カンジダ外陰腟炎 – 婦人科

カンジダ外陰腟炎(vulvovaginal candidiasis)とは、女性の外陰部や腟に炎症を起こす感染症で、カンジダ属という真菌(かび)の一種が過剰に増殖することで発症します。

通常、腟内にはさまざまな微生物が共生していますが、何らかの要因でバランスが崩れると、カンジダ菌が増殖し炎症が起こります。

症状としては外陰部のかゆみや痛み、腟からの異常な分泌物などが見られ、多くの女性が経験する疾患です。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

カンジダ外陰腟炎の主な症状

カンジダ外陰腟炎の主な症状には、外陰部の痒みや発赤、腟分泌物の変化、排尿時の痛みなどがあります。

外陰部の痒みと発赤

カンジダ外陰腟炎の最も一般的な症状は、外陰部の激しい痒みです。この痒みは夜間や月経前後に悪化する傾向があります。

また、外陰部の皮膚が赤くなったり腫れたりすることも。

症状特徴
痒み激しく、持続的
発赤外陰部の皮膚が赤くなる

腟分泌物の変化

通常、健康な状態の腟分泌物は無色透明または白色で、においはありませんが、カンジダ外陰腟炎では、以下のような変化が見られます。

  • 分泌物の増加
  • 白色または黄色の濃厚なカッテージチーズ状の分泌物
  • 軽度の臭気を伴う場合もある
分泌物の変化特徴
増加する
性状カッテージチーズ状
白色または黄色
臭気軽度の臭気を伴うことがある

排尿時の痛みや灼熱感

カンジダ外陰腟炎の患者さんの中には、排尿時に痛みや灼熱感を感じる方もいます。

これは、炎症を起こした外陰部や尿道口の粘膜に尿が触れることで生じる症状です。

症状説明
排尿時の痛み尿が炎症部位に触れることで生じる
灼熱感排尿中や排尿後に感じる焼けるような感覚

その他の症状

主要な症状以外にもカンジダ外陰腟炎ではいくつかの症状が現れます。

  • 外陰部の腫れ
  • 腟や外陰部の乾燥感
  • 不快感や違和感
症状頻度
外陰部の腫れ比較的多い
乾燥感時々見られる
不快感・違和感多くの患者さんが経験する

カンジダ外陰腟炎の原因

カンジダ外陰腟炎は腟内の微生物バランスの崩れにより発症し、主な原因として抗生物質の使用、ホルモンの変化、免疫力の低下、糖尿病などが挙げられます。

微生物バランスの重要性

女性の腟内にはいろいろな微生物が存在し、健康的な環境を維持しています。

微生物叢(そう)のバランスが崩れると、カンジダ菌が異常に増殖する環境が整うことに。

通常、乳酸桿菌などの善玉菌が優勢であることでカンジダ菌の増殖を抑制していますが、何らかの要因でバランスが乱れるとカンジダ菌が過剰に増殖し、炎症を引き起こします。

抗生物質使用による影響

抗生物質の使用はカンジダ外陰腟炎の主要な原因の一つとして知られており、細菌感染症の治療に効果的ですが、同時に腟内の善玉菌も減少させてしまう副作用があります。

抗生物質の種類影響度
広域抗生物質
狭域抗生物質
抗真菌薬

ホルモンバランスの変化

女性のホルモンバランスの変化もカンジダ外陰腟炎の発症に関与しており、エストロゲンの増加は腟内の環境を変化させ、カンジダ菌の増殖を促進します。

ホルモンバランスが変化する状況

  • 妊娠中
  • 月経前
  • 経口避妊薬の使用時
  • 更年期

特に妊娠中はエストロゲンの分泌が増加するためカンジダ外陰腟炎の発症リスクが高くなり、また、経口避妊薬の使用も人工的にホルモンバランスを変化させるため、注意が必要です。

