デング熱とは、デングウイルスへの感染によって引き起こされる急性の発熱性疾患の一種です。
主に熱帯・亜熱帯地域で流行が見られ、蚊が媒介します。
高熱の突然の上昇や頭痛、関節痛、筋肉痛などが特徴的な症状として現れ、重症化した際には出血傾向を伴う可能性があります。
世界保健機関(WHO)は、年間約1億人がデング熱に感染し、そのうち50万人以上が重症化していると推定しています。
日本国内でも、海外からの帰国者や訪日外国人の中から毎年患者の報告があり、身近な問題となっています。
デング熱の種類(病型)
デング熱は、重症度によって3つの病型に分けられます。
軽症のデング熱(DF)、重症のデング出血熱(DHF)、最重症のデングショック症候群(DSS)という分類がなされています。
これらの病型の特徴を把握しておくことは、適切な対応を取る際に不可欠だと言えます。
デング熱(DF)
デング熱(DF)は、デングウイルス感染によって引き起こされる急性熱性疾患の代表的な病型です。
高熱や頭痛、筋肉痛、関節痛などが突然現れるのが特徴ですが、出血傾向は見られません。
多くのケースでは、数日から1週間ほどで自然に治癒に向かいます。
デング出血熱(DHF)
デング出血熱(DHF)は、DFと比べてより重篤な病型で、出血傾向が現れるのが特徴となります。
血小板の減少や血管透過性の亢進によって、皮下出血や粘膜出血などが起こるのです。
適切な治療が行われないと、ショック状態に陥ってしまう可能性があります。
分類 | 症状 |
DF | 高熱、頭痛、筋肉痛、関節痛 |
DHF | DFの症状 + 出血傾向 |
デングショック症候群(DSS)
デングショック症候群(DSS)は、デング熱の中でも最も重症な病型です。
DHFで見られる症状に加え、血圧の低下や循環不全が起こり、生命に危険が及ぶ状態となります。
集中治療が必要であり、適切な管理が行われないと致死率が高くなってしまいます。
- DFは軽症型
- DHFは重症型で出血傾向を伴う
- DSSは最重症型でショック状態に陥る
病型 | 重症度 | 致死率 |
DF | 軽症 | 低い |
DHF | 重症 | 中程度 |
DSS | 最重症 | 高い |
デング熱の主な症状
デング熱の症状は、ウイルスに感染してから3~14日の潜伏期間を経た後、突如として現れ始めます。
初期の症状は非特異的なものが多いですが、次第に特徴的な症状が明らかになってきます。
症状がどのように経過していくのかを理解しておくことは、適切な対応を取る際に欠かせません。
初期症状(1~3日目)
デング熱の初期症状は、以下のようなものがあります。
- 突然の高熱(39~40℃)
- 頭痛
- 全身の倦怠感 – 筋肉痛や関節痛
この時期は、インフルエンザなどの他の感染症との区別が難しいことがあります。
症状 | 頻度 |
高熱 | 80~100% |
頭痛 | 70~90% |
特徴的な症状(4~7日目)
4日目以降になると、デング熱に特徴的な症状が現れてきます。
- 発疹(皮疹)
- 目の奥の痛み(眼窩後部痛)
- 嘔気・嘔吐 – 食欲不振
発疹は、体幹部から四肢に広がる紅斑や丘疹が多く見られます。
症状 | 頻度 |
発疹 | 50~80% |
眼窩後部痛 | 40~60% |
嘔気・嘔吐 | 30~50% |
重症化の兆候
一部の患者では、重症化の兆候が現れることがあります。
- 血小板減少
- 出血傾向(鼻出血、歯肉出血など)
- 腹痛や腹部圧痛 – 意識障害やショック症状
これらの症状が見られた場合は、速やかな医療機関の受診が必要です。
回復期(8日目以降)
多くの患者では、7日目頃から症状が改善に向かい、解熱とともに全身状態が徐々に回復していきます。
ただし、倦怠感が長引くケースもあるため、十分な休養が大切です。
デング熱の原因・感染経路
デング熱は、デングウイルスへの感染が原因で発症する感染症です。
このウイルスは、ネッタイシマカという蚊によって媒介され、人から人へと感染が拡大していきます。
デング熱のまん延を防ぎ、適切な対策を取るためには、その原因と感染経路を正しく理解しておくことが欠かせません。
デングウイルス
デング熱の原因となるのは、フラビウイルス科に属するデングウイルスです。
このウイルスには、血清型と呼ばれる1型から4型までの4種類が存在します。
いずれの血清型に感染しても、同様の症状を引き起こします。
ウイルス | 分類 |
デングウイルス | フラビウイルス科 |
日本脳炎ウイルス | フラビウイルス科 |
ネッタイシマカによる媒介
デングウイルスは、主にネッタイシマカ(学名:Aedes aegypti)によって媒介されます。
