黒色真菌感染症

黒色真菌感染症(black fungal infections)とは、黒色真菌が原因で発症する感染症です。

黒色真菌は自然界のいたるところに生息しており、土壌や枯れ葉などが主な生息地となっています。

通常、健康な人が黒色真菌に触れても感染することはほとんどありませんが、免疫力が低下している人や基礎疾患がある人は感染リスクが高いです。

黒色真菌感染症は、皮膚、肺、脳など身体のさまざまな部位に感染し、重篤な合併症を引き起こすことがあります。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

黒色真菌感染症の種類(病型)

黒色真菌感染症には、深在性真菌症、表在性真菌症、アレルギー型、菌腫型という4つの主な病型があります。

深在性真菌症

深在性真菌症は、侵襲型、播種型、肺型、鼻脳型に分類されます。

病型特徴
侵襲型真菌が組織内に侵入し、炎症反応を引き起こします
播種型血流を介して真菌が全身に広がります
肺型肺に真菌が感染し、炎症を引き起こします
鼻脳型鼻腔から脳に真菌が直接感染します

侵襲型と播種型は、免疫力が低下している患者さんに、肺型は、肺に基礎疾患がある患者さんに多く見られます。

鼻脳型は、真菌が鼻腔から脳に直接感染するため、致死率が高いです。

表在性真菌症

表在性真菌症は、皮膚型、爪型、粘膜型に分類されます。

皮膚型は、皮膚に黒色の斑点や結節が現れ、爪型は、爪の変色や変形が見られます。

粘膜型は、口腔内や生殖器などの粘膜に感染が起こり、また、表在性真菌症は、健康な人が感染することも。

アレルギー型

アレルギー型は、アレルギー性鼻副鼻腔炎とアレルギー性気管支肺アスペルギルス症に分類されます。

アレルギー性鼻副鼻腔炎は、真菌に対するアレルギー反応によって、くしゃみや鼻水などの症状が起こります。

アレルギー性気管支肺アスペルギルス症は、気管支や肺にアレルギー反応が起こり、特徴的な症状は、咳や呼吸困難などです。

病型症状
アレルギー性鼻副鼻腔炎くしゃみ、鼻水、鼻閉
アレルギー性気管支肺アスペルギルス症咳、呼吸困難、喘鳴

菌腫型

菌腫型は、真菌が塊となって体内に存在する病型です。

  • – 肺に菌腫ができることが多いです
  • – 菌腫は周囲の組織を圧迫し、症状を引き起こします
  • – 菌腫が破裂すると、重篤な合併症を引き起こす危険性があります

菌腫型は、免疫力が正常な人でも発症することがあります。

黒色真菌感染症の主な症状

黒色真菌感染症は、感染した部位や感染の広がり方によって、さまざまな症状を示します。

皮膚の症状

皮膚に感染したときの症状

症状特徴
皮疹紅斑、丘疹、膿疱などの皮疹が出現
潰瘍皮膚が壊死し、潰瘍を形成
色素沈着感染部位の皮膚が黒色に変化

皮膚の黒色真菌感染症は、外傷や熱傷などをきっかけに発症することが多いです。

肺の症状

肺に感染したときの症状

症状頻度
咳嗽高い
発熱高い
胸痛中程度
呼吸困難中程度

肺の黒色真菌感染症は、肺炎や肺膿瘍などの発症につながることがあります。

中枢神経系の症状

脳や脊髄に感染した場合の症状

  • 頭痛
  • 発熱
  • 意識障害
  • 神経脱落症状(麻痺、感覚障害など)

中枢神経系の黒色真菌感染症は、脳膿瘍や髄膜炎などの深刻な病態を引き起こすことがあります。

その他の症状

黒色真菌感染症は、眼や副鼻腔などさまざまな部位に感染し、感染した部位に応じて、視力低下や眼の痛み、鼻づまりや頭痛などの症状が現れます。

黒色真菌感染症の原因・感染経路

黒色真菌感染症の原因菌と感染のメカニズムを把握することは、感染予防と早期発見において極めて重要です。

主要な原因真菌

黒色真菌感染症の主要な原因真菌としては、ムーコル目、クロコウジ目、ケカビ目に分類される菌種が挙げられ、これらの真菌は、土壌中や腐敗した植物などの自然環境下に広く分布しています。

