アデノウイルス感染症

アデノウイルス感染症(adenovirus infection)とは、アデノウイルスが原因となって発症するウイルス性の感染症のことです。

このウイルスは、呼吸器系、眼、消化器系など、身体のさまざまな器官に感染し、多岐にわたる症状を引き起こします。

感染経路は、感染者との直接的な接触や、ウイルスに汚染された物品との接触です。

特に免疫力の低下している人や乳幼児、高齢者などは感染のリスクが高いと考えられています。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

アデノウイルス感染症の種類(病型)

アデノウイルス感染症には、急性上気道炎、咽頭結膜熱、急性出血性結膜炎、胃腸炎、出血性膀胱炎、間質性肺炎、肝障害、無菌性髄膜炎、脳炎、心筋炎など、さまざまな病型があります。

これらの病型は、感染したウイルスの種類や感染部位によって異なる特徴を示します。

急性上気道炎

急性上気道炎は、アデノウイルスが鼻や喉に感染することで引き起こされます。

発熱、鼻水、咳、喉の痛みなどが主な症状として現れるのが特徴です。

病型主な症状
急性上気道炎発熱、鼻水、咳、喉の痛み
咽頭結膜熱発熱、喉の痛み、目の充血

咽頭結膜熱

咽頭結膜熱は、アデノウイルスが喉と目に同時に感染することで発症します。

高熱、喉の激しい痛み、目の充血などが特徴的な症状です。

学校などでの集団感染が起こりやすいことが知られています。

急性出血性結膜炎

急性出血性結膜炎は、アデノウイルスが目に感染することで起こります。

目の痛み、充血、まぶたの腫れ、目やになどの症状が突然現れ、プールを介した感染例が多く報告されています。

胃腸炎

アデノウイルスによる胃腸炎は、主に乳幼児に多く見られる病型です。

下痢、嘔吐、腹痛などの消化器症状が特徴的に現れます。

病型主な症状
急性出血性結膜炎目の痛み、充血、まぶたの腫れ、目やに
胃腸炎下痢、嘔吐、腹痛

これらの他にも、アデノウイルス感染症には次のような病型があります。

  • – 出血性膀胱炎:血尿や頻尿などの症状が現れる
  • – 間質性肺炎:咳や呼吸困難などの症状が見られる
  • – 肝障害:黄疸や肝機能異常が起こる可能性がある
  • – 無菌性髄膜炎:発熱や頭痛などの症状が現れる
  • – 脳炎:意識障害や痙攣などの重篤な症状が起こり得る
  • – 心筋炎:胸痛や動悸などの症状が現れる場合がある

