ウイルス性肝炎(A,B,C,D,E型) – 感染症

ウイルス性肝炎(hepatitis)とは、ウイルスの感染により肝臓に炎症が生じる疾患です。

肝炎ウイルスにはA型、B型、C型、D型、E型の5種類があり、感染経路や症状、予後がそれぞれ異なります。

肝炎ウイルスに感染すると、急性肝炎を発症し、発熱や倦怠感、黄疸などの症状が現れます。

さらに、慢性化した際には肝硬変や肝がんなどの重篤な合併症を引き起こすことも。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

ウイルス性肝炎(A,B,C,D,E型)の種類(病型)

ウイルス性肝炎には、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、D型肝炎、E型肝炎の5つの主要な病型があり、それぞれ異なるウイルスによって引き起こされ、感染経路や病態、予後も大きく異なります。

A型肝炎

A型肝炎は、A型肝炎ウイルス(HAV)による感染症で、主な感染経路は、汚染された食べ物や水を介した経口感染です。

多くの場合、急性肝炎を引き起こしますが、慢性化することはありません。

B型肝炎

B型肝炎は、B型肝炎ウイルス(HBV)による感染症で、母子感染、性交渉、血液を介した感染などが主な感染経路です。

急性肝炎を引き起こすほか、慢性化すると肝硬変や肝がんに進行する可能性があります。

病型主な感染経路
A型肝炎経口感染
B型肝炎母子感染、性交渉、血液感染

C型肝炎

C型肝炎は、C型肝炎ウイルス(HCV)によるもので、主に血液を介した感染が原因です。

注射器の共有や輸血などで感染し、 多くの場合、慢性化し、肝硬変や肝がんへと進行します。

D型肝炎とE型肝炎

D型肝炎は、D型肝炎ウイルス(HDV)による肝炎で、B型肝炎ウイルスとの重複感染で発症します。

E型肝炎は、E型肝炎ウイルス(HEV)により引き起こされ、主に汚染された水や食品を介して感染します。

各病型の特徴

病型ウイルス主な感染経路慢性化の有無
A型肝炎HAV経口感染なし
B型肝炎HBV母子感染、性交渉、血液感染あり
C型肝炎HCV血液感染あり
D型肝炎HDVB型肝炎との重複感染あり
E型肝炎HEV経口感染なし

ウイルス性肝炎(A,B,C,D,E型)の主な症状

ウイルス性肝炎は、肝臓に炎症を引き起こす感染症で、いくつかの特徴的な症状が知られています。

全身倦怠感と疲労感

ウイルス性肝炎に感染すると、全身的な倦怠感や疲労感を感じることがよくあります。

これは、肝臓の炎症によって、身体のエネルギー代謝が阻害されることが原因です。

患者さんによっては、日常生活を送ることが難しくなることがあります。

症状概要
全身倦怠感身体全体に疲れを感じる
疲労感体力が低下し、疲れやすくなる

黄疸

ウイルス性肝炎の特徴的な症状の一つに、黄疸があります。 黄疸とは、皮膚や白目が黄色く染まる現象のことです。

これは、肝臓の炎症によって、ビリルビンという色素が血中に蓄積することで起こります。

黄疸が現れる部位

  • 皮膚
  • 白目
  • 粘膜

消化器症状

ウイルス性肝炎では、消化器系の症状も現れることがあります。

症状概要
食欲不振食べる気力がなくなる
吐き気胃の不快感により、吐き気がする
腹痛お腹に痛みを感じる

これらの症状は、肝臓の炎症が消化器系に影響を及ぼすことで生じます。

発熱

ウイルス性肝炎では、発熱を伴うこともあ、通常、38度以上の高熱が数日間続きます。

この発熱は、肝臓の炎症に対する身体の防御反応の一つと考えられています。

ウイルス性肝炎(A,B,C,D,E型)の原因・感染経路

ウイルス性肝炎は、肝臓に感染するウイルスが引き起こす肝臓の炎症性疾患であり、原因となるウイルスと感染経路は多岐にわたります。

ウイルス性肝炎の主な原因ウイルス

ウイルス性肝炎の主な原因となるウイルスには、A型肝炎ウイルス(HAV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、D型肝炎ウイルス(HDV)、E型肝炎ウイルス(HEV)などが含まれます。

