回虫症 – 感染症

回虫症(ascariasis)とは、回虫という寄生虫が腸管内に寄生することで引き起こされる感染症です。

ヒトが回虫卵を口から取り込むことで感染し、腸管内で回虫が成虫へと成長します。

成虫の体長は30~40cmにも及ぶ大型の寄生虫で、腹痛や下痢、吐き気などの消化器症状が現れることもあります。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

回虫症の種類(病型)

回虫症は、感染の段階や部位によって症状や経過が異なります。

腸管感染型回虫症

腸管感染型は、回虫が小腸内に寄生している状態です。

ほとんどの場合、自覚症状はありませんが、大量の虫体が寄生している際は、腹痛や下痢、嘔吐といった消化器症状が出現する可能性があります。

さらに、栄養吸収障害から体重減少や発育不全に至ることも。

肺移行型回虫症

肺移行型は、回虫の幼虫が体内を移行する過程で、肺を通過することによって発症し、咳や喀痰、発熱などの呼吸器症状が主体です。

気管支炎や肺炎を併発するケースもあるため、注意深く観察します。

迷入型回虫症

迷入型とは、回虫が本来寄生すべき小腸以外の臓器に迷入した状態で、迷入しやすい臓器には、次のようなものがあります。

  • 胆管や膵管
  • 虫垂
  • 腹腔内
  • 尿路系
  • 生殖器系

無症状回虫症

感染者の中には、まったく症状が出現しない無症状のこともあります。

ただし、無症状であっても、便中に虫卵が排出され、感染源となり得る点に注意が必要です。

回虫症の主な症状

回虫症は、回虫という寄生虫による感染症で、症状は多岐にわたり、軽症から重症までさまざまです。

消化器症状

回虫症では、腹痛や下痢、吐き気などの消化器症状が現れることが多いです。

症状概要
腹痛回虫が腸管内で活動することで起こる痛み
下痢回虫の刺激により腸管の運動が亢進することで起こる
吐き気回虫の存在や毒素により引き起こされる

呼吸器症状

回虫が肺を通過する際に、咳や胸痛などの呼吸器症状が現れることがあります。

  • 胸痛
  • 喀痰

全身症状

回虫症では、全身倦怠感や発熱、体重減少などの全身症状を伴うこともあります。

症状概要
全身倦怠感回虫による栄養吸収障害や毒素の影響で起こる
発熱回虫感染に対する身体の反応として現れる
体重減少栄養吸収障害により引き起こされる

重症化した場合の症状

重症化した回虫症の症状

  • 腸閉塞
  • 胆管や膵管への迷入
  • 腹膜炎

回虫症の原因・感染経路

回虫症は、原因や感染経路を理解し予防措置を講じることで、感染のリスクを大幅に下げることが可能です。

回虫の特徴

回虫は、線虫綱に属する寄生虫の一種です。

項目特徴
大きさ雌:20~40cm、雄:15~30cm
形態円筒形で両端が細くなっている
寿命約1年
宿主ヒトのみ

回虫の生活環

回虫の生活環の過程

  1. 虫卵の経口摂取
  2. 幼虫の孵化と腸管壁への侵入
  3. 幼虫の肺への移行
  4. 幼虫の気管から咽頭への移動と嚥下
  5. 小腸での成虫への発育と産卵

回虫の雌成虫は、一日に約20万個もの虫卵を産卵し、便とともに体外に排出され、約2週間で感染性を獲得します。

回虫症の感染経路

回虫症の主な感染経路

  • – 感染性の虫卵を経口摂取することによる経口感染
  • – 母子感染(子宮内感染や産道感染)

