手足口病 – 感染症

手足口病(hand-foot-and-mouth disease)とは、コクサッキーウイルスやエンテロウイルスが原因で発症する感染症です。

この病気は主に乳幼児から5歳未満の子供に多く見られ、手や足、口の中に水疱ができ、発熱や喉の痛み、食欲不振などの症状も伴うことがあります。

手足口病の感染経路は主に飛沫感染や接触感染です。保育園や幼稚園などで集団発生することもあります。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

手足口病の種類(病型)

手足口病の病型は、感染したウイルスの種類や感染した部位、症状の重症度などによって分けられています。

手足口病(HFMD)

手足口病(HFMD)は、手足口病の代表的な病型です。 手、足、口の中に水ぶくれのような発疹ができるのが特徴です。

熱を出すことが多く、時に重症化することもあります。

部位症状
水疱性発疹
水疱性発疹
口腔内水疱性発疹

ヘルパンギーナ(Herpangina)

ヘルパンギーナは、口の中に水ぶくれができるのが主な症状で、手足の発疹は見られないことが多いですが、 熱や喉の痛みを伴うことがあります。

部位症状
口腔内水疱形成
咽頭発赤、疼痛

無菌性髄膜炎(Aseptic meningitis)

無菌性髄膜炎は、手足口病のウイルスが中枢神経系に感染することで起こります。

主な症状

  • 発熱
  • 頭痛
  • 嘔吐
  • 首の後ろが固くなる

髄液を調べると細胞の数が増えていますが、細菌は見つかりません。

脳炎・脳症(Encephalitis)

まれに、手足口病のウイルスの感染が脳の組織にまで広がり、脳炎や脳症を引き起こすことがあります。

意識がもうろうとしたり、けいれんを起こしたり、体が麻痺したりするなどの重い神経の症状が出ます。

積極的に集中治療を行う必要がある場合もあり、後遺症が残ることも。

急性弛緩性麻痺(Acute flaccid paralysis)

