機能の低下から排卵が行われなくなるため、自然妊娠が難しくなります。

影響心理的負担サポートの必要性
自然妊娠の困難不安や焦り専門家によるカウンセリング
将来設計の変更喪失感や落胆パートナーや家族の理解と支援
治療の必要性経済的・身体的負担医療機関との連携と情報提供

心血管系への影響

エストロゲンの減少は心血管系にも影響があり、早発卵巣不全の患者さんでは、心血管疾患のリスクが高まります。

リスク上昇の要因

リスク要因影響予防策
コレステロール値の上昇動脈硬化のリスク増加バランスの取れた食事
血管の弾力性低下高血圧のリスク増加定期的な運動
内臓脂肪の蓄積糖尿病のリスク増加適正体重の維持

早発卵巣不全(POF/POI)の原因

早発卵巣不全(POF/POI)の原因は遺伝的要因、自己免疫疾患、環境因子など、さまざまな要素が関係しています。

遺伝的要因

遺伝子の異常は早発卵巣不全(POF/POI)の主な原因の一つです。

関連している遺伝子変異

  • FMR1遺伝子(フラジャイルX症候群関連)
  • FOXL2遺伝子(眼瞼外反-早発閉経症候群関連)
  • BMP15遺伝子(卵胞発育に関与)
  • GDF9遺伝子(卵胞発育に関与)

遺伝子異常が起こることで、卵胞の発育に影響が出ます。

遺伝子関連する病態
FMR1フラジャイルX症候群関連POI
FOXL2眼瞼外反-早発閉経症候群
BMP15原発性卵巣機能不全
GDF9卵胞発育障害

自己免疫疾患

自己免疫疾患も早発卵巣不全(POF/POI)の原因です。

自己免疫性甲状腺疾患や全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患がある患者さんでは、自己免疫反応により卵巣組織が攻撃され、卵胞の数減ったり機能が低下したりします。

環境因子

環境要因も卵巣組織に直接的または間接的なダメージを与え、早発卵巣不全(POF/POI)の発症に関係しています。

影響のある環境要因

  • 化学療法や放射線療法
  • 環境ホルモン
  • 喫煙
  • ウイルス感染
環境因子影響メカニズム
化学療法卵胞の直接的破壊
放射線療法DNA損傷による卵胞死
環境ホルモン内分泌撹乱作用
喫煙酸化ストレス増大

代謝異常

代謝異常も早発卵巣不全(POF/POI)の原因です。

ガラクトース血症や17α-水酸化酵素欠損症などの代謝の疾患は、卵巣機能に影響を及ぼす物質がたまり、卵巣機能を低下させます。

原因不明の症例

原因不明の早発卵巣不全(POF/POI)もあり、約半数の症例ではっきりとした原因が特定できていません。

ただし、特定がはっきりしていない患者さんでも、定期的な経過の観察や関連する病気のスクリーニングが大切です。

診察(検査)と診断

早発卵巣不全(POF/POI)の診断は、問診、身体診察、血液検査、画像診断の複合的なアプローチで行われます。

初診時の問診と身体診察

POF/POIの診断は問診から始まり、患者さんの月経歴、家族歴、既往歴など聞き取ります。

身体診察では二次性徴の発達の状況や全身状態を調べ、患者さんの健康状態を総合的に評価します。

問診と身体診察で得る情報

  • 月経の規則性や最終月経日
  • 不妊の有無とその期間
  • 家族における類似症状の有無
  • 自己免疫疾患や内分泌疾患の既往
  • 化学療法や放射線治療の経験
問診項目確認内容診断における意義
月経歴不順や無月経の期間POF/POIの可能性を示唆
家族歴類似症状の有無遺伝的要因の推測
既往歴関連疾患や治療歴二次性POF/POIの可能性評価

血液検査による内分泌機能評価

POF/POIの診断で行われる血液検査の項目には、卵巣機能が分かるホルモン値の測定が含まれます。

検査結果は患者さんの卵巣機能の状態を客観的に知るための、大切なデータです。

検査項目基準値POF/POIでの特徴
FSH(卵胞刺激ホルモン)40歳未満で25 IU/L以上高値
エストラジオール50 pg/mL未満低値
AMH(抗ミュラー管ホルモン)1.0 ng/mL未満低値または検出限界以下

画像診断による卵巣評価

超音波検査は卵巣の大きさや卵胞の状態を調べるために用いられ、POF/POIでは、卵巣の萎縮や卵胞数の減少が見られます。

超音波所見正常卵巣POF/POIでの特徴
卵巣サイズ標準的縮小傾向
卵胞数多数著しく減少
卵胞の大きさ様々なサイズ小型卵胞が主体

また、必要であればMRIなどの画像診断も行われ、検査は卵巣の詳しい様子や他の骨盤内臓器の状態の確認に役立てます。

遺伝子検査と染色体分析

POF/POIの一部では、遺伝的要因が関係しているため、遺伝子検査や染色体分析が行われます。

遺伝子検査と染色体分析で得られる項目

  • X染色体の異常の有無
  • POF/POI関連遺伝子の変異
  • 潜在的な遺伝性疾患のリスク
検査項目検査内容得られる情報
染色体分析核型分析X染色体異常の検出
遺伝子検査特定遺伝子の変異解析POF/POI関連遺伝子の変異同定

