急性喉頭蓋炎 – 感染症

急性喉頭蓋炎(acute epiglottitis)とは、喉頭蓋とその周囲の組織に急激な炎症が生じる疾患のことです。

喉頭蓋は、飲み込む際に気管を保護するために重要な役割を果たす軟骨組織ですが、急性喉頭蓋炎ではこの部位に細菌感染が起こり、著しい腫脹と気道の狭窄を引き起こします。

本疾患の主な原因は、インフルエンザ菌などの細菌感染であり、特に小児や高齢者において発症しやすいです。

症状は急速に進行することが多く、重篤な呼吸困難をきたすことがあるため、緊急性の高い疾患の一つに数えられています。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

急性喉頭蓋炎の種類(病型)

急性喉頭蓋炎(こうとうがいえん)は、小児と成人で病型が大きく異なります。

小児の急性喉頭蓋炎

小児の急性喉頭蓋炎は、主にインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)による感染が原因となります。

特に5歳未満の小児に多く見られ、急激な発症と症状の進行が特徴的です。

高熱、喉の痛み、嗄声、呼吸困難などの症状が現れ、治療が遅れると気道閉塞や敗血症などの重篤な合併症を引き起こすことがあります。

特徴詳細
好発年齢主に5歳未満の小児
原因菌インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)
症状の進行急激な発症と進行
主な症状高熱、喉の痛み、嗄声、呼吸困難など
合併症気道閉塞、敗血症など

小児の急性喉頭蓋炎では、早期発見と迅速な治療開始が非常に大切です。

気道確保や抗菌薬の投与などの医療介入を行うことで、重篤な合併症を防げます。

成人の急性喉頭蓋炎

一方、成人の急性喉頭蓋炎は、インフルエンザ菌以外のさまざまな細菌やウイルスが原因になることが多いです。

  • 肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)
  • 溶血性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)
  • 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)
  • ヘルペスウイルスなど

成人の場合、小児ほど急激な症状の進行は見られませんが、喉の痛みや嚥下困難、発熱などの症状が徐々に現れます。

特徴詳細
好発年齢主に成人
原因菌インフルエンザ菌以外の様々な細菌やウイルス
症状の進行小児ほど急激ではない
主な症状喉の痛み、嚥下困難、発熱など
合併症気道閉塞、敗血症など

成人の急性喉頭蓋炎では、基礎疾患の管理と合併症の予防が大切です。

特に、糖尿病や免疫抑制状態にある患者さんは、重症化のリスクが高いため、注意が必要です。

急性喉頭蓋炎の主な症状

急性喉頭蓋炎(こうとうがいえん)の症状は、発症年齢によって異なります。

小児の急性喉頭蓋炎

小児の急性喉頭蓋炎では、急激な発症と症状の進行が特徴的で、主な症状は、高熱、嚥下痛、嗄声、喘鳴、呼吸困難などです。

症状詳細
高熱39度以上の高熱が突然出現し、解熱剤に反応しにくい
嚥下痛喉の痛みが強く、嚥下が困難となり、流涎が見られる

喉頭蓋の腫脹により、喘鳴や吸気性呼吸困難が急速に悪化します。 小児では、症状の進行が速いため、注意深い観察が必要です。

  • 喘鳴:吸気時に高調な音が聞かれる
  • 吸気性呼吸困難:陥没呼吸や鼻翼呼吸を伴う
  • 喉頭蓋の腫脹:喉頭ファイバーで確認される
  • チアノーゼ:口唇や爪床の青紫色変化

小児の急性喉頭蓋炎では、座位を取ろうとする “sniffing position” と呼ばれる特徴的な姿勢を取ることがあります。

これは、上気道の開存性を維持するための姿勢変化です。

成人の急性喉頭蓋炎

成人の急性喉頭蓋炎では、小児ほど急激な症状の進行は見られませんが、重篤化のリスクがあります。 主な症状は、発熱、咽頭痛、嚥下痛、嗄声などです。

症状詳細
発熱38度以上の発熱が数日間持続することがある
咽頭痛喉の痛みが強く、嚥下痛を伴う

成人では、喉頭蓋の腫脹による呼吸困難の進行は緩徐ですが、重症化すると気道閉塞をきたします。 喘鳴や呼吸困難、嚥下困難などの症状に注意が必要です。

  • 喘鳴:吸気時や呼気時に喘鳴が聞かれる
  • 呼吸困難:呼吸数増加や補助呼吸筋の使用を伴う
  • 嚥下困難:唾液の貯留や誤嚥のリスクがある
  • 口腔内所見:喉頭蓋の発赤・腫脹が見られる

