性索間質性腫瘍 – 婦人科

性索間質性腫瘍(sex cord-stromal tumors)は、卵巣に現れる腫瘍の一つです。

この腫瘍は生殖器官の成長に関与する細胞から発生するため、時としてホルモンを分泌します。

良性から悪性まで幅広い性状を示し、年齢に関係なく発症します。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

性索間質性腫瘍の種類(病型)

性索間質性腫瘍の主要な病型は、成人型顆粒膜細胞腫、セルトリ・ライディッヒ細胞腫、線維腫です。

成人型顆粒膜細胞腫

成人型顆粒膜細胞腫は、性索間質性腫瘍の中でも発生頻度が高い病型です。

閉経後の女性に多く見られますが、若い方でも発生します。

顆粒状の細胞質を持ち、Call-Exner小体が観察されます。

特徴詳細
好発年齢閉経後
組織学的特徴顆粒状細胞質、Call-Exner小体

セルトリ・ライディッヒ細胞腫

セルトリ・ライディッヒ細胞腫は珍しい病型です。

若い女性に発生し、アンドロゲンを作る能力を持ちます。

腫瘍の特徴セルトリ・ライディッヒ細胞腫
好発年齢若い女性
内分泌学的特徴アンドロゲン産生

線維腫

線維腫は性索間質性腫瘍の中では予後が良好な病型です。

成人女性に発生し、無症状で経過することがあり、紡錘形の線維芽細胞に似た細胞が束状に並ぶものが観察されます。

性索間質性腫瘍の主な症状

性索間質性腫瘍はホルモンの産生量や腫瘍の大きさにより、月経周期の乱れや腹部のはり感といった症状が現れます。

成人型顆粒膜細胞腫の症状

成人型顆粒膜細胞腫は、女性ホルモンの一種であるエストロゲンを通常以上に多く作り出します。

このホルモンバランスの乱れが原因で、月経周期が不規則になったり、予期せぬ出血が起こります。

また、閉経を迎えた方に、突然出血が見られることも珍しくありません。

腫瘍のサイズが大きくなると、下腹部に違和感や痛みを感じます。

症状特徴
月経周期の乱れ周期が不規則になったり、量が変化したりする
思わぬタイミングでの出血予期せぬ時期に出血が起こる
下腹部の張り感お腹が張ったような感覚がする
下腹部の痛み下腹部に不快な痛みを感じる

セルトリ・ライディッヒ細胞腫の症状

セルトリ・ライディッヒ細胞腫は、男性ホルモンのアンドロゲンを発生することで知られる腫瘍で、体に男性的な症状が見られます。

  • 声が低くなる
  • 肌荒れが目立つようになる
  • 体毛が濃くなる
  • 月経が来なくなる

また、腫瘍が大きくなると、お腹が張ったような感覚や痛みを覚えます。

線維腫の症状

線維腫は特定のホルモンは作り出さないので、ホルモンの影響による症状は見られません。

症状詳細
お腹の張り感お腹が膨らんだような感覚がする
腹部の痛みお腹に不快な痛みを感じる
トイレが近くなる排尿の回数が増える
お通じが滞りがち便秘気味になる

性索間質性腫瘍の原因

性索間質性腫瘍は遺伝子の変異、体内のホルモンバランスの崩れ、環境の影響が互いに作用し合って、発症します。

遺伝子が果たす役割

性索間質性腫瘍が発生する背景には、遺伝子が大きく関わっていて、特定の遺伝子に変化が起きたり染色体に異常が生じることで、腫瘍ができやすくなります。

FOXL2に変異が起きると成人型顆粒膜細胞腫ができやすく、DICER1に変異が見られると、セルトリ・ライディッヒ細胞腫のリスクが高くなります。

腫瘍の種類関係する遺伝子
成人型顆粒膜細胞腫FOXL2
セルトリ・ライディッヒ細胞腫DICER1

遺伝子変異は細胞が増加したり成長する仕組みに影響を与え、その結果として腫瘍ができると考えられます。

体内のホルモンバランスの乱れ

性索間質性腫瘍は卵巣でホルモンを作る細胞から発生するため、体内のホルモンの状態が乱れると、腫瘍ができるきっかけになります。

女性が閉経を迎えた後、体内のエストロゲンの量が急に減ることが成人型顆粒膜細胞腫のできやすくなる一因です。

また、セルトリ・ライディッヒ細胞腫では、男性ホルモンが多くなりすぎる症状が見られますが、これは腫瘍ができたことで男性ホルモンの分泌が異常になっているためです。

環境要因

化学物質を浴びたり放射線を受けるなど外からの影響で細胞のDNAが傷つき、腫瘍ができやすくなります。

環境ホルモンに長い間さらされ続けると体内のホルモンバランスが乱れ、性索間質性腫瘍ができるリスクがあがります。

環境要因考えられる影響
化学物質を浴びるDNAが傷つく
放射線を受ける細胞に変化が起きる
環境ホルモンホルモンバランスが乱れる

年齢と腫瘍

年齢も性索間質性腫瘍ができることに関係する要素です。

成人型顆粒膜細胞腫は閉経を迎えた後の女性に多く見られ、これは年を重ねるにつれてホルモンバランスが変化し、長い間環境からの影響を受け続けたりしたことが関係しています。

