Turner(ターナー)症候群 – 婦人科

Turner(ターナー)症候群(Turner syndrome)とは、染色体の異常によって起こる先天性の疾患で、女性が持つ2本のX染色体のうち1本が欠損または不完全な状態にあることが特徴です。

染色体の異常により身体的な特徴や発達に影響が現れ、低身長や卵巣機能不全などの症状が見られることがあります。

ターナー症候群はおよそ2500人に1人の割合で女児に発生すると言われていますが、症状や程度には個人差が大きいです。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

Turner(ターナー)症候群の種類(病型)

Turner症候群は染色体構成によって大きく3つの病型に分類され、各病型はそれぞれ特徴的な染色体パターンを持ち、臨床像に影響を与えます。

典型的Turner症候群(45,XO型)

典型的Turner症候群は45,XOの核型を持つ病型で、通常2本あるX染色体のうち1本が完全に欠失しています。

45,XO型はTurner症候群の中で最も一般的な染色体構成であり、全体の約50%です。

特徴的な身体的特徴が顕著に現れることが多く、低身長や卵巣機能不全などが高頻度で観察されます。

染色体構成特徴
45,XOX染色体1本が完全に欠失
通常の女性46,XX(X染色体2本)

モザイク型Turner症候群

モザイク型Turner症候群は2種類以上の細胞系列が混在する状態です。

最も一般的なのは45,XO/46,XXモザイクで、体細胞の一部が45,XO、残りが46,XXという構成になっています。

モザイク型は典型的Turner症候群と比較して症状が軽度です。正常な46,XX細胞の割合が高いほど、Turner症候群の特徴的な症状が軽減される傾向があります。

モザイク型の種類染色体構成
XO/XX モザイク45,XO/46,XX
XO/XY モザイク45,XO/46,XY
XO/XXX モザイク45,X0/47,XXX

構造異常を伴うX染色体型

構造異常を伴うX染色体型はX染色体の一部に欠失や重複、転座などの構造的変化が生じている病型です。

この型ではX染色体の数は正常(46本)ですが構造に異常があり、代表的な構造異常には、等腕染色体(isochromosome)や欠失染色体などがあります。

構造異常型染色体構成特徴
等腕染色体46,X,i(Xq)X染色体長腕重複、短腕欠失
短腕欠失46,X,del(Xp)X染色体短腕の一部欠失

構造異常を伴うX染色体型の臨床像は異常の種類や程度によって多様で、短腕欠失型では低身長が顕著である一方、卵巣機能不全の程度が比較的軽いです。

Turner(ターナー)症候群の主な症状

Turner症候群の主な症状には低身長、性腺機能低下、特徴的な外見などがあり、病型によって症状の現れ方や程度が異なります。

45,XO(典型的Turner症候群)の症状

45,XO型では成長ホルモンの分泌は正常であることが多いものの、最終的な身長は平均よりも大幅に低いです。

性腺機能低下も顕著で、多くの場合卵巣が未発達または機能不全となり、自然な思春期の発達が起こりにくく、不妊の可能性が高まります。

特徴的な外見もこの型では比較的はっきりと現れ、翼状頸、低い後髪線、小顎症などが見られます。

また、心臓血管系の異常(特に大動脈縮窄)や腎臓の構造異常なども、他の型と比べて高い頻度で見られる傾向があり注意深い経過観察が大切です。

モザイク型(45,XO/46,XX など)の症状

モザイク型Turner症候群では正常な46,XX細胞と45,XO細胞が混在しており、この型の症状は正常細胞の割合によって大きく異なることが特徴です。

モザイク型の症状は45,XO型と比べて軽度であることが多く、低身長は見られますが、45,XO型ほど顕著でないことがあります。

性腺機能に関しても正常細胞の割合が高ければ、自然な思春期の発達が起こり一部の患者さんでは自然妊娠が可能です。

症状の比較45,XO型モザイク型
低身長顕著軽度~中等度
性腺機能低下重度軽度~中等度
特徴的な外見明確軽度~不明瞭
臓器異常の頻度高いやや低い

構造異常を伴うX染色体(46,X,i(Xq)、46,X,del(Xp) など)の症状

X染色体の構造異常を伴うTurner症候群では症状のパターンが異なることがあり、主な構造異常には等腕染色体(i(Xq))や欠失(del(Xp)、del(Xq))などです。

