性器ヘルペス(genital herpes)とは、単純ヘルペスウイルス(HSV)によって起きる性感染症で、主に性的接触を通じて感染します。
生殖器周辺に水疱や潰瘍などの症状が現れ、感染すると体内にウイルスが潜伏して再発を繰り返すことがあります。
症状がない場合でも他者への感染リスクがあるため、予防や管理が重要です。
性器ヘルペスの種類(病型)
性器ヘルペスには主に3つの病型があり、初発型、再発型、不顕性感染の3つに分類されます。
初発型性器ヘルペス
初発型性器ヘルペスは、ヘルペスウイルスに初めて感染した際に発症する病型です。
この型では、感染部位に特徴的な水疱や潰瘍が現れます。
初発型は他の病型と比較して、より強い症状を起こし、全身症状を伴うこともあります。
特徴 | 詳細 |
症状の強さ | 強い |
持続期間 | 2〜4週間程度 |
全身症状 | 発熱や倦怠感を伴うことがある |
再発型性器ヘルペス
再発型性器ヘルペスは、初回感染後に潜伏していたウイルスが再活性化することで発症します。
初発型と比べて症状が軽度であることが多いです。
再発の頻度は個人差が大きく、ストレスや体調不良などが引き金となることがあります。
特徴 | 詳細 |
症状の強さ | 初発型より軽度 |
持続期間 | 7〜10日程度 |
再発頻度 | 個人差が大きい |
不顕性感染
不顕性感染は、ウイルスに感染しているにもかかわらず、明らかな症状が現れない状態です。
この病型では、感染者自身が感染に気付かないケースが多く、無自覚のうちに他者への感染リスクを有しています。
病型の変化と経過
性器ヘルペスは、初発型で発症した後、再発型へと移行することがあり、その後の再発頻度や症状の強さは個人によって大きく異なります。
また、不顕性感染の状態から、何らかのきっかけで症状が顕在化し、再発型として発症することもあるため注意が必要です。
性器ヘルペスの病型変化
- 初発型→再発型→不顕性感染(症状消失)
- 不顕性感染→再発型(症状出現)→不顕性感染(症状消失)
- 初発型→不顕性感染(長期間症状なし)→再発型
病型 | 感染性 | 自覚症状 |
初発型 | 高い | あり |
再発型 | 中程度 | あり(軽度) |
不顕性感染 | 低い | なし |
性器ヘルペスの主な症状
性器ヘルペスの症状は、初発型では比較的重い症状が現れやすく、再発型では軽度の症状が多く、不顕性感染では自覚症状がないことが多いです。
初発型の症状
初発型の性器ヘルペスは、感染後2〜10日程度の潜伏期間を経て発症し、症状は比較的重く、発熱やだるさなどの全身症状を伴うことがあります。
局所症状は、性器やその周辺に現れる小さな水疱で、やがて破れて痛みを伴う潰瘍が特徴的です。
症状は通常2〜4週間程度で自然に治まりますが、その間は強い痛みや不快感を感じることがあり、日常生活に支障をきたす場合もあります。
初発型の主な症状 | 特徴 |
全身症状 | 発熱、倦怠感、頭痛 |
局所症状 | 水疱、潰瘍、痛み、かゆみ |
再発型の症状
再発型は多くの場合、全身症状はほとんど現れず、局所的な症状のみです。
再発時には、性器やその周辺にチクチクとした違和感や軽い痛み、かゆみなどの前駆症状が現れることがあります。
その後、小さな水疱や潰瘍が形成されますが、初発型ほど広範囲ではなく、症状も比較的軽く、1週間程度で自然に治まります。
不顕性感染の特徴
不顕性感染では、感染者自身は何の自覚症状もないため、感染に気づかないことが多いです。
しかし、症状がなくてもウイルスを排出している可能性があります。
- 無症状でも感染力がある
- 定期的な検査が推奨される
- パートナーへの情報共有が重要
症状の個人差と注意点
性器ヘルペスの症状には個人差があり、同じ人でも発症のたびに症状が異なったり、性器以外の部位に症状が現れることもあるため、注意が必要です。
口唇や臀部、大腿部などにも水疱や潰瘍が形成されることがあり、症状に気づいた場合は専門医を受診してください。
症状が現れやすい部位 | 男性 | 女性 |
主な部位 | 陰茎、陰嚢 | 外陰部、腟口、子宮頸 |
その他の部位 | 大腿部、臀部 | 大腿部、臀部 |
性器ヘルペスの原因・感染経路
性器ヘルペスの原因は2つのヘルペスウイルスで、感染経路は主に性的接触によるものですが、他の経路もあります。
原因ウイルス
性器ヘルペスの原因となるウイルスは、HSV-1とHSV-2です。
