下痢原性大腸菌(EPEC、EIEC)(Enteropathogenic Escherichia coli and enteroinvasive Escherichia coli)とは、下痢を引き起こす性質を持つ菌のことです。
これらの菌は主に汚染された食品や水を介して体内に侵入し、腸内で増殖することで症状を引き起こします。
EPEC(腸管病原性大腸菌)は主に乳幼児に感染し水様性の下痢、一方、EIEC(腸管侵入性大腸菌)は赤痢菌に似た性質を持つので注意が必要です。
下痢原性大腸菌(EPEC、EIEC)の種類(病型)
EPECとEIECは、異なる感染メカニズムと特徴を持ち、それぞれ固有の病態を引き起こします。
腸管病原性大腸菌(Enteropathogenic Escherichia coli, EPEC)
腸管病原性大腸菌(EPEC)は、水様性下痢を起こす病原体で、特徴的な感染メカニズムは、腸管上皮細胞への付着と微絨毛の破壊です。
この過程は「付着・消失(A/E)病変」と呼ばれ、EPECの病原性の核心となり、この病変形成により、腸管の吸収機能が低下し、水様性下痢が起こります。
EPEC感染の主な特徴 | 詳細 |
主な感染対象 | 乳幼児 |
感染メカニズム | 付着・消失(A/E)病変 |
影響を受ける部位 | 腸管上皮細胞 |
腸管侵入性大腸菌(Enteroinvasive Escherichia coli, EIEC)
腸管侵入性大腸菌(EIEC)は、赤痢菌に非常によく似た病原性を持つ大腸菌の一種です。
EIECの最も特徴的な点は、腸管上皮細胞に侵入し、細胞内で増殖する能力で、この侵入性により、赤痢に似た症状を引き起こします。
EIECは細胞内に侵入後、隣接する細胞へと移動し、感染を拡大させていきます。
EIEC感染の主な特徴 | 詳細 |
類似病原体 | 赤痢菌 |
主な病原性 | 細胞侵入・増殖 |
感染部位 | 腸管上皮細胞内 |
EPECとEIECの比較
EPECとEIECは、同じ下痢原性大腸菌に分類されますが、感染メカニズムや病態は大きく異なります。
- EPECは腸管上皮細胞に付着し、微絨毛を破壊する。
- EIECは腸管上皮細胞に侵入し、細胞内で増殖する。
- EPECは主に乳幼児に感染するが、EIECはあらゆる年齢層に感染する可能性がある。
- EPECは水様性下痢を、EIECは赤痢様症状を引き起こす。
下痢原性大腸菌(EPEC、EIEC)の主な症状
腸管病原性大腸菌(EPEC)と腸管侵入性大腸菌(EIEC)では、症状の程度や特徴に違いがあります。
腸管病原性大腸菌(EPEC)の症状
腸管病原性大腸菌(EPEC)は、主に乳幼児に感染し、水様性の下痢が主な症状です。
下痢に伴って見られる症状
- 発熱(通常は軽度)
- 腹痛
- 吐き気
- 嘔吐
症状の持続期間は通常1週間程度です。
症状 | 特徴 |
下痢 | 水様性、頻回 |
発熱 | 軽度が多い |
腹痛 | 軽度から中等度 |
嘔吐 | 時に見られる |
腸管侵入性大腸菌(EIEC)の症状
腸管侵入性大腸菌(EIEC)は、赤痢菌に似た性質を持つため、激しい腹痛を伴う水様性の下痢が主な症状です。
下痢の頻度は日に十数回以上に及ぶこともあり、患者さんの体力を著しく消耗させます。
下痢に伴って見られる症状
- 高熱(38℃以上)
- 激しい腹痛
- 頻繁な嘔吐
- 倦怠感
- 食欲不振
症状は通常、1〜2週間程度続きます。
両者の症状の比較
腸管病原性大腸菌(EPEC)と腸管侵入性大腸菌(EIEC)の症状を比較すると、以下のような違いがあります。
症状 | EPEC | EIEC |
下痢の程度 | 水様性 | 水様性(時に血便) |
発熱 | 軽度 | 高熱 |
腹痛 | 軽度から中等度 | 激しい |
嘔吐 | 時に見られる | 頻繁 |
全身症状 | 軽度 | 重度 |
下痢原性大腸菌(EPEC、EIEC)の原因・感染経路
下痢原性大腸菌(EPEC、EIEC)は主に汚染された食品や水を介して感染し、腸管に定着して下痢を引き起こす細菌です。
