切迫性尿失禁 – 婦人科

切迫性尿失禁(urge urinary incontinence)とは、急に強い尿意を感じ、トイレに間に合わずに尿が漏れてしまう症状です。

この症状は膀胱が必要以上に敏感になり、少量の尿でも膀胱が強く縮もうとすることで起きます。

切迫性尿失禁は年齢や性別に関係なく見られますが、高齢の方や出産を経験した女性により多く見られます。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

切迫性尿失禁の主な症状

切迫性尿失禁は突然強い尿意を感じるとともに、尿漏れが起こる状態です。

急に起こる強い尿意

切迫性尿失禁で最もよく見られる症状は、突然起こる強い尿意です。

普段経験する尿意とは異なり、我慢することが難しいほどのものです。

日中の活動時間帯に限らず夜間にも発生し、きちんとした睡眠をとることが難しくなります。

予期せぬ尿漏れの発生

切迫性尿失禁では、激しい尿意に伴って尿漏れが起きます。

尿漏れの特性詳細な説明
漏出量わずかな量から下着を濡らす程度まで
発生タイミング強い尿意を感じた直後
出現頻度個々の患者さんによる
予測可能性突発的で予測が難しい

尿漏れはほんの少量のものから下着を完全に濡らしてしまうほどの量まで、いろいろなケースが見られます。

頻繁な尿意

切迫性尿失禁に悩む方々の多くは突然にというだけでなく、頻繁に尿意が起きます。

  • 1時間という短い間隔で1回以上
  • 夜間の睡眠中に2回以上起きる

頻尿は患者さんの日常生活に大きな支障をきたし、患者さんの中には頻尿に悩まされるあまり、外出を控えたり、長時間に及ぶ会議や映画鑑賞などの活動を避けたりする方が少なくありません。

切迫性尿失禁の原因

切迫性尿失禁は、神経系の異常、膀胱筋の機能不全、解剖学的な変化、さらには生活習慣が絡み合って発症します。

神経系の機能異常

正常な排尿では膀胱に尿が蓄積されると、きちんと調整された神経信号が脳に送られ、正しいタイミングで排尿反射が起こるバランスが保たれています。

しかし、この繊細な神経系に異常が生じると、膀胱からの信号が増幅されて伝達されたり、脳からの抑制信号が十分に機能しなくなったりする支障が生じます。

こうした神経系の乱れにより、膀胱が突然収縮し、急激な尿意や予期せぬ尿漏れが起きるのです。

神経系の機能異常排尿メカニズムへの影響
求心性神経の過剰興奮膀胱充満感の誇張された伝達
抑制性神経機能の低下不適切なタイミングでの排尿反射
脊髄反射の亢進膀胱の過敏性増大
大脳皮質の制御機能低下随意的な排尿抑制の困難

膀胱筋の過剰な活動性

膀胱筋(排尿筋とも呼ばれます)の異常な過活動状態もまた、切迫性尿失禁の原因です。

通常の状態では膀胱筋は尿が十分な量に達するまで弛緩を維持し続けるところ、過活動になると、わずかな量の尿が溜まっただけでも強い収縮が起きます。

膀胱筋の過剰な反応は膀胱壁の弾性が低下したり、膀胱周囲の支持組織が弱くなることが要因です。

さらに、加齢に伴い進行する筋肉組織の変性も、膀胱筋の過剰な活動を誘発します。

膀胱筋の状態尿意や排尿への影響
正常適切な尿量で排尿反射が誘発される
過活動少量の尿でも強い尿意や不随意な収縮が生じる
弾性低下膀胱容量の減少と頻尿の原因となる
支持組織の脆弱化膀胱の位置異常や過敏性の増大を招く

骨盤底の変化

骨盤底筋群が弱くなったり骨盤内臓器の位置の異常といった解剖学的な変化も、切迫性尿失禁の発症に深く関与しています。

  • 骨盤底筋群の筋力低下や弾性の喪失
  • 子宮脱や膀胱脱などの骨盤臓器脱出症
  • 尿道の長さや角度の変化による尿流動態の異常
  • 膀胱頸部や尿道周囲の支持組織の緩み

解剖学的変化は、出産経験、加齢による組織の変性、慢性的な肥満状態、長期間にわたる重労働が原因です。

慢性的な膀胱刺激

長く続く膀胱への刺激もまた、切迫性尿失禁の発症につながる因子です。

慢性的刺激要因膀胱機能への影響
反復性尿路感染症膀胱粘膜の慢性炎症と過敏化
膀胱結石機械的刺激による粘膜刺激
膀胱腫瘍局所的な組織変性と神経過敏
間質性膀胱炎膀胱壁の炎症性変化と機能異常