このシマカは、デングウイルスに感染した人の血液を吸血することでウイルスを獲得し、他の人に感染を広げていきます。
ネッタイシマカは、主に都市部に生息し、人家の近くで繁殖することが知られています。
感染経路
デング熱の主な感染経路は、以下の通りです。
- ネッタイシマカの吸血による感染
- 感染者の血液や体液との直接接触による感染(まれ)
- 母子感染(妊娠中の感染者から胎児へ)
ネッタイシマカに刺されることが、感染のリスクを大きく高めます。
感染経路 | リスク |
ネッタイシマカの吸血 | 高い |
感染者との直接接触 | 低い |
母子感染 | 中程度 |
流行地域と季節性
デング熱は、主に熱帯・亜熱帯地域で流行しています。
東南アジア、南アジア、中南米、アフリカなどが、代表的な流行地域です。
また、雨季にあたる時期に流行が拡大する傾向があります。
これは、ネッタイシマカの繁殖に適した環境が広がるためです。
デング熱のまん延を防ぐには、その原因であるデングウイルスと、媒介する蚊の生態を理解しておくことが重要です。
流行地域へ渡航する際は、蚊に刺されないための対策を講じることが大切となります。
診察(検査)と診断
デング熱を診断する際は、臨床症状と検査結果を総合的に判断することが重要です。
初期の段階では症状だけで診断を下すことは難しいため、血液検査などを用いた確定診断が必要不可欠となります。
問診と身体診察
デング熱が疑われる患者に対しては、まず詳細な問診が行われます。
- 発症日や症状の経過
- 海外渡航歴や流行地域への訪問歴
- 蚊に刺された記憶の有無
これらの情報は、診断を進める上で重要な手がかりとなります。
身体診察では、発熱や発疹、リンパ節腫脹などの所見を確認します。
問診項目 | 身体所見 |
発症日 | 発熱 |
症状経過 | 発疹 |
渡航歴 | リンパ節腫脹 |
臨床診断
臨床診断では、問診や身体所見に加えて、血液検査の結果を参考にします。
デング熱を示唆する所見としては、以下のようなものがあります。
- 白血球減少
- 血小板減少
- 肝機能異常(AST/ALT上昇)
ただし、これらの所見はデング熱に特異的ではないため、確定診断には至りません。
検査項目 | デング熱を示唆する所見 |
白血球数 | 減少 |
血小板数 | 減少 |
肝機能 | AST/ALT上昇 |
確定診断
デング熱の確定診断には、ウイルス学的検査または血清学的検査が用いられます。
ウイルス学的検査では、以下の方法でウイルスの存在を直接的に証明します。
- ウイルス分離(血液、尿、組織などから)
- RT-PCR法によるウイルスRNAの検出
血清学的検査では、デングウイルスに対する抗体の存在を調べます。
- IgM抗体の検出(発症後4~5日以降)
- ペア血清での抗体価の有意な上昇
これらの検査結果により、デング熱の確定診断が下されます。
診断のポイントと注意点
デング熱を診断する上では、臨床所見と検査結果を総合的に判断することが肝要です。
特に流行地域へ渡航したことがある場合は、積極的にデング熱を疑う必要があります。
また、他のフラビウイルス感染症との鑑別も重要なポイントです。
デング熱の治療法と処方薬
デング熱の治療は、主に対症療法が中心となります。
現時点では、デング熱に特異的な治療薬は開発されていないため、症状に応じた支持療法が重要な位置を占めます。
重症例では入院治療が必要となるケースもあり、合併症を予防し適切に対応することが大切です。
対症療法の基本
デング熱の治療では、以下のような対症療法が行われます。
- 安静と十分な水分補給
- 解熱鎮痛薬の使用(アセトアミノフェンなど)
- 制吐薬の投与(嘔気・嘔吐がある場合)
発熱や関節痛に対しては、アセトアミノフェンが第一選択となります。
症状 | 治療法 |
発熱・関節痛 | アセトアミノフェン |
嘔気・嘔吐 | 制吐薬 |
注意すべき薬剤
デング熱の患者には、以下の薬剤の使用は避けるべきです。
- 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
- アスピリン
これらの薬剤は、出血傾向を助長する可能性があるため注意が必要です。
特に、小児におけるアスピリンの使用は、ライ症候群のリスクがあるため禁忌とされています。
避けるべき薬剤 | 理由 |
NSAIDs | 出血傾向の助長 |
アスピリン | 出血傾向の助長、ライ症候群のリスク |
重症例への対応
デング出血熱やデングショック症候群といった重症例では、以下のような治療が必要となります。
- 輸液療法による循環血液量の維持
- 血小板輸血(重度の血小板減少がある場合)