免疫力低下の影響

健康な免疫系はカンジダ菌の過剰増殖を防ぐ役割を果たしていますが、免疫力が低下すると、防御機能が弱まってしまいます。

免疫力低下の原因リスク度
ストレス
睡眠不足
慢性疾患
栄養不足

慢性的なストレスや睡眠不足は日常生活の中で免疫力を低下させ、カンジダ外陰腟炎のリスクを高めます。

糖尿病との関連性

糖尿病はカンジダ外陰腟炎の発症リスクを著しく高める疾患です。

高血糖状態が続くと尿中や腟分泌物中の糖分が増加し、カンジダ菌の栄養源となります。

さらに、糖尿病患者さんは一般的に免疫機能が低下しているため、カンジダ菌の増殖を抑制する力も弱いです。

血糖値レベルカンジダ外陰腟炎リスク
正常
境界型
糖尿病型

糖尿病の管理が不十分だと繰り返しカンジダ外陰腟炎を発症するので、血糖値のコントロールがカンジダ外陰腟炎の予防において大切です。

その他の要因

主要な原因以外にもカンジダ外陰腟炎のリスクを高める要因がいくつかあり、きつい下着や化学繊維の衣類の着用は腟周辺の湿度と温度を上げ、カンジダ菌の増殖を促進します。

また、過度の腟洗浄や腟内洗浄剤の使用も腟内の自然な環境を乱し、微生物バランスを崩す原因です。

さらに、性行為も時としてカンジダ外陰腟炎のトリガーとなります。

これは、性行為によって腟内のpHバランスが一時的に変化したり微小な傷が生じたりすることで、カンジダ菌が増殖しやすい環境が作られるためです。

生活習慣要因リスク度
タイトな下着着用
過度の腟洗浄
頻繁な性行為
不適切な食生活

診察(検査)と診断

カンジダ外陰腟炎の診断は、問診、視診、内診、そして検査室での検査を組み合わせて行われます。

問診の重要性

カンジダ外陰腟炎の問診では患者さんから詳細な情報を聴取し、症状の性質や持続期間、過去の既往歴、生活習慣などを把握します。

特に、抗生物質の使用歴やホルモン剤の使用、糖尿病の有無などは診断の手がかりとなる重要な情報です。

また、性行為の頻度や衛生習慣についても確認することがあります。

視診と内診の実施

問診に続いて視診と内診が行われます。

視診では、外陰部の発赤、腫脹、分泌物の状態などを観察します。

カンジダ外陰腟炎の特徴的な所見は、外陰部の発赤や白色のチーズ様の分泌物が見られることです。

内診では、腟鏡を使用して腟内の状態を詳しく観察します。

観察部位主な確認事項
外陰部発赤、腫脹、皮疹
分泌物の性状、粘膜状態
子宮頸部炎症の有無、分泌物

検査室での検査

臨床診断をさらに確実なものとするため、検査が行われます。

最も一般的な検査は、腟分泌物の顕微鏡検査です。

分泌物を顕微鏡で観察し、カンジダ菌の菌糸や胞子の有無を確認します。

また、KOH(水酸化カリウム)を用いた標本作製により、より明確にカンジダ菌を観察できます。

検査方法特徴
直接鏡検迅速だが感度が低い
KOH標本カンジダ菌の観察が容易
グラム染色他の細菌との鑑別に有用
培養検査確定診断と菌種同定に有効

培養検査はカンジダ菌の存在を確定し菌種を同定するのに役立ち、再発性のカンジダ外陰腟炎や治療抵抗性の症例で特に有用です。

pH測定の意義

腟内のpH測定も、診断の補助として行われることがあります。

健康な腟内のpHは通常4.0から4.5の間であり、カンジダ外陰腟炎ではこの範囲内に留まることが多いです。

一方、細菌性腟症などの他の腟感染症ではpHが上昇することがあるため、鑑別診断に役立ちます。

pHテストは簡便で迅速に結果が得られる利点がありますが、あくまで補助的な検査であることに留意が必要です。

鑑別診断の必要性

カンジダ外陰腟炎の症状は、他の腟感染症や皮膚疾患と類似していることがあります。

鑑別が必要な疾患

  • 細菌性腟症
  • トリコモナス腟炎
  • アレルギー性皮膚炎
  • 接触性皮膚炎
  • 尖圭コンジローマ