経口感染は、土壌や水、食品などを介して、感染性の虫卵を口から取り込むことによって成立。

特に、下痢便やし尿を肥料として使用した野菜や果物を、生のまま、あるいは十分に洗浄せずに食べることで感染のリスクが高まります。

感染経路概要
経口感染感染性の虫卵の経口摂取により成立
母子感染子宮内感染や産道感染により成立

診察(検査)と診断

回虫症の診断を下すには、病歴聴取や身体所見、検査所見を総合的に判断します。

病歴聴取と身体所見

回虫症の診察では、まず患者の症状や生活歴、旅行歴などを詳細に聞きます。

聴取項目内容
症状腹痛、下痢、呼吸器症状など
生活歴衛生環境、食生活、ペットの有無など
旅行歴流行地域への渡航歴の有無

身体所見では、腹部の圧痛や肝脾腫、呼吸音の異常などを確認します。

検査所見

回虫症の診断に有用な検査

検査目的
便検査回虫卵の検出により確定診断を得る
血液検査好酸球増多の有無を確認する
画像検査腸管内の回虫の存在を直接的に確認する

臨床診断と確定診断

回虫症の診察では、患者の症状や生活歴、検査所見を詳細に評価し、総合的に判断することが大切で、確定診断のためには、便検査が必須です。

回虫症の治療法と処方薬

回虫症の治療は、抗寄生虫薬の投与が中心となり、症状や感染状況に応じて、治療薬を選択します。

ピランテル パモ酸塩

ピランテル パモ酸塩は、回虫症の治療において第一選択薬として使用される薬剤で、回虫の神経や筋肉に作用し、麻痺させることで駆除効果を発揮します。

通常、単回投与で十分な効果が得られることが多く、副作用も比較的少ないのが特徴です。

薬剤名ピランテル パモ酸塩
作用機序回虫の神経・筋肉に作用し麻痺させる
投与方法単回投与
副作用比較的少ない

ピランテル パモ酸塩は、小児にも安全に使用できる薬剤であり、予防投与にも用いられることがあります。

アルベンダゾール

アルベンダゾールは、ベンズイミダゾール系の抗寄生虫薬で、回虫を含むさまざまな寄生虫感染症の治療に用いられます。

寄生虫の微小管に作用し、機能を阻害することで駆虫効果を発揮。 通常、1日1回、3日間の投与が行われます。

薬剤名アルベンダゾール
作用機序寄生虫の微小管機能を阻害
投与方法1日1回、3日間
副作用頭痛、めまい、嘔気など

アルベンダゾールは、幅広い寄生虫感染症に対して有効ですが、副作用として頭痛やめまい、嘔気などが現れることがあります。

メベンダゾール

メベンダゾールも、ベンズイミダゾール系の抗寄生虫薬で、アルベンダゾールと同様の作用機序を持ち、回虫のほか、鞭虫や蟯虫などの感染症にも用いられます。

通常、1日1回、3日間の投与が行われますが、感染の程度によっては投与期間が延長されることも。

メベンダゾールの主な副作用

  • 腹痛
  • 下痢
  • 頭痛
  • 嘔気
  • 嘔吐
  • 発疹

副作用は、一般的に軽度で一過性のことが多いですが、症状が強い場合は医療機関への相談が必要です。

外科的治療

重度の回虫症の場合、特に腸閉塞を引き起こしているような場合は、外科的治療が必要となることも。

手術では、閉塞の治療と、可能な限りの虫体の除去が行われます。

治療に必要な期間と予後について

回虫症の治療には一定の期間が必要ですが、治療を行うことで予後は良好です。

回虫症の治療期間

回虫症の治療期間は、感染の重症度や合併症の有無などによって異なります。

感染の重症度治療期間の目安
軽症1〜2週間
中等症2〜4週間
重症4週間以上

合併症がある場合は、さらに治療期間が長くなることがあります。

治療後のフォローアップ

治療終了後は、再感染を予防するために、フォローアップが大切です。

フォローアップ項目内容
衛生管理の徹底手洗いの励行、食品の衛生管理など
定期的な検査再感染の有無を確認するための便検査
感染源の特定ペットや生活環境の調査

回虫症の予後

治療を行えば、回虫症の予後は良好です。

ただし、重症化した場合や合併症を伴う場合は、治療が長期化したり、後遺症が残ったりすることがあります。

回虫症の治療における副作用やリスク

回虫症の治療に用いられる抗寄生虫薬は、比較的安全性が高い薬剤ですが、副作用やリスクが全くないわけではありません。

ピランテル パモ酸塩の副作用

ピランテル パモ酸塩の主な副作用

副作用概要
胃腸障害腹痛、下痢、悪心、嘔吐
頭痛一過性の頭痛が現れることが
発疹まれに皮膚の発疹が現れる
肝機能障害まれに肝機能の異常が見られる

ベンズイミダゾール系薬剤の副作用

アルベンダゾールやメベンダゾールの主な副作用

  • 胃腸障害(腹痛、下痢、悪心、嘔吐など)
  • 頭痛
  • めまい
  • 発疹
  • 肝機能障害
  • 白血球減少(まれ)

特に、長期間の投与を行う際や、肝機能が低下している患者では、定期的な血液検査が必要です。

治療に伴うリスク

回虫症の治療に際してのリスク

リスク概要
アレルギー反応まれに薬剤に対するアレルギー反応が現れる
薬物相互作用他の薬剤との相互作用により副作用のリスクが高まる
耐性の発現不適切な使用により薬剤耐性の回虫が出現する可能性がある

薬物相互作用については、患者が他の疾患で服用している薬剤を確認し、慎重に評価する必要があります。

また、耐性の発現を防ぐためには、適切な用法・用量での投与と、不必要な投与の回避が必要です。

副作用への対応

副作用が現れた際の対応

  • – 症状の程度に応じた対症療法
  • – 重篤な副作用が疑われる際の速やかな薬剤の中止
  • – 代替薬剤への変更
  • – 肝機能障害や白血球減少が疑われる際の定期的な血液検査

予防方法

回虫症の予防には、衛生管理の徹底と感染源対策が欠かせません。

手洗いの徹底

回虫卵は、汚染された手を介して口から体内に入ります。

手洗いのタイミング理由
トイレの後便中に回虫卵が含まれている可能性
調理の前食材を介して回虫卵が体内に入る防止
外出後外部環境で手が汚染されている可能性

石鹸を使用し、流水でしっかりと手を洗うことが大切です。

食品の衛生管理

回虫卵に汚染された食品を介して感染することがあります。

  • 生野菜は十分に洗浄する
  • 加熱調理を徹底する
  • 飲料水は衛生的なものを使用する

特に、流行地域では注意が必要です。

ペットの管理

犬や猫などのペットが回虫を保有していることがあります。

ペットの管理項目内容
定期的な駆虫ペットへの回虫の寄生を防ぐ
糞便の適切な処理回虫卵に汚染された糞便の処理が重要
手洗いの徹底ペットに触れた後は手洗いが必要

感染源対策

回虫症の感染源を特定し、対策を講じることが大切で、地域ぐるみでの取り組みが求められます。

  • 汚染された土壌の改善
  • 衛生設備の整備
  • 感染者の治療

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

初診料と再診料

初診料は、初めて医療機関を受診する際に必要な費用であり、再診料は2回目以降の受診の際に発生します。

項目金額
初診料2,820円~4,350円
再診料830円~1,450円

検査費と処置費

メジナ虫症の診断のためには、皮膚生検や寄生虫学的検査、また、メジナ虫の摘出などの処置が必要になることがあります。

項目金額
皮膚生検数千円~数万円
寄生虫学的検査数千円~数万円
メジナ虫摘出数万円程度

入院費

重症のメジナ虫症の際は、入院治療が必要となることがあり、入院費は、1日あたり1万円から3万円程度が一般的です。

以上

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