- 酸素療法や呼吸管理(ショック状態の場合)
これらの治療には、集中治療室(ICU)での管理が求められることもあります。
合併症の予防と早期発見、迅速な対応が重要となります。
回復期の管理
デング熱の回復期には、以下のような点に注意が必要です。
- 十分な休養と栄養摂取
- 定期的な血液検査によるフォローアップ
- 蚊に刺されないための予防対策
回復期も倦怠感が続くことがあるため、無理せず徐々に通常の生活に戻ることが肝要です。
治療に必要な期間と予後について
デング熱の治療期間と予後は、症状の重症度によって異なります。
多くのケースでは、対症療法を中心とした治療により1週間ほどで回復しますが、重症例では入院治療が必要となり、治療期間が長引く場合があります。
予後は一般的に良好ですが、稀に合併症を引き起こし重篤な状態に陥ることもあるため注意が必要不可欠です。
軽症例の治療期間と予後
デング熱の軽症例では、以下のような経過をたどることが多いです。
- 発熱や関節痛などの症状は、1週間程度で自然に改善する
- 対症療法を行いながら、自宅での安静と十分な水分補給を行う
- 治療開始から1週間から10日程度で、通常の生活に復帰できる
軽症例の予後は良好であり、後遺症を残すことはほとんどありません。
重症度 | 治療期間 | 予後 |
軽症 | 1週間程度 | 良好 |
重症 | 2週間以上 | 注意が必要 |
重症例の治療期間と予後
デング出血熱やデングショック症候群といった重症例では、以下のような点に留意が必要です。
- 入院治療が必要であり、治療期間は2週間以上に及ぶことがある
- 出血傾向やショック状態に対する集中治療が必要となる
- 合併症の予防と対応が重要であり、注意深いモニタリングが求められる
重症例の予後は、適切な治療が行われれば良好ですが、合併症により重篤な状態に陥る可能性もあります。
後遺症と再感染の注意点
デング熱の後遺症として、以下のようなものが報告されています。
- 倦怠感や筋力低下などの全身症状が数週間から数ヶ月続くことがある
- 血小板減少が遷延し、出血傾向が持続することがある
- まれに、脳炎や肝炎などの合併症を引き起こすことがある
再感染時には、より重症化するリスクがあるため、流行地域への渡航時は蚊に刺されないよう十分な予防対策が大切です。
後遺症 | 頻度 |
倦怠感・筋力低下 | 比較的多い |
血小板減少の遷延 | まれ |
脳炎・肝炎 | 非常にまれ |
予後の改善に向けて
デング熱の予後を改善するためには、以下のような取り組みが重要です。
- 早期発見と早期治療の徹底
- 重症化リスクの高い患者の適切なトリアージと集中治療
- デングワクチンの開発と普及による発症予防
医療機関の体制整備と、ワクチンを含む予防対策の推進により、デング熱による健康被害を最小限に抑えることが期待されます。
デング熱の治療における副作用やリスク
デング熱の治療では、主に対症療法が行われますが、使用する薬剤によっては副作用やリスクが伴います。
特に、出血傾向のある患者に対する非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の使用は、出血のリスクを高める可能性があるため注意が必要不可欠です。
また、重症例では輸液療法や血小板輸血が行われますが、これらの治療にも副作用のリスクがあることを把握しておくことが重要です。
NSAIDsの副作用とリスク
デング熱の患者に対するNSAIDsの使用には、以下のような副作用とリスクがあります。
特に、高齢者や腎機能が低下している患者では、NSAIDsの使用に注意が必要です。
薬剤 | 主な副作用 |
NSAIDs | 出血傾向の悪化、消化管出血、腎機能障害 |
アセトアミノフェン | 肝機能障害(大量投与時) |
輸液療法の副作用とリスク
デング熱の重症例では、輸液療法が行われますが、以下のような副作用とリスクがあります。
輸液療法は慎重に行う必要があり、患者の状態を注意深くモニタリングすることが肝要です。
血小板輸血の副作用とリスク
重度の血小板減少を伴うデング出血熱では、血小板輸血が行われることがありますが、以下のような副作用とリスクがあります。
血小板輸血は、必要性を慎重に評価した上で行われるべきであり、適切な感染症スクリーニングが不可欠です。
治療法 | 主な副作用・リスク |
輸液療法 | 電解質異常、肺水腫、感染症 |
血小板輸血 | アレルギー反応、感染症、TRALI |
副作用・リスクの軽減と早期発見
デング熱の治療における副作用やリスクを最小限に抑えるためには、以下のような取り組みが重要です。
