ネコひっかき病とは、ネコに引っかかれたりかまれたりすることで感染する病気です。
ネコひっかき病の原因となるのは、バルトネラ・ヘンセラエという細菌で、ネコの爪や口の中、唾液などに潜んでいます。
ネコに引っかかれたりかまれたりした傷口から、この細菌が体内に侵入することで感染します。
ネコひっかき病に感染すると、発熱やリンパ節の腫れ、倦怠感など、様々な症状が現れる可能性があります。
多くの場合、自然に治癒することもありますが、重症化するケースも存在するため、注意が必要となります。
ネコひっかき病の多様な病型と特徴
ネコひっかき病は、症状や重症度に基づいて、典型的なタイプ、非定型的なタイプ、バシラリー血管増殖症の3つの病型に分けられます。 病型ごとに適切な診断と治療を行うことが、患者の予後改善につながる大切な要素となります。
典型的な猫ひっかき病
典型的なネコひっかき病の主な特徴は以下の通りです。
症状 | 概要 |
リンパ節腫脹 | 感染部位近くのリンパ節が腫れ、圧痛を伴う |
発熱 | 38℃以上の発熱が数日間続く |
全身倦怠感 | 体がだるく、疲れやすい状態が続く |
多くの場合、数週間で自然に治癒しますが、リンパ節が化膿する際には、切開排膿などの処置が必要となることもあります。
非定型的な猫ひっかき病
非定型的なネコひっかき病では、多岐にわたる症状が現れます。 以下は、その一例です。
これらの症状は、典型的なタイプと比べて重症化しやすく、適切な治療介入が求められます。
バシラリー血管増殖症
バシラリー血管増殖症は、主に免疫力の低下した人に発症する全身性の感染症です。 以下の表は、その特徴をまとめたものです。
特徴 | 詳細 |
発症リスク | AIDS患者など、免疫機能が低下した人に多い |
病変の分布 | 皮膚や内臓に血管増殖性の病変が多発する |
重症度 | 適切な治療を行わないと、生命に関わる可能性がある |
バシラリー血管増殖症は、早期の診断と集中的な治療が患者の予後を大きく左右します。
ネコひっかき病にみられる主な症状と特徴
ネコひっかき病は、感染部位の症状、全身症状、非定型的な症状など、様々な症状を引き起こす感染症です。
感染部位の症状
ネコひっかき病の感染部位では、以下のような症状が現れます。
症状 | 概要 |
丘疹・膿疱 | 感染部位に小さな赤い発疹や膿を伴う発疹が現れる |
リンパ節腫脹 | 感染部位近くのリンパ節が腫れ、圧痛を伴う |
潰瘍形成 | 感染部位に潰瘍ができ、治癒が遅延する |
これらの症状は、感染から数日から数週間後に現れ、数週間から数ヶ月間持続する場合があります。
全身症状
ネコひっかき病では、全身性の症状も現れます。 主な症状は以下の通りです。
全身症状は、感染部位の症状と同時期に現れることもあれば、遅れて出現することもあります。
非定型的な症状
一部の患者では、非定型的な症状が現れることがあります。 以下の表は、非定型的な症状の例です。
症状 | 概要 |
結膜炎 | 目の充血、目やに、眼痛などを伴う |
脳炎 | 頭痛、発熱、意識障害などが出現する |
肝脾腫 | 肝臓や脾臓の腫大、腹痛、発熱などを伴う |
骨病変 | 骨の痛みや腫脹が生じる |
非定型的な症状は、典型的な症状と比べて重症化しやすく、適切な診断と治療が求められます。
ネコひっかき病の原因・感染経路
ネコひっかき病は、バルトネラ・ヘンセラエという細菌によって引き起こされる感染症です。
この細菌は、主にネコの爪や口腔内に存在し、ネコに引っかかれたり咬まれたりすることで感染します。
バルトネラ・ヘンセラエ
バルトネラ・ヘンセラエは、グラム陰性の桿菌で、食細胞内寄生性を持つ細菌で、以下のような特徴を持っています。
特徴 | 概要 |
感染宿主 | ネコが主な感染宿主で、ノミを介して感染する |
生存環境 | ネコの爪や口腔内、ノミの消化管内で生存可能 |
感染力 | 健康なネコでも保菌することがあり、感染力が高い |
バルトネラ・ヘンセラエは、ネコの体内で長期間生存することができ、感染源となります。
ネコからヒトへの感染経路
ネコひっかき病は、以下のような経路でネコからヒトへ感染します。
感染経路 | 概要 |
引っかき傷・咬傷 | ネコに引っかかれたり咬まれたりすることで感染 |
唾液・排泄物 | ネコの唾液や排泄物に含まれる細菌が粘膜や傷口から侵入 |
ネコノミ | ネコノミに咬まれることで感染 |
