子宮体部肉腫(uterine sarcomas)とは、子宮を構成する筋肉や支持組織から生じる、進行のスピードが速い悪性の腫瘍です。
子宮内膜から発生する子宮体がんとは異なり、子宮壁を形作る組織そのものが腫瘍化します。
この病気は、子宮に発生する悪性腫瘍の中でもかなりまれです。
子宮体部肉腫の種類(病型)
子宮体部肉腫の主要な病型は、子宮平滑筋肉腫と子宮内膜間質肉腫です。
それぞれのタイプは腫瘍が発生する場所や細胞の特徴によって区別され、独自の性質を持っています。
子宮平滑筋肉腫
子宮平滑筋肉腫は子宮の筋肉の層から生じる悪性の腫瘍で、普通の子宮筋腫と比べて大きくなるスピードはかなり早いです。
顕微鏡で見ると紡錘状の形をした細胞が不規則に並んでいて、細胞の核の形も通常とは異なっていることが分かります。
特徴 | 子宮平滑筋肉腫 |
発生する場所 | 子宮の筋肉層 |
大きくなるスピード | 速い |
細胞の形 | 紡錘状 |
子宮内膜間質肉腫
子宮内膜間質肉腫は子宮の内側を覆う組織(内膜)の間質細胞から発生し、悪性度が低いものと高いものに分けられます。
悪性度が低いものはゆっくりと進行しますが、悪性度が高いものは早く進むので注意が必要です。
顕微鏡で見ると小さくて形の揃った細胞がびっしりと増えていて、血管の配列パターンが見られます。
両方の病型を比べる
子宮平滑筋肉腫と子宮内膜間質肉腫は、病気の進み方にも違いがあります。
子宮平滑筋肉腫
- 子宮の筋肉の層から発生
- 紡錘状の細胞が増える
- かなり早いスピードで大きくなる
子宮内膜間質肉腫
- 子宮内膜の間質から発生
- 小さくて形の揃った細胞が増える
- 悪性度によって進行の速さが異なる
特徴 | 子宮平滑筋肉腫 | 子宮内膜間質肉腫 |
発生する場所 | 子宮の筋肉層 | 子宮内膜の間質 |
細胞の形 | 紡錘状 | 小さくて形が揃っている |
進行の速さ | 一般的に速い | 悪性度によって異なる |
子宮体部肉腫の主な症状
子宮体部肉腫のは、不正出血、おなかの張り、下腹部の痛みです。
不正出血
不正出血は、子宮体部肉腫を患う方の多くが経験する症状です。
閉経前の方では月経周期とは関係なく予期せぬタイミングで出血が起こり、閉経後の方では思いがけない出血に気づきます。
出血の特徴 | 閉経前 | 閉経後 |
発生時期 | 不規則 | 突発的 |
出血量 | 個人差大 | 個人差大 |
発生頻度 | 一定せず | 一定せず |
おなかの張り
腫瘍が大きくなるにつれてズボンのウエストがきつくなった、お腹周りが大きくなるような体型の変化に気づく方もいます。
下腹部の痛み
下腹部に感じる痛みの強さはかすかな違和感程度のものから激しいものまであり、鈍く重い感じ、チクチクと刺すような痛み、お腹が押されているような感覚があります。
痛みの特徴 | 軽度 | 中等度 | 重度 |
感じ方 | 違和感程度 | はっきりした痛み | 激しい痛み |
継続時間 | 短時間 | 断続的 | 長時間 |
生活への影響 | ほぼなし | 多少あり | 大きい |
その他の症状
子宮体部肉腫では、次のような症状が現れます。
- 頻尿
- 便秘
- 腰に痛みを感じる
- 性交渉時に痛みを感じる
- 貧血による体のだるさ
このような症状は他の婦人科の病気でも見られるため、詳しい診察を受けることが大切です。
子宮体部肉腫の原因
子宮体部肉腫の発症には遺伝子の変化や生活環境など、いくつかの要素が関係しています。
遺伝子変異
p53遺伝子やRB1遺伝子といったがんを抑える働きをする遺伝子に異常があると、子宮体部肉腫になるリスクが上がります。
遺伝子に変化が起こると、細胞が正常に増えたり分裂したりするプロセスがうまくいかなくなり、腫瘍ができるのです。
関連する遺伝子 | 働き |
p53 | 細胞の自然死を促す |
RB1 | 細胞の増え方をコントロール |
ホルモンバランス
閉経後にホルモンを補充する治療を受けたり、長い間妊娠しなかった方は、子宮体部肉腫のリスクが高いです。
生活環境と習慣
肥満や糖尿病などの生活習慣病にかかっていると体の中で炎症が長く続き、細胞が異常に増えやすくなります。
また、過去に放射線を浴びた経験があると、子宮体部肉腫になるリスクが上昇します。
子宮体部肉腫のリスクを高める生活環境や習慣
