出血性大腸炎(Hemorrhagic Colitis)とは、大腸の粘膜に強い炎症が生じ、血管が損傷し出血する病気です。
激しい腹痛や頻繁な下痢、そして血液の混じった便(血便)などが主な症状で、発熱はあまりみられません。
細菌やウイルスなどの病原体による感染症、腸管への血流不足(虚血性変化)、特定の薬剤の副作用などが主な原因となりますが、中には原因を特定できないケースもあります。
急速に進行し、重篤な状態に陥る可能性があるため、迅速な診断と医療介入が重要です。
出血性大腸炎の主な症状
出血性大腸炎では、激しい腹痛と血便(新鮮血の混じった下痢便)が症状として現れます。発熱はほとんどないか、37度台の軽いものとなります。
急性の腹痛
出血性大腸炎の最も顕著な症状は、突然発症する激しい腹痛です。
痛みは周期的に増強し、「刺すような」あるいは「絞られるような」感覚と表現されるように、歩けなくなるほど激しい痛みです。
血便
腹痛と同時に、多くの場合、鮮血色の血液が便に混じって排出されます。
血便の量や頻度は症例によって異なりますが、一日に数回から十数回に及ぶこともあります。
血便が続くと貧血を引き起こす可能性があるため、早急な医療介入が必要です。
血便の特徴 | 頻度 | 注意点 |
鮮血色 | 高い | 貧血のリスク |
暗赤色 | 低い | 上部消化管出血の可能性 |
下痢
下痢症状も特徴的な症状です。水様性または粘液性で、頻回に及び、下痢に伴い、腹部の不快感や膨満感も見られます。
特に高齢者や基礎疾患を持つ方では、脱水のリスクが高まるため、より慎重な対応が必要となります。
全身症状
- 発熱(ほとんどありませんが、まれに高熱が持続することもあります)
- 倦怠感
- 食欲不振
- 悪心・嘔吐
- 体重減少
緊急性の高い症状
出血性大腸炎で特に注意が必要な症状は、急激な腹痛の増強、大量の血便、高熱の持続、意識レベルの低下などです。
緊急症状の中でも、特に腹痛の性質が変化した場合(例:持続的な痛みから間欠的な激痛に変化)や、血便の量が急激に増加した場合は、腸管穿孔や大量出血の可能性があるため、即座に医療機関を受診する必要があります。
緊急症状 | 対応 | 考えられる合併症 |
急激な腹痛増強 | 即時受診 | 腸管穿孔 |
大量血便 | 即時受診 | 大量出血 |
高熱の持続 | 経過観察・受診 | 敗血症 |
意識レベル低下 | 即時受診 | ショック状態 |
出血性大腸炎の原因
出血性大腸炎の主な原因は、病原性大腸菌O157などの感染性微生物や、薬剤、虚血性変化、自己免疫反応などです。
感染性微生物による発症
腸管出血性大腸菌であるO157:H7が主要な起因菌となり、汚染された食品や水を介して体内に侵入し、大腸粘膜に付着すると炎症を引き起こします。
これ以外にも、サルモネラ菌やカンピロバクター、赤痢菌などが出血性大腸炎の原因として知られています。
主な病原性微生物 | 感染経路 | 特徴 |
大腸菌O157:H7 | 食品・水 | 志賀毒素を産生 |
サルモネラ菌 | 食品 | 高熱と下痢を引き起こす |
カンピロバクター | 食品 | 生肉や未殺菌乳に多い |
赤痢菌 | 食品・水 | 発展途上国での感染が多い |
薬剤性の出血性大腸炎
抗生物質や、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の長期使用・過剰摂取が出血性大腸炎の原因となることがあります。
また、抗がん剤や免疫抑制剤なども、腸粘膜に対する副作用として出血性大腸炎を引き起こす可能性があることが報告されています。
薬剤の種類 | 発症メカニズム | リスク因子 |
抗生物質 | 腸内細菌叢のバランス崩壊 | 長期使用、広域スペクトル |
NSAIDs | 腸粘膜への直接刺激 | 高用量、長期使用 |
