アシネトバクター感染症(Acinetobacter infection)とは、アシネトバクター属の細菌が引き起こす感染症です。
アシネトバクターは自然界に広く存在しており、健康な人が感染することはほとんどありませんが、医療機関内で抗菌薬の使用や侵襲的な処置を受けた患者さんに発生することがあります。
この細菌はカテーテルや人工呼吸器などの医療機器を介して感染することが多く、敗血症、肺炎、尿路感染症、創部感染などを引き起こすことがあります。
さらに、多剤耐性を獲得しやすいことが知られており、院内感染の原因となる可能性もあるため、医療機関における感染対策が重要です。
アシネトバクター感染症の種類(病型)
アシネトバクター感染症には、いくつかの病型があります。
院内肺炎と人工呼吸器関連肺炎
アシネトバクター感染症の中で最も多いのが、院内肺炎と人工呼吸器関連肺炎です。
どちらも、アシネトバクターが気道に定着し、炎症を引き起こすことで発症します。
高齢者や免疫力の低下した患者さんに多く見られ、重症化するリスクが高いのが特徴です。
病型 | 特徴 |
院内肺炎 | 入院中の患者さんに発症する肺炎 |
人工呼吸器関連肺炎 | 人工呼吸器を使用している患者さんに発症する肺炎 |
尿路感染症と創傷感染症
尿路感染症は、アシネトバクターが尿路に感染することで発症します。 カテーテルの使用や、尿路の閉塞などが原因となることが多いです。
創傷感染症は、手術後の創部や褥瘡などに、アシネトバクターが感染することで発症し、創傷管理が行われないと、感染のリスクが高まります。
カテーテル関連血流感染症と髄膜炎
カテーテル関連血流感染症は、血管内留置カテーテルを介して、アシネトバクターが血流に侵入することで発症。
免疫力の低下した患者さんに多く見られ、敗血症などの重篤な合併症を引き起こす可能性があります。
また、髄膜炎は、アシネトバクターが髄膜に感染することで発症し、 髄液からアシネトバクターが検出された際は、髄膜炎の可能性を考える必要があります。
- 尿路感染症:アシネトバクターが尿路に感染することで発症
- 創傷感染症:手術後の創部や褥瘡などに、アシネトバクターが感染することで発症
- カテーテル関連血流感染症:血管内留置カテーテルを介して、アシネトバクターが血流に侵入することで発症
- 髄膜炎:アシネトバクターが髄膜に感染することで発症
病型 | 感染経路 |
尿路感染症 | 尿路 |
創傷感染症 | 創傷 |
カテーテル関連血流感染症 | 血管内留置カテーテル |
髄膜炎 | 髄膜 |
アシネトバクター感染症の主な症状
アシネトバクター感染症の症状は、感染した部位や病型によってさまざまで、いずれの病型でも重症化するリスクがあります。
院内肺炎
院内肺炎は、アシネトバクター感染症の中でも最も多く見られる病型の1つです。
発熱、咳、喀痰、呼吸困難などの症状が現れます。
発熱は通常38℃以上の高熱が持続し、咳は激しく続き、喀痰は膿性となり、量が増加することが多いです。 呼吸困難は、息切れや胸部の不快感を伴います。
重症化した場合、呼吸不全や敗血症を引き起こすことも。
呼吸不全では、酸素飽和度の低下や呼吸数の増加が見られ、敗血症では、血圧低下やショック症状を呈する場合があります。
症状 | 特徴 |
発熱 | 38℃以上の高熱が持続 |
咳 | 激しい咳が続く |
喀痰 | 膿性の喀痰が増加 |
呼吸困難 | 呼吸が苦しくなる |
人工呼吸器関連肺炎
人工呼吸器関連肺炎は、人工呼吸器を使用している患者さんに発症することが多い病型です。
院内肺炎と同様の症状が見られますが、より重症化しやすい傾向にあります。
人工呼吸器関連肺炎では、人工呼吸器の設定圧や換気量の変更が必要になることがあり、また、気管内チューブや気管切開チューブからの膿性分泌物の増加が見られます。
重症化すると、人工呼吸器からの離脱が困難になり、長期の呼吸管理を要する場合があり、敗血症や多臓器不全を合併するリスクも高いです。
尿路感染症
尿路感染症は、膀胱炎や腎盂腎炎などの形で現れます。 頻尿、排尿時の痛み、血尿などの症状が特徴的です。
- 頻尿:尿意切迫感を伴い、少量ずつ頻回に排尿。
- 排尿時の痛み:尿道や下腹部の灼熱感として感じられる。
- 血尿:肉眼的に確認できる場合もるが、顕微鏡的血尿のこともある。
重症化すると、敗血症や腎不全を引き起こすことがあります。
- 敗血症の症状:発熱、悪寒、血圧低下などの全身症状が現れる。
- 腎不全の症状:尿量の減少や浮腫、全身倦怠感などの症状が見られる。
創傷感染症
創傷感染症は、手術部位や褥瘡などの創傷に感染が生じた場合に発症し、 感染部位の発赤、腫脹、疼痛などの症状が現れます。
発赤:感染部位を中心に拡大することが多い。