これらの要因は、膀胱粘膜を刺激し続けることで、膀胱全体の過敏性を高め、膀胱が敏感に反応するようになり、わずかな量の尿が溜まっただけでも強烈な尿意や不随意な膀胱収縮を起こすように。

診察(検査)と診断

切迫性尿失禁では問診をはじめとする診察と検査の実施が欠かせません。

問診と身体診察

問診で患者さんの排尿パターン、尿漏れの頻度、日常生活への影響などをお聞きします。

身体診察では、骨盤底の筋肉の状態や神経系の異常がないかを調べます。

初期の評価は、その後の検査計画を立てるうえで貴重な情報源です。

問診項目確認内容
排尿の回数昼間と夜間それぞれの頻度
尿漏れの様子起こるタイミングと漏れる量
生活への支障日々の活動にどの程度制限があるか

尿検査と尿培養の実施

診察の次の段階として、尿検査と尿培養を行います。

検査によって尿路の感染症や、他の泌尿器系の病気の可能性を除外できるのです。

尿検査では尿の中に白血球や細菌がないか、酸性度(pH値)はどうかなどを調べ、炎症や感染の兆候がないかを確認します。

尿流動態検査の実施

尿流動態検査は膀胱の内圧を測ったり、尿の流れを測定したりすることで、膀胱と尿道がどのように働いているかを詳しく評価します。

膀胱の内圧を測定する検査では、自分の意思とは関係なく膀胱の筋肉(排尿筋)が収縮してしまう状態(排尿筋過活動)がないかを確認できます。

検査項目評価内容
膀胱内圧の測定膀胱の筋肉がどのように縮むか
尿の流れの測定おしっこがどのように出ていくか
残尿量の確認トイレの後に膀胱に残る尿の量

画像診断

画像検査は膀胱や尿道の形に異常がないか、骨盤の臓器が下がっていないかなど、他の病気がないかを調べるのに役立ちます。

超音波検査は体に負担をかけずすぐに結果が分かるため、診療でよく使われます。

  • 超音波検査:膀胱の壁がどのくらい厚いか、尿がどれくらい残っているかを調べる
  • MRI検査:骨盤の底にある筋肉の状態や、臓器が下がっている程度を確認
  • CT検査:がんなどの病気がないかを調べる

切迫性尿失禁の治療法と処方薬、治療期間

切迫性尿失禁の治療には、行動療法、薬物治療、電気刺激療法があります。

日常生活に組み込む行動療法

行動療法は、切迫性尿失禁の基本の治療法の一つです。

膀胱訓練は少しづつ排尿と排尿の間隔を伸ばしていくことで、膀胱の容量を増やし、急な尿意に耐える力をつけます。

骨盤底筋体操は、尿道や膀胱を支える骨盤底の筋肉を意識的に収縮する運動を繰り返すことで、尿失禁を抑える効果があります。

行動療法の種類期待される効果推奨される実施頻度
膀胱訓練膀胱容量の増加と尿意耐性の向上毎日、徐々に排尿間隔を延ばす
骨盤底筋体操尿失禁の抑制と骨盤底筋の強化1日3回、各10回程度の収縮運動

行動療法は効果が表れるまでに時間はかかりますが、根気強く続けましょう。

薬物療法

薬物療法は膀胱の過敏な反応を抑え、急な尿意や思ってもいないな膀胱の収縮を減らします。

使用される薬剤は、抗コリン薬とβ3アドレナリン受容体作動薬(β3作動薬)です。

抗コリン薬は、膀胱の不随意な収縮を抑制する効果が高い反面、口の渇きや便秘などの副作用があります。

β3作動薬は、膀胱を弛緩させる作用があり、抗コリン薬と比べて副作用が少ないです。

  • オキシブチニン(商品名ポラキス錠など、抗コリン薬)口渇や便秘の副作用
  • トルテロジン(商品名デトルシトールカプセルなど、抗コリン薬)オキシブチニンより副作用が少ない
  • ミラベグロン(商品名ベタニス錠、β3作動薬)副作用が少なく、高齢者にも使いやすい
  • ビベグロン(商品名ベオーバ錠、β3作動薬)ミラベグロンと同様に副作用が少なく、新しい選択肢70代の女性患者さんにミラベグロンを処方したケースがあります。

電気刺激療法

電気刺激療法は、骨盤底の筋肉や神経に微弱な電流を流すことで筋肉の収縮力を高めたり、膀胱の過活動を抑える治療法です。

薬物療法との併用で効果を発揮し、症状の改善が見られにくい患者さんにも試す価値があります。

治療は外来で週1〜2回行われ、1クールあたり4〜8週間続けます。

電気刺激療法の種類特徴と利点一般的な実施頻度
経皮的電気刺激皮膚に電極を貼付するため痛みが少ない週1〜2回、20〜30分/回
経腟的電気刺激腟内に電極を挿入するため効果が高い週1〜2回、15〜20分/回