従来、HSV-1は口唇ヘルペス、HSV-2は性器ヘルペスの主な原因とされてきましたが、近年ではその境界が曖昧になっており、両方のウイルスが口唇と性器の両方に感染を起こすケースが増加しています。
ウイルス型 | 主な感染部位 |
HSV-1 | 口唇、性器 |
HSV-2 | 性器、口唇 |
感染経路
性器ヘルペスの主な感染経路は、感染者との性的接触であり、ウイルスは粘膜や皮膚の小さな傷から侵入し、感染を引き起こします。
感染者の症状が顕在化していない時期でも、ウイルスの排出(無症候性ウイルス排出)があるため、注意が必要です。
主な感染経路
- 腟性交
- 肛門性交
- オーラルセックス
- 感染部位との直接的な皮膚接触
母子感染
妊娠中の母親から胎児への垂直感染や、出産時の産道感染も起こりうる経路で、特に注意が必要とされる感染形態の一つです。
初発の感染が妊娠後期に起こると、新生児への感染リスクが高くなるため、十分な注意を払う必要があります。
妊婦検診での定期的なチェックや、必要に応じた対策が推奨され、場合によっては帝王切開などの措置が検討されることもあります。
感染時期 | 新生児への影響 |
妊娠初期 | 比較的低リスク |
妊娠後期 | 高リスク |
その他の感染経路
まれではありますが、感染部位に直接触れた手指を介して、他の部位に自己感染することもあります。
口唇ヘルペスの患者さんが手指を介して性器に感染させてしまうケースなどがこれに当たり、日常生活で注意深い衛生管理が必要です。
診察(検査)と診断
性器ヘルペスの診断は、医師による問診と視診から始まり、必要に応じて検査を行います。
問診と視診による臨床診断
まず、患者さんの症状や経過、性行為歴などについて詳しく聞き取り、その後、性器やその周辺の視診を行い、特徴的な水疱や潰瘍の有無を確認します。
臨床診断は迅速に行えるため、早期の対応が可能となりますが、症状が非典型的な場合や不顕性感染の場合は診断が難しいです。
確定診断のための検査方法
臨床診断だけでは確定が難しい場合や、より正確な診断が必要な際に、いくつかの検査が行われます。
検査方法 | 特徴 |
ウイルス分離培養 | 病変部の検体からウイルスを直接検出 |
PCR法 | ウイルスのDNAを高感度で検出 |
血清抗体検査 | 体内の抗体の有無を確認 |
- ウイルス分離培養検査 病変部から採取した検体を培養し、ウイルスの存在を直接確認する方法です。
- PCR法 ウイルスのDNAを増幅して検出する高感度な検査方法で、少量のウイルスでも検出が可能であり、迅速な結果が得られる利点があります。
- 血清抗体検査 体内のヘルペスウイルスに対する抗体の有無を調べる方法で、過去の感染履歴を確認できますが、結果の解釈には注意が必要です。
検査結果の解釈と診断確定
ウイルス分離培養検査やPCR法で陽性となれば、現在の感染が確定します。
一方、血清抗体検査の結果は慎重に解釈する必要があります。
血清抗体検査結果 | 解釈 |
IgM抗体陽性 | 初感染の可能性が高い |
IgG抗体陽性 | 過去の感染または再発感染 |
IgM抗体が陽性の場合は比較的新しい感染を示唆しますが、IgG抗体のみが陽性の場合は過去の感染や潜伏感染を意味することがあります。
性器ヘルペスの治療法と処方薬、治療期間
性器ヘルペスの治療は主に抗ウイルス薬を用いて行われ、症状の軽減と再発の抑制を目的としています。
初発時の治療
初発時の治療では、経口抗ウイルス薬が処方され、通常5〜10日間の服用が推奨されています。
代表的な抗ウイルス薬は、アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビルです。
薬剤名 | 一般的な投与期間 |
アシクロビル | 7〜10日 |
バラシクロビル | 7〜10日 |
ファムシクロビル | 5〜10日 |
再発時の治療
再発時の治療は、初発時と比べて短期間で行われることが多く、症状の早期改善と患者さんの生活への影響を最小限に抑えることが目標です。
症状が現れ始めた早い段階で治療を開始することで、症状の軽減と治癒期間の短縮が期待できます。
再発時の治療期間は通常3〜5日程度ですが、個人の状態に応じて調整されることがあります。
抑制療法
頻繁に再発する患者さんには、抑制療法が推奨されることがあり、毎日少量の抗ウイルス薬を服用し、再発を予防する方法です。
抑制療法は通常、6〜12ヶ月間継続されます。
治療法 | 目的 | 期間 |
初発時治療 | 症状軽減 | 5〜10日 |
再発時治療 | 早期回復 | 3〜5日 |