- 患者の状態に応じた慎重な薬剤選択と投与量の調整
- 定期的なモニタリングによる副作用の早期発見と対応
- 感染管理の徹底による輸液・輸血関連感染症の予防
医療従事者は、副作用やリスクについて十分に理解し、早期発見と適切な対応に努めることが求められます。
デング熱の治療では、NSAIDsや輸液療法、血小板輸血などに伴う副作用やリスクがあることを把握しておくことが重要です。
患者の状態に応じた慎重な治療選択と、適切なモニタリングにより、副作用やリスクを最小限に抑えることが可能となります。
予防方法
デング熱の予防において最も重要なのは、蚊に刺されないことです。
デングウイルスを媒介するネッタイシマカの生息地域では、蚊の活動が活発な日中の屋外活動を控えるなど、蚊との接触を避ける工夫が欠かせません。
また、ワクチンの開発も進んでおり、将来的にはワクチンによる予防も期待されています。
蚊に刺されない工夫
デング熱の予防には、以下のような蚊に刺されない工夫が有効です。
- 肌の露出を少なくする服装(長袖シャツ、長ズボンなど)を着用する
- 虫除け剤(ディート含有製品など)を使用する
- 蚊帳や蚊除けネットを活用する – 家屋内に蚊を入れないよう、網戸を設置する
特に、ネッタイシマカが活動的な早朝や夕方には、屋外活動を控えることが肝要です。
予防方法 | 具体例 |
服装の工夫 | 長袖シャツ、長ズボンの着用 |
虫除け剤の使用 | ディート含有製品の使用 |
蚊の発生源対策
蚊の発生を抑制することも、デング熱予防に重要な役割を果たします。
- 家屋周辺の水たまりを除去する(空き缶、古タイヤなど)
- 水槽や植木鉢の水は定期的に交換する
- 排水溝や雨樋の清掃を行い、蚊の幼虫の発生を防ぐ
地域ぐるみで蚊の発生源対策に取り組むことが、デング熱の流行を抑える鍵となります。
ワクチンによる予防の可能性
現在、デング熱に対するワクチンの開発が進められています。
- デングワクチンCYD-TDV(商品名:Dengvaxia)は、一部の国で承認されている
- ただし、過去のデング熱感染歴がない人では、重症化リスクが高まる可能性があるため注意が必要
- より安全で効果的なワクチンの開発が進行中であり、将来的な予防手段として期待されている
ワクチンによるデング熱の予防は、蚊に刺されない対策と並んで重要な予防戦略となるでしょう。
ワクチン名 | 特徴 |
CYD-TDV(Dengvaxia) | 一部の国で承認、過去の感染歴がない人では注意が必要 |
開発中のワクチン | より安全で効果的なワクチンの開発が進行中 |
海外渡航時の注意点
デング熱の流行地域へ渡航する際は、以下の点に注意が必要です。
- 渡航先のデング熱の流行状況を確認する
- 蚊に刺されない対策を徹底する(服装、虫除け剤の使用など)
- 発熱や症状が現れた場合は、速やかに医療機関を受診する
海外渡航者は、デング熱の国内流入の原因となることがあるため、帰国後も健康状態に注意が必要不可欠です。
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
デング熱の治療費用は、症状の重症度や治療内容によって大きく異なります。
軽症例では数万円程度で済むこともありますが、重症例では入院治療が必要となり、数十万円から数百万円の費用がかかる場合があります。
医療保険の適用や公的支援制度の活用により、自己負担額を減らすことが重要です。
軽症例の治療費用
デング熱の軽症例では、外来での対症療法が中心となります。
診察費、検査費、投薬費などを合わせて、1回の受診で数千円から1万円程度の費用がかかるケースが多いです。
通常、数回の通院で治療が完了するため、総額では数万円程度になることが一般的です。
項目 | 費用 |
診察費 | 3,000円 ~ 5,000円 |
検査費(血液検査など) | 5,000円 ~ 10,000円 |
投薬費(解熱鎮痛薬など) | 1,000円 ~ 3,000円 |
重症例の治療費用
デング出血熱やデングショック症候群など、重症例では入院治療が必要不可欠となります。
入院費、集中治療費、輸血費などが加わり、治療費用は大幅に増加します。
重症度や合併症の有無により異なりますが、数十万円から数百万円の費用がかかることがあります。
項目 | 費用 |
入院費(1日あたり) | 20,000円 ~ 50,000円 |
集中治療費(1日あたり) | 100,000円 ~ 200,000円 |
輸血費(1単位あたり) | 10,000円 ~ 20,000円 |
以上
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