ベル麻痺 – 感染症

ベル麻痺(Bell’s palsy)とは、顔面神経が何らかの理由で障害されることにより、片側の顔面筋が麻痺し、顔の動きが急激に悪くなってしまう疾患です。

ウイルス感染が原因だと考えられていますが、はっきりとした原因については現在も分かっていません。

ベル麻痺は、多くの患者さんは数ヶ月で後遺症なく回復に向かうものの、まれなケースとして後遺症が残ってしまうこともあります。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

ベル麻痺の主な症状

ベル麻痺は顔面神経の炎症により、片側の顔面筋が麻痺する疾患です。

片側の顔面筋の麻痺

ベル麻痺の最も特徴的な症状は、片側の顔面筋の麻痺です。 麻痺した側の顔面表情が失われ、額のしわを寄せることや口笛を吹くことが難しくなります。

症状詳細
顔面筋の麻痺片側の顔面筋が麻痺し、表情が失われる
口笛が吹けない口を閉じることが困難になり、口笛が吹けなくなる

目の症状

ベル麻痺では、目に関連する症状も現れ、麻痺した側の目を閉じることが難しくなり、目が乾燥しやすくなり、また、涙の分泌も減少する場合があります。

  • 目を閉じることが困難になる
  • 目の乾燥が起こりやすくなる
  • 涙の分泌が減少することがある

味覚障害と耳の症状

ベル麻痺では、味覚障害や耳の症状も生じることもあり、舌の前方部分の味覚が低下したり、耳の痛みや聴覚過敏が現れます。

症状詳細
味覚障害舌の前方部分の味覚が低下する
耳の痛み患側の耳に痛みを感じることがある
聴覚過敏音に対して過敏になることがある

その他の症状

ベル麻痺では、上記の主要な症状以外にも、頭痛や顔のしびれ、耳鳴りなどの症状が現れることがあります。

ただし、これらの症状は個人差が大きく、全ての患者さんに現れるわけではありません。

ベル麻痺の原因・感染経路

ベル麻痺は主にウイルスの感染が原因で発症すると考えられています。

特に単純ヘルペスウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、Epstein-Barrウイルスなどの関与が指摘されています。

ウイルスの種類

ウイルス名特徴
単純ヘルペスウイルス口唇ヘルペスの原因となるウイルス
水痘帯状疱疹ウイルス水痘や帯状疱疹の原因となるウイルス
Epstein-Barrウイルス伝染性単核球症の原因となるウイルス

ウイルスは感染者の唾液などを介して伝播し、多くの人は小児期に感染しますが、免疫力が低下すると再活性化し、ベル麻痺を引き起こす可能性があります。

感染経路

ベル麻痺の原因となるウイルスは以下のような経路で感染します。

  • 感染者との直接的な接触(キスや食器の共有など)
  • 感染者のくしゃみや咳などの飛沫を吸い込むこと
  • 感染者が触れた物品に触れた後、手を洗わずに口や鼻を触ること
感染経路リスク
直接的な接触高い
飛沫感染中程度
間接的な接触低い

