アストロウイルス感染症(astrovirus infection)とは、おもに赤ちゃんやお年寄りのお腹や腸に急に炎症を起こすウイルスによる病気で、よく見られる感染症です。
このウイルスは、星のような形をしていることから「アストロ(星)」という名前が付けられ、1975年に特殊な顕微鏡で初めて見つかりました。
主に感染した人の便を通じて広がり、汚れた食べ物や水、あるいは感染した人と直接触れることで感染します。
感染すると、下痢、おう吐、熱が出る、お腹が痛むなどの症状が現れますが、多くの場合は軽症です。
アストロウイルス感染症の主な症状
アストロウイルス感染症で主に見られるのは、下痢、おう吐、お腹の痛み、熱が出るなどのお腹や腸の症状です。
一般的な症状の特徴
アストロウイルス感染症の症状は、通常、感染してから1-4日後に現れ始めます。
最もよく見られる症状
- 水のような下痢
- おう吐
- お腹の痛み
- 軽い熱(38度以下)
- 体のだるさ
- 食欲がなくなる
これらの症状は、多くの場合2-3日程度で自然に良くなりますが、時に1週間以上続くこともあります。
症状の重さは人によって大きく異なり、あまり症状が出ない人もいれば、ひどい脱水症状が出る人も。
年齢による症状の違い
アストロウイルス感染症の症状は、年齢によって異なる特徴を示します。
年齢群ごとの主な症状の特徴
年齢群 | 主な症状の特徴 |
赤ちゃんや小さな子供 | 下痢が主な症状、おう吐は比較的少ない |
小学生くらいの子供 | 下痢とおう吐が同じくらい見られる |
大人 | 軽い症状が多い、症状が出ないこともある |
お年寄り | 症状が重くなりやすい、脱水に注意が必要 |
特に赤ちゃんや小さな子供、お年寄りでは、症状が重くなりやすいため、注意深く様子を見ることが重要です。
症状の経過
アストロウイルス感染症の症状の経過
- 潜伏期(1-4日):症状は出ない
- 発症初期(1-2日目):突然の下痢やおう吐が始まる
- 症状のピーク(2-3日目):下痢やおう吐が最も頻繁に起こる
- 回復期(4-7日目):症状が徐々に良くなる
症状が続く期間は人によって大きく違い、2-3日で良くなることもあれば、1週間以上続く重いケースまでさまざまです。
主な症状が一般的に続く期間
症状 | 一般的に続く期間 |
下痢 | 3-4日 |
おう吐 | 1-2日 |
熱 | 1-3日 |
お腹の痛み | 2-4日 |
症状が重くなるサイン
アストロウイルス感染症は通常自然に回復しますが、まれに症状が重くなることがあります。
症状が重くなるサインとして注意すべきもの
- 頻繁なおう吐や下痢(1日に6回以上)
- 高い熱(39度以上)
- 血の混じった便
- 強いお腹の痛み
- 脱水症状(尿の量が減る、喉が渇く、皮膚がカサカサするなど)
- 元気がなくなる、意識がはっきりしなくなる
これらの症状が見られる場合は、すぐに病院を受診してください。
特殊な症状や合併症
アストロウイルス感染症では、まれにお腹や腸の症状以外の症状が現れることがあります。
特殊な症状や合併症
- 髄膜炎のような症状(頭痛、首が硬くなる)
- 発疹
- 呼吸器の症状(咳、鼻水)
- 肝臓の機能に異常が出る
これらの症状はあまり多くありませんが、出た場合は医療対応が必要です。
アストロウイルス感染症の原因・感染経路
アストロウイルス感染症は、アストロウイルス科に属するRNA型ウイルスが引き起こす疾患で、主に経口感染によって広がります。
アストロウイルスの特徴
アストロウイルスは、直径約28-30nmの小さなウイルスで、特徴的な星型の形をしています。
このウイルスは、8つの血清型(HAstV-1からHAstV-8)に分類され、そのうちHAstV-1が最も一般的な感染原因です
アストロウイルスの主な特徴
特徴 | 説明 |
ゲノム | 一本鎖プラス鎖RNA |
カプシド | 正二十面体構造 |
安定性 | 環境中で比較的安定 |
宿主特異性 | 種特異性が高い |
感染経路
アストロウイルスの主な感染経路は糞口感染です。
感染者の糞便中に排出されたウイルスが、直接的または間接的に口から体内に入ることで感染が成立します。
主な感染経路
- 汚染された食品や水の摂取
- 感染者との直接接触
- 汚染された物品や表面との接触
- 飛沫感染(まれ)
環境中での生存
アストロウイルスは環境中で比較的安定性が高く、長期間生き残ります。
さまざまな環境条件下でのアストロウイルスの生存期間
環境条件 | 推定生存期間 |
室温の水 | 数週間 |
乾燥表面 | 数日間 |
酸性条件 | 比較的安定 |
塩素処理 | 抵抗性あり |
