ラッサ熱 – 感染症

感染症の一種であるラッサ熱は、ラッサウイルスが原因で発症するウイルス性出血熱の一つです。

ラッサウイルスの自然宿主はマストミス属のネズミであり、ネズミの排泄物などを介してヒトへの感染が広がります。

主に西アフリカで流行しており、年間の感染者数は10万人以上に上ると推定されています。

初期症状は発熱や倦怠感などの非特異的なものが多く、重症化した場合には出血症状や多臓器不全を呈することがあります。

ラッサ熱の致死率は約1%と報告されていますが、適切な対応を行うことが重要です。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

ラッサ熱の種類(病型)

ラッサ熱には様々な病型が存在し、無症状から重症まで実に多様な臨床像を呈します。

予後は病型によって大きく異なるため、早期の診断と病型に見合った適切な管理が重要と言えます。

無症状感染

ラッサウイルスに感染しても、約80%の患者では無症状のまま経過すると考えられています。

病型頻度
無症状感染約80%
有症状感染約20%

無症状感染者は自覚症状を伴わないため、医療機関を受診することは稀です。

しかし、無症状であっても他者への感染源となる可能性があるため、注意が必要です。

軽症

有症状感染の大半は、軽症で経過します。

主な症状は以下の通りです。

  • 発熱
  • 全身倦怠感
  • 頭痛
  • 筋肉痛

これらの症状は非特異的であるため、早期の診断が困難なことがあります。

多くの患者は、対症療法のみで自然に回復します。

病型致死率
軽症1%未満
重症15~20%

重症

一部の患者において、重症化することがあります。

重症ラッサ熱の主な臨床像は以下の通りです。

  • 出血症状(歯肉出血、消化管出血など)
  • ショック
  • 急性腎不全
  • 脳炎
  • 心筋炎

これらの合併症は、致死率を大きく上昇させます。

特に、出血症状を伴う場合は、予後不良の兆候と考えられ、重症患者の管理には、集中治療が必要となります。

ラッサ熱の主な症状

ラッサ熱の症状は多様であり、病期の進行とともに変化していきます。

初期症状は非特異的なものが多いため、早期の診断が困難なことがありますが、中期以降は特徴的な症状が現れます。

初期症状(発症から1週間以内)

ラッサ熱の初期症状の特徴は、以下のような非特異的な症状が多いことです。

主な症状頻度
発熱90%以上
全身倦怠感80%以上
頭痛70~80%
筋肉痛60~70%
咽頭痛50~60%

これらの症状は、インフルエンザやその他のウイルス感染症でも見られるため、初期段階で診断を下すことは容易ではありません。

中期症状(発症から1~2週間)

発症から1週間以上が経過すると、より特異的な症状が現れ始めます。

中期に見られる主な症状は以下の通りです。

主な症状頻度
悪心・嘔吐60~70%
腹痛50~60%
下痢40~50%
咽頭の発赤・腫脹30~40%
結膜炎30~40%

この時期になると、全身症状が悪化し、患者の状態は急速に悪化していきます。

特に、嘔吐や下痢に伴う脱水は、電解質異常や循環不全を引き起こす恐れがあるため注意が必要です。

後期症状(発症から2週間以降)