抗がん剤 | 腸粘膜への副作用 | 特定の薬剤、高用量 |
免疫抑制剤 | 腸粘膜への副作用 | 長期使用、併用薬 |
虚血性変化による発症
高齢者や動脈硬化のある患者さんでは、腸管への血流が不足することで腸粘膜が障害を受け、炎症や出血を引き起こすリスクが上昇します。
このほか、手術後や重症疾患の経過中に一時的な血流低下が生じ、出血性大腸炎を発症するケースもあります。
自己免疫反応と遺伝的要因
体の免疫システムが誤って腸粘膜を攻撃することで、炎症や出血が起こる場合があります。
また、特定の遺伝子変異が腸粘膜の脆弱性や免疫反応の異常を引き起こし、出血性大腸炎のリスクを高めることが分かっています。
出血性大腸炎の原因となる要因まとめ
- 感染性微生物(大腸菌O157:H7、サルモネラ菌など)
- 薬剤(抗生物質、NSAIDs、抗がん剤など)
- 虚血性変化(血流障害)
- 自己免疫反応
- 遺伝的要因
原因 | 具体例 | 発症メカニズム |
感染性 | 病原性大腸菌、ウイルス | 直接的な粘膜障害、毒素産生 |
薬剤性 | 抗生物質、NSAIDs | 細菌叢変化、粘膜刺激 |
血管性 | 虚血、血栓 | 粘膜への酸素・栄養供給不足 |
免疫学的 | 自己免疫疾患、アレルギー反応 | 免疫系による粘膜攻撃 |
診察(検査)と診断
出血性大腸炎の診断では、血液検査や便検査、内視鏡検査などを実施します。
血液検査・便検査
血液検査では、炎症の程度を示すCRP(C反応性タンパク質)やESR(赤血球沈降速度)の上昇、白血球数の増加などを調べます。
また、貧血の有無や体内の電解質のバランスに異常がないかどうかも評価していきます。
検査項目 | 目的 |
CRP、ESR | 炎症反応の評価 |
白血球数 | 炎症の程度の評価 |
ヘモグロビン値 | 貧血の有無の評価 |
電解質 | 電解質バランスの評価 |
便検査では腸の炎症の程度を評価し、病原性大腸菌などの感染症の有無を確認するため、便を培養して細菌を調べる検査を行う場合もあります。
内視鏡検査
検査 | 評価項目 |
大腸内視鏡検査 | 粘膜の炎症所見、生検 |
便培養検査 | 病原性大腸菌などの感染症の有無 |
大腸内視鏡検査では、大腸の粘膜の発赤、むくみ、ただれ、潰瘍などの炎症の様子を確認します。
また、必要に応じて組織の一部を採取し、顕微鏡で詳しく調べる生検も行います。
その他の検査
検査 | 評価項目 |
腹部CT検査 | 合併症の有無、重症度 |
腹部超音波検査 | 腸管壁の肥厚、周囲の炎症 |
小腸内視鏡検査 | 小腸病変の有無 |
出血性大腸炎の治療法と処方薬、治療期間
出血性大腸炎では、原因に応じて抗生物質の投与や対症療法を行います。
原因別の治療方法
細菌性の出血性大腸炎の場合、症状や検査結果を基に抗菌薬を選択し、抗生物質による治療を行います。
ウイルス性の場合は対症療法を行います。体調や症状に合わせて水分補給や電解質バランスの調整などを実施し、体力の回復を支援します。
必要に応じて、解熱鎮痛剤を使用することもあります。
薬剤性出血性大腸炎の場合は、原因となった薬剤の使用を直ちに中止します。
原因 | 主な治療法 |
細菌性 | 抗生物質投与 |
ウイルス性 | 対症療法 |
薬剤性 | 原因薬剤の中止 |
処方薬の種類
細菌性の出血性大腸炎に対しては、シプロフロキサシン(キノロン系抗菌薬)やメトロニダゾール(ニトロイミダゾール系抗原虫薬)などの抗菌薬を使用します。
整腸剤には、ビフィズス菌製剤やラクトバチルス製剤(乳酸菌)などがあります。
腸内細菌叢のバランスを整え、消化機能の回復を促進するなど、腸内環境の改善を目的に使用します。
下痢症状の緩和のため、止痢薬を用います。
ロペラミド(μオピオイド受容体作動薬)などが代表的ですが、感染性の下痢の場合は病原体の排出を遅らせる可能性があるため、使用には注意が必要です。