免疫力の低下とベル麻痺

ウイルスに感染していても免疫力が正常であればベル麻痺を発症することはまれです。

しかし免疫力が低下すると、ウイルスが再活性化してベル麻痺を引き起こすことがあります。

免疫力低下の原因

  • ストレスが続いている
  • 十分な睡眠がとれていない
  • 偏った食事をしている
  • 他の病気にかかっている

体質や免疫状態が深く関係していると推測されています。

ベル麻痺と帯状疱疹の関係

ベル麻痺の原因ウイルスの1つであるVZVは、帯状疱疹の原因ウイルスでもあります。

帯状疱疹とは、水痘の原因ウイルスが再活性化することで発症する病気です。

病名原因ウイルス初感染時の症状
ベル麻痺VZV水痘
帯状疱疹VZV水痘

帯状疱疹の特徴は、片側の体幹や顔面に痛みを伴う水疱が帯状に現れることです。

顔面に帯状疱疹が生じた際には、ベル麻痺に似た顔面麻痺の症状を伴うことがあります。

ベル麻痺と帯状疱疹は、いずれもVZVの再活性化によって引き起こされる病気であり、密接な関連性があります。

診察(検査)と診断

ベル麻痺の診察時には、患者さんの病歴を丁寧に聞き取り、身体的検査を実施することで、ベル麻痺の臨床診断を下します。

さらに、確定診断のために、血液検査や画像検査などの追加検査が必要になることもあります。

病歴聴取の重要性

ベル麻痺の診察では、まず患者さんの詳細な病歴聴取が欠かせません。

症状がいつ始まったのか、どの程度なのか、どのように変化してきたのかを詳しく聞き取ることで、ベル麻痺の可能性を見極めます。

また、過去に感染症にかかったことがあるのか、免疫力が低下している状態なのかも確認が必要です。

身体的検査の実施

病歴聴取に続いて、身体的検査を行います。

検査項目目的
顔面の観察顔面麻痺の有無や程度を評価
顔面筋力の評価顔面筋の麻痺の程度を評価
味覚検査味覚障害の有無を評価
聴力検査聴力障害の有無を評価

追加検査の必要性

ベル麻痺の確定診断のためには、追加検査が必要になる場合があります。

  • – 血液検査:感染症の有無や炎症反応の評価
  • – 画像検査(MRI、CT):脳腫瘍や脳卒中の除外
  • – 神経伝導検査:顔面神経の障害の程度を評価

これらの検査結果を総合的に判断することで、ベル麻痺の確定診断が下せます。

診断後の対応

診断結果対応
ベル麻痺と確定適切な治療の開始
ベル麻痺以外の疾患専門医への紹介

ベル麻痺の治療法と処方薬、治療期間

ベル麻痺の治療の中心はステロイド薬の服用となりますが、抗ウイルス薬や鎮痛薬などを併せて使うこともあります。

回復までの期間は、多くの場合2~3ヶ月ほどです。

ステロイド薬による治療

ベル麻痺の治療で最も重要なのは、ステロイド薬を服用することです。

ステロイド薬は炎症をやわらげる効果があり、神経への圧迫を減らすことで症状が改善されていきます。

通常使用されるのは、プレドニゾロンやデキサメタゾンといった飲み薬のステロイド薬です。

薬剤名一般的な用量
プレドニゾロン1日60~80mg
デキサメタゾン1日8~16mg

服用期間は一般的に1~2週間ほどですが、症状に合わせて調整されることもあります。

抗ウイルス薬の併用

ベル麻痺を引き起こす原因の1つとして、ヘルペスウイルスの関わりが指摘されているため、ステロイド薬と一緒に抗ウイルス薬を使うことで、治療の効果がより高まる可能性があります。

よく使われる抗ウイルス薬は、バラシクロビルやアシクロビルなどです。

  • バラシクロビル:1日3000mg(3回に分けて)を7日間
  • アシクロビル:1日4000mg(5回に分けて)を7~10日間

ただ、抗ウイルス薬の効果についてはまだ議論の余地があり、必ずしもすべての患者さんに勧められるわけではありません。

鎮痛薬の使用

ベル麻痺に伴う痛みをやわらげるために、鎮痛薬が処方されることがあります。

代表的な鎮痛薬は、アセトアミノフェンやイブプロフェンといった非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)です。

薬剤名一般的な用量
アセトアミノフェン1日1500~4000mg(3~4回に分けて)
イブプロフェン1日600~1200mg(3回に分けて)