感染したネコは、無症状の場合もあれば、軽度のリンパ節腫脹を呈することもあります。
ネコとの接触機会が多い飼い主や獣医師は、感染リスクが高くなります。
ヒトからヒトへの感染
ネコひっかき病は、基本的にヒトからヒトへの感染はないと考えられています。
ただし、免疫力が低下した患者では、ごくまれにヒトからヒトへの感染が報告されています。
診断するための方法と手順
ネコひっかき病の診断には、臨床症状や病歴の聴取、身体診察に加え、血液検査や画像検査、病理組織検査などが用いられます。
確定診断を下すには、特異的な検査方法が必要です。
臨床診断
ネコひっかき病の臨床診断は、以下のような点に着目して行われます。
着目点 | 概要 |
症状 | 感染部位の発疹や腫脹、リンパ節腫脹、発熱などの症状 |
病歴 | ネコとの接触歴、引っかき傷や咬傷の有無 |
身体所見 | リンパ節の圧痛や可動性、皮膚病変の性状 |
これらの情報を総合的に評価することで、ネコひっかき病を疑うことができます。
確定診断
ネコひっかき病の確定診断には、以下のような検査方法が用いられます。
検査方法 | 概要 |
血清学的検査 | バルトネラ・ヘンセラエに対する抗体価の測定 |
細菌学的検査 | 病変部からの細菌培養や PCR 法による菌体の検出 |
病理組織検査 | リンパ節や皮膚の生検材料における特徴的な組織像の確認 |
特に、血清学的検査は簡便かつ感度が高いため、スクリーニング検査として広く用いられています。
これらの検査結果を総合的に判断することで、ネコひっかき病の確定診断が可能となります。
鑑別診断
ネコひっかき病は、他の感染症や腫瘍性疾患との鑑別が大切です。 鑑別すべき疾患には、以下のようなものがあります。
これらの疾患との鑑別には、臨床症状や検査所見を詳細に検討することが重要です。
ネコひっかき病に対する治療法と処方される薬剤
ネコひっかき病の治療は、患者の症状や重症度に応じて、抗菌薬の投与や外科的処置などが選択されます。
抗菌薬療法
ネコひっかき病の治療の中心は、抗菌薬の投与です。
バルトネラ・ヘンセラエに対して有効な抗菌薬には、以下のようなものがあります。
抗菌薬 | 概要 |
アジスロマイシン | マクロライド系抗菌薬、第一選択薬として使用される |
ドキシサイクリン | テトラサイクリン系抗菌薬、小児では使用制限がある |
シプロフロキサシン | ニューキノロン系抗菌薬、重症例で使用される |
通常、抗菌薬の投与期間は2〜4週間程度ですが、症状に応じて調整が必要です。
外科的処置
一部の患者では、リンパ節の腫脹が顕著で、自壊や排膿を伴う場合があり、以下のような外科的処置が考慮されます。
外科的処置は、抗菌薬療法と併用することで、治療効果を高めることができます。
免疫抑制患者への対応
免疫力が低下した患者では、ネコひっかき病が重症化するリスクが高くなり、以下のような点に注意が必要です。
注意点 | 概要 |
早期診断 | 症状出現後、速やかに診断し、治療を開始する |
長期治療 | 抗菌薬の投与期間を延長し、再発を防ぐ |
合併症への対応 | 播種性感染症や中枢神経系感染症などの合併症に注意する |
免疫抑制患者では、定期的な経過観察と適切な治療が大切です。
治療効果の評価
ネコひっかき病の治療効果は、以下のような点を評価することで判断します。
治療効果が不十分な場合には、抗菌薬の変更や治療期間の延長などを検討する必要があります。
治療にかかる期間と予後について
ネコひっかき病の治療期間と予後は、患者の症状や合併症の有無、免疫状態などによって異なります。
多くの場合、適切な治療により良好な経過をたどりますが、一部の患者では長期的な管理が必要となる場合があります。
治療期間
ネコひっかき病の治療期間は、以下のような要因によって決まります。
要因 | 概要 |
症状の重症度 | 重症例では、治療期間が長くなる傾向がある |
合併症の有無 | 播種性感染症や中枢神経系感染症を合併した場合、治療が長期化する |
免疫状態 | 免疫抑制患者では、治療期間が延長される可能性がある |
一般的に、抗菌薬の投与期間は2〜4週間程度ですが、症状に応じて調整が必要です。
予後
ネコひっかき病の予後は、以下のような点に影響されます。
大多数の患者では、適切な治療により完治が可能で、適切な治療と経過観察により、ネコひっかき病の予後は一般的に良好です。
長期的な影響