発症から2週間以降は、重症化した患者において致死的な合併症が出現し始めます。

後期に見られる主な症状は以下の通りです。

  • 出血症状(歯肉出血、消化管出血など)
  • ショック
  • 急性腎不全
  • 脳炎
  • 心筋炎

これらの合併症は、多臓器不全を引き起こし、致死率を大きく上昇させます。

特に、出血症状を伴う場合は、播種性血管内凝固(DIC)を合併している可能性があり、予後不良の兆候と考えられています。

症状の多様性と重症度の判定

ラッサ熱の症状は患者によって大きく異なり、無症状から致死的な経過まで様々です。

以下のような因子が、症状の重症度に影響を与えると考えられています。

  • 年齢(高齢者は重症化リスクが高い)
  • 性別(妊婦は重症化リスクが高い)
  • 基礎疾患の有無
  • ウイルス量
  • 感染したウイルス株の病原性

医療従事者は、これらの因子を考慮しながら、患者の症状を的確に評価し、重症度を判定することが求められます。

重症度の判定には、バイタルサインや臨床症状、検査所見などを総合的に評価する必要があります。

ラッサ熱の原因・感染経路

ラッサウイルスは、マストミス属のネズミを自然宿主とするアレナウイルスの一種であり、ネズミとの接触や、感染者との接触などを介してヒトに感染します。

ここでは、ラッサウイルスの起源と感染経路の特徴について説明します。

ラッサウイルスの起源

ラッサウイルスの自然宿主は、西アフリカに生息するマストミス属のネズミ(マルチマンマスミス)であることが知られています。

ウイルス名自然宿主
ラッサウイルスマストミス属のネズミ
マールブルグウイルスオオコウモリ
エボラウイルスオオコウモリ

マストミスは、ウイルスに感染していても無症状であるため、長期間にわたってウイルスを保有し、排出し続けることができます。

ネズミの生息地域では、ウイルスに汚染された環境を介して、ヒトへの感染リスクが高まります。

動物からヒトへの感染

ラッサウイルスは、以下のような経路で動物からヒトに感染します。

  • ネズミの排泄物や体液との直接的な接触
  • ネズミの死骸との接触
  • ネズミに汚染された食品や水の摂取

西アフリカでは、ネズミの肉を食用とすることがあり、狩猟や調理の過程でウイルスに曝露されるリスクがあります。

また、ネズミの侵入を防げない住環境では、日常的な感染リスクが高くなります。

感染経路リスクの程度
ネズミの排泄物や体液との直接的な接触高い
ネズミの死骸との接触高い
ネズミに汚染された食品や水の摂取中程度

ヒトからヒトへの二次感染

ラッサウイルスは、感染者の血液や体液に直接触れることで、ヒトからヒトへの二次感染を引き起こします。

感染者を看護する家族や医療従事者は、高い感染リスクにさらされています。

また、感染者の遺体との接触も、ウイルス伝播の重要な経路の一つで、葬儀での遺体との直接的な接触は、アフリカにおける感染拡大の主な要因となっています。

以下のような状況では、二次感染のリスクが特に高くなります。

  • 感染予防策が不十分な医療機関での患者の診療
  • 感染者の体液や排泄物の不適切な処理
  • 感染者との性的接触
  • 感染者の出産時の母子感染

診察(検査)と診断

ラッサ熱の診断においては、臨床所見と検査所見の両方が重要な役割を果たします。

ここでは、ラッサ熱の診断における臨床所見と検査方法の特徴について説明します。

臨床所見による診断

ラッサ熱の診断において、臨床所見は重要な手がかりとなります。

主な臨床所見特徴
発熱38℃以上の高熱
全身症状頭痛、筋肉痛、倦怠感など
消化器症状悪心、嘔吐、腹痛、下痢など
出血症状皮膚や粘膜からの出血

これらの症状に加えて、以下のような疫学的情報も診断の手がかりとなります。

  • 西アフリカの流行地域への渡航歴
  • ネズミとの接触歴
  • 感染者との接触歴

臨床所見と疫学的情報を組み合わせることで、ラッサ熱を疑うことができます。

検査による確定診断

ラッサ熱の確定診断には、以下のような検査が用いられます。

検査方法検出対象
血清学的検査(ELISA法、中和試験など)IgM抗体、IgG抗体
ウイルス分離ラッサウイルス
遺伝子検出検査(RT-PCR法など)ウイルス遺伝子