ただし、鎮痛薬の長期間の使用は控えるべきで、NSAIDsには胃腸の不調などの副作用があり、注意が必要です。

理学療法の役割

薬による治療と同時に、理学療法を行うことも大切です。

顔の筋力トレーニングやマッサージなどの理学療法は、筋力の維持や回復を助け、後遺症を防ぐのに役立ちます。

理学療法士と協力しながら、リハビリテーションプログラムを継続的に実践していくことが望ましいです。

予後と再発可能性および予防

ベル麻痺は治療を行えば予後は良好であり、再発を防ぐことも可能です。

ベル麻痺の治療予後

ベル麻痺は多くの場合、数週間から数ヶ月で自然に回復し、早期に治療を始めることで、後遺症を最小限に抑えられます。

しかし、一部の患者さんでは後遺症が残ってしまうこともあります。

後遺症の種類割合
顔面の非対称約10%
顔面の痙攣約5%

再発の可能性

ベル麻痺は再発する可能性があり、再発率は5〜10%程度と言われています。

再発リスク因子詳細
家族歴ベル麻痺の家族歴がある場合、再発リスクが高い
ウイルス感染ヘルペスウイルスなどの感染が再発のトリガーになる可能性がある

再発を予防するためには、次のような点に気を付ける必要があります。

  • ストレス管理
  • 十分な休養
  • バランスの取れた食事
  • 規則正しい生活習慣

専門医による定期的な経過観察の重要性

ベル麻痺の治療後も、専門医による定期的な経過観察が欠かせません。

経過観察の間隔目的
発症後1ヶ月回復状況の確認、後遺症の有無のチェック
発症後3ヶ月回復状況の確認、必要に応じてリハビリテーションの導入
発症後6ヶ月回復状況の最終確認、再発の有無のチェック

ベル麻痺の治療における副作用やリスク

ベル麻痺の治療では、使用される治療法や患者さんの状態によって、副作用やリスクが異なってきます。

ステロイド治療の副作用とリスク

ステロイド治療は、ベル麻痺の標準的な治療法の1つですが、副作用のリスクがあります。

副作用リスク
高血糖糖尿病の悪化や発症
体重増加肥満や関連する健康問題

ステロイド治療を受ける患者さんは、これらの副作用を注意深く監視し、必要に応じて対処する必要があります。

抗ウイルス薬治療の副作用とリスク

ベル麻痺の原因となるウイルスに対して抗ウイルス薬が使用される場合があります。

抗ウイルス薬の一般的な副作用

  • 吐き気や嘔吐などの消化器症状
  • 頭痛やめまい
  • 発疹や皮膚の異常

理学療法の潜在的なリスク

理学療法は、ベル麻痺患者の回復を助けるために用いられますが、リスクもあります。

リスク影響
過度の運動症状の悪化や回復の遅延
不適切な手技顔面神経の損傷

治療後の合併症のリスク

ベル麻痺の治療後、一部の患者さんでは合併症が発生する可能性があります。

合併症は、眼の乾燥や涙目、味覚障害、顔面の拘縮などです。

合併症のリスクを最小限に抑えるためには、フォローアップと必要に応じた対症療法が大切になります。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

ベル麻痺の治療費は、原則として健康保険が適用されます。

健康保険適用の範囲

ベル麻痺の治療に関しては、以下のような医療行為が健康保険の適用対象です。

医療行為適用対象
診察
検査
投薬
リハビリテーション

ただし、自由診療として行われる治療や、保険適用外の薬剤を使用する際は、全額自己負担となるケースがあります。

治療費の自己負担額

健康保険が適用される場合、治療費の自己負担額は以下のように計算されます。

  • 70歳未満の場合:医療費の3割
  • 70歳以上75歳未満の場合:医療費の2割(現役並み所得者は3割)
  • 75歳以上の場合:医療費の1割(現役並み所得者は3割)
年齢自己負担割合
70歳未満3割
70歳以上75歳未満2割(現役並み所得者は3割)
75歳以上1割(現役並み所得者は3割)

高額療養費制度

医療費の自己負担額が高額になった際は、高額療養費制度により自己負担額が軽減されます。

この制度では、月単位で計算された自己負担額が一定の上限額を超えた場合、超過分が後日還付されます。

以上

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