伝染性単核症 – 感染症

伝染性単核症(infectious mononucleosis)とは、EBウイルスの初感染によって発症するウイルス性の病気です。

発熱や咽頭痛、リンパ節の腫れなど、非特異的な症状が現れるため、診断が難しいことがあります。

この病気は10代から20代の若い世代に多く見られ、「キス病」という別名で呼ばれることもあります。

ほとんどのケースでは自然に治りますが、まれに重症化する可能性もあるので注意が必要です。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

伝染性単核症の種類(病型)

伝染性単核症は、典型的な伝染性単核症、非定型的な伝染性単核症、慢性活動性EBウイルス感染症 (CAEBV)、EBウイルス関連血球貪食性リンパ組織球症 (EBV-HLH) という4つの主な病型に分類されます。

典型的な伝染性単核症

典型的な伝染性単核症は、この疾患の最も一般的な病型で、発熱、扁桃炎、リンパ節の腫れなどが現れます。

この病型では、ウイルスに対する免疫応答が適切に働くため、多くのケースで自然治癒が可能です。

病型主な症状予後
典型的な伝染性単核症発熱、扁桃炎、リンパ節腫脹自然治癒が期待できる
非定型的な伝染性単核症非特異的な症状自然治癒が期待できる

非定型的な伝染性単核症

非定型的な伝染性単核症は、典型的な症状ではなく、非特異的な症状のみが現れる病型です。

免疫系が正常に機能していれば、自然治癒が期待できるケースが多いとされています。

慢性活動性EBウイルス感染症 (CAEBV)

慢性活動性EBウイルス感染症 (CAEBV) は、EBウイルスが持続的に活性化し、慢性的な症状を引き起こす病型です。

慢性活動性EBウイルス感染症 (CAEBV) の特徴

  • 6ヶ月以上続く慢性的な症状
  • EBウイルス感染細胞の増殖
  • 免疫系の異常
病型主な症状予後
慢性活動性EBウイルス感染症 (CAEBV)6ヶ月以上続く慢性的な症状適切な治療介入が必要
EBウイルス関連血球貪食性リンパ組織球症 (EBV-HLH)高熱、肝脾腫、汎血球減少早期の治療介入が不可欠

EBウイルス関連血球貪食性リンパ組織球症 (EBV-HLH)