これらの検査は、発症初期の血液や体液を用いて行われ、特に、血清学的検査は、感度が高く、確定診断に有用です。

ただし、IgM抗体の検出には発症後数日を要するため、発症早期の診断には限界があります。

バイオセーフティの確保

ラッサウイルスは、感染力が非常に強く、致死率も高いため、検査には高度なバイオセーフティ対策が必要です。

検体の採取や輸送、検査の実施に際しては、以下のような点に注意が必要です。

  • 適切な個人防護具の使用
  • 検体の安全な取り扱い
  • 検査室の隔離と消毒
  • 検査従事者の健康管理

バイオセーフティを確保することは、検査の安全性と精度を保証する上で欠かせません。

ラッサ熱の治療法と処方薬

ラッサ熱に対する治療は、主に対症療法と支持療法が中心となります。

また、抗ウイルス薬のリバビリンが有効とされており、重症例では積極的に使用されます。

支持療法の重要性

ラッサ熱の治療において、支持療法は患者の生命予後を改善する上で重要な役割を果たします。

支持療法には、以下のようなものがあります。

支持療法の種類目的
輸液・電解質管理脱水と電解質異常の補正
呼吸管理呼吸不全の予防と治療
血液製剤の投与出血傾向の改善
二次感染の予防細菌感染症の予防

これらの支持療法を適切に行うことで、患者の全身状態を改善し、合併症を予防することができます。

特に、重症例では集中治療室での全身管理が必要となります。

リバビリンによる抗ウイルス療法

リバビリンは、ラッサウイルスに対する抗ウイルス作用を持つ核酸アナログ製剤です。

以下のような投与方法が用いられます。

投与経路用法・用量
経口1日2回、1回2g、10日間
静脈内初日30mg/kg、その後15mg/kg、9日間

リバビリンの使用は、発症早期から開始することが重要です。

治療開始が遅れると、効果が減弱する可能性があります。

また、リバビリンには催奇形性があるため、妊婦への投与は禁忌です。

治療効果と予後

リバビリンを用いた治療の効果は、投与開始時期によって大きく異なります。

以下のような治療成績が報告されています。

  • 発症6日以内に治療開始した場合:致死率が10%未満に低下
  • 発症7日以降に治療開始した場合:致死率は30%以上に上昇

早期診断と早期治療の開始が、患者の予後を改善する上で欠かせません。

また、重症度や合併症の有無も予後に大きく影響します。

出血症状や多臓器不全を伴う重症例では、致死率が50%以上に達することがあります。

治療体制の整備

ラッサ熱の治療では、適切な感染管理と専門的な治療体制の整備が重要です。

以下のような取り組みが必要とされています。

  • 隔離設備を備えた専門病棟の設置
  • 感染管理に精通した医療スタッフの育成
  • リバビリンを含む必要な医療資源の確保
  • 重症例に対応できる集中治療体制の整備

特に、流行地域では、これらの治療体制を予め整えておくことが、アウトブレイク対応の鍵となります。

治療に必要な期間と予後について

ラッサ熱の治療期間と予後は、病型によって大きく異なります。

軽症例では比較的短期間で回復が期待できる一方、重症例では長期の治療を要し、予後不良となることが少なくありません。

軽症例の治療期間と予後

軽症例では、支持療法とリバビリンによる治療で、比較的短期間での回復が期待できます。

病型治療期間予後
軽症1~2週間良好
重症数週間~数ヶ月不良

多くの場合、発症から1~2週間程度で症状は改善し、後遺症なく治癒します。

致死率は1%未満であり、適切な治療が行われれば、予後は良好と言えます。

ただし、一部の症例では重症化するリスクがあるため、慎重な経過観察が必要です。

重症例の治療期間と予後

重症例では、集中治療を要する期間が長期化し、治療に数週間から数ヶ月を要することがあります。

重症患者では、以下のような合併症を伴うことが多いです。

合併症の種類頻度予後への影響
出血症状高い重度の貧血や脳出血により予後不良
急性腎不全高い透析療法を要し、予後不良
脳炎中程度神経学的後遺症を残す可能性あり
心筋炎中程度心不全を引き起こし、予後不良