ウイルス特徴
HAV急性肝炎の原因となる
HBV慢性肝炎や肝硬変、肝がんの原因となる

これらのウイルスは、それぞれ異なる感染経路を持っています。

HAVは、主に経口感染によって広がり、汚染された食物や水を介して感染することが多く、人から人への感染が起こることも。

一方、HBVとHCVは、主に血液や体液を介して感染します。

感染経路

  • – 感染者との性的接触
  • – 感染者の血液に汚染された注射器の使用
  • – 感染者からの母子感染
感染経路ウイルス
経口感染HAV、HEV
血液感染HBV、HCV、HDV

HDVは、HBVの感染者にのみ感染が成立するという特殊な性質を持っています。

HEVは、主に経口感染によって広がりますが、輸血や臓器移植による感染例も報告されました。

ウイルス性肝炎の感染リスクを減らすために

ウイルス性肝炎の感染を防ぐためには、感染経路に応じた予防策が重要です。

経口感染を防ぐためには、手洗いの徹底や、安全な水や食物の摂取が欠かせません。

血液感染を防ぐためには、注射器の使い回しを避け、性的接触の際にはコンドームを使用するなどの注意が必要です。

また、HBVに対してはワクチンがあるので、ハイリスク群の人は予防接種を受けることが推奨されています。

ウイルス性肝炎の早期発見と適切な対応

ウイルス性肝炎の中には、慢性化すると肝硬変や肝がんなどの重篤な合併症を引き起こす可能性があるものもあります。

そのため、感染の早期発見と適切な対応が非常に大切です。

診察(検査)と診断

ウイルス性肝炎の診察では、血液検査や画像検査などを用いて、肝臓の状態を評価したり、原因となるウイルスを特定したりします。

確定診断をするためには、特異的な血清マーカーを検出することが重要です。

病歴聴取と身体診察

ウイルス性肝炎の可能性がある場合、まず詳しい病歴聞きま感染リスクのある行動や、症状の有無、経過などを確認し、身体診察では、黄疸や肝臓の腫れがないかを確認します。

これらの所見は、肝炎の存在を示唆する重要な手がかりです。

血液検査

ウイルス性肝炎の診断には、血液検査が欠かせません。

検査項目目的
AST、ALT肝細胞の損傷具合の評価
ビリルビン黄疸の評価
プロトロンビン時間肝臓の合成能力の評価

また、原因となるウイルスを特定するため、特異的な血清マーカーを測定します。

ウイルス血清マーカー
A型肝炎ウイルスIgM型HAV抗体
B型肝炎ウイルスHBs抗原、HBc抗体、HBe抗原など
C型肝炎ウイルスHCV抗体、HCV RNA

これらのマーカーを検出することで、原因となるウイルスを同定することができます。

画像検査

ウイルス性肝炎の場合、超音波検査やCT、MRIなどの画像検査を行うことがあります。

検査確認する所見

  • 肝臓の形の変化
  • 肝臓の腫れの有無
  • 慢性化した場合の肝硬変や肝臓がんの合併

肝生検

症例によっては、肝生検が診断に有用なことがあり、肝生検では、肝臓の組織を採取して、顕微鏡で観察します。

この検査によって、肝炎の活動性や線維化の程度を評価すること可能です。

ただし、体に負担のかかる検査なので、適応は慎重に判断する必要があります。

ウイルス性肝炎(A,B,C,D,E型)の治療法と処方薬、治療期間

ウイルス性肝炎の治療は、ウイルスの種類や患者さんの状態に合わせて、抗ウイルス薬の投与や肝臓を保護する治療などが行われ、治療期間は、数週間から数ヶ月です。

抗ウイルス薬治療

抗ウイルス薬は、ウイルスの増殖を抑え、肝臓の炎症を改善するために使用されます。

代表的な抗ウイルス薬は、インターフェロンやリバビリン、エンテカビルなどです。

薬剤名投与方法
インターフェロン注射
リバビリン経口
エンテカビル経口

これらの薬は、ウイルスの種類や患者さんの状態に応じて選ばれ、単独または組み合わせて投与されます。

抗ウイルス薬治療の期間は、通常24週から48週程度です。

肝庇護療法

肝庇護療法は、肝機能を改善し、肝臓への負担を減らすために行われ、安静や栄養療法、肝機能を改善する薬の投与などがあります。

肝庇護療法に用いられる薬

  • グリチルリチン製剤
  • ウルソデオキシコール酸
  • 肝不全用アミノ酸製剤

肝庇護療法の期間は、患者さんの状態に応じて決まりますが、通常数週間から数ヶ月程度が必要です。

治療効果の評価

ウイルス性肝炎の治療効果は、定期的な血液検査や画像検査によって評価されます。

検査項目評価内容
肝機能検査AST、ALT、ビリルビンなどの値から肝機能を評価
ウイルス量測定血中のウイルス量を測定し、治療の効果を判定
画像検査超音波検査やCT検査などで肝臓の状態を評価