EBウイルス関連血球貪食性リンパ組織球症 (EBV-HLH) は、EBウイルス感染に伴う免疫系の過剰な活性化により、重篤な合併症を引き起こす病型です。

高熱、肝脾腫、汎血球減少などの症状が現れ、早期の治療介入が欠かせません。

EBV-HLHは、伝染性単核症の中でも特に注意が必要な病型であり、専門医による適切な診断と治療が求められます。

伝染性単核症の主な症状

伝染性単核症の症状は、発熱、倦怠感、リンパ節の腫れ、咽頭炎などです。

発熱

伝染性単核症の初期症状として、高熱が挙げられ、患者さんの多くは38度以上の発熱を経験します。

この発熱は数日から数週間ほど続くことがあり、また、発熱とともに悪寒や寒気が現れることも。

症状発現率
38度以上の発熱90%
悪寒・寒気70%

全身倦怠感

伝染性単核症に罹患した際は全身的な倦怠感を感じやすく、 この倦怠感は日常生活に支障をきたすほど強いものになることがあります。

さらに、疲労感や脱力感が伴うこともあり、 安静にしていてもなかなか疲れが取れない方もいます。

リンパ節腫脹

伝染性単核症の特徴的な症状としてリンパ節の腫れがあり、 首や脇の下、鼠径部のリンパ節が腫脹するケースが多いです。

リンパ節腫脹は数週間から数ヶ月ほど続いたり、リンパ節が圧痛を伴って腫れ上がることもあります。。

リンパ節腫脹の好発部位

  • 脇の下
  • 鼠径部

咽頭炎

伝染性単核症では咽頭炎を発症する場合があります。

症状発現率
咽頭痛80%
嚥下痛60%
咽頭発赤90%

咽頭炎はウイルスの直接的な感染によって引き起こされます。

伝染性単核症の原因・感染経路

伝染性単核症は、エプスタイン・バー・ウイルス(EBV)による感染症で、主に唾液を通して感染が広がります。

伝染性単核症の原因ウイルス

伝染性単核症の原因はエプスタイン・バー・ウイルス(EBV)です。

EBVはヘルペスウイルス科に分類されるウイルスで、非常に感染力が強いことで知られています。

ウイルス名科名
エプスタイン・バー・ウイルス(EBV)ヘルペスウイルス科
サイトメガロウイルス(CMV)ヘルペスウイルス科

EBVに感染すると体内でウイルスが潜伏し、生涯にわたり持続感染します。

多くの人は小児期にEBVに初めて感染しますが、その多くは無症状か軽症です。

EBVの感染経路

EBVは主に感染者の唾液を介した経口感染で広がります。

感染が拡大する状況

  • キスをしたり食器を共用したりして、唾液が直接他者に接触すること
  • 感染者のくしゃみや咳で飛び散った唾液の飛沫を吸い込むこと
  • 感染者が触れた物を介して間接的に唾液が付着すること

