感染症の一種である後天性免疫不全症候群(AIDS)は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)への感染によって発症する疾患です。
HIVに感染した場合、身体の免疫機能が徐々に低下していくことになります。
免疫機能が低下すると、健康な人であれば発症しないような感染症にかかりやすくだけでなく、様々な日和見感染症や悪性腫瘍を併発するリスクが高まります。
後天性免疫不全症候群(エイズ)の種類(病型)
感染症の一種である後天性免疫不全症候群(AIDS)には、いくつかの病型が知られています。
それぞれの病型は、HIVに感染してからの期間や症状の重症度に基づいて分類されるのです。
急性HIV感染症
急性HIV感染症は、HIVに感染してから数週間から数ヶ月の間に見られる症状です。
この時期は、HIVが急激に増殖し、体内のウイルス量が非常に多くなります。
病型 | 概要 |
急性HIV感染症 | HIVに感染してから数週間から数ヶ月の間に見られる症状 |
無症候性キャリア | HIVに感染しているが無症状の時期 |
無症候性キャリア
無症候性キャリアとは、HIVに感染しているものの、無症状の時期のことを指します。
この時期は、HIVが徐々に免疫系を攻撃していきます。
AIDS関連症候群(ARC)
AIDS関連症候群(ARC)は、HIVによる免疫力の低下が進行し、何らかの症状が現れ始めた状態です。
- リンパ節腫脹
- 体重減少
- 発熱
- 下痢
しかし、まだAIDSの診断基準は満たしていません。
後天性免疫不全症候群(AIDS)
後天性免疫不全症候群(AIDS)は、HIVによる免疫力の低下が著しく進行し、さまざまな感染症や悪性腫瘍を発症した状態です。
AIDSと診断されるためには、特定の診断基準を満たす必要があります。
病型 | CD4陽性リンパ球数 |
AIDS関連症候群(ARC) | 200~500/μL |
後天性免疫不全症候群(AIDS) | 200/μL未満 |
後天性免疫不全症候群(エイズ)の主な症状
感染症の一種である後天性免疫不全症候群(AIDS)の症状は多岐にわたるのが特徴です。
HIV感染から発症までの期間や個人差によって、症状の現れ方は異なるのです。
急性HIV感染症の症状
急性HIV感染症の主な症状は以下の通りです。
- 発熱
- 倦怠感
- 筋肉痛
- リンパ節腫脹
症状 | 頻度 |
発熱 | 80-90% |
倦怠感 | 70-90% |
無症候性キャリアの症状
無症候性キャリアの期間は、HIVに感染しているにもかかわらず無症状です。
しかし、この時期でもHIVは体内で増殖を続けています。
AIDS関連症候群(ARC)の症状
AIDS関連症候群(ARC)では、以下のような症状が見られる場合があります。
- 体重減少
- 慢性下痢
- リンパ節腫脹
- カンジダ症
症状 | 頻度 |
体重減少 | 50-70% |
慢性下痢 | 30-50% |
AIDSの症状
AIDSでは、日和見感染症や悪性腫瘍などさまざまな合併症を発症します。
主な日和見感染症は以下の通りです。
- ニューモシスチス肺炎
- カンジダ症
- サイトメガロウイルス感染症
- トキソプラズマ脳症
後天性免疫不全症候群(エイズ)の原因・感染経路
感染症の一種である後天性免疫不全症候群(AIDS)は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)への感染が原因で発症する疾患なのです。
HIVに感染することが、AIDSを引き起こす直接的な要因となります。
HIVの特徴
HIVはレトロウイルスの一種で、主にCD4陽性リンパ球に感染します。
感染したCD4陽性リンパ球内で増殖し、免疫機能を徐々に低下させていきます。
ウイルス | 属する科 |
HIV-1 | レンチウイルス科 |
HIV-2 | レンチウイルス科 |
HIVの主な感染経路
HIVの主な感染経路は以下の通りです。
- 性的接触
- 血液を介した感染
- 母子感染
性的接触による感染
HIVは性的接触によって感染する場合があります。 感染リスクが高いのは以下のような性行為です。
- コンドームを使用しない腟性交や肛門性交
- 口腔性交(オーラルセックス)
- 性器や肛門の粘膜に傷がある場合
性行為の種類 | HIVの感染リスク |
腟性交(女性→男性) | 0.04-0.08% |
腟性交(男性→女性) | 0.08-0.19% |
肛門性交(挿入する側→される側) | 0.06-3.0% |
肛門性交(される側→挿入する側) | 0.04-0.28% |
血液を介した感染
HIVは血液を介して感染します。 主な感染原因は以下の通りです。
- HIV感染者の血液や体液の混入した注射器の使用
- HIV感染者からの輸血
- 医療事故による針刺し事故など
診察(検査)と診断
感染症の一種である後天性免疫不全症候群(AIDS)の診断では、臨床症状と検査結果を総合的に判断することが大切です。