急性弛緩性麻痺は、手足口病のウイルスが脊髄の前角細胞に感染することで起こります。

急激に進行する手足の力が抜けるような麻痺が特徴です。

呼吸に関わる筋肉まで麻痺してしまう場合は、人工呼吸器を使った管理が必要になります。 麻痺が完全に回復しないこともあり、注意が必要です。

手足口病の主な症状

手足口病は、主にコクサッキーウイルスやエンテロウイルスによって引き起こされる感染症で、手、足、口に特徴的な症状が現れます。

手の症状

手足口病の初期症状として、手のひらや指に小さな赤い発疹が現れることがあり、この発疹は、やがて水疱に変化し、痛みを伴うことがあります。

部位症状
手のひら赤い発疹、水疱
赤い発疹、水疱

足の症状

手と同様に、足の裏や足の指にも赤い発疹や水疱が現れることがあり、歩行時の痛みや不快感を引き起こす可能性があります。

部位症状
足の裏赤い発疹、水疱
足の指赤い発疹、水疱

口の症状

手足口病の特徴的な症状の一つが口内の症状です。 口の中、特に舌、口内粘膜、喉に痛みを伴う潰瘍や水疱が形成されることがあります。

  • 舌の潰瘍や水疱
  • 口内粘膜の潰瘍や水疱
  • 喉の潰瘍や水疱

その他の症状

手足口病には、上記の症状に加えて、軽度から中等度の熱が数日間続くことがあり、また、倦怠感や食欲不振を感じることもあります。

手足口病の症状は、通常、発症から数日から1週間程度で自然に回復することが多いです。

手足口病の原因・感染経路

手足口病は、コクサッキーウイルスやエンテロウイルス71型などのウイルスが原因で発症する感染症です。

手足口病の主な原因ウイルス

手足口病の主な原因となるウイルス

ウイルス名特徴
コクサッキーウイルス手足口病の原因の多くを占める
エンテロウイルス71型重症化のリスクが高い

これらのウイルスは、感染力が非常に強く、容易に感染が広がります。

手足口病ウイルスの主な感染経路

手足口病ウイルスは、以下のような経路で感染します。

  • – 感染者との直接的な接触
  • – ウイルスに汚染された手指や物品との接触
  • – 感染者の咳やくしゃみに含まれる飛沫の吸入

特に、乳幼児は免疫力が未発達であるため、感染リスクが高くなります。

手足口病ウイルスの感染力の高さ

手足口病ウイルスは、感染力が非常に高いことが知られています。

ウイルス名感染力
コクサッキーウイルス非常に高い
エンテロウイルス71型非常に高い

診察(検査)と診断

手足口病の診察では、特徴的な症状を注意深く観察し、臨床診断を行い、確定診断にはウイルス分離検査や血清学的検査が用いられ、原因ウイルスを特定します。

手足口病の診察方法

手足口病の診察では、まず患者さんの症状を詳しく観察します。

手足口病に特徴的な症状

部位特徴的な症状
手のひら・足の裏小さな水ぶくれのような発疹
口の中水ぶくれと潰れてできるただれ
全身発熱を伴うことが多い

臨床診断

手足口病の診察所見から、臨床診断を下すことが可能です。

手足口病の臨床診断ポイント
基本特徴的な症状の観察に基づく
診断症状がそろっていれば臨床的に手足口病と診断
注意点類似症状を示す他疾患との鑑別が重要

手足口病に特徴的な症状がそろっている場合、臨床的に手足口病と診断されますが、似たような症状を示す他の病気との区別が大切です。

確定診断

手足口病の確定診断には、ウイルス分離検査や血清学的検査が用いられます。

検査方法概要
ウイルス分離検査水ぶくれやのどからウイルスを分離・同定
血清学的検査急性期と回復期の2回の血液検査で特異的抗体価の明らかな上昇を確認

ウイルス分離検査は、患者さんの水ぶくれやのどからウイルスを分離・同定する方法です。

血清学的検査では、急性期と回復期の2回の血液検査を行い、特異的抗体価の明らかな上昇を確認します。

手足口病の治療法と処方薬、治療期間

手足口病の治療では、主に症状をやわらげる対症療法が行われます。

対症療法の重要性

手足口病に特効薬はないため、治療の目的は症状を緩和し、患者さんの苦痛をやわらげることです。

発熱があるときは、解熱鎮痛薬が処方されます。

薬の名前主な効果
アセトアミノフェン熱を下げる、痛みを和らげる
イブプロフェン熱を下げる、痛みを和らげる、炎症を抑える

口内炎で痛みがあったり、食事が取りづらかったりする際は、口内炎用の軟膏や含嗽薬が処方されることがあります。

薬の名前主な効果
トリアムシノロンアセトニド口腔用軟膏炎症を抑える、口内炎の痛みを和らげる
ポビドンヨード含嗽剤口の中の殺菌、洗浄

脱水症状への対応

手足口病では、発熱や口内炎の痛みから食事や水分を摂ることが難しくなり、脱水症状を起こすことがあります。

経口補水液を飲んだり、点滴で水分を補ったりする必要になることも。

治療期間と回復までの経過

手足口病の治療期間は、通常7〜10日ほどです。

熱は2〜3日で良くなり、口内炎や発疹は1週間ほどで治っていき、合併症がなければ、多くの患者さんは後遺症なく回復します。

医療機関への受診が必要なとき

手足口病の治療は、多くの場合、家で対症療法を行うことで対応できます。

ただし、以下のような症状がある際は、医療機関での受診が必要です。

  • 高熱が続く
  • 激しい頭痛や嘔吐がある
  • 意識がはっきりしなかったり、けいれんがあったりする
  • 重度の脱水症状がある

これらの症状は、手足口病が重症化したり、合併症が起きたりしている可能性があります。

予後と再発可能性および予防

手足口病は通常、予後が良く、ほとんどのケースで合併症を起こさずに回復しますが、まれではあっても重症化する可能性もあるため、十分な注意が必要です。

手足口病の予後

手足口病は通常、自然治癒する疾患です。

症状が出てから1週間から10日程度で改善し、後遺症が残ることはほとんどありません。

予後割合
良好95〜98%
重症化2〜5%

ただし、次のような合併症を発症する可能性もあります。

  • 脳炎・髄膜炎
  • 急性弛緩性麻痺
  • 肺水腫・肺出血
  • 心筋炎

これらの合併症については、早期発見と早期治療が非常に大切です。

再発の可能性

手足口病が再発することは比較的まれですが、免疫が十分に獲得されていないケースや、別の原因ウイルスに感染したケースなどでは再発する可能性があります。

再発割合
なし90〜95%
あり5〜10%

手足口病の予防

手足口病を予防するためには、次のような対策が効果的です。

  • 手洗い・うがいの徹底
  • おもちゃや遊具の消毒
  • 感染者との接触を避ける
  • 免疫力を高める(十分な休養、バランスの取れた食事など)

手足口病の治療における副作用やリスク

手足口病の治療では、副作用やリスクに十分な注意が必要です。

解熱鎮痛薬の副作用とリスク

手足口病に伴う発熱や痛みに対して解熱鎮痛薬が使用されますが、副作用やリスクに注意が必要です。

アセトアミノフェンなどの解熱鎮痛薬は、適切な用量で使用しないと肝障害を引き起こす可能性があり、 また、長期間の連用により、腎障害のリスクも高まります。

  • 肝障害
  • 腎障害
  • 胃腸障害

脱水のリスク

手足口病では発熱や口内炎による痛みから飲食が困難となり、脱水のリスクが高まります。

特に乳幼児や高齢者は脱水になりやすいため、細心の注意が必要です。

脱水が進行してしまうと、電解質バランスの異常や腎機能の低下を招く危険性があります。

リスク影響
電解質バランスの異常心機能障害、筋力低下
腎機能の低下腎不全

二次感染のリスク

手足口病では皮膚や粘膜に水疱や潰瘍ができるため、細菌などによる二次感染のリスクがあります。

衛生的な処置とケアを怠ってしまうと、症状の悪化や合併症の発生につながりかねません。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

軽症の場合の治療費

軽症の手足口病では、自宅療養が基本となります。

市販の解熱鎮痛剤や口内炎用の薬を使用することが多く、医療機関を受診しないことも少なくないため、治療費は数千円程度で済むことが多いです。

治療法費用目安
市販の解熱鎮痛剤1,000円~2,000円
口内炎用の薬1,000円~3,000円

中等症の場合の治療費

中等症の手足口病では、医療機関を受診し、症状に応じた治療を受ける必要があります。

治療費は、受診する医療機関や処方される薬剤によって異なりますが、1回の受診で5,000円~10,000円程度かかるのが一般的です。

重症の場合の治療費

重症の手足口病では、入院治療が必要になることがあります。

入院期間費用目安
1週間30万円~50万円
2週間60万円~100万円

公的医療保険の適用

手足口病の治療費は、公的医療保険の対象です。

以上

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