環境中での安定性が、アストロウイルスの伝播を容易にしている一因です。
感染のリスク因子
アストロウイルス感染症のリスクは、次のような要因によって高まることがあります。
- 年齢(特に5歳未満の小児)
- 免疫機能の低下
- 集団生活(保育施設、高齢者施設など)
- 衛生状態の悪い環境
- 旅行(特に発展途上国への渡航)
季節性と地理的分布
アストロウイルス感染症は、温帯地域では冬季に感染が増加する傾向がありますが、熱帯地域ではより均一な分布を示します。
また、アストロウイルスは世界中で検出されていますが、発展途上国での感染率が比較的高いです。
診察(検査)と診断
アストロウイルス感染症の診察と診断は、患者さんの症状や経過を詳しく聞くところから始まります。
問診と身体診察
アストロウイルス感染症を診断するうえで、詳しく話を聞くことはとても大切です。
- 症状の種類と程度(下痢、おう吐、熱など)
- 症状がいつから始まり、どのように変化したか
- 周りの人に同じような症状がないか
- 最近食べた物
- 海外に行ったかどうか
- 他の病気がないか
体の診察では、体温を測ったり、お腹を触ったり、水分が足りているかを確認します。
便検査
便検査は、アストロウイルス感染症を診断するでうえで最も重要な検査です。
主な便検査の種類と特徴
検査方法 | 特徴 |
抗原検出法 | 素早く診断できる、ある程度正確 |
RT-PCR法 | とても正確だが、時間がかかる |
電子顕微鏡観察 | ウイルスを直接見る、特別な技術が必要 |
血液検査
血液検査は、患者さんの体全体の状態を調べたり、他の病気がないかを確認したりするために行われることがあります。
主な血液検査の項目
- 血液の成分(白血球の数、赤血球の数、血小板の数など)
- 体の中の塩分(ナトリウム、カリウム、クロールなど)
- CRP(体の中の炎症を示す物質)
- 肝臓の働き(AST、ALT、γ-GTPなど)
画像診断
アストロウイルス感染症の診断において、画像診断は通常必要ありませんが、症状がひどかったり他の病気が疑われる場合には、行われることがあります。
- お腹のエコー:腸の壁が厚くなっていないか、お腹に水がたまっていないかを確認する
- お腹のCT:お腹の中の臓器をより詳しく調べる
他の病気との区別
アストロウイルス感染症は、他のウイルスや細菌による胃腸の病気と症状が似ていることがあるため、鑑別が必要です。
- ノロウイルス感染症
- ロタウイルス感染症
- サルモネラ菌感染症
- カンピロバクター感染症
- 大腸菌感染症
他の病気と区別をつけるために、追加の検査が必要になることがあります。
アストロウイルス感染症の治療法と処方薬、治療期間
アストロウイルス感染症の治療は主に対症療法と支持療法を中心に行われ、現在のところ抗ウイルス薬はありません。
対症療法の基本
アストロウイルス感染症の治療では、患者さんの症状をやわらげ、合併症を防ぐことが主な目標となります。
対症療法の核心は、脱水の予防と改善、そして電解質バランスの維持です。
主な対症療法と目的
治療法 | 目的 |
経口補水療法 | 脱水の予防と改善 |
静脈内輸液 | 重度の脱水の改善 |
制吐剤 | 嘔吐の軽減 |
解熱剤 | 発熱の緩和 |
経口補水療法
経口補水療法は、アストロウイルス感染症の治療において最も大切な要素の一つです。
軽度から中等度の脱水に対しては、経口補水液の摂取が推奨されます。
静脈内輸液療法
重度の脱水や経口摂取が困難な場合には、静脈内輸液が必要となることがあります。
輸液の種類と使用状況
輸液の種類 | 使用状況 |
等張液 | 軽度から中等度の脱水 |
乳酸リンゲル液 | 中等度から重度の脱水 |
5%ブドウ糖液 | エネルギー補給 |
薬物療法
アストロウイルス感染症に対する抗ウイルス薬は現在のところありませんが、症状をやわらげるための薬物療法が行われることもあります。
主な薬物療法
- 制吐剤(メトクロプラミド、オンダンセトロンなど)
- 解熱剤(アセトアミノフェン、イブプロフェンなど)
- 整腸剤(プロバイオティクスなど)
- 止痢薬(使用には注意が必要)
治療期間
アストロウイルス感染症の治療期間は、通常3〜5日程度です。
多くの場合、ウイルスは自然に体外に排出され、症状も改善しますが、免疫不全患者さんでは治療期間が長引くことがあります。
一般的な治療経過の目安
- 軽症例:3〜5日
- 中等症例:5〜7日
- 重症例または免疫不全患者:1〜2週間以上
栄養管理
アストロウイルス感染症の回復期には、栄養管理が大切です。
- クリアランス液(お茶、スープなど)
- BRAT食(バナナ、ライス、アップルソース、トースト)
