クラミジア感染症(chlamydia infection)とは、クラミジア・トラコマティスという細菌が原因で発症する感染症です。
主に性的接触を通じて感染が広がり、男女問わず感染のリスクがあります。
感染しても無症状のケースが多いため、自覚がないまま感染が拡大してしまう危険性があります。
治療を行わないと、深刻な合併症を引き起こす可能性があるので、注意が必要です。
クラミジア感染症の種類(病型)
クラミジア感染症には、子宮頸管炎、尿道炎、骨盤内炎症性疾患(PID)、肛門直腸炎、リンパ肉芽腫症(LGV)、トラコーマなど多岐にわたる病型があり、感染部位や症状、重症化のリスクが異なります。
子宮頸管炎と尿道炎
子宮頸管炎は女性特有の病型で、子宮頸部にクラミジアが感染することで炎症を起こします。
一方、尿道炎は男女ともに発症する可能性がある病型です。尿道にクラミジアが感染し炎症が生じます。
子宮頸管炎 | 尿道炎 | |
感染部位 | 子宮頸部 | 尿道 |
主な性別 | 女性 | 男女 |
症状 | おりもの増加、不正出血など | 排尿時の痛み、おりものの増加など |
これらの病型は性行為によるクラミジアの感染が主な原因で、感染した性器から他の部位へ感染が広がることで発症します。
子宮頸管炎や尿道炎は比較的軽症であることが多いものの、治療を行わないと感染が拡大するリスクがあるため注意してください。
骨盤内炎症性疾患(PID)
骨盤内炎症性疾患(PID)は、主に女性の骨盤内の生殖器官にクラミジアの感染が波及することで発症する病型です。
子宮内膜炎、卵管炎、骨盤腹膜炎などを含む総称で、重症化すると不妊の原因になることがあります。
骨盤内炎症性疾患(PID) | |
感染部位 | 子宮内膜、卵管、骨盤腹膜など |
主な性別 | 女性 |
症状 | 下腹部痛、発熱、おりもの増加など |
重症化のリスク | 不妊の原因となる可能性あり |
PIDの発症は、子宮頸管炎が上行性に広がることが主な原因で、早期発見と治療が重要です。
治療を行わないと、卵管の癒着や閉塞を引き起こし、妊娠に影響を与える恐れがあります。
肛門直腸炎とリンパ肉芽腫症(LGV)
肛門直腸炎は、肛門や直腸の粘膜にクラミジアが感染し炎症が生じる病型です。
主な感染経路は肛門性交であ、性的接触により感染が広がります。
リンパ肉芽腫症(LGV)は、クラミジアの特殊な血清型(L1〜L3)による感染症で、リンパ管やリンパ節に炎症を引き起こします。
- 肛門直腸炎の症状:肛門の痛みや出血、粘液便など
- LGVの症状:性器やリンパ節の腫れや潰瘍、発熱など
LGVは肛門直腸炎よりも重症化しやいです。
トラコーマ
トラコーマは、クラミジアの感染により眼に炎症が生じる病型です。
トラコーマ | |
感染部位 | 眼(結膜や角膜) |
感染経路 | 感染者との接触や不衛生な環境 |
症状 | 眼の痒み、充血、濁った眼脂など |
重症化のリスク | 視力障害や失明の原因となる可能性あり |
トラコーマは、主に衛生環境の不十分な地域で流行が見られ、家族内での感染も起こりやすい傾向にあります。
繰り返す感染や慢性的な炎症により、角膜に瘢痕が形成され視力低下を引き起こすことがあるため注意が必要です。
WHO(世界保健機関)は、トラコーマを失明の主要な原因の一つとして重視しており、衛生環境の改善と早期発見・治療に取り組んでいます。
クラミジア感染症の主な症状
クラミジア感染症は、男性と女性では、出る症状が異なります。
早期発見と治療が大切ですが、症状が現れないこともあり、放置すると深刻な合併症を引き起こす可能性があるので注意が必要です。
男性の症状
男性が感染したときの症状
- 尿道からの排膿や不快感
- 排尿時の痛みや不快感
- 精巣の痛みや腫れ
尿道から膿が出たり、排尿時に痛みや不快感を感じたり、精巣に痛みや腫れが生じる場合もあります。
症状 | 詳細 |
尿道からの排膿 | 尿道から膿が出る |
排尿時の痛み | 尿を出す際に痛みを感じる |
女性の症状
女性が感染したときの症状
- 異常な腟分泌物の増加
- 下腹部の痛み
- 性交時の出血や痛み
- 不正出血
腟から普段とは異なる分泌物が増えたり、下腹部に痛みを感じたり、性交時に出血や痛みを伴ったり、不正出血が起こることもあります。
症状 | 詳細 |
異常な腟分泌物 | 腟から普段と異なる分泌物が出る |
下腹部の痛み | 下腹部に痛みを感じる |
無症状のまま経過することが多い
クラミジア感染症は、男女ともに無症状のまま経過することが多いです。
感染しても自覚症状がないと、気づかないうちに感染を広げてしまう危険性があります。
ただし、定期的な検査を受けることで、早期発見が可能です。
症状が出現した場合の対応
もし症状が出現したら、速やかに医療機関を受診して、検査と治療を受けてください。