一方で、セルトリ・ライディッヒ細胞腫は若い女性に多く見られます。

ただし、20代の若い女性の患者さんがセルトリ・ライディッヒ細胞腫と診断されたこともあります。

この患者さんの場合、家族の病歴を調べ遺伝子検査をした結果、DICER1という遺伝子に生まれつき変異がありました。

若いうちから腫瘍ができた背景には、遺伝子の変化が強く影響したと考えられます。

腫瘍の種類多く見られる年齢考えられる理由
成人型顆粒膜細胞腫閉経後の女性ホルモンバランスの変化、長期的な環境の影響
セルトリ・ライディッヒ細胞腫若い女性遺伝子の影響、成長段階特有のホルモン環境

診察(検査)と診断

性索間質性腫瘍を正確に診断するためには、問診と体の様子を診たあと、画像を使った検査や血液検査を行い、最終的には顕微鏡を使って組織を詳しく調べます。

問診と体の診察

診断の第一歩は、患者さんがどのような症状を感じているか、いつ頃から症状が現れたか、ご家族に似たような病気の方がいるかを聞くことです。

その後触診と内診を行いしこりの有無や大きさ、固さを調べます。

診察の内容医師が確認すること
患者さんとの会話症状の詳しい内容、症状が始まった時期、家族の病歴
体の診察お腹のしこり、内診での異常な部分

画像を使った検査

画像検査は腫瘍がどこにあるか、どのくらいの大きさなのか、周りの組織とどのような関係にあるかを知るために有効な検査方法です。

  • 超音波検査
  • CT検査
  • MRI検査

まず超音波検査を選び、CTやMRI検査はより細かい情報を得たい場合に実施します。

血液を調べる検査

血液検査では、腫瘍に関連する特殊なタンパク質(腫瘍マーカー)やホルモンの量を測定し、性索間質性腫瘍の種類によって測定値が変化を示すため、診断の手がかりになります。

血液検査で調べるもの主に確認したい内容
腫瘍に関連するタンパク質インヒビンBという物質、AMHというホルモン
体内のホルモン量女性ホルモンの一種であるエストラジオール、男性ホルモンの一種であるテストステロン

顕微鏡を使った組織の観察

最終的な診断のためには、顕微鏡を使って組織を詳しく調べる検査(病理検査)が必須です。

手術で取り出した組織や、細い針で採取した少量の細胞を使って行います。

40代の患者さんで、画像検査では良性の腫瘍ではないかと考えられたものの、顕微鏡での検査で境界悪性(良性と悪性の中間的な性質を持つもの)と診断されたケースがありました。