46,X,i(Xq)型では低身長や性腺機能低下などの典型的なTurner症候群の症状が見られますが、特徴的な外見は45,XO型ほど顕著でないことがあります。

46,X,del(Xp)型(短腕欠失)では低身長が顕著に現れますが性腺機能は比較的保たれていることがあり、一方で46,X,del(Xq)型(長腕欠失)では性腺機能低下が顕著ですが、身長への影響は比較的軽度です。

構造異常型では知的能力に影響が出ることがあり、X染色体短腕の欠失を伴う場合学習障害や空間認知の困難さが報告されているため、教育面でのサポートが必要となる場合があります。

病型低身長性腺機能低下特徴的な外見その他の特徴
45,XO+++++++++心血管異常リスク高
モザイク型+++++症状の個人差大
46,X,i(Xq)++++++++自己免疫疾患リスク
46,X,del(Xp)++++++学習障害の可能性
46,X,del(Xq)++++++性腺機能低下顕著

Turner(ターナー)症候群の原因

Turner症候群は女性の性染色体である X 染色体の構造や数の異常によって起こる遺伝性疾患です。

X染色体異常とTurner症候群

通常女性は2本のX染色体(46,XX)を持っていますが、Turner症候群の患者さんでは1本のX染色体が完全に欠失しているか、あるいは部分的に欠失または変異している状態にあります。

染色体構成X染色体数活性化X染色体数
正常女性 (46,XX)21
Turner症候群 (45,X)11
正常男性 (46,XY)11

卵巣機能不全と関連遺伝子

Turner症候群に見られる卵巣機能不全も、X染色体上の特定の遺伝子の欠失や機能不全と関連しています。

FMR1(Fragile X Mental Retardation 1)遺伝子やBMP15(Bone Morphogenetic Protein 15)遺伝子などが、卵巣の正常な発達や機能に影響を与えることが示唆されています。

モザイク型と遺伝子発現

Turner症候群の中には、モザイク型と呼ばれる染色体構成を持つケースがあります。

体細胞の一部が正常な46,XX(または46,XY)の核型を持ち、残りの細胞が45,Xの核型を持つ状態です。

モザイク型染色体構成特徴
XO/XX45,X/46,XX症状が比較的軽度
XO/XY45,X/46,XY男性化の可能性あり

診察(検査)と診断

Turner症候群の診断は、臨床所見と染色体検査に基づいて行われます。

臨床所見と初期診断

Turner症候群の臨床診断では問診と身体診察を通じて、患者さんの成長曲線、身体的特徴、二次性徴の発達状況などを評価します。

特に低身長や性的発達の遅れが見られる場合Turner症候群の可能性を考慮し、患者さんの成長や発達に関する詳細な情報収集が行われます。

また、心臓や腎臓の先天異常、甲状腺機能低下症などの関連症状についても注意深く観察することが必要です。

臨床所見観察ポイント診断的意義
身長成長曲線からの逸脱Turner症候群の主要徴候
性的発達二次性徴の遅れ卵巣機能不全の指標
身体特徴翼状頸、外反肘など特徴的な表現型
関連症状心臓・腎臓異常、甲状腺機能合併症の早期発見

画像診断

臨床所見に加えて、画像診断もTurner症候群の診断に役立つことがあり、特に合併症の評価や経過観察において重要です。

  • 超音波検査 心臓や腎臓の構造異常を確認するために用いられ、特に心臓の先天異常の早期発見に有用であり、大動脈縮窄などの心血管系異常を評価。
  • X線検査 検査により骨成熟の遅れを客観的に評価し、成長ホルモン療法の必要性や効果を判断する際の重要な指標になる。
画像診断法主な対象臓器得られる情報診断的意義
超音波検査心臓、腎臓構造異常、機能評価合併症の早期発見・評価
X線検査骨年齢、骨密度成長評価、骨粗しょう症リスク
MRI脳、内臓器官詳細な解剖学的情報稀な合併症の評価
CT胸部、腹部臓器の構造異常特定の合併症の精密検査

内分泌検査

Turner症候群では内分泌系の異常が見られることがあるため、各種ホルモン検査が大切です。

主な検査項目には卵巣機能を評価するためのFSH(卵胞刺激ホルモン)やLH(黄体形成ホルモン)、甲状腺機能を調べるためのTSH(甲状腺刺激ホルモン)やT4(チロキシン)などがあります。

ホルモンレベルを測定することで性腺機能不全や甲状腺機能低下症などの合併症を早期に発見できます。

また、成長ホルモンの分泌能を評価するための負荷試験や、IGF-1(インスリン様成長因子1)の測定なども行われることも。

内分泌検査評価対象異常値の意味臨床的意義
FSH, LH卵巣機能高値は卵巣機能不全を示唆性腺機能評価、ホルモン補充療法の判断
TSH, T4甲状腺機能TSH高値はクレチン症の可能性甲状腺機能低下症の診断・管理
IGF-1成長ホルモン作用低値は成長ホルモン分泌不全を示唆成長ホルモン療法の必要性評価
コルチゾール副腎機能低値は副腎機能不全の可能性ストレス対応能力の評価