アデノウイルス感染症の主な症状

アデノウイルス感染症の代表的な症状は、高熱、咳、鼻水、のどの痛み、目の充血など風邪に似たものです。

下痢や嘔吐などの消化器症状を伴うこともあります。

重症化した際には肺炎や脳炎などを引き起こすリスクがあるため、注意が必要です。

発熱

アデノウイルス感染症の際には、高熱が出るケースが多いく、40度近くまで体温が上昇することもあります。

症状頻度
38度以上の発熱70%
39度以上の高熱30%

熱は数日から1週間程度続きますが、2週間以上長引くこともあります。

呼吸器症状

咳や鼻水、のどの痛みなどの呼吸器症状もよく見られる症状で、 アデノウイルス感染症の特徴は、咳が頑固で長引きやすいことです。

  • 鼻水
  • のどの痛み
  • 鼻づまり

喘息がある方がアデノウイルスに感染してしまうと、喘息発作が引き起こされる危険性もあります。

消化器症状

アデノウイルス感染症では、下痢や嘔吐などの消化器症状が現れることもあります。 乳幼児の場合、特に重症化しやすく、脱水にも十分な注意が必要です。

症状頻度
下痢30%
嘔吐20%

目の症状

アデノウイルス感染症では、目の充血や目やにが出るなどの症状も見受けられ、結膜炎を併発することもあります。

目の症状は、ウイルスが目に直接感染することが原因で起こるので、手洗いを徹底したり、タオルの共用を避けたりするなど、感染予防に努めることが大切です。

アデノウイルス感染症の原因・感染経路

アデノウイルス感染症は、アデノウイルスが原因で起こる感染症で、このウイルスは、主に呼吸器や目の粘膜、消化管から体内に入り込みます。

アデノウイルスの特徴

アデノウイルスは、二本鎖DNAウイルスに分類されるウイルスです。

現在、100種類以上の血清型が確認されており、ヒトに感染症を引き起こすのは、そのうちの約1/3とされています。

アデノウイルスは、環境中で長期間生存することができ、アルコールなどの消毒薬に対する抵抗性も比較的高いです。

ウイルス種主な感染経路
アデノウイルス飛沫感染、接触感染、経口感染
インフルエンザウイルス飛沫感染、接触感染

感染経路

アデノウイルス感染症の主な感染経路

  1. 飛沫感染:感染者のくしゃみや咳などによって飛散したウイルスを含む飛沫を吸い込むことで感染します。
  2. 接触感染:ウイルスに汚染された手指や物品、環境表面などを介して感染します。
  3. 経口感染:ウイルスに汚染された食品や水を介して感染します。

特に、乳幼児や免疫力の低下した高齢者、基礎疾患を持つ人は感染リスクが高く、重症化しやすいです。

また、アデノウイルスは環境中で長期間生存可能なため、感染力が強く、集団感染を起こしやすい特徴があり、保育所や幼稚園、学校などの集団生活の場で流行することがあります。

感染リスクが高い集団主な理由
乳幼児免疫力が未発達
高齢者免疫力の低下
基礎疾患を持つ人全身状態の悪化

ウイルスの排出経路

アデノウイルスに感染した人は、症状の有無に関わらず、以下の経路からウイルスを排出します。

  • -呼吸器系からの排出:くしゃみや咳、唾液などを介して排出されます。
  • -消化器系からの排出:便中にウイルスが排出されます。
  • -眼からの排出:結膜炎を起こした場合、目やになどからウイルスが排出されます。

感染者との濃厚接触や、ウイルスに汚染された環境表面との接触により感染が成立し、手指を介した間接的な接触感染が重要な感染経路の一つです。

診察(検査)と診断

アデノウイルス感染症を診断する際、医師は患者さんの症状や身体所見を確認し、臨床診断を行います。

確定診断のためには、ウイルス分離・同定検査や血清学的検査などの検査が必要です。

問診・視診・触診による臨床診断

アデノウイルス感染症の可能性がある場合、医師はまず問診を行い、患者さんの症状や発症経過、接触歴などを確認します。

そして視診により、目や喉の発赤、腫れなどの特徴的な所見を確認し、触診でリンパ節の腫脹の有無をチェック。

医師はこれらの情報を総合的に判断し、臨床診断を下します。

診察方法確認事項
問診症状、発症経過、接触歴
視診目や喉の発赤、腫れ
触診リンパ節の腫脹

ウイルス分離・同定検査による確定診断

アデノウイルス感染症を確実に診断するには、ウイルス分離・同定検査が必要です。

この検査では、患者さんの咽頭拭い液や結膜拭い液、糞便などの検体からウイルスを分離し、同定します。

ウイルス分離・同定検査は感度が高く、確実に診断できる方法ですが、結果が出るまでに時間がかかってしまうという欠点も。

血清学的検査による確定診断

血清学的検査もアデノウイルス感染症の確定診断に用いられます。

この検査では、急性期と回復期のペア血清を用いて、アデノウイルスに対する抗体価の上昇を確認。

  • 補体結合反応
  • 中和反応
  • ELISA法

などの手法が用いられ、比較的短時間で結果が得られるメリットがあります。

ただし抗体価の上昇が確認できるのは、発症後1〜2週間以上経過してからであり、急性期の診断には適していません。

検査方法検査材料検査のメリット検査のデメリット
ウイルス分離・同定検査咽頭拭い液、結膜拭い液、糞便など感度が高く、確実な診断が可能結果が出るまでに時間がかかる
血清学的検査急性期と回復期のペア血清比較的短時間で結果が得られる急性期の診断には適さない

