サイクロスポラ症 – 感染症

サイクロスポラ症(cyclospora infection)とは、サイクロスポラ菌という微小な原虫が引き起こす消化器系の感染症です。

主に汚染された水や食べ物を通じて人体に侵入します。

この感染症は発展途上国や熱帯地域で頻繁に発生しますが、グローバル化に伴い先進国でも報告例が増加傾向に。

感染者は下痢、腹痛、吐き気、食欲不振などの症状に悩まされ、時として数週間から数ヶ月にわたって持続することがあります。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

サイクロスポラ症の主な症状

サイクロスポラ症は、主にお腹の症状を引き起こす寄生虫による病気で、感染してから1週間から2週間ほどして、さまざまな症状が現れます。

サイクロスポラ症の一般的な症状

サイクロスポラ症の主な症状

  • 水のような下痢(1日に何度も)
  • お腹の痛みやけいれん
  • 吐き気や嘔吐
  • 食欲がなくなる
  • 疲れやだるさ
  • 少し熱が出る

症状がどのくらい続くかは人によって差があり、数日で良くなることもあれば、数週間以上続く場合もあります。

症状の重症度による分類

サイクロスポラ症の症状は、重さにより大きく分けて軽症、中等症、重症の3つに分類されます。

重症度における主な症状の特徴

重症度主な症状の特徴
軽症軽い下痢、軽いお腹の痛み、少し疲れる
中等症頻繁に水のような下痢、ずっと続くお腹の痛み、吐き気、食欲がない
重症ひどい下痢(1日10回以上)、強いお腹の痛み、嘔吐、体重が大きく減る、水分不足

特に重症の場合は、水分不足や体重減少などの深刻な健康問題につながる可能性があるため、病院での早めの診断と対応が大切です。

症状の経過と持続期間

サイクロスポラ症の症状は、通常、次のような経過をたどります。

  1. 潜伏期間(感染してから症状が出るまで):約1週間
  2. 急性期(症状が一番強い時期):1~2週間
  3. 回復期:数日~数週間

症状がどのくらい続くかは人によって大きく違い、免疫力が弱っている人やお年寄りでは、症状が長引いたり、対応を行わないと、症状が数ヶ月続くこともあります。

特殊な症状や合併症

サイクロスポラ症では、主にお腹の症状ですが、特殊な症状や合併症が現れることがあります。

症状・合併症特徴
胆道系の症状胆管や胆嚢に炎症を起こすことがある
呼吸器の症状気管支炎のような症状が現れることがある
関節の痛み関節に炎症反応が起きることがある
神経の症状まれにギラン・バレー症候群が現れることがある

これらの特殊な症状や合併症はあまり多くありませんが、発生した場合は症状が重くなるリスクが高くなるため、注意が必要です。

免疫力が低下している患者さんにおける症状の特徴

免疫力が低下している患者さん(HIVに感染している人や臓器移植を受けた人など)では、サイクロスポラ症の症状がより重くなる傾向があります。

  • 症状がより長く続く
  • 下痢の回数や量が増える
  • 体重が減ったり栄養状態が悪くなったりすることが目立つ
  • 他の感染症にもかかりやすくなる

サイクロスポラ症の原因・感染経路

サイクロスポラ症は、サイクロスポラ菌という微小な原虫が引き起こす疾患で、主に汚染された水や食品を通じて人体に侵入します。

原因となる病原体

サイクロスポラ症の原因となるサイクロスポラ菌は、人間の腸管内で増殖し、さまざまな消化器症状を引き起こします。

サイクロスポラ菌の特性

特徴説明
大きさ8-10μm(マイクロメートル)
形状球形
生活環複雑な生活環を持つ
宿主特異性人間が主な宿主

感染経路

サイクロスポラ症の主な感染経路は、汚染された水や食品の摂取です。

特に、生の野菜や果物が感染源となることが多く、食品が汚染水で洗浄されたり、感染者の排泄物で汚染されたりした際に感染のリスクが高まります。

主な感染源とリスクが高い食品

感染源リスクが高い食品
汚染された水生野菜、果物
汚染された土壌根菜類
感染者の排泄物生の葉物野菜

感染のメカニズム

サイクロスポラ症の感染は、段階を経て進行します。

  1. 汚染された水や食品とともにオーシストを摂取
  2. 腸管内でオーシストが発芽
  3. 腸管上皮細胞に侵入し増殖
  4. 新たなオーシストを形成
  5. 糞便とともに排出

この循環が繰り返されることで、環境中での汚染が拡大していくのです。

地理的分布と季節性

サイクロスポラ症は、世界中で報告されていますが、とりわけ熱帯や亜熱帯地域で頻繁に見られ、また、雨季や温暖な時期に感染のリスクが上昇します。

サイクロスポラ症の地理的分布と季節性に関する特徴

  • 発展途上国での発生率が高い
  • 先進国では輸入感染症として報告される例が多い
  • 雨季や温暖な時期に感染リスクが上昇
  • 旅行者の感染例も多く報告されている