遺伝学的検査(染色体検査)

Turner症候群の確定診断には染色体検査が不可欠です。

通常末梢血リンパ球を用いて行われ、核型分析により染色体の数や構造を詳細に調べます。

主な遺伝学的検査方法

  • 核型分析(Gバンド法) 通常20細胞以上を分析
  • FISH(蛍光in situハイブリダイゼーション) 法特定の染色体領域を高感度で検出
  • マイクロアレイ染色体検査 微細な欠失や重複を検出可能
  • 分子遺伝学的検査(PCR法など) 特定の遺伝子変異を同定
遺伝学的検査法主な特徴検出できる異常診断的意義
核型分析全染色体の観察が可能数的・構造的異常Turner症候群の基本診断
FISH法特定領域の高感度検出モザイク、微小欠失低頻度モザイクの同定
マイクロアレイ高解像度のゲノム解析微細な欠失・重複非典型例の診断補助
PCR法特定遺伝子の変異解析点突然変異、小欠失特定の遺伝子異常の同定

Turner(ターナー)症候群の治療法と処方薬、治療期間

Turner症候群の治療目標は、身長の改善、性腺機能の補充、合併症の管理です。

成長ホルモン療法、エストロゲン補充療法、心血管系のモニタリングなどが中心となり、生涯にわたる継続的なケアが必要となります。

成長ホルモン療法

Turner症候群患者の低身長に対しては、成長ホルモン療法が標準的な治療法です。

治療は通常、2~3歳頃から開始され、骨年齢が14~15歳に達するまで継続されます。

治療法開始年齢終了時期
成長ホルモン療法2~3歳骨年齢14~15歳

エストロゲン補充療法

Turner症候群では卵巣機能不全により自然な思春期発達が起こりにくいため、エストロゲン補充療法が必要です。

治療は11~12歳頃から開始され、低用量から徐々に増量していきます。エストロゲン補充療法の目的は、二次性徴の発現、骨密度の維持、心血管系の保護などです。

エストロゲン補充療法の主な効果

  • 乳房発育の促進
  • 子宮の成長と発達
  • 骨密度の増加
  • 心血管系リスクの軽減

治療は生涯にわたって継続される必要があり、閉経年齢に達するまで続けられます。

治療法開始年齢継続期間
エストロゲン補充療法11~12歳閉経年齢まで

心血管系の管理

Turner症候群患者さんでは心血管系の異常が認められることがあるため、定期的なモニタリングと管理が不可欠です。

管理項目検査頻度主な介入
心血管系年1~2回降圧薬、生活指導

骨密度管理

Turner症候群患者さんは骨粗鬆症のリスクが高いため、骨密度の定期的な評価と管理が必要です。

カルシウムやビタミンDの十分な摂取、適度な運動の推奨などの生活指導が行われ、必要に応じてビスフォスフォネート製剤などの骨粗鬆症治療薬が処方されることもあります。

管理項目検査頻度主な介入
骨密度1~2年毎カルシウム・ビタミンD補充

予後と再発可能性

Turner症候群は医療介入と継続的なケアにより、多くの患者さんが健康的な生活を送れます。

身体的発達と成長の予後

Turner症候群患者の最終身長は平均より低くなる傾向がありますが、早期の成長ホルモン療法により改善が可能です。

二次性徴の発達はホルモン補充療法により促進されることが多く、密度の維持や心血管系の健康にも良い影響を与えます。

生殖能力に関しては、自然妊娠が困難な場合が多いです。

発達側面一般的な予後医療介入による改善可能性
最終身長140-150cm程度成長ホルモン療法で+5-10cm
二次性徴自然発症は稀ホルモン補充で正常発達可能
生殖能力自然妊娠は困難生殖医療で妊娠可能な場合あり
骨密度低下傾向ホルモン療法で改善可能

再発の概念と遺伝的側面

Turner症候群は染色体異常に起因するため従来の意味での「再発」という概念は適用されませんが、患者さんの健康状態は経時的に変化する可能性があるため、継続的な経過観察が大切です。