アデノウイルス感染症の治療法と処方薬、治療期間

アデノウイルス感染症の治療は、主に対症療法が中心で、重症化した場合には、抗ウイルス薬の投与や輸液などの全身管理が行われます。

対症療法

対症療法としては、発熱がある場合は解熱剤を投与し、咳がひどい場合は鎮咳剤を処方し、鼻水や鼻づまりがある場合は、去痰剤や点鼻薬を使用することもあります。

症状治療法
発熱解熱剤の投与
咳嗽鎮咳剤の投与
鼻汁・鼻閉去痰剤や鼻炎用点鼻薬の使用

抗ウイルス薬

重症化してしまった場合や免疫力が低下している患者さんでは、抗ウイルス薬の投与が検討されます。

代表的な抗ウイルス薬は、シドフォビルやリバビリンなどです。

全身管理

重症化した場合には、輸液などの全身管理が実施されます。

  • 酸素投与
  • 人工呼吸器管理
  • 循環管理
  • 血液浄化療法

治療期間

アデノウイルス感染症の治療期間は、症状の重症度や患者さんの免疫力の状態によって変わってきます。

重症度治療期間
軽症1~2週間程度
中等症2~4週間程度
重症数週間~数ヶ月

一般的に、軽症の場合は1~2週間程度、中等症の場合は2~4週間程度の治療期間が必要です。

重症の場合は、さらに長期間の治療が必要となることがあり、数週間から数ヶ月にわたることもあります。

予後と再発可能性および予防

アデノウイルス感染症の治療の予後は概ね良好で、多くのケースで自然治癒します。

治療の予後

患者さんの免疫状態や合併症の有無などによって、回復までの期間は異なりますが、多くの場合、数日から数週間で症状は改善します。

患者の状態回復までの期間
健康な成人1週間程度
免疫力の低下した患者2〜4週間程度

重症化するケースはまれですが、以下のような場合は注意が必要です。

  • 新生児や乳幼児
  • 免疫抑制状態の患者
  • 慢性疾患を有する患者

このような患者さんでは、合併症の発生や症状の遷延化に注意が必要であり、慎重な経過観察が求められます。

再発の可能性

アデノウイルス感染症は、一度罹患しても完全な免疫を獲得することは難しく、再感染の可能性があります。

特に、免疫力の低下した患者さんや、感染した型と異なる型のアデノウイルスに感染したケースでは、再発のリスクが高いです。

再発リスクの高い患者再発リスクの理由
免疫抑制状態の患者免疫力の低下による
異なる型のアデノウイルスに感染した患者交差免疫が不完全であるため

予防対策

アデノウイルス感染症を予防するためには、次のような対策が有効です。

  • 手洗いの徹底
  • マスクの着用
  • 感染者との接触を避ける
  • 感染が疑われる際は早期に医療機関を受診する
予防対策具体的な方法
手洗い石鹸と流水で20秒以上
マスク着用適切なサイズのマスクを正しく着用

アデノウイルス感染症の治療における副作用やリスク

アデノウイルス感染症の治療で使われる抗ウイルス薬や免疫抑制療法には、副作用やリスクがあります。

抗ウイルス薬の副作用

抗ウイルス薬は、アデノウイルス感染症の治療に使われます。

抗ウイルス薬の副作用

抗ウイルス薬主な副作用
シドフォビル腎機能障害、眼障害
リバビリン溶血性貧血、腎機能障害

免疫抑制療法のリスク

免疫抑制療法は、患者さんの免疫機能を下げることで、ウイルスの増殖を抑える効果があります。

免疫抑制療法のリスク

  • 日和見感染のリスク増加
  • 癌の発生リスク上昇
  • 免疫機能の回復遅延

治療中のモニタリングの重要性

モニタリング項目目的
血液検査副作用の早期発見、感染症の評価
ウイルス量測定治療効果の判定、再燃の予防

アデノウイルス感染症の治療中は、定期的なモニタリングが欠かせません。

血液検査やウイルス量測定などを行うことで、副作用を早めに見つけたり、治療効果を判断できます。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

治療費の内訳

アデノウイルス感染症の治療費は、主に以下の項目で構成されています。

  • 医療機関での診察料
  • 検査費用(血液検査、画像検査など)
  • 投薬費用(抗ウイルス薬、対症療法薬など)
  • 入院費用(重症化した場合)
項目費用
診察料3,000円 – 5,000円
検査費用5,000円 – 20,000円

治療費の負担

アデノウイルス感染症の治療費は、健康保険適用です。

ただし、以下のような場合は、自己負担額が増加する可能性があります。

  • ・高額療養費制度の対象とならない場合
  • ・先進医療を受ける場合
  • ・入院時の差額ベッド代や食事代が発生する場合
自己負担割合条件
3割一般的な場合
3割以上高額療養費制度の対象外など

公的助成制度

アデノウイルス感染症の治療費負担を軽減するための公的助成制度もあります。

  • 高額療養費制度
  • 自立支援医療制度
  • 小児慢性特定疾病医療費助成制度

以上

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