ホルネル症候群 – 脳・神経疾患

ホルネル症候群(Horner syndrome)とは、眼や顔面に特徴的な症状が現れる脳・神経系の疾患です。

瞳孔の縮小(目の黒い部分が小さくなること)、上まぶたの下垂、そして同側の顔面の発汗減少が挙げられます。

症状は、脳卒中や腫瘍、外傷などが原因の交感神経系(体の興奮状態を調整する神経系)の障害によって起こります。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

ホルネル症候群の主な症状

ホルネル症候群の症状は、瞳孔の縮小、眼瞼下垂、発汗低下などです。

眼の症状

ホルネル症候群で最もよく見られる症状は、眼に関するものです。

患者さんの瞳孔は小さくなり、光に対する反応が鈍くなり、また、上まぶたが下がる眼瞼下垂(がんけんかすい)が現れます。

眼に関する症状は、交感神経系の機能障害によって起こり、片側性に生じることが多いです。

症状特徴
瞳孔縮小患側の瞳孔が健側より小さい
眼瞼下垂上まぶたが下がる

発汗異常

顔面の片側で発汗が減少または停止することも、ホルネル症候群の重要な症状の一つです。

発汗異常は、交感神経系が汗腺の機能を制御しているために生じます。

発汗の低下は顔面に限らず、同側の上半身にまで及び、体温調節機能に影響を与えます。

血管拡張

ホルネル症候群では顔面の血管が拡張し、患部側の顔面が赤くなったり、温かくなる現象が観察されます。

血管拡張は、交感神経系の機能低下が原因です。

その他の症状

ホルネル症候群では主要な症状以外にも、いくつかの特徴的な症状が現れます。

  • 虹彩の色素脱失(異色虹彩):患側の虹彩が健側よりも薄く見える
  • 眼圧低下:患側の眼圧が正常値よりも低くなる
  • 眼球陥凹:患側の眼球が眼窩の奥に引っ込んだように見える
症状説明特徴
異色虹彩患側の虹彩が薄く見える虹彩の色素が減少する
眼圧低下患側の眼圧が低下する眼圧測定で確認可能
眼球陥凹患側の眼球が奥に引っ込む外見上の変化として認識される

ホルネル症候群の原因

ホルネル症候群は、交感神経系(体の興奮状態を調整する神経系)の障害によって起こります。

交感神経系の障害とホルネル症候群

ホルネル症候群の原因は、頭部から胸部にかけて走行する交感神経経路に生じる障害です。

この経路は、脳幹から脊髄、そして頸部交感神経節(首の部分にある神経の集まり)を経て眼や顔面に至る複雑な神経のネットワークを形成しています。

経路のいずれかの部分で障害が発生すると、ホルネル症候群に特徴的な症状が現れます。

ホルネル症候群の原因となる疾患

ホルネル症候群の発症には、さまざまな病態が関与しています。

原因
脳血管障害脳卒中(脳の血管が詰まったり破れたりする病気)、動脈解離(血管の内側の層が裂ける病気)
腫瘍肺尖部腫瘍(肺の上部にできる腫瘍)、神経鞘腫(神経の周りの組織にできる腫瘍)
外傷頸部外傷(首の怪我)、胸部外傷(胸の怪我)

年齢別にみるホルネル症候群の原因

ホルネル症候群の原因は、患者さんの年齢によって異なります。

年齢層原因
小児先天性(生まれつきの)要因、神経芽腫(小児に多い神経系の腫瘍)
成人外傷、頸部手術後の合併症
高齢者脳血管障害、悪性腫瘍

特発性ホルネル症候群について

一部のケースでは検査を行っても明確な原因が特定できない場合があり、このような状態を特発性ホルネル症候群と呼んでいます。

特発性でも当初は原因不明だった症例の中に、後になって重大な疾患が発見されることがあるため、定期的な経過観察が欠かせません。

原因を特定する際に注意を払うべき点

  • 患者さんからの病歴聴取と症状の経過確認
  • 全身にわたる神経学的診察の実施
  • 胸部X線検査による異常陰影の有無の確認
  • 必要に応じたMRIやCTなどの画像診断の活用
  • 血液検査を通じた全身状態の総合的な評価
診断手順目的
問診症状の発症時期や経過、既往歴の確認
身体診察瞳孔径や眼瞼下垂の程度の評価
画像検査脳、頸部、胸部の異常の有無の確認

診察(検査)と診

ホルネル症候群の診断は特徴的な症状の観察、神経学的検査、および薬理学的試験を組み合わせて行われ、画像診断も併用して原因となる病変の特定を目指します。

臨床診断の基本

ホルネル症候群の診断では、瞳孔の大きさの左右差、の有無、顔面の発汗異常などを観察します。

症状が片側性に現れることが、診断の重要な手がかりです。

観察項目診断的意義注意点
瞳孔サイズ患側で縮小明るさによる変化も確認
眼瞼位置患側で下垂軽度の場合は見逃しやすい
顔面発汗患側で減少環境温度の影響を考慮

神経学的検査

神経学的検査では、交感神経系の機能を評価します。

瞳孔反射検査では、暗所での瞳孔拡大反応や光に対する縮瞳反応を観察し、また、顔面の発汗パターンを調べるために、ヨウ素デンプン反応試験が実施されます。

薬理学的試験

ホルネル症候群の確定診断には薬理学的試験が有用で、特定の薬剤に対する瞳孔の反応を観察して交感神経系の機能を評価します。

  • コカイン点眼試験:正常な目では瞳孔が拡大するが、ホルネル症候群では反応が乏しくなる
  • アプラクロニジン試験:ホルネル症候群の目では瞳孔が拡大する特徴的な反応を示す
  • ヒドロキシアンフェタミン試験:病変部位の推定に役立ち、神経節前か神経節後かを判別
薬理学的試験目的結果の解釈
コカイン点眼交感神経機能評価患側で拡大反応低下
アプラクロニジンホルネル症候群の確認患側で拡大反応あり
ヒドロキシアンフェタミン病変部位の推定反応性により判断

