クリミア・コンゴ出血熱(CCHF) – 感染症

クリミア・コンゴ出血熱(CCHF Crimean-Congo hemorrhagic fever)は、ウイルスが原因となって発症する重篤な感染症です。

主にダニに咬まれることにより感染が成立し、感染後は高熱や出血など深刻な症状を引き起こすことがあります。

クリミア・コンゴ出血熱の致死率は10~40%と非常に高いため、感染予防と早期の発見・対応が極めて重要です。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

クリミア・コンゴ出血熱(CCHF)の種類(病型)

クリミア・コンゴ出血熱(CCHF)は、軽症から重症まで幅広い病型を示し、重症度によって対応や予後が大きく異なります。

CCHFの主な病型

CCHFは主に3つの病型に分類されます。

  1. 軽症(インフルエンザ様症状のみ)
  2. 中等症(出血症状はないが、重症感染症状を呈する)
  3. 重症(出血症状を伴う)

軽症例では、インフルエンザに似た非特異的な症状のみを示し、多くの場合自然に治癒します。

中等症例では、高熱や全身倦怠感、筋肉痛などの重い感染症状が見られますが、出血症状はありません。

これらの病型とは対照的に、重症例では出血症状を伴う危険な状態となります。

病型症状
軽症インフルエンザ様症状のみ
中等症重症感染症状を呈するが出血症状はない
重症出血症状を伴う

重症度と予後の関係

CCHFの予後は病型によって大きく左右されます。

  • 軽症例では死亡率が低く、ほとんどの患者で自然治癒が期待できる。
  • 中等症例では適切な支持療法を行うことで多くの患者の救命が可能である。
  • 重症例では致死率が高く、集中治療が必要となる。
病型予後
軽症自然治癒が期待できる
中等症適切な支持療法で救命可能
重症致死率が高く集中治療が必要

病型判定の重要性

CCHFの初期症状は、インフルエンザなどの一般的なウイルス感染症と類似しているため、早期の病型判定が難しいことがあります。

しかし、重症例では病状が急速に悪化するため、早期に病型を判定し、適切な治療を開始することが救命の鍵です。

特に出血症状の有無は、重症度を判断するうえで重要な所見であり、注意深く観察することが求められます。

クリミア・コンゴ出血熱(CCHF)の主な症状

クリミア・コンゴ出血熱は、初期には突発的な高熱、筋肉の痛み、頭痛、背中の痛みなどの非特異的な症状で始まり、その後、嘔吐、下痢、お腹の痛みといった消化器の症状や出血の症状が現れる可能性があります。

初期症状

CCHFの初期症状は、突然の高熱(39~40℃)、筋肉痛、頭痛、背部痛などの非特異的な症状で始まり、この時点では、他の感染症との区別がつきにくいことがあります。

症状詳細
高熱39~40℃
筋肉痛全身の筋肉痛
頭痛強い頭痛
背部痛背中の痛み

消化器症状

初期症状に続いて、嘔吐、下痢、腹痛などの消化器症状が出ることがあります。

症状詳細
嘔吐繰り返し吐き気や嘔吐が起こる
下痢頻回の水様便
腹痛腹部全体の痛み

出血症状

CCHFでは、重症化すると出血症状が現れることがあります。

  • 皮膚や粘膜からの出血
  • 消化管出血(吐血、下血)
  • 鼻出血 – 歯茎からの出血

出血症状は、CCHFの重症度を示す重要な指標です。

経過と重症度

CCHFの症状や経過は患者さんによって異なりますが、一般的には以下のような経過をたどります。

  1. 潜伏期間(感染から発症まで):1~13日間
  2. 発症初期(1~7日目):突然の高熱、筋肉痛、頭痛などの非特異的症状
  3. 病状進行期(5~14日目):出血症状や多臓器不全が現れる可能性あり
  4. 回復期(10日目以降):症状が改善し、回復に向かう