早発卵巣不全(POF/POI)の治療法と処方薬、治療期間

早発卵巣不全(POF/POI)の治療方法は、患者さんの年齢や将来おこさんを希望されるかどうかによって異なります。

ホルモン補充療法(HRT)

お子さんを希望しない患者さんには体内で不足しているエストロゲンとプロゲステロンを補充し、更年期症状をやわらげ、骨粗しょう症になるリスクを下げます。

エストロゲンとプロゲステロンを周期的に投与し、自然な月経周期に近い状態にもっていくことが目標です。

治療は平均的な閉経年齢の50歳前後まで続けます。

治療法主な目的
ホルモン補充療法更年期症状を軽減し、骨の密度を維持する
Kaufmann療法子宮内膜を周期的に剥がれやすくし、不規則な出血を防ぐ

Kaufmann療法と排卵誘発剤

お子さんを希望される患者さんには、Kaufmann療法と排卵誘発剤を組み合わせた治療を行います。

Kaufmann療法はエストロゲンとプロゲステロンを周期的に投与することで、子宮内膜を規則的に剥がれやすくし、不規則な出血を防ぐ方法です。

さらに排卵誘発剤を併用することで排卵を促し、妊娠の確率を高めます。

処方する薬と使用方法

  • エストロゲン製剤 飲み薬や貼り薬があり、患者さんの状態や希望に応じて選ぶ。
  • プロゲステロン製剤 飲み薬や腟に入れる薬が使われ、エストロゲンと一緒に使うことで子宮の内側を守る。
  • 排卵誘発剤 クロミフェンやゴナドトロピンを用い卵巣の働きを回復させる。
処方薬主な種類使用目的
エストロゲン製剤飲み薬、貼り薬足りないエストロゲンを補う
プロゲステロン製剤飲み薬、腟に入れる薬子宮の内側を守る
排卵誘発剤飲み薬、注射卵巣の働きを回復させる

治療期間と定期的な検査の必要性

早発卵巣不全の治療は長期間にわたることが多いため、定期的に状態を調べることが大切です。

治療を始めてから3〜6ヶ月ごとに血液中のホルモン濃度と超音波検査を行い、1〜2年ごとに骨密度検査を実施します。

検査項目頻度
血液中のホルモン濃度3〜6ヶ月ごと
超音波検査3〜6ヶ月ごと
骨密度検査1〜2年ごと

早発卵巣不全(POF/POI)の治療における副作用やリスク

早発卵巣不全(POF/POI)の治療法であるホルモン補充療法(HRT)や排卵誘発剤の使用には、副作用とリスクがあります。

ホルモン補充療法(HRT)の副作用

HRTは一定のリスクがあり、患者さんの体質や生活習慣によって影響が違ってきます。

喫煙者や肥満の方で最も懸念される副作用が血栓症です。

副作用リスク因子注意点
血栓症喫煙、肥満生活習慣の改善が重要
乳房痛高用量エストロゲン用量調整で改善の可能性あり
吐き気個人差あり服用時間の調整で軽減できることも

頭痛などの軽度の副作用もありますが、時間の経過や薬剤の調整によって改善します。

HRTの長期使用に関するリスク

HRTの長期使用には乳がんリスクの上昇があるので、リスクとメリットを十分に理解してください。

期間リスク評価推奨される対応
自然閉経年齢まで許容範囲内定期的な経過観察
自然閉経年齢以降個別評価が必要専門医との相談が必要

排卵誘発剤使用のリスク

排卵誘発剤を使用すると卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクがあり、OHSSは軽度から重度までいろいろな症状が起こります。

OHSSの程度主な症状対応
軽度腹部膨満感、軽度の腹痛外来での経過観察
中等度嘔吐、呼吸困難頻回の経過観察、場合により入院
重度胸水、腹水、血液濃縮入院による集中治療

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

診断にかかる費用

早発卵巣不全(POF/POI)の診断にはいくつかの検査が必要です。

検査項目概算費用
ホルモン検査4,000円~8,000円
超音波検査2,500円~4,500円
遺伝子検査30,000円~100,000円

薬剤費用

ホルモン補充療法(HRT)の薬剤費用

  • エストロゲン製剤(1ヶ月分)2,500円~4,500円
  • プロゲステロン製剤(1ヶ月分)1,800円~3,500円
  • 骨粗鬆症予防薬(1ヶ月分)3,000円~6,000円

関連する追加治療の費用

追加治療の費用

追加治療概算費用
骨密度検査3,000円~5,000円
心血管系検査5,000円~10,000円
不妊治療(1周期)300,000円~500,000円

医療保険の適用

早発卵巣不全(POF/POI)の治療は保険適用です。

以上

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