感染リスクの高い集団

サイクロスポラ症は、誰もが感染する可能性がありますが、特定の集団でリスクが高くなることがあります。

感染リスクが高い集団

  • 発展途上国への旅行者
  • 免疫機能が低下している人
  • 生の野菜や果物を多く摂取する人
  • 水質管理が不十分な地域の住民

診察(検査)と診断

サイクロスポラ症の診断は、患者さんの症状を詳しく聞くことと、特殊な顕微鏡検査や遺伝子検査を組み合わせて行われます。

問診と身体診察

サイクロスポラ症の問診では、医師はいくつかの点について患者さんに質問します。

  • 症状の詳しい内容(いつから始まったか、どのくらい続いているか、どの程度か)
  • 最近、海外に行ったかどうか(特に発展途上国に行ったかどうか)
  • 食べた物(生の野菜や果物を食べたか)
  • 飲んだ水の種類(生水を飲んだか)
  • 周りの人に同じような症状が出ていないか

体の診察では、水分が足りているかどうかや、お腹の状態などを確認します。

便検査

サイクロスポラ症の診断において、便を調べる検査は最も重要な検査です。

主な便検査の種類と特徴

検査方法特徴
直接顕微鏡検査サイクロスポラ症の卵を直接見る
酸性化ザイール・ニールセン染色法卵を特殊な色で染めて見つける
蛍光顕微鏡検査卵を光る色で染めて見つける
PCR法サイクロスポラ症の遺伝子を見つける

これらの検査を組み合わせることで、より正確に診断できます。

血液検査

血液検査は、サイクロスポラ症を直接診断するためには使われませんが、患者さんの体全体の状態や他の病気がないかを調べるために行われることがあります。

主な血液検査の項目

  • 血液の成分(白血球の数、赤血球の数、血小板の数など)
  • 体の中の塩分(ナトリウム、カリウム、クロールなど)
  • 肝臓の働き(AST、ALT、γ-GTPなど)
  • 炎症の度合い(CRP、赤沈など)

これらの検査結果は、患者さんの体全体の状態を評価したり、他の病気との区別をつけたりするのに役立ちます。

画像検査

サイクロスポラ症の診断において、画像検査は通常必要ありません。

しかし、症状がひどい場合や他の病気が疑われる場合には、以下のような画像検査が行われることも。

検査方法目的
お腹のエコーお腹に水がたまっていないか、腸の壁が厚くなっていないかを確認する
CT検査腸やお腹の中の他の臓器を詳しく調べる
内視鏡検査症状がひどい場合に、腸の内側を直接見る

これらの検査は、他の病気がないかを確認したり、合併症がないかを調べたりするために行われます。

鑑別診断

サイクロスポラ症は、他のお腹の病気と症状が似ていることがあるため、鑑別が必要です。

  • 細菌による腸の炎症(サルモネラ、カンピロバクターなど)
  • ウイルスによる胃腸の炎症(ノロウイルス、ロタウイルスなど)
  • 他の寄生虫による感染症(クリプトスポリジウム、ジアルジアなど)
  • 腸の慢性的な炎症(潰瘍性大腸炎、クローン病など)
  • 過敏性腸症候群

他の病気との区別をつけるために、追加の検査が必要となることがあります。

特に、便検査で直接サイクロスポラ症を見つけることが診断の決め手です。

サイクロスポラ症の治療法と処方薬、治療期間

サイクロスポラ症の治療は抗生物質を中心とした薬物療法が主流で、多くの患者さんで症状の改善が見られます。

主な治療薬

サイクロスポラ症の治療には、トリメトプリム/スルファメトキサゾール(TMP-SMX)が第一選択薬です。

この薬剤は、サイクロスポラ症原虫の増殖を効率的に抑える働きがあります。

サイクロスポラ症の主要な治療薬と特徴

薬剤名特徴
TMP-SMX第一選択薬、高い有効性
シプロフロキサシン代替薬、妊婦や小児に使用
ニトазオキサニド新しい治療選択肢

投与方法と治療期間

サイクロスポラ症の治療では、正確な投与方法と治療期間を守ることが極めて重要です。

一般的な投与方法と治療期間

  • TMP-SMX:1日2回、7-10日間
  • シプロフロキサシン:1日2回、7日間
  • ニトザオキサニド:1日2回、3日間

ただし、患者さんの体調や症状の深刻度に応じて、治療期間が延長されるケースもあります。

治療効果と経過観察

サイクロスポラ症の治療効果は、通常、治療開始から数日後に現れ始め、1-2週間程度で症状がやわらぎますが、完全な回復にはさらに時間を要することがあります。

治療効果の評価や経過観察のポイント

  • 下痢の頻度と性状の改善
  • 食欲の回復
  • 体重の増加
  • 全身状態の改善

特殊な患者さんへの対応

妊婦、小児、高齢者、免疫不全患者など、特別な配慮が必要な患者さんでは、治療法や投与量の調整が求められることがあります。

患者群対応
妊婦TMP-SMXの使用を避け、代替薬を検討
小児体重に応じた投与量の調整
免疫不全患者治療期間の延長や維持療法を検討

支持療法

サイクロスポラ症の治療では、抗生物質による治療と並行して、支持療法も必要です。

主な支持療法

  • 十分な水分補給
  • 電解質バランスの管理
  • 栄養サポート
  • 症状に応じた対症療法(制吐剤など)