HIV感染の診断に用いられる検査
HIV感染の診断に用いられる主な検査は以下の通りです。
- HIV抗体検査
- HIV抗原検査
- ウイルス遺伝子検査(NAT)
- ウエスタンブロット法
検査法 | 検出対象 |
HIV抗体検査 | HIV抗体 |
HIV抗原検査 | HIVp24抗原 |
スクリーニング検査と確認検査
HIV感染の診断は、スクリーニング検査と確認検査の2段階で行われます。
HIV感染が疑われる症状
HIV感染が疑われる主な症状は以下の通りです。
- 発熱
- 倦怠感
- リンパ節腫脹
- 体重減少
症状 | 頻度 |
発熱 | 80-90% |
倦怠感 | 70-90% |
AIDSの診断基準
AIDSの診断は、HIV感染が確認された上で、以下の条件を満たす場合に行われます。
- CD4陽性リンパ球数が200/μL未満
- AIDS指標疾患(日和見感染症や悪性腫瘍など)を発症
後天性免疫不全症候群(エイズ)の治療法と処方薬
感染症の一種である後天性免疫不全症候群(AIDS)の治療では、抗HIV薬を用いた多剤併用療法が中心になります。
早期から適切な治療を開始することが大切です。
抗HIV薬の種類
抗HIV薬は作用機序によって以下のように分類されます。
- 核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
- 非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)
- プロテアーゼ阻害薬(PI)
- インテグラーゼ阻害薬(INSTI)
- 侵入阻害薬
薬剤クラス | 代表的な薬剤名 |
NRTI | ジドブジン(AZT)、ラミブジン(3TC) |
NNRTI | エファビレンツ(EFV)、ネビラピン(NVP) |
多剤併用療法(ART)
多剤併用療法(ART)では、複数のクラスの抗HIV薬を組み合わせて使用します。 一般的には、以下のような組み合わせが用いられます。
- 2剤のNRTI+1剤のINSTI
- 2剤のNRTI+1剤のNNRTI
- 2剤のNRTI+1剤のPI(リトナビル増量)
日和見感染症の予防と治療
HIV感染者では、日和見感染症の予防と治療も重要です。主な日和見感染症とその予防薬は以下の通りです。
- ニューモシスチス肺炎(ST合剤)
- トキソプラズマ症(ST合剤)
- 真菌感染症(フルコナゾール)
- サイトメガロウイルス感染症(バルガンシクロビル)
治療に必要な期間と予後について
感染症の一種である後天性免疫不全症候群(AIDS)の治療は長期間にわたるものであり、生涯にわたって継続する必要があります。
早期から適切な治療を開始し、服薬アドヒアランスを維持することが大切です。
抗HIV療法の開始時期
抗HIV療法は、HIV感染が確認された時点で開始することが推奨されています。
CD4陽性リンパ球数が高値の段階から治療を開始することで、長期予後が改善されます。
CD4陽性リンパ球数 | 治療開始の推奨 |
500/μL以上 | 推奨される |
350-500/μL | 推奨される |
抗HIV療法の継続期間
抗HIV療法は生涯継続する必要があります。治療を中断すると、ウイルス量が急激に増加し、病態が悪化するリスクがあります。
服薬アドヒアランスの重要性
抗HIV療法では、高い服薬アドヒアランス(95%以上)が求められます。服薬アドヒアランスが低下すると、薬剤耐性ウイルスが出現するリスクが高まります。
- 服薬アドヒアランスを維持するための工夫
- 服薬支援ツールの活用
- 医療者との良好なコミュニケーション
- 服薬に関する教育・カウンセリング
服薬アドヒアランス | 薬剤耐性リスク |
95%以上 | 低い |
80-94% | 中程度 |
80%未満 | 高い |
予後の改善
早期から適切な抗HIV療法を開始し、服薬アドヒアランスを維持することで、HIV感染者の予後は大幅に改善しています。
治療が奏功している場合、エイズ非発症期間は延長し、長期生存が可能となります。
後天性免疫不全症候群(エイズ)の治療における副作用やリスク
後天性免疫不全症候群(AIDS)の治療では、抗HIV薬を長期間服用する必要があるため、副作用のリスクを考慮しなければなりません。
副作用を適切に管理し、服薬アドヒアランスを維持することが大切です。
抗HIV薬の主な副作用
抗HIV薬の主な副作用は以下の通りです。
- 悪心・嘔吐
- 下痢
- 頭痛
- 発疹
- 肝機能障害
副作用 | 頻度 |
悪心・嘔吐 | 20-30% |
下痢 | 10-20% |
長期的な副作用のリスク
抗HIV薬を長期間服用することで、以下のような副作用のリスクがあります。
- 脂質異常症
- 糖尿病
- 骨密度低下
- 腎機能障害
- 心血管疾患
副作用 | リスク因子 |
脂質異常症 | 高齢、肥満、喫煙 |
糖尿病 | 肥満、家族歴、ステロイド使用 |
薬剤耐性ウイルスの出現リスク
服薬アドヒアランスが低下すると、薬剤耐性ウイルスが出現するリスクがあります。