放置すると、感染が拡大したり、不妊などの合併症を引き起こすことがあるので、症状が軽度でも、自己判断せずに専門家に相談することが大切です。
クラミジア感染症の原因・感染経路
クラミジア感染症は、クラミジア・トラコマティスという細菌が引き起こす性感染症です。
クラミジア・トラコマティスは、非常に小さな細菌で、独自のエネルギー生成システムを持たないため、宿主細胞内でのみ増殖できます。
クラミジア・トラコマティスの感染経路
クラミジア・トラコマティスは主に性的接触によって感染します。
感染者との腟性交、肛門性交、オーラルセックスなどの性的接触により、粘膜を通じて感染が成立。
また、感染した母親から新生児へ出産時に感染が起こる垂直感染もあります。
感染経路 | 詳細 |
性的接触 | 腟性交、肛門性交、オーラルセックスなどによる感染 |
母子感染 | 感染した母親から新生児へ出産時に感染 |
クラミジア・トラコマティスの主な感染部位
クラミジア・トラコマティスは、主に以下の部位の粘膜上皮細胞内に侵入し、増殖することで感染します。
- 女性の子宮頸管、尿道、直腸
- 男性の尿道、直腸
- 咽頭(口腔や喉)
無症状感染の可能性
クラミジア感染症の特徴は、無症状感染の割合が高いことです。 感染者の多くは自覚症状がないまま感染を広げてしまう危険性があります。
感染者の割合 | 症状の有無 |
70〜80% | 無症状 |
20〜30% | 有症状 |
感染リスクを高める要因
クラミジア感染のリスクを高める要因
- コンドームを使用しない性交渉
- 多数のパートナーとの性交渉
- 他の性感染症に罹患している場合
- 10代、20代などの若年層
感染リスクを減らすためには、安全な性行動と定期的な検査が大切です。
診察(検査)と診断
クラミジア感染症を正しく診断するには、問診や身体所見、検査結果を総合的に評価します。
問診と身体所見
問診の際は、性交渉の有無や症状の有無、いつ頃から症状が出ているのかといった点を確認し、身体所見では、外陰部や子宮頸部に発赤がないか、おりものの状態はどうかなどをチェックします。
問診で確認すること | ポイント |
性交渉の有無 | 感染リスクを評価する |
症状の有無 | 無症候性感染の可能性がある |
症状の出現時期 | どのくらい前に感染したか推定する |
検査方法
確定診断のための検査方法
- 核酸増幅法(PCR法やTMA法など)
- 抗原検査法(EIA法やDFA法など)
- 細胞培養法
現在は、感度と特異度が高い核酸増幅法が主流で、尿道や子宮頸管から採取したサンプルを使って検査を実施します。
検査方法の種類 | 感度の高さ | 特異度の高さ |
核酸増幅法 | 〇 | 〇 |
抗原検査法 | △ | △ |
細胞培養法 | 〇 | 〇 |
スクリーニング検査
性感染症のスクリーニング検査
- 尿を使った核酸増幅法
- 子宮頸管から採取した細胞を使った核酸増幅法
- 子宮頸管から採取した細胞を使った抗原検査法
これらの検査は、症状がない感染者を発見するのに役立ち、感染拡大を防ぐうえで重要な意味を持ちます。
診断のポイント
クラミジア感染症の診断で気をつける点
- 性感染症の可能性を念頭に置いて、しっかりと問診と身体診察を行うこと
- 確定診断を下すには核酸増幅法による検査が推奨されていること
- 症状のない感染者の発見にはスクリーニング検査が有効であること
感染初期の段階で発見し治療を始めることで、重症化や感染拡大を食い止められます。
クラミジア感染症の治療法と処方薬、治療期間
クラミジア感染症は、抗菌薬の投与によって完治できる感染症の一つです。
抗菌薬治療の重要性
クラミジア感染症を治療する際、抗菌薬の使用が不可欠です。
クラミジア感染症を放置すると、骨盤内炎症性疾患や不妊といった深刻な合併症を起こすおそれがあるので、速やかに治療を開始してください。
第一選択薬と治療期間
クラミジア感染症の治療において第一に選ばれる薬剤は、アジスロマイシンとドキシサイクリンです。
抗菌薬の種類 | 服用方法と服用量 |
アジスロマイシン | 1000mgを1回で服用 |
ドキシサイクリン | 100mgを1日2回、7日間服用 |
これらの抗菌薬は、クラミジアに対して非常に高い効果を発揮し、短期間で治療を完了できます。
特にアジスロマイシンは1回の服用で済むため、患者さんの服薬コンプライアが良好です。
代替薬と治療期間
第一選択薬であるアジスロマイシンやドキシサイクリンが使用できない場合、例えばペニシリンアレルギーなどの理由で服用ができない患者さんには、以下の代替薬を選択します。
- レボフロキサシン 500mgを1日1回、7日間服用
- オフロキサシン 300mgを1日2回、7日間服用
- エリスロマイシン 500mgを1日4回、7日間服用
治療後のフォローアップ
クラミジア感染症の治療が終了してから3週間以上の期間を空けた後、治癒判定のための検査を実施します。