Turner症候群の大部分は散発的に発生し遺伝性は低いとされていますが、家族歴がある場合は遺伝カウンセリングが推奨されます。

遺伝的側面特徴臨床的意義
発生頻度約2500人に1人の女児スクリーニングの重要性
遺伝性大部分が散発的家族計画への影響は限定的
家族への影響次子のリスクは一般人口と同程度両親の不安軽減に重要
遺伝カウンセリング家族歴がある場合に推奨個別化された

Turner(ターナー)症候群の治療における副作用やリスク

Turner症候群の主な治療法である成長ホルモン療法やエストロゲン補充療法には、それぞれ特有の副作用があります。

成長ホルモン療法の副作用

成長ホルモン療法の副作用には、注射部位の痛みや腫れ、頭痛、関節痛などがあります。

またまれですが、より深刻な副作用として耐糖能異常や頭蓋内圧亢進などがあり、注意深い経過観察が必要です。

副作用頻度対処法
注射部位反応注射部位の変更
頭痛経過観察、必要に応じて減量

エストロゲン補充療法のリスク

エストロゲン補充療法で最も懸念されるのは、血栓症のリスク増加です。

リスク関連因子予防策
血栓症喫煙、肥満禁煙指導、体重管理
乳がん長期使用定期的な乳房検診

また、長期的なエストロゲン補充療法は乳がんのリスクをわずかに増加させる可能性があります。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

主な治療費の内訳

Turner症候群の治療には、成長ホルモン療法やホルモン補充療法などが含まれます。

成長ホルモン療法の費用は、月額約10万円から15万円程度かかることがあります。

ホルモン補充療法の費用は、月額約5,000円から1万円程度です。

治療内容概算費用(月額)
成長ホルモン療法10万円~15万円
ホルモン補充療法5,000円~1万円

定期検査の費用

Turner症候群の患者さんは、定期的な検査が必要です。

心臓超音波検査は1回あたり約5,000円から1万円程度で、血液検査は1回あたり約3,000円から5,000円程度となります。

医療費助成制度

Turner症候群は、小児慢性特定疾病医療費助成制度の対象疾患です。

制度名自己負担上限額(月額)
小児慢性特定疾病医療費助成0円~15,000円程度

以上

References

Ranke MB, Saenger P. Turner’s syndrome. The Lancet. 2001 Jul 28;358(9278):309-14.

Gravholt CH, Viuff MH, Brun S, Stochholm K, Andersen NH. Turner syndrome: mechanisms and management. Nature Reviews Endocrinology. 2019 Oct;15(10):601-14.

Saenger P. Turner’s syndrome. New England Journal of Medicine. 1996 Dec 5;335(23):1749-54.

Gravholt CH, Juul S, Naeraa RW, Hansen J. Morbidity in Turner syndrome. Journal of clinical epidemiology. 1998 Feb 1;51(2):147-58.

Kesler SR. Turner syndrome. Child and Adolescent Psychiatric Clinics of North America. 2007 Jul 1;16(3):709-22.

Bondy CA, Turner Syndrome Consensus Study Group. Care of girls and women with Turner syndrome: a guideline of the Turner Syndrome Study Group. The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism. 2007 Jan 1;92(1):10-25.

Davenport ML. Approach to the patient with Turner syndrome. The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism. 2010 Apr 1;95(4):1487-95.

Lippe B. Turner syndrome. Endocrinology and metabolism clinics of North America. 1991 Mar 1;20(1):121-52.

Sybert VP, McCauley E. Turner’s syndrome. New England Journal of Medicine. 2004 Sep 16;351(12):1227-38.

Morgan T. Turner syndrome: diagnosis and management. American Family Physician. 2007 Aug 1;76(3):405-17.

免責事項

当記事は、医療や介護に関する情報提供を目的としており、当院への来院を勧誘するものではございません。従って、治療や介護の判断等は、ご自身の責任において行われますようお願いいたします。

当記事に掲載されている医療や介護の情報は、権威ある文献(Pubmed等に掲載されている論文)や各種ガイドラインに掲載されている情報を参考に執筆しておりますが、デメリットやリスク、不確定な要因を含んでおります。

医療情報・資料の掲載には注意を払っておりますが、掲載した情報に誤りがあった場合や、第三者によるデータの改ざんなどがあった場合、さらにデータの伝送などによって障害が生じた場合に関しまして、当院は一切責任を負うものではございませんのでご了承ください。

掲載されている、医療や介護の情報は、日付が付されたものの内容は、それぞれ当該日付現在(又は、当該書面に明記された時点)の情報であり、本日現在の情報ではございません。情報の内容にその後の変動があっても、当院は、随時変更・更新することをお約束いたしておりませんのでご留意ください。