このように、確定診断はさまざまな角度から行うことが必要です。

性索間質性腫瘍の治療法と処方薬、治療期間

性索間質性腫瘍の治療は手術で腫瘍を取り除く方法、抗がん剤を使う化学療法、ホルモンのバランスを整えるホルモン療法があります。

手術で腫瘍を取り除く方法

手術では腫瘍を完全に取り除くため、卵巣や子宮を摘出します。

早い段階で見つかった場合は、体への負担が少ないおなかに小さな穴を開けて行う腹腔鏡手術を選ぶことが可能です。

手術の範囲は腫瘍の進行度、患者さんの年齢、将来子供を産みたいかを考慮して決定します。

手術の方法それぞれの特徴
おなかを大きく切る手術広い範囲の腫瘍を取り除ける
腹腔鏡手術体への負担が少なく、回復が早い

手術後の入院期間は、1〜2週間くらいです。

抗がん剤を使う化学療法

化学療法は進行した腫瘍の治療や、手術後に腫瘍が再び出てくるのを防ぐために使われます。

よく使われる薬剤は、ブレオマイシン、エトポシド、シスプラチンで、これらの薬を組み合わせて使うBEP療法が標準的な治療法です。

化学療法は3〜4週間を1つのサイクルとして、それを何回か繰り返して行います。

薬の名前主な副作用
ブレオマイシン肺に影響が出ることがある
エトポシド血液を作る働きが弱くなることがある
シスプラチン腎臓や聴力に影響が出ることがある

治療期間は3〜6ヶ月になります。

ホルモンのバランスを整える治療

ホルモン療法は、腫瘍の成長を抑えることが目的です。

特に顆粒膜細胞腫という女性ホルモンを作り出すタイプの腫瘍に対して効果があります。

使われる薬は、アロマターゼ阻害剤やGnRHアゴニストです。

ホルモン療法は長い期間続けることが多く、数ヶ月から数年にわたり治療を続けます。

治療法主な効果治療期間
手術療法腫瘍の完全除去1〜2週間の入院
化学療法がん細胞の増殖抑制3〜6ヶ月
ホルモン療法腫瘍の成長抑制数ヶ月〜数年

放射線を使った治療

放射線療法は手術ができない方や、一度治療した後に再び腫瘍が出てきた患者さんに使われ、5〜6週間毎日病院に通って受けます。

この療法は卵巣の働きに影響が出たり、周りの臓器に障害が起きたりすることがあるので注意してください。

治療後の経過観察

性索間質性腫瘍の治療が終わった後も、長い期間にわたって経過を見ていくことが大切です。

経過観察のスケジュール

  • 治療後1年目:2〜3ヶ月ごとに検査
  • 治療後2〜3年目:3〜4ヶ月ごとに検査
  • 治療後4〜5年目:6ヶ月ごとに検査
  • 治療後6年目以降:年に1回検査

性索間質性腫瘍の治療における副作用やリスク

性索間質性腫瘍の治療法は、それぞれに副作用やリスクがあります。

手術療法の副作用

多くのケースで手術が治療方法として選ばれますが、いくつか注意すべき点があります。

どんな手術でも起こりうる一般的なリスクは、予想以上の出血や傷口の感染です。

また、腹腔鏡手術開腹手術では、周りの臓器を傷つけてしまう可能性もあります。

気をつけることどんなことが起こるか
出血手術中や手術後に予想以上の出血が起こる
感染手術した部分や尿の通り道に菌が入る
臓器の傷つき膀胱や腸などの周りの臓器を誤って傷つける

若い患者さんではできるだけ卵巣の働きを残すような手術を考えますが、腫瘍を完全に取り除くことと両立させるのが難しいこともあります。

薬物治療の副作用

ホルモンの働きを調整する薬剤では、更年期症状に似た症状が現れます。

  • 体が熱くなる感じ(ほてり)
  • 汗が出やすくなる
  • 骨がもろくなる
  • 血液が固まりやすくなる

がん細胞を直接攻撃する薬剤は、より広い範囲で体に影響が出ます。

体の変化どんなことが起こるか
血液をつくる力が弱まる白血球が減る、貧血になる、血小板が減る
おなかの調子が悪くなる吐き気がする、嘔吐する、下痢になる
髪の毛が抜ける一時的に髪の毛が抜ける

放射線治療の副作用

放射線を当てる治療は腫瘍の種類や場所によっては効果的な選択肢ですが、周りの健康な組織にも影響を与えるリスクがあります。

  • 皮膚が赤くなったり、色が濃くなったりする
  • 膀胱や直腸に炎症
  • 腸と腸の癒着
  • 妊娠しにくくなる

経過観察の必要性

性索間質性腫瘍の治療が終わった後も腫瘍が再び発生したり、体の別の場所に広がるリスクがあるので、定期検診が欠かせません。

定期検査の内容なぜ必要か
定期的な画像検査腫瘍が再び現れたり、広がったりしていないか早めに見つけるため
血液検査腫瘍に関係する物質やホルモンの量を確認するため
骨の強さを調べる検査骨がもろくなっていないか調べるため

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

手術療法の費用

  • 腹腔鏡下手術 約30万円から50万円
  • 開腹手術 60万円から100万円程度

化学療法の費用

化学療法は複数回のサイクルで行われ、薬剤費が主な費用です。

BEP療法の場合、1サイクルあたり約20万円から30万円で、通常3〜4サイクル行われるため、総額で60万円から120万円程度かかります。

治療法費用範囲
腹腔鏡下手術30〜50万円
開腹手術60〜100万円
化学療法(1サイクル)20〜30万円

放射線療法の費用

放射線療法は補助的に用いられ、費用は比較的高額で、一連の治療で約50万円から80万円程度かかります。

経過観察の費用

治療後の定期検査や画像診断にも費用がかかります。

  • CT検査:約2万円〜3万円
  • MRI検査:約3万円〜5万円
  • 腫瘍マーカー検査:約5千円〜1万円
  • 超音波検査:約5千円〜1万円
検査項目費用範囲
CT検査2〜3万円
MRI検査3〜5万円

以上

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