嘔吐症状がある場合には、メトクロプラミド(ドパミン受容体拮抗薬)などの制吐薬を使用し、消化管運動の改善や嘔吐抑制を行います。
薬剤分類 | 代表的な薬剤名 | 主な効果 |
抗菌薬 | シプロフロキサシン、メトロニダゾール | 病原菌の排除 |
整腸剤 | ビフィズス菌製剤、ラクトバチルス製剤 | 腸内環境の改善 |
止痢薬 | ロペラミド | 下痢症状の緩和 |
制吐薬 | メトクロプラミド | 嘔吐の抑制 |
治療期間
出血性大腸炎は通常1〜2週間程度で症状が改善していきますが、完全な回復には時間がかかります。
症状の改善が見られない場合、治療法の見直しや追加の検査を検討します。
食事療法
急性期には、消化管の負担を軽減するため、一時的に絶食や流動食を取り入れます。この期間は、点滴による水分と栄養の補給を行うことがあります。
症状が落ち着いてきたら、徐々に食事内容を通常に戻します。消化の良い食品から始め、患者さんの状態を見ながら段階的に食事内容を拡大していきます。
回復段階 | 推奨される食事 | 具体例 |
急性期 | 絶食または流動食 | 水、お茶、スポーツドリンク |
回復初期 | 消化の良い軽食 | おかゆ、煮込みうどん、スープ |
回復後期 | 通常食への移行 | 白米、煮魚、野菜の煮物 |
完全回復期 | バランスの取れた通常食 | 多様な食材を用いた食事 |
出血性大腸炎の治療における副作用やリスク
出血性大腸炎の治療薬の副作用として、吐き気や嘔吐、アレルギー反応などが起こる可能性があります。
薬物療法に伴う副作用
抗生物質の使用により、下痢や腹痛が悪化することがあります。また、長期使用によって薬が効きにくくなる耐性菌が出現する可能性があります。
抗炎症薬、特にステロイド剤の使用では、免疫機能の低下や骨粗鬆症、高血糖などの副作用が報告されています。
主な薬物療法とその副作用
薬物療法 | 主な副作用 |
抗生物質 | 下痢、腹痛、耐性菌出現 |
ステロイド剤 | 免疫機能低下、骨粗鬆症、高血糖 |
免疫抑制剤 | 感染リスク増加、肝機能障害 |
生物学的製剤 | アレルギー反応、注射部位反応 |
手術療法のリスク
手術には、出血や麻酔のリスクのほか、術後の感染症や縫合不全などの合併症が起こる可能性があります。
また、大腸の一部または全部を切除する場合は、排便機能の変化や栄養吸収の低下が生じることがあります。
手術療法に伴う主なリスク
- 術中・術後の出血
- 麻酔関連の合併症
- 術後感染症
- 縫合不全
- 排便機能の変化
- 栄養吸収障害
- 腸閉塞(腸が詰まる状態)
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
出血性大腸炎の治療費は、軽症例では外来治療で済むため比較的低額ですが、重症例では入院治療が必要となり高額になります。
外来治療の費用
血液検査や便検査などの基本的な検査費用は5,000円から15,000円程度が目安です。薬剤費は処方される薬の種類や量によって異なりますが、1回の診療で3,000円~10,000円程度が一般的となります。
項目 | 費用の目安 |
血液検査 | 3,000円~8,000円 |
便検査 | 2,000円~7,000円 |
薬剤費(1回分) | 3,000円~10,000円 |
入院費用の目安
入院期間 | 費用の目安 |
3日間 | 10万円~20万円 |
1週間 | 20万円~50万円 |
2週間 | 40万円~100万円 |
追加検査・処置の費用の目安
- 大腸内視鏡検査 15,000円~30,000円
- CT検査 10,000円~20,000円
- 輸液療法(1日あたり) 5,000円~10,000円
以上
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