帯状疱疹(herpes zoster)とは、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)の再活性化によって引き起こされる疾患です。
水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)に初感染の際には水痘を発症しますが、治癒後もウイルスは神経節内に潜伏し続けます。
そして、免疫力が低下したときなどに再活性化が起こり、神経の走行に沿って片側性に特徴的な皮疹が現れます。
帯状疱疹の種類(病型)
帯状疱疹は典型的な病型、播種性の病型、後遺症としての神経痛の3つに大別されます。
典型的な帯状疱疹
典型的な帯状疱疹の特徴は、神経の分布に沿って片側に発赤や水疱ができることです。
胸部に現れることが半分以上を占め、次いで顔面や腰・仙骨部にも1-2割の頻度で見られます。
好発部位 | 割合 |
胸部 | 50-60% |
顔面(三叉神経第一枝領域) | 10-20% |
腰仙部 | 10-20% |
播種性帯状疱疹
播種性帯状疱疹は全身に水疱が広がる重い病型です。 免疫力が低下している人に多く、内臓にも症状が出る可能性があります。
- 全身の広い範囲に水疱
- 免疫低下者に多い
- 内臓症状の合併の可能性
帯状疱疹後神経痛
帯状疱疹後神経痛は水疱が治っても痛みが続く病型です。 高齢の方や重症だった方に起こりやすく、生活の質を大きく下げてしまいます。
リスク因子 | 内容 |
高齢 | 60歳以上でリスク上昇 |
重症 | 広範な皮疹や強い痛み |
帯状疱疹の主な症状
帯状疱疹の症状は、特徴的な皮疹と痛みが主体です。
前駆症状
帯状疱疹の発症前には、倦怠感や発熱などの全身症状に加え、皮疹が出現する部位に痛みや異常感覚が先行して現れることがあり、この前駆症状は、数日から1週間ほど続きます。
症状 | 特徴 |
倦怠感 | 体のだるさ、疲労感が現れる |
発熱 | 37〜38度程度の発熱が見られる |
痛み | 皮疹部位に先行して痛みが出現 |
異常感覚 | 皮疹部位にしびれや違和感を自覚 |
皮疹の特徴
帯状疱疹の最も特徴的な症状は、片側性に集団で現れる皮疹です。
皮疹は、神経の走行に沿って帯状に分布し、小水疱が集簇して生じます。
皮疹の経過
- 紅斑(赤い斑点)が出現
- 紅斑上に小水疱が多発
- 水疱は膿疱化し、痂皮(かさぶた)を形成
- 痂皮が落ち、色素沈着を残して治癒
皮疹の出現部位は、胸部や腹部に多く見られますが、顔面や四肢に生じることもあります。
部位 | 頻度 |
胸部 | 50% |
腹部 | 20% |
顔面 | 15% |
四肢 | 15% |
痛みの特徴
帯状疱疹に伴う痛みは、皮疹の前駆症状として現れるほか、皮疹出現中や治癒後も持続します。
痛みの性質は、灼熱痛や電撃痛など、神経障害性疼痛です。 高齢者では、痛みが長期化し、帯状疱疹後神経痛へ移行するリスクが高くなります。
その他の症状
状況によっては、以下のような合併症状を伴うこともあります。
- 眼症状(結膜炎、角膜炎、ぶどう膜炎など)
- 顔面神経麻痺(ハント症候群)
- 髄膜炎
- 脳炎
帯状疱疹は特徴的な皮疹と痛みを主体とする感染症ですが、時に重篤な合併症を引き起こすこともあります。
帯状疱疹の原因・感染経路
帯状疱疹は、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)の再活性化が原因で発症する感染症です。
初感染と潜伏
多くの人は、子供の頃に水痘(みずぼうそう)を通してVZVに初めて感染します。
その後、ウイルスは神経節に潜み、長い期間にわたって不活性な状態で存在します。
初感染時の病気 | 潜伏場所 |
水痘 | 神経節 |
再活性化のトリガー