これらの合併症は、治療を難渋させ、予後を悪化させる要因となります。

重症例の致死率は15~20%と高く、集中治療を行っても救命が困難なことが少なくありません。

予後不良因子

ラッサ熱の予後を悪化させる因子として、以下のようなものが知られています。

  • 高齢
  • 妊娠
  • 発症から治療開始までの期間が長い
  • 高ウイルス血症
  • 腎機能障害

これらの因子を有する患者では、重症化のリスクが高く、予後不良となる傾向があります。

特に、妊婦では致死率が30%以上に達すると報告されています。

早期治療の重要性

ラッサ熱の予後を改善するためには、早期診断と早期治療が重要です。

発症から治療開始までの期間が長いほど、重症化のリスクが高まり、予後不良となります。

治療開始時期予後
発症6日以内良好
発症7日以降不良

リバビリンの投与は、発症6日以内に開始することで、最も高い治療効果が得られます。

疑い例を早期に発見し、速やかに治療を開始することが、患者の生命予後を改善する上で欠かせません。

ラッサ熱の治療における副作用やリスク

ラッサ熱の治療では、リバビリンによる副作用と、支持療法に伴うリスクが存在します。

リバビリンの副作用

ラッサ熱の治療に用いられるリバビリンには、以下のような副作用が報告されています。

副作用の種類頻度
溶血性貧血高い
白血球減少中程度
血小板減少中程度
肝機能障害中程度

特に、溶血性貧血は高頻度で発生し、重篤な場合には輸血を必要とすることがあります。

また、白血球減少や血小板減少は、二次感染や出血のリスクを高める可能性があります。

リバビリンの投与にあたっては、定期的な血液検査による副作用のモニタリングが欠かせません。

催奇形性のリスク

リバビリンには催奇形性があるため、妊婦への投与は禁忌とされています。

また、投与中および投与終了後一定期間は、避妊が必要です。

対象避妊期間
男性患者投与終了後7ヶ月
女性患者投与終了後4ヶ月

リバビリンが精子や卵子に及ぼす影響は、投与終了後も一定期間持続するため、これらの避妊期間を遵守することが重要です。

また、投与中は定期的な妊娠検査を行い、妊娠が判明した場合には速やかに投与を中止する必要があります。

支持療法に伴うリスク

ラッサ熱の支持療法では、以下のようなリスクが存在します。

  • 輸血による感染症伝播や輸血関連急性肺障害(TRALI)
  • 人工呼吸器関連肺炎(VAP)
  • カテーテル関連血流感染(CRBSI)
  • 薬剤耐性菌の選択

特に、重症患者では侵襲的なデバイスの使用が避けられないため、これらのリスクは高くなります。

感染管理の徹底と、デバイスの適切な管理が重要です。

また、抗菌薬の使用にあたっては、薬剤耐性菌の出現を防ぐために、適正使用が求められます。

予防方法

ラッサ熱の予防には、感染リスクの管理と発生時の迅速な対応が重要です。

感染リスクの管理

ラッサ熱の感染リスクを管理するためには、以下のような対策が必要です。

対策の種類内容
ネズミの駆除生息地の清掃、殺鼠剤の使用など
食品の保護ネズミの侵入を防ぐ保管方法の徹底
個人防護具の使用マスク、手袋、ゴーグルなどの着用
手指衛生の徹底石鹸と水による手洗いや、アルコール手指消毒薬の使用

特に、ネズミの駆除は、ラッサウイルスの主要な感染源を制御する上で欠かせません。

また、食品をネズミから保護することは、経口感染を防ぐために重要です。

医療機関では、感染が疑われる患者の診療にあたる際、適切な個人防護具の使用が求められます。

発生時の対策

ラッサ熱の発生が確認された場合、以下のような対策が必要です。

対策の種類目的
疑い例の早期発見と隔離感染拡大の防止
接触者の特定と健康観察二次感染の早期発見
感染経路の調査と制御感染源の特定と制御
医療機関における感染管理の徹底医療関連感染の防止

また、接触者の特定と健康観察は、二次感染の早期発見に役立ちます。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

ラッサ熱の治療には、以下のような費用がかかります。

費用項目概算費用
入院費(1日あたり)500~1,000 USD
集中治療室費用(1日あたり)1,000~2,000 USD
リバビリン(1コース)1,000~2,000 USD
支持療法(輸血、呼吸管理など)5,000~10,000 USD

重症例では、数週間の入院治療を要することがあり、総医療費は数万USドルに上ることもあります。

以上

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