抑制療法 | 再発予防 | 6〜12ヶ月 |
局所療法
軽度の症状の場合、局所療法が選択されることがあり、全身への薬物の影響を最小限に抑えつつ、局所の症状を緩和する方法として有効です。
抗ウイルス軟膏や痛み止めのクリームなどを患部に直接塗布し、局所での薬剤の濃度を高めることで、効果的な治療を行います。
局所療法は症状が改善するまで、1日数回行われます。
治療期間と経過観察
初発時の治療では、通常1〜2週間程度で症状が改善しますが、完全に治癒するまでには時間がかかることがあります。
再発を繰り返す場合は、長期的な経過観察と管理が必要となり、定期的な受診を通じて、治療方針を調整していくことが大切です。
予後と再発可能性および予防
性器ヘルペスは完治が困難な感染症ですが、治療により症状のコントロールが可能です。
再発の頻度や程度には個人差があり、時間とともに軽減する傾向があります。
性器ヘルペスの予後
性器ヘルペスに感染すると、ウイルスは神経節に潜伏し、完全に排除することは困難です。
初発から数年経過すると、再発の回数が減少したり、症状が軽くなったりする傾向が見られます。
再発の可能性
再発の頻度
再発の特徴 | 内容 |
頻度 | 年に数回から数十回まで個人差が大きい |
症状 | 初発時よりも軽度で短期間 |
誘因 | ストレス、疲労、月経など |
再発のパターンを把握することで、ある程度予測が可能になります。
感染予防と安全な性行為
性器ヘルペスの感染予防には、安全な性行為の実践が不可欠です。
予防法 | 効果 |
コンドームの使用 | 感染リスクを大幅に低減 |
症状時の禁欲 | 再発時や前駆症状がある際は性行為を控える |
定期検査 | 早期発見・早期対応につながる |
ただし、コンドームの使用だけでは完全な予防はできません。
性器ヘルペスの治療における副作用やリスク
性器ヘルペスの治療に用いられる抗ウイルス薬は一般的に安全性が高いとされていますが、一部の患者さんで副作用が現れることがあります。
抗ウイルス薬の副作用
抗ウイルス薬による最も頻度の高い副作用は、頭痛、吐き気、めまい、下痢などです。
副作用は通常、薬の服用を継続することで自然に軽減していきますが、症状が長引いたり日常生活に支障をきたす場合は、専門医に相談してください。
副作用 | 頻度 |
頭痛 | 比較的高い |
吐き気 | 中程度 |
めまい | 低い |
下痢 | 低い |
重篤な副作用
まれに、アレルギー反応や腎機能障害、肝機能障害などが報告されており、薬剤の種類や患者さんの体質によって発生リスクが異なります。
長期使用に伴うリスク
抑制療法など、長期間にわたって抗ウイルス薬を服用する際には、薬剤耐性ウイルスの出現や、腎機能への影響などがあるので注意が必要です。
これらのリスクは治療の効果を低下させたり、新たな健康問題を引き起こす可能性もあります。
リスク | 対策 |
薬剤耐性 | 定期的な効果確認 |
腎機能影響 | 腎機能検査の実施 |
妊娠中の治療リスク
妊娠中の性器ヘルペス治療には特別な配慮が必要で、母体と胎児の双方の健康を考慮しながら、慎重に治療方針を決定することが大切です。
特に妊娠初期の薬物療法については慎重な判断が求められます。
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
初回治療の費用
初回治療の総費用は10,000円から30,000円程度となりますが、症状の重症度や必要な検査の種類によって変動します。
費用に含まれるものは、医師の診察料、血液検査やウイルス検査の費用、抗ウイルス薬の処方料などです。
項目 | 概算費用 |
診察料 | 3,000円~ |
検査費 | 5,000円~ |
薬剤費(1週間) | 2,000円~ |
再発時の治療費
再発時の治療費は多くの場合、再診料と薬剤費のみで済むため、費用は5,000円から15,000円程度です。
ただし、症状が重い場合や新たな検査が必要な際は、追加の費用が発生することがあります。
長期的な管理費用
性器ヘルペスは完治が難しいため、長期的な管理が必要です。
- 定期検診費用(3~6ヶ月ごと)
- 予防的な薬剤費
- 再発時の治療費
年間で30,000円から100,000円程度の医療費がかかる可能性があります。
保険適用と自己負担
性器ヘルペスの治療は健康保険の適用対象です。
以上
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