これらの疾患との鑑別には上記の検査に加えて、必要に応じて追加の検査や専門医への紹介が行われることもあります。

カンジダ外陰腟炎の治療法と処方薬、治療期間

カンジダ外陰腟炎の治療には主に抗真菌薬が用いられ、局所療法と全身療法があります。

局所療法

カンジダ外陰腟炎の治療において、最も一般的なのが局所療法です。

抗真菌薬を直接患部に塗布したり腟内に挿入したりする方法で、軽度から中等度の症状に対して効果的で、全身への影響が少ないという利点があります。

主な局所療法用の抗真菌薬

薬剤名使用方法一般的な使用期間
ミコナゾールクリーム、坐剤1週間程度
クロトリマゾールクリーム、腟錠1〜2週間程度

薬剤は1日1回から2回、1週間程度使用するのが一般的で、症状の改善が見られても、指示通りに最後まで使用することが重要です。

全身療法

重症の場合や再発を繰り返す場合には、全身療法が選択されることがあります。

全身療法では経口抗真菌薬を服用し、体内全体でカンジダ菌の増殖を抑制し症状の改善を図ります。

主な経口抗真菌薬

  • フルコナゾール
  • イトラコナゾール

薬剤は通常1回または数回の服用で効果を発揮し、その後も指示に従って正しく服用することが大切です。

薬剤名一般的な用法治療期間
フルコナゾール1回150mg、単回投与1日
イトラコナゾール1回200mg、1日2回、1日間1日

治療期間

カンジダ外陰腟炎の治療期間は1週間から2週間程度ですが、重症だったり再発を繰り返す場合にはより長期の治療が必要です。

局所療法の場合多くは1週間程度の使用で症状が改善しても、再発防止のため、症状が消失した後も数日間継続して使用します。

全身療法は単回投与で効果が得られることもあるものの、症状に応じて数日間の服用が必要となることもあります。

治療法治療期間備考
局所療法1〜2週間症状消失後も数日間継続
全身療法1日〜数日症状に応じて調整

併用療法

重症例や再発性のカンジダ外陰腟炎の場合、局所療法と全身療法を組み合わせた併用療法が選択されることがあります。

併用療法を行うと、局所的に高濃度の薬剤を作用させつつ、全身的にもカンジダ菌の増殖を抑制することが可能です。

予後と再発可能性および予防

カンジダ外陰腟炎は治療により良好な予後が期待できますが、再発のリスクもあります。

予後の一般的な傾向

カンジダ外陰腟炎の予後は多くの場合良好で、症状は比較的短期間で改善することが多いですが、個人の状態や背景因子によって異なります。

予後に影響する要因影響の程度
基礎疾患の有無
免疫機能の状態
生活習慣
対応の迅速さ

再発のリスクと要因

カンジダ外陰腟炎は一度改善しても再発するリスクがあり、再発の頻度は個人によって異なりますが、約75%の女性が生涯に一度は再発を経験します。

再発のリスクを高める要因

  • 抗生物質の頻繁な使用
  • ホルモンバランスの変化(妊娠、経口避妊薬の使用など)
  • 糖尿病などの基礎疾患
  • ストレスや過労による免疫機能の低下
  • 不適切な衛生習慣

これらの要因が重なると、再発のリスクが高まります。

再発性カンジダ外陰腟炎について

再発性カンジダ外陰腟炎は12ヶ月以内に4回以上の症状が現れる状態です。

再発性の場合、単回発症とは異なるアプローチが必要になることがあります。

再発の頻度分類
年1-3回散発的再発
年4回以上再発性
月1回以上頻回再発

予防策の重要性

カンジダ外陰腟炎の予防は再発リスクを低減するうえで不可欠で、予防策は日常生活のさまざまな面に及びますが、主に以下のような点に注意が必要です。

  • 衛生管理 下着は綿素材のものを選び通気性を良くすることが推奨され、また、過度の洗浄や腟内洗浄剤の使用は避ける。
  • 食生活 糖分の過剰摂取を控え、乳酸菌を含む食品を積極的に摂取。
  • ストレス管理 十分な睡眠と適度な運動。
予防策効果
衛生管理
食生活改善
ストレス管理
抗生物質管理