EPECの感染経路と原因
EPECは、特に衛生状態の悪い環境や、保育施設などの集団生活の場で感染が広がりやすくなっています。
主な感染源 | 感染リスクの高い環境 |
汚染食品 | 衛生状態の悪い地域 |
汚染水 | 保育施設 |
感染者 | 集団生活の場 |
EIECの感染経路と原因
EIECは成人にも感染する菌株で、主な感染経路は、EPECと同様に汚染された食品や水を介してですが、衛生管理が不十分な食品取り扱い施設や飲食店で発生するリスクが高いです。
また、海外旅行者が現地で感染するケースも報告されています。
EIECの主な感染源と感染リスクの高い状況
- 汚染された食品(特に生野菜や未加熱の食品)
- 衛生管理が不十分な飲食店
- 衛生状態の悪い地域への旅行
- 感染者との密接な接触
診察(検査)と診断
下痢原性大腸菌(EPEC、EIEC)の診察(検査)では、患者さんの症状や渡航歴などの情報収集から始まり、便検査や血液検査などの臨床検査を経て、遺伝子検査などの特殊検査で確定診断をします。
初診時の問診と身体診察
医療機関での初診時には、患者さんの症状の経過や渡航歴、食事内容などについて聞き取り、体温測定や腹部の触診など、身体的な診察も行います。
臨床検査の実施
下痢原性大腸菌(EPEC、EIEC)の診断に関連する主な臨床検査には以下のようなものがあり、感染症の存在や重症度を判断するうえで貴重な情報源です。
検査項目 | 検査内容 |
便培養検査 | 便中の病原菌を培養し、同定する |
血液検査 | 炎症マーカーや電解質バランスを確認する |
確定診断のための特殊検査
臨床検査の結果から下痢原性大腸菌感染症が疑われる場合、確定診断のための特殊検査が実施されることがあります。
主な特殊検査
- PCR法による遺伝子検査
- 血清型別試験
- 毒素産生性試験
下痢原性大腸菌(EPEC、EIEC)の治療法と処方薬、治療期間
下痢原性大腸菌(EPEC、EIEC)感染症の治療は、主に脱水予防と対症療法が中心です。
基本的な治療方針
下痢原性大腸菌(EPEC、EIEC)感染症の治療では、脱水予防が最も重要です。
経口補水液や電解質を含む飲料の摂取が推奨されますが、重症例では、入院して点滴による水分・電解質補給が必要になることがあります。
薬物療法
軽症から中等症の場合、抗生物質は使用されないことが多いですが、重症例や合併症のリスクが高い患者さんに限り、抗生物質が処方されることがあります。
抗生物質の使用によって腸内細菌叢のバランスが崩れる可能性もあるため、その利益とリスクを十分に検討したうえで判断することが必要です。
下痢原性大腸菌(EPEC、EIEC)感染症に使用されることがある薬剤
薬剤分類 | 使用目的 |
抗生物質 | 細菌の増殖抑制 |
止瀉薬 | 下痢症状の緩和 |
整腸剤 | 腸内環境の改善 |
制吐剤 | 嘔吐の抑制 |
治療期間
下痢原性大腸菌(EPEC、EIEC)感染症の治療期間は、一般的に1〜2週間程度ですが、個々の患者さんの状態や感染の重症度によって、変動します。
治療期間に影響を与える要因
要因 | 影響 |
感染の重症度 | 重症例ほど治療期間が長くなる傾向 |
患者の年齢 | 高齢者や幼児は回復に時間がかかることがある |
基礎疾患の有無 | 基礎疾患がある場合、治療期間が延長する可能性 |
治療への反応性 | 個人差により治療効果の現れ方が異なる |
予後と再発可能性および予防
下痢原性大腸菌(EPEC、EIEC)の予後は、多くの例で良好で、数日から1週間程度で回復します。
予後の一般的な傾向
下痢原性大腸菌(EPEC、EIEC)感染症は、通常対応がなされれば、症状は数日から1週間程度で改善することが多いです。
患者の状態 | 予想される回復期間 |
健康な成人 | 3〜7日 |
高齢者や基礎疾患あり | 1〜2週間 |
再発の可能性と要因
下痢原性大腸菌(EPEC、EIEC)感染症は、一度罹患しても再発する場合があります。
再発のリスク要因
- 免疫機能の低下
- 衛生環境の悪化