- 太りすぎ
- 糖尿病
- 放射線を浴びた経験がある
- 長い間妊娠していない状態が続く
- 閉経後にホルモンを補充する治療を受ける
遺伝性の病気との関連
リー・フラウメニ症候群やレチノブラストーマ症候群という遺伝性の病気がある人は、子宮体部肉腫を含む複数のがんになる可能性が高いです。
これらの病気ではがんを抑える遺伝子に生まれつき問題があるため、細胞ががん化するのを防ぐ働きが弱くなっています。
遺伝性の病気 | 関係する遺伝子 |
リー・フラウメニ症候群 | TP53 |
レチノブラストーマ症候群 | RB1 |
診察(検査)と診断
子宮体部肉腫の診断は問診や体の診察から始まり、画像検査、そして組織を調べる検査へと順を追って進めていきます。
問診と体の診察
診断の最初の段階として患者さんからどのような症状があるのか、いつ頃から始まったのかなど、詳しくお話を伺います。
患者さんの年齢や、妊娠・出産の経験、生理の状態、ご家族の病歴などの情報も、診断を進めるうえで大切な手がかりです。
体の診察では、お腹を触って調べたり腟を通して子宮の状態を確認し、子宮の大きさや形、硬さを調べていきます。
問診で確認すること | 内容 |
自覚症状 | 出血の有無、痛みの程度 |
健康状態の変化 | 体重の増減、疲れやすさ |
生活習慣 | 食事、運動、ストレス |
画像検査
超音波検査は体への負担が少なくその場ですぐに結果が分かるため、最初に行われる検査です。
お腹の上から超音波を当てる方法と、腟の中から超音波を当てる方法を組み合わせることで、子宮の状態をより詳しく観察できます。
MRI検査は、体の軟らかい部分の違いをはっきりと映し出すことができるため、腫瘍がどこまで広がっているか、周りの組織に入り込んでいないかを調べるのに役立ちます。
CT検査は、体全体の様子を一度に調べたり、病気が他の場所に広がっていないかを確認するのに使われる方法です。
組織検査
子宮内膜細胞診では子宮の内側を覆う膜(内膜)の細胞を採取して、顕微鏡で観察します。
子宮内膜組織診は子宮内膜の一部を採取して調べ、細胞診よりも詳しい情報を得られる検査です。
検査方法 | 特徴と有用性 |
細胞診 | 簡単に行えるが、診断の確実性には限界がある |
組織診 | より詳しい情報が得られ、確実性が高い |
確定診断
確定診断を行うには、病理組織検査が欠かせません。
手術で取り出した組織や針を使って採取した組織の一部を、顕微鏡で詳しく調べることで最終的な診断をします。
病理組織検査では、腫瘍がどのような種類のものか、どの程度悪性度が高いか、周りの組織にどれくらい入り込んでいるかを詳しく知ることが可能です。
子宮体部肉腫の治療法と処方薬、治療期間
子宮体部肉腫の治療は手術を中心に行い、放射線治療や抗がん剤治療も組み合わせます。
手術
子宮体部肉腫では子宮全体を摘出する手術に加えて、卵巣や卵管も一緒に取り除きます。
がんが進行しているときは、がんの周りの組織や転移している部分も切除することに。
手術の種類 | どんな時に行うか |
子宮だけを取る手術 | 早い段階で見つかった場合 |
子宮周りの組織も広く取る手術 | がんが進行している場合 |
放射線治療
放射線治療は手術の後の追加治療として行ったり、手術が難しい場合にがんを治す目的で使います。
体の外から放射線を当てる方法と、子宮の中に放射線を出す器具を入れる方法を組み合わせます。
1日1回、週に5回の治療を4〜6週間です。
ただし、がんの種類や進み具合によっては、あまり効果がないこともあります。
抗がん剤治療
抗がん剤治療はがんが進行していたり、一度治療した後再発したときに実施します。
よく使われる治療法は、ドキソルビシンとイホスファミドという2種類の薬を組み合わせるものです。
抗がん剤治療のスケジュール
- ドキソルビシンを1日目に
- イホスファミドを1日目から3日目まで
- 3〜4週間休んで、また同じことを繰り返す
- 6回くらい繰り返す
吐き気を抑える薬や血液の細胞が減るのを防ぐ薬も併用します。
薬の名前 | 副作用 |
ドキソルビシン | 心臓への影響、髪の毛が抜ける |
イホスファミド | 膀胱の炎症、腎臓への影響 |
新しい種類の薬の可能性