EBVの空気感染はほとんどないため、感染者との接触や飛沫を吸い込まない限り、感染リスクは低いです。

感染経路感染リスク
唾液の直接接触高い
飛沫感染中程度
間接接触低い
空気感染ほとんどない

診察(検査)と診断

伝染性単核症の診断は、特徴的な症状や身体所見、血液検査結果などを総合的に判断することが大切です。

臨床的な診断では、発熱、扁桃炎、リンパ節腫脹という三つの主要な症状が揃っていれば、伝染性単核症である可能性が高いと考えます。

一方、確実に診断するためには、血液検査でEBウイルスに関連する抗体を調べる必要があります。

問診と身体診察

まず医師は、患者さんから症状の詳しい状況や発症時期、感染者との接触歴などについて聞き取りを行います。

中でも、発熱、扁桃炎、リンパ節腫脹の三徴候が認められるかどうかを確認することが大切です。

身体診察の際は、リンパ節の腫れや圧痛の有無、扁桃の発赤や腫脹の程度、肝臓や脾臓の腫大などを注意深く観察します。

血液検査

伝染性単核症が疑われる際には、以下のような血液検査を実施します。

検査項目目的
白血球分画異型リンパ球の増加を確認
肝機能検査肝障害の有無を確認

伝染性単核症では、異型リンパ球と呼ばれる特殊な白血球が増えることが特徴です。

また、肝機能の異常を伴うケースも少なくありません。

血清学的検査

EBウイルスに対する抗体を血液中から測定することで、伝染性単核症の確定診断ができます。

  • VCA-IgM抗体
  • VCA-IgG抗体
  • EBNA抗体

感染初期にはVCA-IgM抗体が陽性となり、回復期に入るとVCA-IgG抗体やEBNA抗体が陽性になります。

これらの抗体価の変化を追跡することで、感染時期を推測することも可能です。

鑑別診断

伝染性単核症と似た症状を示す病気とは区別する必要があります。

鑑別すべき疾患特徴
急性咽頭炎ウイルス性や細菌性の咽頭炎
川崎病乳幼児に多い全身性血管炎
白血病血液がんの一種

伝染性単核症の治療法と処方薬、治療期間

伝染性単核症の治療は、抗ウイルス薬の投与と症状に応じた対症療法が中心となります。

ほとんどのケースでは、安静と十分な休養を取ることで自然に回復しますが、合併症のリスクがある患者さんには薬物療法が必要です。

抗ウイルス薬の使用

伝染性単核症の原因であるEBウイルスに対する特効薬はありませんが、症状が重篤なケースでは抗ウイルス薬のアシクロビルやバラシクロビルが使用されることがあります。

薬剤名投与量投与期間
アシクロビル成人:1回400mg、1日5回7〜10日間
バラシクロビル成人:1回1000mg、1日2回7〜10日間

対症療法

伝染性単核症の主な症状である発熱、扁桃炎、リンパ節腫脹などに対しては、対症療法が行われます。

  • – 解熱鎮痛薬(アセトアミノフェンなど)の投与
  • – 十分な水分補給と休養
  • – うがいや口腔ケアによる口腔内の清潔維持

重症例においては、ステロイド薬(プレドニゾロンなど)が短期間使用されることもあり、のどの痛みや発熱などの症状をやわらげる効果があります。

治療期間

伝染性単核症の治療期間は、症状の重症度によって異なりますが、通常は2〜4週間程度です。

多くの患者さんは安静にしていれば自然に回復しますが、脾臓破裂などの合併症を予防するために、激しい運動は控えます。

症状治療期間の目安
発熱1〜2週間
扁桃炎2〜3週間
肝機能異常2〜4週間
脾腫3〜4週間

医療機関への受診

以下のような症状がある場合は、速やかに医療機関を受診してください。

  • – 高熱が3日以上続く場合
  • – 激しいのどの痛みがある場合
  • – 腹痛や胸痛がある場合
  • – 呼吸困難や意識障害がある場合

予後と再発可能性および予防

伝染性単核症は、治療と管理を行えば予後は良く、再発もまれですが、合併症を起こす可能性もあるため注意が必要です。

伝染性単核症の治療予後

伝染性単核症は自然に治る病気ですが、対症療法を行うことで症状をやわらげ、回復を早めることが可能です。

多くの場合、数週間から数ヶ月で症状は良くなりますが、倦怠感が長引くこともあります。

症状予後
発熱、咽頭痛、リンパ節腫脹数週間で改善
倦怠感数ヶ月持続する可能性あり

伝染性単核症の再発可能性

伝染性単核症は通常再発することはまれですが、免疫力が低下したときに再活性化することがあります。

しかし、再発しても初回感染時ほど重症化することは少なく、多くは軽症です。

伝染性単核症の合併症

伝染性単核症では、合併症を起こすことがあります。

  • 脾臓破裂
  • 髄膜炎
  • 肝炎
  • 溶血性貧血

これらの合併症は早期発見・早期治療が大切であり、注意深い経過観察が必要です。

合併症頻度
脾臓破裂0.1〜0.5%
髄膜炎1%未満

伝染性単核症の予防

現在、伝染性単核症に対するワクチンや特効薬はなく、感染予防が最も重要な対策です。

手洗いの徹底、人ごみを避ける、感染者との接触を控えるなどが挙げられます。

伝染性単核症の治療における副作用やリスク

伝染性単核症の治療に用いられる抗ウイルス薬には副作用のリスクがあり、注意が必要です。

またステロイド薬を長期間使用することもリスクを伴います。

抗ウイルス薬の副作用

伝染性単核症の治療によく使われる抗ウイルス薬には、副作用のリスクがあります。

抗ウイルス薬(アシクロビルやバラシクロビル)の副作用

副作用症状
消化器症状悪心、嘔吐、下痢、腹痛
皮膚症状発疹、かゆみ、光線過敏症

ステロイド薬の長期使用によるリスク

重症の伝染性単核症では、ステロイド薬が使用されることがあり、ステロイド薬には炎症を抑える効果がありますが、長期間使用することでリスクが伴います。

ステロイドの副作用

  • 骨粗鬆症
  • 感染症のリスク上昇
  • 血糖値の上昇
  • 体重増加

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

初診料と再診料

伝染性単核症の診断と治療のための初診料は、概ね2,000円から5,000円程度で、再診料は、初診料よりも低く設定されており、1,000円から3,000円程度が一般的です。

項目費用の目安
初診料2,000円~5,000円
再診料1,000円~3,000円

検査費用

伝染性単核症の診断に必要な血液検査や画像検査の費用

  • 血液一般検査:3,000円~5,000円
  • ウイルス抗体検査:5,000円~10,000円
  • 超音波検査:5,000円~10,000円

投薬費用

伝染性単核症の治療では、対症療法として解熱鎮痛剤や抗菌薬が処方されることがあります。

薬剤費用の目安
解熱鎮痛剤2,000円~5,000円
抗菌薬3,000円~10,000円

入院費用

重症な伝染性単核症の場合、入院治療が必要になることもあります。

入院費用は、1日あたり10,000円~20,000円程度で、入院期間によって総額が変わってきます。

以上

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