ボツリヌス毒素注入療法

他の治療法で十分な効果が得られない重度の症例には、ボツリヌス毒素を膀胱内に直接注入する療法を検討します。

膀胱の過剰な収縮を抑え、尿意切迫感や尿失禁の症状を減します。

持続期間は6〜9か月で、その後症状の再発が見られた場合には再治療も。

ボツリヌス毒素注入療法の特徴効果と注意点
治療の侵襲性膀胱鏡を用いた局所麻酔下での処置
効果の持続期間平均6〜9か月
再治療の可能性効果減弱時に繰り返し実施可能
主な副作用尿閉、尿路感染のリスク

切迫性尿失禁の治療における副作用やリスク

切迫性尿失禁の治療には、どの方法にも副作用やリスクがあります。

抗コリン薬治療の副作用

抗コリン薬で最もよく見られる副作用は口の中が乾燥することです。

また、便秘になったり、目がかすんで見えたりする症状が出ることもあります。

高齢の患者さんは、物忘れなどの認知機能に影響が出る心配もあるため、慎重に薬を使ってください。

副作用どのくらいの頻度で起こるか
口の中が乾く高い
便秘それなりに多い
目がかすむあまり多くない
認知機能への影響まれ(ただし高齢者ではリスクが高まる)

ラベグロン(β3作動薬)の副作用とリスク

ミラベグロンは新しい薬で、抗コリン薬とは違う仕組みです。

副作用として、頭痛や血圧が上がること、尿路の感染症が挙げられます。

時には重い体質性のアレルギー反応(アナフィラキシー)が報告されているので、薬を使い始めてからしばらくは注意深く様子を見てください。

骨盤底筋体操のリスク

薬を使わない治療法の骨盤底筋体操は副作用が少ない治療法ですが、気をつけるべき点があります。

正しくない方法で行うと骨盤の底にある筋肉が必要以上に緊張してしまい、かえって尿が出にくくなったり、性機能の問題を起こすことも。

既に骨盤の臓器が下がっている患者さんでは、症状が悪くなるリスクがあるため、専門医の指導のもとで行いましょう。

電気刺激療法の副作用とリスク

骨盤の底にある筋肉や仙骨の神経に電気刺激を与える治療法は、刺激を与えた部分が痛くなる、不快な感じがする、皮膚に刺激が出ることがあります。

神経を傷つけたり、感染症を起こしたりする危険性もあります。

ペースメーカーなどの体内に埋め込む医療機器を使っている患者さんは、機器の動作が狂ってしまうことがあるため、電気刺激療法は受けられません。

副作用・リスクどう対処するか
局所的な痛みや不快感電気刺激の強さを調整する
皮膚への刺激電極の位置を変えたり、保湿したりする
感染症清潔に扱うことを徹底する
医療機器への影響事前に詳しく患者さんの状態を聞き取る

ボツリヌス毒素注入療法のリスクと副作用

ボツリヌス毒素を膀胱の壁に注射する治療法は、なかなか良くならない過活動膀胱に対して効果的ですが、最も気をつけなければならない副作用が尿閉(尿が出にくくなること)です。

また、尿に血が混じったり、尿路の感染症にかかりやすくなるリスクも高くなります。

深刻な例では、ボツリヌス毒素が体全体に広がってしまう危険性もあります。

  • 尿閉(自分でカテーテルを使う必要が出る可能性)
  • 尿に血が混じる
  • 尿路の感染症
  • 全身に影響が出る副作用

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

薬物療法の費用

薬物療法は抗コリン薬やβ3作動薬が使用され、保険適用です。

薬剤名1か月あたりの自己負担額(3割負担の場合)
オキシブチニン約1,500円〜2,500円
ミラベグロン約2,500円〜3,500円

行動療法の費用

行動療法は主に外来で月に1〜2回程度行われます。

  • 骨盤底筋体操指導料 約450円(1回あたり、3割負担の場合)
  • 膀胱訓練指導料 約450円(1回あたり、3割負担の場合)

電気刺激療法の費用

電気刺激療法は外来で行われる治療法です。

治療法1回あたりの自己負担額(3割負担の場合)
干渉低周波療法約150円
経皮的電気刺激療法約450円

週1〜2回、4〜8週間続けて行います。

ボツリヌス毒素注入療法の費用

難治性の症例に対して行われるボツリヌス毒素注入療法は、1回の治療で約10万円前後の自己負担額(3割負担の場合)です。

効果は6〜9か月程度持続するため、年1〜2回の治療を繰り返します。

以上

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