- 低脂肪・低繊維の消化しやすい食事
- 通常の食事への段階的な移行
予後と再発可能性および予防
アストロウイルス感染症は、対処すれば回復の見込みは一般的に良好です。
アストロウイルス感染症の回復見込み
アストロウイルス感染症からの回復は、多くの場合良好であり、対処により完全に治ります。
年齢群ごとの一般的な回復の見込み
年齢群 | 一般的な回復の見込み |
赤ちゃん | 通常1週間程度で回復、水分不足に注意 |
小学生くらいの子供 | 3-5日程度で回復、他の病気を併発することはまれ |
大人 | 2-3日程度で回復、多くは軽い症状 |
お年寄り | 回復に1-2週間かかることも、他の病気の併発に注意 |
多くの場合、水分補給と休養により症状は自然に良くなりますが、ひどい水分不足や他の病気が見られる場合は、入院して治療が必要になることがあります。
再び感染するリスクとその要因
アストロウイルス感染症は、一度感染しても完全に免疫がつくことは難しく、再び感染するリスクがあります。
再び感染するリスクを高める主な要因
- 免疫力の低下
- 頻繁に感染源に触れる機会がある(保育園や介護施設など)
- 十分な衛生管理ができていない
- 栄養状態が悪い
赤ちゃんやお年寄り、免疫力が弱っている人では再び感染するリスクが高いです。
再び感染するリスクと予防策
リスクとなる要因 | 予防策 |
免疫力の低下 | バランスの良い食事、十分な睡眠を取る |
感染源に触れる機会が多い | こまめに手を洗う、周りの環境を清潔に保つ |
十分な衛生管理ができていない | 定期的に消毒する、個人の衛生管理を徹底する |
栄養状態が悪い | バランスの良い食事を取る、必要に応じてサプリメントを摂る |
アストロウイルス感染症の治療における副作用やリスク
アストロウイルス感染症の治療は主に対症療法で行われるため、直接的な副作用は比較的少ないものの、注意すべき点はあります。
輸液療法に関するリスク
過剰な経口補水や静脈内輸液は、高齢者や心疾患患者さんにおいて問題を引き起こす可能性があります。
輸液療法に関する主なリスク
リスク | 影響 |
体液過剰 | 浮腫、心不全の悪化 |
電解質異常 | 低ナトリウム血症、高カリウム血症 |
血糖値の変動 | 高血糖、低血糖 |
静脈炎 | 静脈内輸液による局所の炎症 |
制吐剤の副作用
嘔吐を抑えるために使用される制吐剤には、いくつかの副作用が報告されていて、高齢者や小児に現れることがあります。
主な制吐剤と副作用
- メトクロプラミド:錐体外路症状、眠気
- オンダンセトロン:頭痛、便秘、QT延長
- ドンペリドン:乳汁分泌、女性化乳房
解熱鎮痛剤の副作用
解熱鎮痛剤は、発熱や疼痛をやわらげるために使用されますが、一定のリスクを伴います。
主な解熱鎮痛剤と副作用
薬剤 | 主な副作用 |
アセトアミノフェン | 肝障害(大量投与時) |
イブプロフェン | 胃腸障害、腎機能障害 |
アスピリン | 胃腸出血、ライ症候群(小児) |
抗菌薬使用のリスク
アストロウイルス感染症はウイルス性であるため、抗菌薬は不必要で、抗菌薬の乱用は、リスクを伴う可能性があります。
- 耐性菌の出現
- 腸内細菌叢の乱れ
- アレルギー反応
- 薬剤性下痢(クロストリジウム・ディフィシル感染症など)
特殊な患者さんにおけるリスク
免疫不全患者、高齢者、乳幼児などの特殊な患者さんでは、治療に伴うリスクがより高くなる傾向にあります。
注意を払う点
- 脱水の進行が早い
- 電解質異常が起こりやすい
- 薬剤の副作用が出やすい
- 合併症のリスクが高い
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
初診料と再診料
初診料は2,800円前後、再診料は730円前後です。
項目 | 自己負担額(3割負担の場合) |
初診料 | 840円~900円 |
再診料 | 220円~240円 |
検査費用
便検査や血液検査などが行われ、自己負担額は以下の通りです。
検査項目 | 自己負担額(3割負担の場合) |
便検査 | 300円~600円 |
血液検査 | 600円~1,200円 |
処置費と薬剤費
点滴などの処置が必要な場合、その費用は500円~1,000円程度です。
薬剤費は、種類や量によって異なりますが、1回の診療で1,000円~3,000円程度となります。
入院費
重症で入院が必要な場合、1日あたり10,000円~30,000円程度の自己負担が発生します。
以上
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