重症度は患者によって大きく異なり、軽症で済む場合もあれば、出血症状や多臓器不全を伴う重症化に至ることも。

さらに、適切な支持療法を行っても、致死率は10~40%と高いことが知られています。

クリミア・コンゴ出血熱(CCHF)の原因・感染経路

クリミア・コンゴ出血熱(CCHF)の原因となるのは、ナイロウイルス属のCCHFウイルスです。

ウイルスを保有するマダニに咬まれることで感染が成立するだけでなく、感染動物やヒトとの直接接触によっても感染が拡大する危険性があります。

ウイルスの宿主となる動物

CCHFウイルスはさまざまな動物がウイルスの宿主となり、感染を広げる可能性があります。

代表的なウイルス保有動物

動物の種類ウイルス保有の可能性
ウシ高い
ヒツジ高い
ヤギ高い
ウサギ中程度
イヌ低い

感染動物の血液や組織、体液などに直接触れることで、ヒトがウイルスに感染するリスクが高くなり、特に、屠殺時や解体時には十分な注意が必要です。

マダニによる媒介

CCHFウイルスを保有するマダニに咬まれることで、ヒトへの感染が起こります。

仲介媒体になるマダニ

  • ヒアロンマ属のマダニ
  • デルマセントール属のマダニ

これらのマダニは、アフリカ、バルカン半島、中東、アジアなどの地域に広く分布しており、ウイルスの拡散に大きな役割を果たしています。

ヒトからヒトへの二次感染

CCHFウイルスに感染したヒトの血液や体液に直接触れることによって、二次感染が起こる可能性があり、特に、医療現場での感染対策の不備が原因となるケースが報告されています。

感染経路リスクの高さ
感染者の血液との接触非常に高い
感染者の体液との接触高い
感染者との濃厚接触中程度
感染者との通常の接触低い

感染拡大の防止に向けて

クリミア・コンゴ出血熱(CCHF)の感染拡大を防ぐためには、ウイルスを媒介するマダニ対策と、感染した動物やヒトとの接触を避けることが大切です。

また、感染が疑われる患者さんに対しては、速やかな隔離措置と治療が必須となります。

診察(検査)と診断

クリミア・コンゴ出血熱は、適切な診察と検査によって早期に発見し、迅速に治療を開始することが重要な感染症です。

CCHFを診断するためには、臨床症状を注意深く評価し、特異的な検査を行います。

臨床診断

臨床診断を行う際は、患者さんの症状や身体所見、渡航歴などを総合的に判断します。

CCHFの初期症状は非特異的なことが多いので、他の感染症との区別をつけることが必要です。

症状特徴
発熱38℃以上の高熱
頭痛激しい頭痛
筋肉痛全身の筋肉痛
悪心・嘔吐持続する消化器症状

確定診断

確定診断をするには、以下のような検査が行われます。

  • – 血液検査:ウイルス分離、RT-PCR法によるウイルス遺伝子の検出
  • – 血清学的検査:IgM抗体、IgG抗体の測定
検査方法検出対象
ウイルス分離生きたウイルス
RT-PCR法ウイルス遺伝子
IgM抗体測定急性期の抗体
IgG抗体測定回復期の抗体

検体採取と取り扱い

CCHFの検査を行うには、血液や血清などの検体を採取します。

検体を採取したり取り扱ったりする際は、感染予防のために適切な個人防護具を使用し、決められた手順を守ることが欠かせません。

専門医との連携

CCHFは死亡率が高く重篤な感染症であるため、疑わしい症例があった場合はすぐに専門医に相談し、適切な診断と治療へとつなげることが必要です。

早期に診断し適切な感染管理を行うことで、患者さんの予後を良くし、感染拡大を防げます。

クリミア・コンゴ出血熱(CCHF)の治療法と処方薬、治療期間

クリミア・コンゴ出血熱の治療は主に、症状に応じた対症療法と抗ウイルス薬の投与が中心です。

対症療法

対症療法では、輸液や輸血で循環動態を安定させ、電解質バランスの調整、酸素療法などを実施し、出血傾向が顕著な際は、止血剤の投与や血小板輸血が必要になるケースもあります。