画像診断

ホルネル症候群の原因となる病変を特定するために、画像診断が欠かせません。

MRIやCTスキャンを用いて頭頸部や胸部の構造を観察し、腫瘍や血管病変などの潜在的な原因を検出できます。

鑑別診断

ホルネル症候群の診断では、似た症状を呈する他の疾患との鑑別が不可欠です。

片側性の眼瞼下垂や瞳孔異常を起こす可能性のある他の神経学的疾患や眼科的疾患を除外する必要があります。

鑑別すべき疾患特徴鑑別のポイント
重症筋無力症眼瞼下垂が変動する瞳孔異常を伴わない
動眼神経麻痺眼球運動障害を伴う瞳孔が散大する
緑内障眼圧上昇を伴う瞳孔反応が保たれる

ホルネル症候群の治療法と処方薬、治療期間

ホルネル症候群の治療は、原因となっている疾患を特定し、疾患に対する治療を行うことが基本で、同時に症状を和らげたり合併症を防いだりするための対症療法も併せて実施されます。

原因疾患の治療

ホルネル症候群を根本的に治療するためには、原因となっている病気に対処することが大切です。

腫瘍が原因の場合は、外科的に切除したり放射線を使って治療し、脳卒中が原因のときは、血栓溶解療法や抗凝固療法を行います。

症状緩和のための対症療法

原因となっている病気の治療と並行して、ホルネル症候群の症状を和らげるための対症療法も行われます。

症状対症療法
縮瞳瞳孔を広げる目薬の使用
眼瞼下垂手術で修正
発汗減少皮膚の保湿ケア

薬物療法

ホルネル症候群の薬物療法は症状を和らげることを目的です。

瞳孔を広げる薬フェニレフリンやアプラクロニジンは、小さくなった瞳孔を広げ、目に入る光の量を増やす効果があり、明るさの感じ方が改善されます。

汗をかきにくくなった部分に対しては、保湿剤を使うことが勧められます。

手術的アプローチ

ホルネル症候群の中には、手術が必要になるケースもあります。

まぶたの垂れ下がりがひどいときは、まぶたを持ち上げる筋肉を強くする手術が検討され、原因が腫瘍である場合、腫瘍を取り除く手術が行われます。

治療期間と経過観察

ホルネル症候群の治療にかかる期間は、原因となっている病気や症状の程度によります。

原因疾患治療期間
急性脳卒中数週間から数ヶ月
良性腫瘍数ヶ月から1年程度
悪性腫瘍長期的な治療が必要

治療中は定期的に症状がどう変わっているかを確認することが欠かせません。

ホルネル症候群の治療における副作用やリスク

ホルネル症候群の治療では、原因疾患の治療や症状緩和のための薬物療法が行われますが、特有の副作用やリスクがあります。

薬物療法の副作用

ホルネル症候群の症状緩和に使用される薬剤には、様々な副作用があります。

交感神経刺激薬や副交感神経遮断薬などが用いられますが、全身に影響を及ぼすことがあり、注意が必要です。

薬剤副作用注意点
アドレナリン点眼薬頭痛、動悸心疾患のある方は要注意
アトロピン点眼薬口渇、便秘緑内障患者には使用制限あり

頻度は低いものの、重篤な副作用として、不整脈や高血圧などの循環器系への影響も報告されています。

外科的治療のリスク

原因疾患によっては外科的治療が必要となり、手術に伴うリスクあります。

頸部や胸部の手術で起こりえるのは、周辺の重要な神経や血管を損傷です。

  • 出血:手術部位や周辺組織からの予期せぬ出血
  • 感染:手術創部位の細菌感染
  • 麻酔関連の合併症:全身麻酔に伴う呼吸器系や循環器系の問題
  • 神経損傷の悪化:手術操作による既存の神経障害の悪化

長期的な副作用

ホルネル症候群の治療が長期に及び、長期の薬物療法では薬剤耐性や臓器への負担が懸念されるため、定期的な検査と薬剤調整が必要です。

長期的影響リスク対策
薬剤耐性効果の減弱定期的な薬剤変更
臓器負担肝機能・腎機能低下肝機能・腎機能検査の実施

治療の相互作用

ホルネル症候群の患者さんは他の疾患を併発していることも多く、複数の薬剤を服用するケースが見られます。

併用薬相互作用のリスク注意点
β遮断薬交感神経刺激薬の効果減弱血圧管理に注意
抗コリン薬副交感神経遮断薬との相乗効果口渇・便秘に注意

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

外来診療の費用

ホルネル症候群の診断と経過観察には、外来診療が用いられます。

神経内科や眼科の専門外来での診察費用は、保険適用後で1回あたり3,000円から5,000円です。

診療科外来診察料(保険適用後)
神経内科3,000円~4,000円
眼科3,500円~5,000円

検査費用

診断のための検査費用は、検査の種類によって異なります。

  • MRI検査 15,000円~20,000円
  • CT検査 10,000円~15,000円
  • 血液検査 3,000円~5,000円

薬物療法の費用

症状緩和のための薬物療法にかかる費用

薬剤1ヶ月あたりの費用(保険適用後)
交感神経刺激薬2,000円~4,000円
副交感神経遮断薬1,500円~3,000円

手術療法の費用

原因疾患によっては手術が必要となる場合があり、頸部交感神経切除術では、保険適用後で30万円から50万円です。

以上

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