成人の急性喉頭蓋炎では、喉頭ファイバーによる喉頭蓋の観察が診断に有用で、喉頭蓋の発赤・腫脹や気道狭窄の程度を評価できます。

急性喉頭蓋炎の原因・感染経路

急性喉頭蓋炎(こうとうがいえん)は、主に細菌やウイルスによる感染が原因で発症し、感染経路は飛沫感染や接触感染が主体です。

急性喉頭蓋炎の原因菌

急性喉頭蓋炎の主な原因菌

  • インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)
  • 肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)
  • 溶血性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)
  • 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)

特に、小児の急性喉頭蓋炎ではインフルエンザ菌が最も多く、成人では肺炎球菌や溶血性連鎖球菌が主な原因菌です。

年齢層主な原因菌
小児インフルエンザ菌
成人肺炎球菌、溶血性連鎖球菌

これらの細菌は、上気道に常在する細菌で、何らかの要因で増殖し、急性喉頭蓋炎を引き起こします。

急性喉頭蓋炎の原因ウイルス

急性喉頭蓋炎の原因となるウイルス

  • ヘルペスウイルス
  • サイトメガロウイルス
  • エプスタイン・バーウイルス

これらのウイルスは、免疫力が低下した状態で感染すると、急性喉頭蓋炎を引き起こします。

ウイルス性の急性喉頭蓋炎は、細菌性のものと比べると比較的まれですが、重症化するリスクが高いため注意が必要です。

ウイルス名特徴
ヘルペスウイルス免疫力低下時に感染リスク上昇
サイトメガロウイルス免疫抑制患者に多い
エプスタイン・バーウイルス伝染性単核球症の原因ウイルス

急性喉頭蓋炎の感染経路

急性喉頭蓋炎の主な感染経路

  1. 飛沫感染:感染者の咳やくしゃみ、会話などで生じる飛沫を吸入することで感染します。
  2. 接触感染:感染者の唾液や鼻水などに触れた手で、自分の口や鼻、目を触ることで感染します。

特に、小児は手洗いの習慣が十分に身についていないことが多いため、接触感染のリスクが高くなります。

また、免疫力が低下している人や基礎疾患がある人も、感染のリスクが高いです。

診察(検査)と診断

急性喉頭蓋炎(こうとうがいえん)の診断は、臨床症状と各種検査所見を総合的に評価して行われます。

病歴聴取と身体診察

まず、急激な発症と進行する呼吸困難、嚥下痛などの臨床症状を確認します。 身体診察では、バイタルサインの評価と上気道の観察が大切です。

病歴聴取身体診察
発症状況と経過バイタルサイン
呼吸困難の程度喘鳴の有無

喉頭ファイバースコピー

急性喉頭蓋炎では、喉頭ファイバースコピーによる喉頭の直接観察が診断に有用です。 喉頭蓋の発赤・腫脹や気道狭窄の程度を評価できます。

  • 喉頭蓋の発赤・腫脹
  • 声門上部の浮腫状変化
  • 気道狭窄の程度

ただし、喉頭ファイバースコピーは気道刺激による喉頭痙攣のリスクがあるため、気道確保の準備を整えたうえで慎重に行う必要があります。

画像検査

頸部単純X線検査やCT検査は、喉頭蓋の腫脹や気道狭窄の評価に役立ち、 特に、側面像で喉頭蓋の腫脹による “thumb sign” が見られることがあります。

画像検査所見
頸部単純X線検査喉頭蓋の腫脹 (thumb sign)
頸部CT検査喉頭蓋の腫脹と気道狭窄

血液検査

血液検査では、炎症反応の指標として白血球数、CRP値などが上昇し、また、血液培養検査で原因菌の同定を試みることもあります。

急性喉頭蓋炎の治療法と処方薬、治療期間

急性喉頭蓋炎(こうとうがいえん)の治療は、重症度に応じて抗菌薬の投与や気道管理を行い、治療期間は通常7〜14日程度ですが、重症例では入院治療が必要になることがあります。