潜伏していたVZVは、加齢や免疫力の低下などがきっかけとなって再活性化することがあり、再活性化したウイルスは、神経に沿って皮膚まで移動し、帯状疱疹を引き起こします。
- ストレス
- 疲労
- 腫瘍
- 免疫抑制剤の使用
感染経路
帯状疱疹の水疱から漏れ出た液には、感染力のあるウイルスが含まれていて、水疱液に直接触れたり、ウイルスを含んだ飛沫を吸い込んだりすることで、VZVに感染するおそれがあります。
感染源 | 感染経路 |
帯状疱疹の水疱液 | 直接接触、飛沫 |
感染のリスク
ただし、帯状疱疹に罹った人から直接VZVに感染する危険性は比較的低いと言われています。
多くの成人が既に水痘を経験しているため、ある程度の免疫を持っているからです。
診察(検査)と診断
帯状疱疹の診断には、特有の症状の観察と、状況に応じた検査の実施が求められます。
臨床症状による診断
帯状疱疹に特徴的なのは、片側に限局した痛みと皮疹の出現で、皮疹は時間とともに、紅斑、丘疹、水疱、膿疱、痂皮へと変化していきます。
これらの症状と皮疹の分布パターンを確認することで、臨床的に帯状疱疹と診断が可能です。
観察項目 | 特徴 |
痛みの性質 | 片側性、灼熱感、チクチク感 |
皮疹の種類 | 紅斑、丘疹、水疱、膿疱、痂皮 |
検査による確定診断
臨床症状のみでは確定診断が難しいケースや、重症例では検査による確定診断が必要です。
主な検査法
- 血清抗体価測定:ペア血清での抗体価の有意な上昇を確認
- ウイルス分離:水疱内容物からウイルスを分離
- PCR法:水疱内容物、血液、髄液などからウイルスDNAを検出
検査法 | 検体の種類 |
血清抗体価測定 | 血清 |
ウイルス分離 | 水疱内容物 |
PCR法 | 水疱内容物、血液、髄液 |
診断のポイント
帯状疱疹の診断において押さえるべきポイントは、次の4つです。
- 片側性の痛みと皮疹の有無を確認すること
- 皮疹の分布と経時的変化を観察すること
- 必要に応じて適切な検査を実施すること
- 重症例や合併症が疑われる際は専門医へ紹介すること
的確な診察と診断を行うことで、早期の治療開始と合併症の予防が可能となります。
帯状疱疹の治療法と処方薬、治療期間
帯状疱疹の治療は、抗ウイルス薬の投与が中心です。
抗ウイルス薬は、ウイルスの増殖を抑制し、症状をやわらげるために使用されます。
抗ウイルス薬の種類と特徴
代表的な抗ウイルス薬は、アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビルなどです。
これらの薬は、ウイルスのDNA合成を阻害することにより、ウイルスの増殖を抑制します。
薬剤名 | 投与経路 | 用量 |
アシクロビル | 経口 | 1回800mg, 1日5回 |
バラシクロビル | 経口 | 1回1000mg, 1日3回 |
ファムシクロビル | 経口 | 1回500mg, 1日3回 |
早期に治療を開始することが重要で、発症から48時間以内に投与を開始することが推奨されています。
治療期間と注意点
抗ウイルス薬の治療期間は、通常7〜10日間ですが、患者さんの状態によっては、治療期間を延長する必要もあります。
治療中の注意点
- 十分な休養をとること
- 栄養バランスの取れた食事をとること
- 皮膚の清潔を保つこと
鎮痛薬の使用
帯状疱疹では、神経痛による激しい痛みを伴うことがあり、鎮痛薬の使用も治療の一環です。
薬剤名 | 投与経路 | 用量 |
アセトアミノフェン | 経口 | 1回500mg, 1日3〜4回 |
ロキソプロフェン | 経口 | 1回60mg, 1日3回 |
鎮痛薬は、痛みをやわらげるために使用されますが、痛みの程度に応じて薬と用量を選択する必要があります。
合併症への対応