これらの検査結果を総合的に判断し、治療方針の変更や追加治療の必要性が検討されます。

治療後のフォローアップ

ウイルス性肝炎の治療が終了した後も、再発や肝がんの発生リスクがあるため、長期的なフォローアップが大切です。

治療終了後は3〜6ヶ月ごとに血液検査や画像検査を行い、肝機能やウイルス量、肝臓の状態を評価します。

異常が見つかった場合は、速やかに治療を始めることが大切です。また、生活習慣の改善や肝臓に負担をかけない食事療法なども、再発予防に役立ちます。

予後と再発可能性および予防

ウイルス性肝炎の治療効果は、早期発見と治療に大きく左右されます。

再発のリスクは、ウイルスの種類や患者さんの免疫状態によって異なりますが、適切な予防措置を講じることで、再発の可能性を最小限に抑えることが可能です。

早期発見と適切な治療介入の重要性

ウイルス性肝炎の治療において、早期発見が治療効果を大きく左右する要因の一つです。

ウイルスによる肝臓の損傷が軽度である段階で治療を開始することで、治癒の可能性が高まります。

ウイルスの種類早期発見の重要性
A型肝炎高い
B型肝炎高い
C型肝炎非常に高い

抗ウイルス薬の投与や、必要に応じた肝庇護療法などを行うことで、肝臓の損傷を最小限に抑え、回復を促進することができます。

再発のリスクとそれに影響を与える要因

ウイルス性肝炎の再発リスクは、ウイルスの種類や患者の免疫状態によって異なります。

  • A型肝炎:一度感染すると終生免疫を獲得するため、再発はまれ。
  • B型肝炎:ウイルスが体内に残存することがあり、再発のリスクがある。
  • C型肝炎:治療により一旦ウイルスが排除されても、再感染により再発することがある。
再発に影響を与える要因説明
ウイルスの種類B型肝炎やC型肝炎は再発リスクが高い
患者の免疫状態免疫力が低下している場合、再発リスクが高まる
生活習慣アルコール摂取や喫煙は再発リスクを高める

再発予防のための措置

ウイルス性肝炎の再発を予防するためには、以下のような措置が有効です。

  1. 定期的な検査:ウイルスの再活性化や再感染を早期に発見するため。
  2. 生活習慣の改善:アルコール摂取や喫煙の制限、バランスの取れた食事など。
  3. ワクチン接種:A型肝炎やB型肝炎のワクチンを接種することで、再感染を防ぐ。

ウイルス性肝炎(A,B,C,D,E型)の治療における副作用やリスク

ウイルス性肝炎の治療では、副作用が起こることがあります。

ウイルス性肝炎治療の副作用

抗ウイルス薬の副作用は、吐き気、倦怠感、頭痛、発熱などです。

副作用症状
消化器症状吐き気、食欲不振、下痢
全身症状倦怠感、頭痛、発熱

また、インターフェロンを使用する際には、いくつかの副作用が生じる可能性があります。

  • うつ症状
  • 自殺念慮
  • 白血球減少
  • 脱毛

副作用への対処法

副作用が出現した際の対処法

副作用対処法
消化器症状制吐剤の使用、食事内容の工夫
全身症状十分な休養、解熱鎮痛剤の使用
うつ症状抗うつ薬の使用、心理的サポート

ウイルス性肝炎治療のリスク

抗ウイルス薬の長期使用により、薬剤耐性ウイルスが出現する可能性があります。

また、肝硬変や肝がんへの進行リスクも考慮する必要があるので、定期的な検査を行い、病態の変化を注意深く観察することが大切です。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

ウイルス性肝炎の治療費の目安

治療内容費用
抗ウイルス薬による治療月額10万円~30万円
インターフェロン治療総額300万円~500万円

公的医療保険の適用

ウイルス性肝炎の治療には、公的医療保険が適用されます。

高額療養費制度の活用

さらに、高額療養費制度を活用すると、月々の自己負担の上限額が設定されます。

  • 住民税非課税世帯:月額35,400円
  • 一般所得者:月額80,100円+(医療費-267,000円)×1%
  • 高所得者:月額150,000円+(医療費-500,000円)×1%

医療費助成制度

自治体によっては、ウイルス性肝炎の治療費に対する助成制度を設けていることがあるので、居住地の自治体に確認してください。

以上

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