薬剤耐性ウイルスが出現すると治療効果が低下し、病態が悪化するおそれがあります。
副作用のマネジメント
副作用が出現した場合は、以下のような管理が必要です。
- 症状に応じた対症療法
- 服薬スケジュールの調整
- 代替薬への変更
- 専門医への相談
予防方法
エイズを予防するためには、HIVへの感染を防ぐことが大切です。 HIVの主な感染経路を理解し、適切な予防策を講じることが求められるのです。
性行為における予防策
性行為によるHIV感染を予防するためには、以下のような対策が有効です。
- コンドームの正しい使用
- 定期的なHIV検査の受診
- 性感染症の早期発見と治療
- パートナーとのコミュニケーション
予防策 | 効果 |
コンドームの使用 | 80-90% |
定期的なHIV検査 | 感染の早期発見に有効 |
注射器の使用における予防策
注射器の共有はHIV感染のリスクが高いため、以下のような予防策が必要です。
- 注射器の使い回しの禁止
- 注射器交換プログラムの利用
- 薬物使用の治療と支援
母子感染の予防策
HIV感染妊婦から生まれる子どもへの感染を予防するためには、以下のような対策が重要です。
- 妊婦のHIV検査の実施
- 抗HIV薬の投与
- 帝王切開分娩の選択
- 母乳育児の回避
予防策 | 母子感染率 |
予防策なし | 20-30% |
予防策あり | 1-2% |
針刺し事故の予防策
医療従事者の針刺し事故によるHIV感染を予防するためには、以下のような対策が必要です。
- 標準予防策の遵守
- 安全装置付き器材の使用
- 針刺し事故後の予防内服
- 報告と相談体制の整備
治療費について
感染症の一種である後天性免疫不全症候群(AIDS)の治療費は、重症度や保険適用の有無によって大幅に変動します。
軽症のケースでは、月額数万円程度で治療を受けられる可能性がありますが、重症化した場合、月額数十万円以上の費用がかかることもあります。
また、公的医療保険の適用がある場合は自己負担額が軽減されますが、適用外の治療法を選択したケースでは全額自己負担となります。
以上
LANE, H. Clifford; FAUCI, Anthony S. Immunologic abnormalities in the acquired immunodeficiency syndrome. Annual review of immunology, 1985, 3.1: 477-500.
GOTTLIEB, Michael S., et al. The acquired immunodeficiency syndrome. Annals of internal medicine, 1983, 99.2: 208-220.
ROTHENBERG, Richard, et al. Survival with the acquired immunodeficiency syndrome. New England Journal of Medicine, 1987, 317.21: 1297-1302.
CLUMECK, Nathan, et al. Acquired immunodeficiency syndrome in African patients. New England Journal of Medicine, 1984, 310.8: 492-497.
SCOTT, Gwendolyn B., et al. Acquired immunodeficiency syndrome in infants. New England Journal of Medicine, 1984, 310.2: 76-81.
CURRAN, James W., et al. Acquired immunodeficiency syndrome (AIDS) associated with transfusions. New England journal of medicine, 1984, 310.2: 69-75.
BERKELMAN, Ruth L., et al. Epidemiology of human immunodeficiency virus infection and acquired immunodeficiency syndrome. The American journal of medicine, 1989, 86.6: 761-770.
VAN DE PERRE, Philippe, et al. Acquired immunodeficiency syndrome in Rwanda. The Lancet, 1984, 324.8394: 62-65.
AMMANN, Arthur J., et al. B-cell immunodeficiency in acquired immune deficiency syndrome. Jama, 1984, 251.11: 1447-1449.