カンジダ外陰腟炎の治療における副作用やリスク

カンジダ外陰腟炎の治療に用いられる抗真菌薬は、多くの患者さんに効果的ですが、一部の方々に副作用やリスクをもたらします。

主な副作用には局所的な刺激や全身性の反応があるものの、重篤な副作用は比較的まれです。

局所療法の副作用

局所療法で使用される抗真菌薬クリームや腟錠は、直接患部に塗布や挿入するため、局所的な副作用が生じることがあります。

副作用は一般的に軽度であり多くの場合、一時的なものです。

主な局所的副作用

  • 軽度の灼熱感
  • かゆみの一時的な増加
  • 発赤や腫れ
  • 皮膚刺激

症状は通常薬剤の使用開始直後に現れ、数日以内に自然に改善します。

副作用発現頻度持続期間
灼熱感比較的多い数日程度
かゆみの増加時々見られる1〜2日

全身療法の副作用

経口抗真菌薬を用いる全身療法では、局所療法に比べてより広範囲の副作用が生じる可能性があります。

胃腸障害は経口抗真菌薬の最も一般的な副作用の一つで、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛などです。

頭痛も経口抗真菌薬の比較的よく見られる副作用ですが、多くの場合、軽度で市販の鎮痛薬で対処できます。

副作用対処法頻度
胃腸障害食事と一緒に服用、分割服用比較的高い
頭痛十分な水分補給、休息中程度

アレルギー反応のリスク

抗真菌薬に対するアレルギー反応はまれですが、重大な副作用の一つです。

アレルギー反応の症状

  • 発疹や蕁麻疹
  • 呼吸困難
  • 顔や喉の腫れ
  • めまいや失神
アレルギー症状緊急度
発疹・蕁麻疹要注意
呼吸困難緊急

薬物相互作用のリスク

経口抗真菌薬は、ワルファリンなどの抗凝固薬や、スタチン系の高脂血症治療薬との相互作用に注意が必要です。

薬物相互作用により各薬剤の効果が増強または減弱したり、予期せぬ副作用が生じたりします。

相互作用のある薬剤注意点
抗凝固薬出血リスクの増加
スタチン系薬剤筋肉障害のリスク上昇

肝機能障害のリスク

経口抗真菌薬の中にはまれに肝機能障害を引き起こすリスクを持つものがあり、長期間の使用や高用量の投与でリスクが高まる傾向があります。

肝機能障害の初期症状

  • 疲労感
  • 食欲不振
  • 吐き気
  • 右上腹部の痛み
  • 皮膚や眼の黄染

肝機能に問題がある患者さんや肝毒性のある薬剤を併用している方は、特に注意が必要です。

治療費について

カンジダ外陰腟炎の治療費は、症状の程度や治療方法によって異なりますが、外来で済むため数千円から1万円と低額です。

健康保険が適用されるため、自己負担額はさらに少なくなります。

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

薬剤費について

カンジダ外陰腟炎の治療には、主に抗真菌薬が使用されます。

  • 内服薬(フルコナゾール錠)1回分 約800円~1,200円
  • 外用薬(クリーム剤) 1本 約1,500円~3,500円

検査費用

必要に応じて行われる検査の費用は以下の通りです。

検査項目金額
顕微鏡検査約600円~900円
培養検査約900円~1,300円
カンジダ抗原検査約1,800円~2,200円

追加治療の費用

難治性や再発性の症例では、追加の治療が必要です。

治療内容金額
腟洗浄約1,500円~2,500円
レーザー治療約15,000円~30,000円

追加治療は保険適用外の場合もあり、その際は全額自己負担となります。

以上

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