帯状疱疹では、帯状疱疹後神経痛、眼合併症、脳炎などの合併症を引き起こす可能性もあるので、注意が必要です。
予後と再発可能性および予防
帯状疱疹は正しい治療を行えば治る見込みは高いですが、再発するリスクもあるため、ワクチンによる発症予防が大切です。
帯状疱疹の治療と予後
帯状疱疹の治療は、抗ウイルス薬の投与が中心です。
早期に治療を開始することで、症状の緩和や治癒までの期間の短縮が期待でき、 多くの場合、2〜4週間で治癒します。
治療開始時期 | 治癒までの期間 |
発症後72時間以内 | 2〜3週間 |
発症後72時間以降 | 3〜4週間 |
合併症である帯状疱疹後神経痛については、鎮痛薬などによる対症療法が行われ、大半のケースでは数ヶ月以内に良くなりますが、なかには長引く場合もあります。
帯状疱疹の再発リスク
帯状疱疹は再発することがあります。
再発率
- 50歳未満:約5% – 50歳以上:約10%
- 免疫抑制状態の患者:20〜30%
再発のリスク因子は、高齢、免疫抑制状態、初回発症時の重症度などです。
帯状疱疹ワクチンによる予防
帯状疱疹の予防には、ワクチン接種が有効です。 現在使用されているワクチンには以下の2種類があります。
ワクチンの種類 | 対象年齢 | 接種回数 |
生ワクチン | 50歳以上 | 1回 |
不活化ワクチン | 50歳以上 | 2回 |
ワクチン接種により、発症リスクを大幅に減らせます。 特に50歳以上の方や免疫抑制状態の方は、積極的にワクチン接種を検討してください。
帯状疱疹の治療における副作用やリスク
帯状疱疹の治療では、副作用やリスクに十分注意する必要があります。
抗ウイルス薬の副作用
抗ウイルス薬は、帯状疱疹の治療に用いられますが、副作用として以下のようなものがあります。
副作用 | 症状 |
消化器症状 | 悪心、嘔吐、下痢など |
神経症状 | 頭痛、めまい、眠気など |
これらの副作用は、多くの場合、治療の継続に影響を与えるほど重篤ではありませんが、症状が強い場合は医師に相談してください。
帯状疱疹後神経痛の発症リスク
帯状疱疹の治療を行っても、一部の患者さんでは、帯状疱疹後神経痛を発症するリスクがあります。
帯状疱疹後神経痛は、帯状疱疹の痛みが治癒後も長期間持続する状態です。
帯状疱疹後神経痛の発症リスク
年齢 | 発症リスク |
50歳未満 | 10%未満 |
50歳以上 | 20%以上 |
高齢者ほど、帯状疱疹後神経痛の発症リスクが高くなることがわかります。
免疫抑制状態の患者さんへの影響
免疫抑制状態の患者さんは、帯状疱疹の重症化リスクが高いだけでなく、治療に伴う副作用のリスクも高くなります。
特に、次のような患者さんは注意が必要です。
- がん治療中の患者さん
- 臓器移植後の患者さん
- HIV感染者
これらの患者さんでは、医師との綿密な連携のもと、慎重に治療を進めていくことが求められます。
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
治療費の目安
帯状疱疹の治療費の目安
治療法 | 費用 |
抗ウイルス薬の内服 | 1万円〜3万円 |
痛み止めの処方 | 数千円〜1万円 |
保険適用について
帯状疱疹の治療は、基本的に健康保険が適用されますが、自由診療で行われる治療や、先進医療に分類される治療は、保険適用外となる場合があります。
保険適用 | 自由診療 |
抗ウイルス薬 | ワクチン接種 |
痛み止め | 漢方薬 |
高額療養費制度の利用
医療費が高額になった際は高額療養費制度の利用により自己負担額を抑制できます。
制度を利用するには事前申請が必要なので、医療機関や健康保険組合へ相談してください
以上
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