急性喉頭蓋炎の治療方針

急性喉頭蓋炎の治療では、まず気道確保が最も重要です。

喉頭蓋の腫脹により気道閉塞が起こると、致命的な状況に陥ることがあるため、速やかな対応が求められます。

軽症例では、抗菌薬の投与と経過観察で対応し、中等症以上の場合は、入院のうえで気道管理を行う必要があります。

重症度治療方針
軽症抗菌薬投与と経過観察
中等症以上入院の上で気道管理

重症例では、気管挿管や気管切開などの処置が必要になることもあります。

急性喉頭蓋炎の抗菌薬治療

急性喉頭蓋炎の治療には、原因菌に応じた抗菌薬の投与が行われます。

主な処方薬

  • ペニシリン系抗菌薬(アンピシリン、アモキシシリンなど)
  • セフェム系抗菌薬(セフトリアキソン、セフォタキシムなど)
  • マクロライド系抗菌薬(アジスロマイシン、クラリスロマイシンなど)

小児の場合は、インフルエンザ菌を想定してアンピシリンやセフトリアキソンを第一選択とすることが多いです。

成人の場合は、肺炎球菌や溶血性連鎖球菌を想定して、ペニシリン系やセフェム系の抗菌薬を選択します。

年齢層主な処方薬
小児アンピシリン、セフトリアキソン
成人ペニシリン系、セフェム系抗菌薬

抗菌薬の投与期間は、通常7〜14日間が目安です。

急性喉頭蓋炎の治療期間

急性喉頭蓋炎の治療期間は、軽症例では、抗菌薬投与と経過観察で7〜14日程度で改善が見られることが多いです。

一方、中等症以上の場合は、入院治療が必要になり、治療期間が長引く傾向があります。

重症例では、気管挿管や気管切開などの処置が必要になることもあり、治療期間は数週間に及ぶことも。

予後と再発可能性および予防

急性喉頭蓋炎(こうとうがいえん)の予後は、早期診断と迅速な治療介入によって大きく改善されますが、再発のリスクも考慮する必要があります。

治療予後を左右する因子

急性喉頭蓋炎の予後は、重症度や合併症の有無、治療開始までの時間などによって影響を受けます。

特に、気道閉塞による低酸素血症や敗血症性ショックを合併した場合は、予後不良になることがあります。

予後不良因子詳細
重症度気道閉塞、低酸素血症、敗血症性ショックなど
治療開始の遅れ診断の遅れ、間違った初期治療など

再発のリスク因子

急性喉頭蓋炎の再発は比較的まれですが、いくつかの因子によって再発のリスクが高くなります。

  • 免疫抑制状態(HIV感染症、悪性腫瘍など)
  • 不適切な抗菌薬治療(期間不足、薬剤選択の誤りなど)
  • 喉頭蓋の解剖学的異常(喉頭蓋嚢胞など)
再発リスク因子対策
免疫抑制状態基礎疾患の管理
不適切な抗菌薬治療適切な薬剤選択と治療期間の確保

再発予防のための対策

再発予防のための対策

  1. 基礎疾患(免疫抑制状態)のコントロール
  2. 適切な抗菌薬の選択と十分な治療期間の確保
  3. 喉頭蓋の解剖学的異常の評価と治療
  4. 禁煙や口腔ケア