ネコひっかき病の長期的な影響としては、以下のようなものがあります。
長期的な影響を最小限に抑えるためには、適切な治療と定期的な経過観察が大切です。
ネコひっかき病の治療における副作用やリスク
ネコひっかき病の治療では、抗菌薬の投与や外科的処置が主な選択肢となりますが、これらの治療法には副作用やリスクが伴います。
抗菌薬の副作用
ネコひっかき病の治療に用いられる抗菌薬には、以下のような副作用が報告されています。
抗菌薬 | 主な副作用 |
アジスロマイシン | 消化器症状(悪心、下痢など)、頭痛、めまいなど |
ドキシサイクリン | 消化器症状(悪心、嘔吐など)、光線過敏症、肝機能障害など |
シプロフロキサシン | 消化器症状(悪心、下痢など)、中枢神経系症状(頭痛、不眠など)、腱障害など |
これらの副作用は、多くの場合、軽度で一過性ですが、重篤な副作用が出現する可能性もあります。
外科的処置のリスク
リンパ節の切開排膿やリンパ節摘出などの外科的処置には、以下のようなリスクが伴います。
これらのリスクは、手術手技や患者の全身状態によって異なります。
外科的処置 | 主なリスク |
リンパ節の切開排膿 | 感染、出血、リンパ漏など |
リンパ節摘出 | 感染、出血、神経損傷、リンパ浮腫など |
手術に伴うリスクを最小限に抑えるためには、熟練した医療チームによる適切な手術手技と周術期管理が大切です。
特殊な状況下でのリスク
以下のような特殊な状況下では、ネコひっかき病の治療に伴うリスクが高まります。
これらの状況下では、治療方針の決定に際して、専門医による慎重な評価と個別化した対応が求められます。
予防方法
ネコひっかき病を予防するためには、ネコとの接し方に注意し、ネコの健康管理を適切に行うことが大切です。
また、ネコノミ対策も感染リスクを下げる上で欠かせない対策となります。
ネコとの接し方
ネコひっかき病を予防するためには、以下のようなネコとの接し方が推奨されます。
接し方 | 概要 |
過度な接触を避ける | ネコとの過度な接触や顔を近づけることを避ける |
引っかき傷や咬傷に注意 | ネコに引っかかれたり咬まれたりしないよう注意する |
傷口を清潔に保つ | ネコに引っかかれたり咬まれたりした場合、傷口を石鹸で洗浄し、消毒する |
特に、子供やお年寄り、免疫力の低下した人は、ネコとの接触には十分な注意が必要です。
ネコの健康管理
飼い主は、ネコの健康管理を適切に行うことで、ネコひっかき病の感染リスクを下げることができます。 以下のような点に注意が必要です。
健康的なネコは、バルトネラ・ヘンセラエの保菌率が低く、感染リスクも低くなります。
ネコノミ対策
ネコノミは、バルトネラ・ヘンセラエを媒介することが知られています。
ネコノミ対策は、ネコひっかき病の予防に重要な役割を果たします。
ネコノミ対策 | 概要 |
駆除薬の使用 | 動物用医薬品を用いて、ネコノミを駆除する |
環境の清掃 | ネコの寝床や周囲環境を清潔に保ち、ノミの繁殖を防ぐ |
屋内飼育 | ネコを屋内で飼育し、野外でのノミ寄生を防ぐ |
これらの対策を組み合わせることで、ネコノミの寄生を効果的に予防することができます。
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
初診料と検査費用
ネコひっかき病の診断には、以下のような費用がかかります。
項目 | 費用 |
初診料 | 3,000円~5,000円程度 |
血液検査 | 5,000円~10,000円程度 |
画像検査(CT、MRIなど) | 20,000円~50,000円程度 |
これらの費用は、医療機関によって異なるため、事前に確認が必要です。
入院費と治療費
重症例では、入院治療が必要となることがあります。 入院費は、以下のような費用で構成されます。
入院期間は症状によって異なりますが、1週間~1ヶ月程度が一般的です。
外来治療の費用
軽症例では、外来治療が選択されます。 外来治療の費用は、以下のような項目で構成されます。
項目 | 費用 |
再診料 | 1,000円~2,000円程度 |
投薬料 | 使用する薬剤によって異なる |
処置料 | 処置の内容によって異なる |
外来治療の期間は、症状の改善状況によって異なりますが、数週間~数ヶ月程度が一般的です。
以上
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