腫脹:創傷周囲の組織が腫れ上がり、熱感を伴う。
疼痛:感染の進行とともに増強し、患者さんの生活の質を低下させる。
重症化すると、壊死性筋膜炎などの深部組織の感染へと進展する可能性があり、皮膚の変色や水疱形成、激しい疼痛などの症状が見られます。
治療が行われないと、敗血症やショックを引き起こし、生命に関わる場合も。
病型 | 主な症状 |
カテーテル関連血流感染症 | 発熱、悪寒、血圧低下など |
髄膜炎 | 発熱、頭痛、意識障害など |
アシネトバクター感染症の原因・感染経路
アシネトバクター感染症は、医療関連感染症の原因菌の一つであるアシネトバクター属細菌によって引き起こされる感染症です。
アシネトバクター属細菌とは
アシネトバクター属細菌は、グラム陰性の通性嫌気性菌で、環境中に広く存在しています。
特に、医療環境において問題となるのが、多剤耐性アシネトバクター(MDRA)です。
MDRAは、多くの抗菌薬に対して耐性を示すため、感染症の治療が困難となります。
アシネトバクター属細菌の特徴 | 説明 |
グラム陰性菌 | 細胞壁の構造が特徴的な細菌群 |
通性嫌気性菌 | 酸素の有無に関わらず生育可能な細菌 |
環境中に広く存在 | 土壌、水、医療環境など様々な場所に存在 |
感染経路
アシネトバクター感染症の主な感染経路
- 医療器具を介した感染:人工呼吸器、中心静脈カテーテル、尿道カテーテルなどを介して感染が成立します。
- 患者間の交差感染:医療従事者の手指や医療器具を介して、患者間で感染が拡大することがあります。
- 環境からの感染:病室の環境表面に定着したアシネトバクターが、患者や医療従事者を介して感染を引き起こすことがあります。
感染経路 | 説明 |
医療器具を介した感染 | 人工呼吸器、中心静脈カテーテル、尿道カテーテルなどを介して感染 |
患者間の交差感染 | 医療従事者の手指や医療器具を介して、患者間で感染が拡大 |
環境からの感染 | 病室の環境表面に定着したアシネトバクターが、患者や医療従事者を介して感染 |
リスク因子
アシネトバクター感染症のリスク因子
- 免疫力の低下:高齢者、基礎疾患を有する患者さん、免疫抑制剤を使用している患者さんなどは、感染のリスクが高くなります。
- 侵襲的医療処置:人工呼吸器の使用、中心静脈カテーテルの留置、手術などの侵襲的医療処置は、感染のリスクを増加させます。
- 長期入院:入院期間が長くなるほど、アシネトバクターに曝露される機会が増え、感染のリスクが高まります。
診察(検査)と診断
アシネトバクター感染症の診察と検査では、臨床症状や検査所見を総合的に評価し、臨床診断と確定診断を行います。
病歴聴取と身体所見
アシネトバクター感染症が疑われる患者さんに対しては、まず詳細な病歴聴取を行い、感染のリスク因子や基礎疾患の有無、症状の出現時期や経過などを確認します。
身体所見では、発熱や感染局所の症状に注目し、肺炎の場合は呼吸音の異常、尿路感染症の場合は腎部の叩打痛などを評価することに。
評価項目 | 内容 |
病歴聴取 | 感染リスク因子、基礎疾患、症状の経過など |
身体所見 | 発熱、感染局所の症状など |
血液検査
血液検査では、炎症反応や臓器障害の有無を評価します。
主な検査項目
- 白血球数、CRP:炎症の指標となります。感染症では上昇します。
- 血液培養:血液中の細菌を検出し、起因菌を同定します。アシネトバクター属の検出が重要です。
- 生化学検査:肝機能や腎機能などの臓器障害の有無を評価します。
画像検査
画像検査は、感染巣の同定や重症度の評価に有用です。 肺炎では胸部X線やCT、尿路感染症では腹部超音波やCTなどを行います。
感染症 | 画像検査 |
肺炎 | 胸部X線、胸部CT |
尿路感染症 | 腹部超音波、腹部CT |
細菌学的検査
確定診断には、感染部位からの検体採取と細菌学的検査が不可欠です。 検体からアシネトバクター属を分離・同定し、薬剤感受性試験を行います。
主な検体と検査方法
- 喀痰、気管吸引痰:グラム染色と培養を行います。アシネトバクター属の検出が重要です。
- 尿:尿培養を行い、アシネトバクター属の有無を評価します。
- 血液:血液培養を行い、アシネトバクター属の検出を試みます。
- 創部:創部の浸出液や組織を採取し、培養とグラム染色を行います。
アシネトバクター感染症の診察と検査では、臨床所見と検査結果を総合的に判断し、確定診断を行います。
アシネトバクター感染症の治療法と処方薬、治療期間
アシネトバクター感染症の治療では、抗菌薬の投与を行います。
抗菌薬の選択
医師は感染部位や重症度を考慮し、最も効果が期待できる抗菌薬を選択します。