ワクチン接種による予防

成人における急性喉頭蓋炎の主要な原因菌であるインフルエンザ菌b型(Hib)に対するワクチン接種は、本疾患の予防に有効です。

特に、免疫抑制状態の患者さんでは、積極的なHibワクチン接種が推奨されます。

急性喉頭蓋炎の治療における副作用やリスク

急性喉頭蓋炎(こうとうがいえん)の治療における副作用やリスクには、抗菌薬の副作用、気道確保処置に伴う合併症、治療の遅れによる重症化などがあります。

抗菌薬投与に伴う副作用

急性喉頭蓋炎の治療では、抗菌薬の投与が中心となりますが、抗菌薬の使用には副作用のリスクがあります。

主な副作用

  • アレルギー反応(発疹、かゆみ、呼吸困難など)
  • 消化器症状(悪心、嘔吐、下痢など)
  • 肝機能障害
  • 腎機能障害

特に、ペニシリン系抗菌薬ではアレルギー反応に注意が必要です。

抗菌薬の種類主な副作用
ペニシリン系アレルギー反応
セフェム系消化器症状、肝機能障害
マクロライド系消化器症状、肝機能障害

気道確保処置に伴う合併症

重症の急性喉頭蓋炎では、気管挿管や気管切開などの気道確保処置が必要になることがあります。

気道確保処置により起こり得る合併症

  • 気道損傷
  • 出血
  • 感染
  • 誤嚥性肺炎

特に、小児では、気道確保処置に伴う合併症のリスクが高いです。

年齢層主な合併症リスク
小児気道損傷、誤嚥性肺炎
成人出血、感染

治療の遅れによる重症化リスク

急性喉頭蓋炎は、治療が遅れると重症化し、致命的な状況に陥ることがあります。

特に注意が必要な状態

  • 症状が急激に悪化する場合
  • 呼吸困難が進行する場合
  • 意識レベルが低下する場合

これらの症状が見られたときは、速やかに治療が必要です。

治療の遅れは、敗血症や呼吸不全などの重篤な合併症を引き起こすリスクがあります。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

初診料と再診料

初診料は、3,000円から5,000円程度が一般的で、再診料は、1,000円から2,000円程度が相場です。

項目費用
初診料3,000円~5,000円
再診料1,000円~2,000円

検査費と処置費

検査費は、血液検査や画像検査などで数万円から10万円以上、処置費は、気道確保や人工呼吸管理などで数十万円から100万円以上かかる場合もあります。

項目費用
血液検査数万円
画像検査数万円

入院費

重症例では、集中治療室(ICU)での管理が必要となり、入院費が高額になることがあります。

以上

References

Guldfred LA, Lyhne D, Becker BC. Acute epiglottitis: epidemiology, clinical presentation, management and outcome. The Journal of Laryngology & Otology. 2008 Aug;122(8):818-23.

Katori H, Tsukuda M. Acute epiglottitis: analysis of factors associated with airway intervention. The Journal of Laryngology & Otology. 2005 Dec;119(12):967-72.

MayoSmith MF, Hirsch PJ, Wodzinski SF, Schiffman FJ. Acute epiglottitis in adults. New England Journal of Medicine. 1986 May 1;314(18):1133-9.

Mayo-Smith MF, Spinale JW, Schiffman FJ, Donskey CJ, Yukawa M, Li RH. Acute epiglottitis: an 18-year experience in Rhode Island. Chest. 1995 Dec 1;108(6):1640-7.

Frantz TD, Rasgon BM, Quesenberry CP. Acute epiglottitis in adults: analysis of 129 cases. JAMA. 1994 Nov 2;272(17):1358-60.

Deeb ZE, Yenson AC, Defries HO. Acute epiglottitis in the adult. The Laryngoscope. 1985 Mar;95(3):289-91.

Ng HL, Sin LM, Li MF, Que TL, Anandaciva S. Acute epiglottitis in adults: a retrospective review of 106 patients in Hong Kong. Emergency Medicine Journal. 2008 May 1;25(5):253-5.

Wick F, Ballmer PE, Haller A. Acute epiglottitis in adults. Swiss medical weekly. 2002 Sep 21;132(3738):541-7.

Hawkins DB, Miller AH, Sachs GB, Benz RT. Acute epiglottitis in adults. The Laryngoscope. 1973 Aug;83(8):1211-20.

Hafidh MA, Sheahan P, Keogh I, Walsh RM. Acute epiglottitis in adults: a recent experience with 10 cases. The Journal of Laryngology & Otology. 2006 Apr;120(4):310-3.

免責事項

当記事は、医療や介護に関する情報提供を目的としており、当院への来院を勧誘するものではございません。従って、治療や介護の判断等は、ご自身の責任において行われますようお願いいたします。

当記事に掲載されている医療や介護の情報は、権威ある文献(Pubmed等に掲載されている論文)や各種ガイドラインに掲載されている情報を参考に執筆しておりますが、デメリットやリスク、不確定な要因を含んでおります。

医療情報・資料の掲載には注意を払っておりますが、掲載した情報に誤りがあった場合や、第三者によるデータの改ざんなどがあった場合、さらにデータの伝送などによって障害が生じた場合に関しまして、当院は一切責任を負うものではございませんのでご了承ください。

掲載されている、医療や介護の情報は、日付が付されたものの内容は、それぞれ当該日付現在(又は、当該書面に明記された時点)の情報であり、本日現在の情報ではございません。情報の内容にその後の変動があっても、当院は、随時変更・更新することをお約束いたしておりませんのでご留意ください。