また、再感染のリスクを減らすためにも、性的パートナーに対する検査と治療を行うことも大切です。
フォローアップの内容 | 実施時期 |
治癒判定のための検査 | 治療終了から3週間以上経過後 |
性的パートナーへの検査と治療 | 感染が判明した時点 |
クラミジア感染症は、抗菌薬による治療とフォローアップを行えば、確実に治癒できる疾患です。
予後と再発可能性および予防
クラミジア感染症は正しい治療を受ければ完治できますが、再発するリスクもあるため、予防対策が必要です。
治療の予後
クラミジア感染症には抗菌薬が効果的で、通常は数日から2週間ほどの服用で治癒します。
治療後は症状が良くなり、検査でも菌が見つからなくなるのを確認できますが、治療が不十分だったり、性的接触で再感染したりすると、再発することもあります。
再発の可能性
クラミジア感染症の主な再発原因
再発の原因 | 説明 |
不十分な治療 | 抗菌薬の服用期間が短すぎたり、飲み忘れたりすると、感染が完全に治らないことがあります。 |
再感染 | 治療後に感染者と性的接触をすると、再び感染するリスクがあります。 |
再発を防ぐには、医師の指示通りに治療を最後まで行い、感染者との性的接触を避けることが大切です。
パートナーの治療
クラミジア感染症の再発を防ぐためには、感染者だけではなく、パートナーも一緒に治療を受けることが欠かせません。
感染者が治療を受けても、パートナーが治療を受けていないと、再感染の危険性が高まります。
予防対策
クラミジア感染症の予防に有効な対策
- コンドームの使用:性的接触の際は正しくコンドームを使うことで、感染の危険性を大幅に下げられます。
- 定期的な検査:症状がなくても、定期的に検査を受けることで、早期発見・早期治療ができます。
- 教育・啓発活動:感染症についての正しい知識を広め、予防の大切さを伝えていくことが必要です。
予防対策 | 効果 |
コンドームの使用 | 感染リスクの低減 |
定期的な検査 | 早期発見・早期治療 |
教育・啓発活動 | 感染症に関する知識の普及 |
クラミジア感染症の治療における副作用やリスク
クラミジア感染症に対する抗菌薬治療は、高い効果を示しますが、副作用やリスクについて理解しておく必要があります。
抗菌薬治療の副作用
抗菌薬治療では、吐き気、下痢、腹痛などの消化器症状が一般的な副作用です。
副作用 | 頻度 |
吐き気 | 10~20% |
下痢 | 5~15% |
また、アレルギー反応を引き起こすケースもあり、重篤な場合はアナフィラキシーショックに至ることもあります。
アレルギー反応 | 頻度 |
軽度の発疹 | 1~5% |
アナフィラキシー | <0.1% |
抗菌薬を長期間使用したり、不適切に使用したりすると、薬剤耐性菌が出現するリスクが高まります。
特定の抗菌薬に関連する副作用
テトラサイクリン系抗菌薬の使用では、光線過敏症が起こることがあります。
フルオロキノロン系抗菌薬では、まれではありますが、腱断裂のリスクが高まることが知られています。
高齢の方や副腎皮質ステロイドを使用している方は特に注意が必要です。
マクロライド系抗菌薬については、心臓リズムへの影響が懸念されるので、 心疾患のある患者さんへの使用は慎重に行います。
患者さんの状態による副作用リスク
患者さんの年齢、基礎疾患、併用薬などによって、副作用のリスクは異なります。
- 高齢の方は腎機能が低下していることが多く、副作用リスクが高くなります。
- 妊娠中の女性においては、胎児への影響を考慮しなければなりません。
- 他の薬剤を併用している場合は、相互作用に注意が必要です。
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
クラミジア感染症の治療にかかる費用は、初診料、再診料、検査費、処置費、薬剤費などを含めると、数万円程度です。
初診料と再診料
初診料は、初めて医療機関を受診する際に支払う費用で、再診料は2回目以降の受診時に支払う費用です。
種類 | 金額 |
初診料 | 2,820円 |
再診料 | 720円 |
検査費と処置費
クラミジア感染症の診断には、尿検査や性器からの分泌物の採取が必要で、また、処置が必要な患者さんの場合は、追加の費用が発生する可能性があります。
検査・処置 | 金額 |
尿検査 | 3,000円〜5,000円 |
分泌物採取 | 3,000円〜5,000円 |
薬剤費
クラミジア感染症の治療には、抗菌薬が用いられます。 処方される薬剤によって異なりますが、1クールの薬剤費は5,000円から10,000円程度が目安です。
入院費
重症化したクラミジア感染症の患者さんでは、入院治療が必要になるケースがあります。 その際の入院費は、1日あたり10,000円から30,000円程度です。
以上
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