カルバペネム系、アミノグリコシド系、テトラサイクリン系などの抗菌薬が使われることが多いです。
抗菌薬の種類 | 代表的な薬剤名 |
カルバペネム系 | イミペネム、メロペネム |
アミノグリコシド系 | ゲンタマイシン、アミカシン |
多剤耐性菌が原因の感合、コリスチンやチゲサイクリンなどの特殊な抗菌薬の使用が検討されます。
投与方法と期間
抗菌薬の投与は点滴または筋肉注射で行われるのが一般的です。
治療期間は、多くの場合7〜14日間程度が目安となります。
投与方法 | 治療期間の目安 |
点滴 | 7〜14日間 |
筋肉注射 | 7〜14日間 |
ただし重症の患者さんは、さらに長期の治療が必要になるケースもあります。
治療効果の評価
治療を始めてから定期的に下記の項目をチェックし、治療の効果を判断します。
- 臨床症状の改善
- 炎症反応の推移(CRPや白血球数など)
- 細菌培養検査の結果
これらの評価結果を基に、抗菌薬の変更や治療期間の延長などが検討されます。
耐性菌への対策
アシネトバクター属菌では多剤耐性化が大きな問題です。
耐性菌の蔓延を防ぐための対策
- 抗菌薬の正しい使用
- 感染対策の徹底(手指衛生、隔離など)
- 耐性菌のサーベイランス
予後と再発可能性および予防
アシネトバクター感染症の治療後の経過は、早期に発見し治療を行えば良好な結果が得られることが多いです。
治療後の予後
条件 | 予後 |
早期発見・治療 | 良好 |
治療開始の遅れ | 重症化リスク |
基礎疾患のある患者さん、高齢の方、免疫力が低下している患者さんなどでは、治療が難航する可能性があります。
再発の可能性
再発に関して注意が必要な点
- 間違った抗菌薬の選択
- 治療期間の不足
- 感染源の除去の失敗
治療を行えば、再発のリスクを低減できますが、完全になくすことは難しいのが現状です。
特に、医療関連機器を留置している患者さんは、再発のリスクが高くなる傾向にあります。
再発リスク | 条件 |
高い | 医療関連機器の留置 |
低い | 適切な治療の実施 |
再発予防の重要性
再発を防ぐには、感染源を特定し除去することが必要です。
- 手指衛生の徹底
- 医療機器の適切な管理
- 環境表面の清掃・消毒
患者さんに対しても、感染予防について教育を行い、理解と協力を得ることが大切です。
アシネトバクター感染症の治療における副作用やリスク
アシネトバクター感染症の治療に用いられる抗菌薬は、副作用やリスクを伴うことがあります。
抗菌薬の副作用
抗菌薬の投与により、副作用が生じることがあります。
副作用の種類 | 具体的な症状 |
消化器症状 | 悪心、嘔吐、下痢、腹痛 |
アレルギー反応 | 発疹、掻痒感、呼吸困難 |
副作用の内容や程度は、使用する抗菌薬の種類や投与量、また患者さんの体質などによって異なります。
腎機能障害のリスク
アミノグリコシド系抗菌薬は腎機能障害を引き起こすリスクが高いことが分かっています。
高齢の方や既に腎機能が低下している患者さんへの投与は特に注意が必要です。
腎機能障害のリスク因子 | 具体例 |
高齢 | 65歳以上 |
腎機能低下 | クレアチニンクリアランス低値 |
腎機能を定期的にチェックし、必要に応じて投与量を調整することが大切です。
耐性菌出現のリスク
抗菌薬を乱用すると、耐性菌が出現しやすくなります。 アシネトバクター属菌では多剤耐性化が問題となっており、治療の選択肢が限られているのが現状です。
耐性菌の出現を最小限に抑えるために注意する点
- 抗菌薬の正しい使用
- 感染対策の徹底
- 耐性菌のサーベイランス
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
初診料と再診料
項目 | 費用 |
初診料 | 2,820円 |
再診料 | 720円 |
初診料は、初めて医療機関を受診した際に必要な費用で、再診料は、同じ医療機関に2回目以降に受診する際に必要な費用です。
検査費と処置費
項目 | 費用 |
血液検査 | 3,000円~10,000円 |
画像検査 | 10,000円~50,000円 |
処置費 | 5,000円~20,000円 |
感染の重症度を評価するために、血液検査や画像検査が行われ、また、感染部位の洗浄や抗菌薬の投与などの処置が必要になることがあります。
入院費
入院が必要な場合、1日あたりの入院費用は以下のようになります。
- 一般病棟:10,000円~30,000円
- 集中治療室(ICU):50,000円~100,000円
感染の重症度によっては、集中治療室での管理が必要となる場合があります。
以上
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