- 不適切な食事管理
- 継続的な感染源への曝露
特に、免疫機能が低下している高齢者や慢性疾患を持つ方は、再発のリスクが高まる傾向にあるため、より慎重な対応が必要です。
再発予防のための生活習慣
再発を予防するためには、日常生活における衛生習慣の改善が大切になってきます。
主な予防策
予防策 | 具体的な行動 |
手洗いの徹底 | 食事前、調理前、トイレ使用後に石鹸で丁寧に洗う |
食品の衛生管理 | 十分に加熱し、生食を避ける |
水の管理 | 安全な水源からの飲料水を使用する |
特に、手洗いは最も基本的かつ効果的な予防策です。
旅行時の予防策
海外旅行など、普段と異なる環境下では注意が必要です。
飲料水は必ずボトル入りの水や煮沸した水を使用し、また、生野菜や生魚介類の摂取を控え、十分に加熱調理された食品を選択します。
さらに、現地の衛生状況に応じて、手指消毒剤の携帯や使い捨て食器の利用も有効な対策です。
下痢原性大腸菌(EPEC、EIEC)の治療における副作用やリスク
下痢原性大腸菌(EPEC、EIEC)感染症の治療には、主に抗生物質や対症療法が用いられますが、副作用やリスクがあります。
抗生物質関連の副作用
抗生物質の使用により腸内細菌叢のバランスが崩れることで、二次的な問題が生じ、患者さんの全身状態や免疫機能にも影響を及ぼすことがあります。
その他にも、吐き気、アレルギー、真菌感染なども起こりえます。
抗生物質使用に関連する主な副作用
副作用 | 詳細 |
下痢 | 腸内細菌叢の乱れによる |
嘔気・嘔吐 | 消化器系への刺激 |
アレルギー反応 | 発疹、かゆみなど |
真菌感染 | カンジダ症など |
耐性菌出現のリスク
抗生物質の使用に伴う重要な問題の一つが、耐性菌の出現です。
不適切な抗生物質の使用や、治療の中断により、耐性菌が発生するリスクが高まり、個々の患者さんの問題にとどまらず、社会全体の公衆衛生にも影響を及ぼす可能性があります。
脱水と電解質異常のリスク
下痢原性大腸菌(EPEC、EIEC)感染症の治療中は、脱水や電解質異常のリスクに注意が必要です。
高齢者や小児、基礎疾患を持つ患者さんでは、リスクが高くなる傾向があります。
脱水や電解質異常に関連する主なリスク
リスク | 影響 |
脱水 | 循環不全、腎機能低下 |
低ナトリウム血症 | 意識障害、けいれん |
低カリウム血症 | 不整脈、筋力低下 |
代謝性アシドーシス | 呼吸困難、心機能低下 |
水分・電解質補給と定期的なモニタリングが大切で、場合によっては入院管理が必要となることもあります。
薬剤相互作用のリスク
下痢原性大腸菌(EPEC、EIEC)感染症の治療で用いられる薬剤と、患者さんが服用中の他の薬剤との相互作用にも注意が必要です。
- 抗凝固薬との相互作用
- 降圧薬との相互作用
- 免疫抑制剤との相互作用
- 経口避妊薬との相互作用
相互作用により、薬効の増強や減弱、予期せぬ副作用が生じることがあります。
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
外来診療の場合の治療費
外来診療では、主に検査費用と薬剤費が治療費の中心です。
検査費用には、便培養検査や血液検査などが含まれ、合計で5,000円から10,000円程度になります。
薬剤費は、症状に応じて処方される薬により異なりますが、一般的に2,000円から5,000円程度です。
項目 | 費用の目安 |
便培養検査 | 3,000円〜5,000円 |
血液検査 | 2,000円〜5,000円 |
入院が必要な場合の治療費
重症の場合や脱水症状が著しい場合は入院が必要です。
3日間の入院で10万円から20万円程度、1週間の入院では30万円から50万円程度かかるケースもあります。
健康保険の適用
日本の健康保険制度では、下痢原性大腸菌(EPEC、EIEC)感染症の治療も保険適用の対象です。
以上
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