患者の状態治療方針
軽症安静、補液、解熱剤投与
中等症輸液、輸血、止血剤投与
重症人工呼吸器管理、血液浄化療法

抗ウイルス薬

抗ウイルス薬に関しては、リバビリンの投与が有用で、ウイルスのRNA合成を阻害し、ウイルスの増殖を抑える働きがあります。

リバビリンの投与量

  • – 経口投与:1日2000mgを2回に分けて10日間
  • – 点滴投与:1日1000mgを2回に分けて4日間、その後1日500mgを2回に分けて6日間

ただし、リバビリン投与は症状が出現してから48時間以内の開始が必要で、 それより後では十分な効果が得られない恐れがあります。

治療期間

クリミア・コンゴ出血熱の治療期間は、患者さんの状態や治療に対する反応で変わります。

軽症のケースでは1週間ほどで改善することもありますが、重症例の場合は数週間以上の治療が必要になることも。

入院期間患者割合
1週間未満20%
1~2週間50%
2週間以上30%

予後の不良因子

早期に治療を受けられれば、多くの患者さんは回復しますが、重症のケースでは、致死率が非常に高くなっています。

予後不良因子

  • 高齢
  • 基礎疾患の有無
  • 発症から治療開始までの期間が長い

予後と再発可能性および予防

クリミア・コンゴ出血熱は、早期に発見し治療を行うことで、予後が良くなる可能性が高いです。

ただし、再発のリスクもあるため、治療後も継続的な経過観察と予防対策が必要になってきます。

治療の予後

CCHFの治療成績は、いかに早く見つけ対症療法を行うかによって大幅に改善させることが可能です。

重症の患者さんでも集中治療室で手厚いケアを受けることにより、助かる確率が上がります。

治療開始時期生存率
発症後3日以内80-90%
発症後4日以降50-60%

再発の可能性

CCHFは一旦治っても、再発するリスクがあり、 再発しやすい要因としては次のようなものがあります。

  • 免疫力の低下
  • ウイルスの変異
  • 不完全な治療

再発を防ぐには、定期健診とアフターケアが欠かせません。

予防対策

CCHFの予防には、いくつかの取り組みが役立ちます。

予防対策具体例
ベクターコントロールダニの駆除、忌避剤の使用
感染動物との接触回避防護服の着用、手指衛生の徹底
ワクチン開発研究が進められているが、まだ実用化には至っていない

クリミア・コンゴ出血熱(CCHF)の治療における副作用やリスク

クリミア・コンゴ出血熱(CCHF)の治療では、ウイルスに直接作用する薬剤が限られているため、副作用やリスクとのバランスを考えながら、治療方法を選択します。

抗ウイルス薬の副作用

抗ウイルス薬のリバビリンは、CCHFの治療に用いられることがあり、副作用が報告されています。

副作用頻度
貧血高い
白血球減少高い
血小板減少高い
肝機能障害中程度

これらの副作用は、患者さんの状態を悪化させてしまう可能性があるため、注意が必要です。 特に、重症の方では副作用のリスクが高まります。

支持療法に伴うリスク

CCHFの治療では、対症療法として輸血や血漿交換などの支持療法が行われます。

支持治療のリスク

  • 輸血関連急性肺障害(TRALI)
  • 輸血関連循環過負荷(TACO)
  • 感染症の伝播(ウイルス、細菌など)

支持療法は、患者さんの生命維持に欠かせませんが、リスクをしっかりと理解したうえで、慎重に実施していく必要があります。

免疫抑制状態のリスク

CCHFの患者さんは、ウイルス感染による免疫抑制状態にあり、この状態では、以下のようなリスクが高まります。

リスク原因
二次感染細菌、真菌など
日和見感染弱毒病原体
創傷治癒の遅延免疫応答の低下

免疫抑制状態の患者さんは、厳重な感染管理と創傷ケアが必要不可欠で、処置を行わないと、重篤な合併症を引き起こしてしまう可能性があります。

長期的な影響

CCHFの治療後、患者さんは後遺症に悩まされることがあります。

長期的な影響

  • 慢性疲労症候群
  • 神経認知機能障害
  • 心理的問題(不安、うつなど)

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

治療費の内訳

CCHFの治療費には、入院費、検査費、投薬費などが含まれ、重症例の場合、集中治療室での管理が必要です。

項目概算費用
入院費(一般病棟)1日あたり約5万円
入院費(ICU)1日あたり約20万円

公的医療保険の適用

日本では、CCHFの治療費は公的医療保険の対象です。

なお、高額療養費制度により、自己負担額には上限が設定されています。

海外渡航者の場合

海外での治療費は保険が適応されないため、渡航前に海外旅行保険への加入が必要です。

項目概算費用
海外旅行保険(疾病治療費用)1回の渡航につき約5,000円~
海外での医療費数百万円以上になる可能性も

以上

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