予後と再発可能性および予防

サイクロスポラ症は対処すれば回復の見込みは良好ですが、再び感染する可能性や長期的な影響を考え、予防策を実践することが大切です。

サイクロスポラ症の回復見込み

サイクロスポラ症の回復見込みは、いくつかの要因によって影響を受けます。

要因良い回復見込み良くない回復見込み
免疫の状態正常弱っている
年齢若い~中年お年寄り
診断までにかかった時間短い長い
他の病気の有無なしあり

多くの場合、治療により1~2週間程度で症状が良くなり始め、数週間で完全に回復しますが、免疫機能が弱っている患者さんでは、症状が長引いたり、何度も再発することがあります。

再び感染するリスクと長期的な影響

サイクロスポラ症は、一度感染しても免疫がつきにくいため、再び感染するリスクがあります。

再び感染するリスク要因

  • 感染源に再び触れる(汚れた水や食べ物を摂取する)
  • 免疫機能が弱くなる(HIVに感染している、臓器移植を受けたなど)
  • 十分な衛生管理ができていない

サイクロスポラ症の予防方法

サイクロスポラ症を予防するために効果的な方法が、いくつかあります。

予防方法具体的なやり方
飲み水の管理安全な水を飲む、生水を避ける
食べ物の衛生生野菜・果物をよく洗う、加熱して調理する
手洗いこまめに手を洗う、特に食事の前や料理をするとき
周りの環境の衛生清潔な生活環境を保つ

免疫機能が弱っている方は、日常生活でもこれらの予防方法を徹底することが大切です。

免疫機能が弱っている人への特別な配慮

免疫機能が弱っている患者さん(HIVに感染している人、臓器移植を受けた人など)では、サイクロスポラ症にかかるリスクが高く、回復の見込みも良くない可能性があります。

リスクが高い患者さんに対しての特別な配慮

  • より厳しい予防方法の実践
  • 定期的な検査による観察
  • 早めの診断と対応
  • 長期的な経過観察

免疫機能が弱っている人では、サイクロスポラ症が慢性的になりやすいため、長期的な管理が大切です。

サイクロスポラ症の治療における副作用やリスク

サイクロスポラ症の治療には効果的な薬物療法が欠かせませんが、同時に副作用やリスクにも注意を払う必要があります。

主な治療薬の副作用

サイクロスポラ症の治療に用いられる主要な薬剤には、それぞれ特有の副作用があります。

主な治療薬とその代表的な副作用

薬剤名主な副作用
TMP-SMX発疹、吐き気、肝機能障害
シプロフロキサシン腱障害、光線過敏症
ニトザオキサニド腹痛、頭痛、黄色尿

アレルギー反応のリスク

抗生物質治療においては、アレルギー反応のリスクが常に付きまといます。

特にTMP-SMXは、重篤なアレルギー反応を引き起こす可能性があるため、十分な注意が必要です。

アレルギー反応の症状

  • 皮疹や蕁麻疹
  • 呼吸困難
  • 顔面や喉の腫れ
  • アナフィラキシーショック

薬物相互作用のリスク

サイクロスポラ症の治療薬は、他の薬剤と相互作用を起こす可能性が指摘されています。

主な薬物相互作用と影響

治療薬相互作用する薬剤影響
TMP-SMXワルファリン出血リスクの増加
シプロフロキサシンテオフィリンテオフィリン濃度上昇
ニトザオキサニド制酸剤吸収低下

患者さんによるリスク

妊婦、小児、高齢者、腎機能障害患者などの患者さんでは、治療に伴うリスクが高くなる傾向があり、慎重な薬剤選択と用量調整が不可欠です。

起こりえるリスク

  • 妊婦:胎児への影響
  • 小児:成長発達への影響
  • 高齢者:副作用の増強
  • 腎機能障害患者:薬物排泄遅延

栄養障害のリスク

サイクロスポラ症の治療中は、下痢や食欲不振により栄養障害のリスクが上昇します。

長期の栄養不良は、免疫機能の低下や治療効果の減弱につながる恐れがあるため、栄養管理が重要です。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

初診時と2回目以降の診察料

初診時は2,800円、2回目以降は730円ほどです。

項目自己負担額(3割負担の場合)
初診840円~900円
2回目以降220円~240円

検査にかかる費用

便を調べる検査や血液検査などが行われ、自己負担額は以下の通りです。

検査の種類自己負担額(3割負担の場合)
便を調べる検査300円~600円
血液検査600円~1,200円

治療と薬にかかる費用

点滴などの治療が必要な時の費用は、500円~1,000円ほど、抗生物質などの薬代は、1回の診察で1,000円~3,000円程度です。

入院費

重い症状で入院が必要な時の費用は、1日あたり10,000円~30,000円です。

以上

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