最近では、がん細胞の特徴を狙い撃ちにする新しい種類の薬(分子標的薬)が開発されています。
がんに栄養を送る血管の成長を抑えるベバシズマブ、がん細胞の増殖を抑えるテムシロリムスが効果を示しています。
ホルモン療法
子宮体部肉腫の中でも子宮内膜間質肉腫には、ホルモン療法が効きます。
使われるのは、女性ホルモンの働きを抑える薬と黄体ホルモンです。
がん細胞にホルモンの受け皿(受容体)があるかどうかで効果が変わってくるので、一人一人の状況を見て決めます。
ホルモン療法の種類 | 特徴 |
女性ホルモンを抑える薬 | 閉経後の女性に使うことが多い |
黄体ホルモン薬 | 長期間の使用が可能なことがある |
治療期間と定期検診
子早い段階で見つかって手術だけで済む場合は、その後の定期検診が中心になります。
手術の後に追加の治療が必要なときは、数ヶ月から半年くらいの治療期間が必要です。
がんが進行している場合や再発した場合は抗がん剤治療を繰り返し行うので、1年以上治療が続きます。
定期検診は手術後2年間は3ヶ月ごと、その後3年間は6ヶ月ごとです。
治療後の期間 | 検診の間隔 |
手術後2年間 | 3ヶ月ごと |
2年〜5年 | 6ヶ月ごと |
子宮体部肉腫の治療における副作用やリスク
子宮体部肉腫の治療には、手術や放射線療法、化学療法などさまざまな方法があり、それぞれに副作用やリスクが伴います。
手術療法に伴う副作用とリスク
手術後の痛みや体の不快感は多くの方が経験しますが、時間がたつにつれて徐々に和らいでいきます。
手術部位の感染のリスクもあるため、熱が出たり傷口が普通以上に痛んだりする際には、すぐに相談することが重要です。
手術後しばらくの間は、日常生活で行える活動に制限がかかります。
副作用/リスク | 対処法 |
手術後の痛み | 痛み止めの薬を使用する |
感染 | 抗生物質を投与する |
出血 | 様子を見守り、必要であれば輸血を行う |
放射線療法の副作用
放射線療法は、病気のある部分を集中的に治療する方法として効果的で、放射線を当てた部分の皮膚が赤くなったり、乾燥したり、かゆみを感じます。
体全体の疲れやだるさを感じることも、よく見られる副作用の一つです。
おなかの調子が変わって、下痢になったり腹痛を出ることもあります。
化学療法に伴う副作用
化学療法は健康な細胞にも影響を与えるため、さまざまな副作用が現れます。
吐き気や実際に吐いてしまう、食べたくなくなる、髪の毛が抜けてしまう、というのは多くの患者さんにある副作用です。
血液を作る働きが弱くなることからの貧血、体の抵抗力が下がって感染しやすくなる、出血しやすくなる、などもあります。
副作用 | 現れる時期 | 続く期間 |
吐き気 | 薬を使ってすぐ~数日後 | 数日~数週間 |
髪の毛が抜ける | 薬を使って2~3週間後 | 治療が終わってから数ヶ月で戻り始める |
血液を作る働きが弱まる | 薬を使って7~14日後 | 2~3週間 |
長期的なリスクと影響
子宮体部肉腫の治療は、長い目で見たときのリスクや影響もあります。
- 妊娠しにくくなる
- 早く閉経を迎えてしまう
- 別の種類のがんができるリスク
- 手足がむくみやすくなる
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
手術費用の内訳
単純子宮全摘出術の場合約30万円から50万円程度で、拡大手術は80万円から120万円に上昇します。
術式 | 概算費用 |
単純子宮全摘出術 | 30-50万円 |
拡大手術 | 80-120万円 |
放射線療法の費用
外部照射は1回あたり1.5万円から2万円程度です。全体の治療期間(4〜6週間)で考えると、60万円から120万円になります。
化学療法にかかる費用
標準的なレジメンで6サイクル実施すると、約150万円から300万円です。
化学療法のコスト要因
- 抗がん剤の種類と量
- 投与回数と期間
- 副作用対策の薬剤費
その他の関連費用
入院費、検査費、処置料などの付随費用が発生します。
費用項目 | 概算金額 |
入院費(1日あたり) | 1-2万円 |
CT検査 | 1-2万円 |
MRI検査 | 2-3万円 |
以上
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