真菌の種類存在場所
ムーコル目土壌、腐敗した植物
クロコウジ目土壌、腐敗した植物
ケカビ目土壌、腐敗した植物

感染経路

黒色真菌の感染経路は主に3つで、免疫力が低下している患者さんや、糖尿病などの基礎疾患を有する患者さんは、感染リスクが特に高くなります。

感染経路リスク因子
胞子の吸入免疫力低下、基礎疾患
傷口からの侵入外傷、手術
医療器具を介した感染免疫力低下、基礎疾患

環境中の真菌胞子

黒色真菌の胞子は、大気中に浮遊している可能性があり、 特に土壌や腐敗した植物の近辺では、胞子濃度が高いです。

さらに、自然災害発生後や建設現場なども、胞子が多量に飛散しやすい環境となっています。

診察(検査)と診断

黒色真菌感染症を診断する際には、臨床所見の確認と検査による確定診断が重要なポイントです。

臨床所見の確認

黒色真菌感染症が疑われるケースでは、まず患部の視診と触診を丁寧に行い、皮膚の色調変化や潰瘍形成、腫脹などの所見を詳しく観察します。

さらに、患者の全身状態や基礎疾患の有無も確認することが必要です。

視診項目触診項目
皮膚の変色皮膚の硬さ
潰瘍の有無腫れの程度

検査の実施

臨床所見から黒色真菌感染症が疑われる状況では、いくつかの検査を実施します。

  • 真菌培養検査:病変部位から採取した検体を培養し、原因真菌を同定する。
  • 病理組織検査:病変部位の組織を顕微鏡で観察し、真菌の有無を確認する。
  • 画像検査:CT やMRI などで感染の広がりや深達度を評価する。
検査方法目的
真菌培養原因真菌の同定
病理組織組織内の真菌確認
画像検査感染範囲の評価

黒色真菌感染症の治療法と処方薬

黒色真菌感染症の治療には、抗真菌薬の投与と外科的な処置が検討されます。

抗真菌薬療法

黒色真菌感染症の治療の中心は、抗真菌薬の全身投与で、第一選択薬はアムホテリシンBです。

アムホテリシンBは腎毒性などの副作用があるため、患者さんの状態に応じて慎重に投与量を調整します。

抗真菌薬投与経路用量
アムホテリシンB静注1-1.5mg/kg/日
ポサコナゾール経口初日300mg 1日4回、その後300mg 1日1回

外科的治療

壊死組織を可能な限り取り除くことで、抗真菌薬の感染部位への到達性を高め、治療効果を高められます。

補助療法

黒色真菌感染症の患者さんは、しばしば重度の免疫不全状態にあります。

そのため、免疫抑制療法の中止や、GCSF(granulocyte colony stimulating factor 顆粒球コロニー刺激因子)などによる好中球数の増加を図ることも大切です。

また、鉄キレート剤の投与により、真菌の増殖に必要な鉄を奪うことで治療効果を高めることもあります。

補助療法効果
GCSF好中球増加による感染防御能の増強
鉄キレート剤真菌の増殖に必要な鉄の除去

治療経過のモニタリング

治療経過のモニタリングには、臨床所見の改善とともに、画像検査が有用で、CT検査やMRI検査により、感染巣の経時的変化を評価。

また、ガラクトマンナン抗原などの真菌マーカーの推移も参考にすることがあります。

治療に必要な期間と予後について

黒色真菌感染症の治療期間と予後は、感染の種類や重症度、患者さんの全身状態によって大きく異なり、早期発見と治療開始が、予後を左右する鍵となります。

治療期間の目安

黒色真菌感染症の治療期間は、通常は数週間から数ヶ月に及ぶことが多いです。

感染の種類治療期間の目安
皮膚感染4~8週間
副鼻腔感染6~12週間
肺感染8~16週間
播種性感染12週間以上

抗真菌薬の静脈内投与を行い、病変の改善が見られた後は、経口薬に切り替えて治療を継続します。

経過観察と再発予防のための長期的な治療が必要となるケースも。

予後に影響する因子

黒色真菌感染症の予後は、いくつかの因子に影響されます。

  • 免疫状態:免疫抑制状態の患者では重症化リスクが高い
  • 基礎疾患の有無と種類:糖尿病や血液疾患などの基礎疾患がある場合、予後不良となりやすい
  • 感染の種類と範囲:播種性感染や中枢神経系感染では死亡率が高い
  • 治療開始の時期:発症から治療開始までの期間が長いほど予後不良となる傾向がある
因子予後への影響
免疫抑制状態重症化リスク高
基礎疾患あり予後不良になりやすい
播種性・中枢神経感染死亡率高い
治療開始遅延予後不良の傾向

黒色真菌感染症の治療における副作用やリスク

黒色真菌感染症の治療では、副作用やリスクがあることを把握しておくことが大切です。

抗真菌薬の副作用

黒色真菌感染症の治療に用いられる抗真菌薬には、副作用が報告されています。

アムホテリシンBは、腎毒性や低カリウム血症などの副作用が知られており、慎重なモニタリングが必要です。

また、ボリコナゾールやポサコナゾールなどのアゾール系抗真菌薬は、肝機能障害や視覚障害などの副作用が報告されています。

抗真菌薬主な副作用
アムホテリシンB腎毒性、低カリウム血症
ボリコナゾール肝機能障害、視覚障害

手術療法のリスク

重症例や薬物療法が奏功しない場合、手術療法が検討されることが、出血や感染などのリスクが伴います。

患者さんの全身状態や感染の範囲を考慮し、リスクとベネフィットを慎重に評価してから、手術を行うかどうか判断することに。

免疫抑制状態の影響

黒色真菌感染症は、免疫抑制状態の患者に発症しやすく、治療中も免疫抑制状態が続く場合、感染のコントロールが困難になる可能性があります。

また、免疫抑制療法との兼ね合いで、抗真菌薬の選択や投与量の調整が必要になることも。

免疫抑制状態影響
糖尿病感染のコントロールが困難
悪性腫瘍抗真菌薬の選択や投与量の調整が必要

薬物の相互作用

黒色真菌感染症の治療では、複数の薬剤を併用することが多く、相互作用により、副作用のリスクが高まる可能性があります。

特に、アゾール系抗真菌薬は多くの薬剤と相互作用を示すため、注意が必要です。

  • 併用薬剤の確認
  • 薬物相互作用のモニタリング
  • 必要に応じた薬剤の変更や用量調整

予防方法

黒色真菌感染症の予防には、感染リスクを下げるためのさまざまな対策が欠かせません。

基礎疾患の管理

糖尿病などの基礎疾患がある人は、血糖値を適切にコントロールすることが大切です。

基礎疾患管理方法
糖尿病血糖値のコントロール
免疫抑制状態医師の指示に従う

衛生管理の徹底

日常生活では、以下のような衛生管理を心がけましょう。

  • 手洗いの徹底
  • マスクの着用
  • 清潔な環境の維持

特に、土壌や腐敗した有機物との接触は避けてください。

早期発見・早期治療

黒色真菌感染症を疑う症状がある場合は、速やかに医療機関を受診しましょう。

症状対応
鼻閉、鼻汁耳鼻科受診
目の痛み、視力低下眼科受診

免疫力の維持

バランスの取れた食事や適度な運動により、免疫力を維持することも感染症予防につながります。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

治療費の内訳

黒色真菌感染症の治療は、抗真菌薬を用いた薬物療法と外科的な手術療法に分けられます。

治療法費用の目安
抗真菌薬治療数十万円~数百万円
外科的手術数百万円~1000万円以上

薬物療法では、アムホテリシンBやボリコナゾールといった高価な薬剤を長期間使用するため、薬剤費だけで数十万円から数百万円の費用が発生します。

重症の患者さんでは、眼窩内容除去術や上顎骨・頬骨の切除など、侵襲度の高い手術が必要となることもあり、手術にかかる費用は数百万円から1000万円以上になることも。

公的医療保険の適用

黒色真菌感染症の治療には公的医療保険が適用されるため、自己負担額は一定の割合に抑えられます。

年齢自己負担割合
70歳未満3割
70歳以上75歳未満2割(一定以上の所得は3割)
75歳以上1割(一定以上の所得は3割)

なお、高額療養費制度により、1ヶ月の自己負担額には上限が設けられています。

以上

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