レジオネラ菌による感染症の一種であるレジオネラ感染症は、急性の肺炎症状が特徴的な病気です。
通常、潜伏期間は2日から10日ほどで、発熱や咳、息切れ、頭痛、筋肉痛などの症状が現れます。
重症化した際には、呼吸不全や多臓器不全を引き起こすこともあり、致死率は10%から15%と高くなっています。
主な感染経路は、レジオネラ菌に汚染された水や土壌から飛沫を吸入することによるものです。
レジオネラ感染症の種類(病型)
レジオネラ感染症の病型は以下の3つに大別できます。
- ポンティアック熱
- レジオネラ肺炎
- 肺外レジオネラ症
ポンティアック熱
ポンティアック熱は、レジオネラ属菌による感染症の一種で、インフルエンザ様症状を示します。
潜伏期間は1~2日と短く、発熱、倦怠感、筋肉痛などの症状が現れますが、肺炎を伴わないのが特徴です。 多くの場合、自然治癒します。
レジオネラ肺炎
レジオネラ肺炎は、レジオネラ属菌による肺炎で、レジオネラ症の中で最も重篤な病型です。
潜伏期間は2~10日で、高熱、咳、呼吸困難などの症状が現れます。
重症化した際には、呼吸不全や多臓器不全を引き起こすこともあり、致死率は10~15%と高くなっています。
レジオネラ肺炎の重症度分類 | 軽症 | 中等症 | 重症 |
致死率 | 低い | 中程度 | 高い |
抗菌薬治療の必要性 | 必要 | 必要 | 必要 |
肺外レジオネラ症
肺外レジオネラ症は、肺以外の臓器にレジオネラ属菌が感染することで発症します。
心内膜炎、髄膜炎、腹膜炎などの病型があります。 比較的まれな病型ですが、免疫力が低下している患者さんで発症する可能性があります。
レジオネラ感染症に見られる主な症状と特徴
レジオネラ感染症は、症状が非特異的であるため、早期発見が難しい感染症の一つとされています。
インフルエンザ様症状
レジオネラ感染症の初期症状は、インフルエンザに似ており、発熱、悪寒、頭痛、筋肉痛などの症状が現れます。
これらの症状は他の呼吸器感染症でも見られるため、レジオネラ感染症と確定診断するのが難しい場合があります。
症状 | レジオネラ感染症 | インフルエンザ |
発熱 | 高熱(39℃以上) | 高熱(38℃以上) |
悪寒 | あり | あり |
頭痛 | あり | あり |
筋肉痛 | あり | あり |
呼吸器症状
レジオネラ肺炎の呼吸器症状は以下のようなものがあります。
- 咳(乾性咳嗽から湿性咳嗽へ変化)
- 痰(粘稠で膿性のことが多い)
- 呼吸困難 ・胸痛
咳、痰、呼吸困難などの症状が特徴的で、特に、乾性咳嗽から次第に湿性咳嗽に変化していくことが多いとされています。
消化器症状
レジオネラ感染症では、消化器症状を伴うことがあります。
下痢、腹痛、嘔吐などの症状が現れる場合があります。
これらの症状は他の感染症でも見られるため、診断の手がかりにはなりにくいですが、レジオネラ感染症を疑う際の参考になります。
症状 | 頻度 |
下痢 | 25~50% |
腹痛 | 10~20% |
嘔吐 | 10~20% |
重症化した場合の症状
レジオネラ感染症が重症化した場合、より重篤な症状が現れます。
呼吸不全、敗血症、多臓器不全などの合併症を引き起こす可能性があります。 特に、高齢者や免疫力が低下している人では、重症化のリスクが高くなります。
レジオネラ感染症を引き起こす原因と感染経路
レジオネラ感染症の原因菌の特徴や感染経路について紹介します。
レジオネラ属菌とは
レジオネラ属菌は、グラム陰性桿菌の一種で、自然環境に広く分布しています。
現在、60種以上のレジオネラ属菌が知られており、そのうちレジオネラ・ニューモフィラが最も多くのレジオネラ感染症の原因となっています。
レジオネラ属菌の特徴 |
グラム陰性桿菌 |
好気性菌 |
水環境に生息 |
バイオフィルムを形成 |
レジオネラ属菌の生息場所
レジオネラ属菌は、自然界の水環境に広く分布していて、特に、温泉水、河川水、土壌などに生息しています。
また、人工的な水環境でも増殖することがあり、空調設備の冷却塔水、給湯設備、加湿器などから検出されることがあります。
レジオネラ属菌が検出される主な水環境は以下の通りです。
- 冷却塔水
- 給湯設備
- 温泉水
- 加湿器
- 噴水
レジオネラ感染症の感染経路
レジオネラ感染症は、レジオネラ属菌に汚染された水が発生源となり、主に以下の感染経路で感染します。
感染経路 | 概要 |
飛沫感染 | レジオネラ属菌を含むエアロゾルを吸入することで感染 |
誤嚥 | レジオネラ属菌を含む水を誤って気道に吸引することで感染 |
特に、空調設備や給湯設備などでレジオネラ属菌が増殖し、そこから発生するエアロゾルを吸入することで感染する例が多いとされています。
レジオネラ属菌の増殖要因
レジオネラ属菌は、以下のような条件で増殖しやすいことが知られています。
- 水温が25~45℃程度の温水環境
- 水が停滞している環境
- 他の微生物が存在する環境
- 栄養分が豊富な環境
これらの条件が揃う環境では、レジオネラ属菌が急激に増殖する可能性があるため、注意が必要不可欠です。
診察(検査)と診断
レジオネラ感染症は、症状が非特異的であるため、診察や検査による適切な診断が不可欠です。
レジオネラ感染症の診察
レジオネラ感染症の診察では、以下のような点に着目します。
診察のポイント | 評価内容 |
呼吸器症状 | 発熱、咳、呼吸困難など |
全身症状 | 頭痛、筋肉痛、消化器症状など |
リスク因子 | 年齢、基礎疾患、免疫状態など |
感染源への曝露歴 | 集団発生の可能性がある場合 |
これらの情報を総合的に評価し、レジオネラ感染症を疑うかどうかを判断します。
レジオネラ感染症の臨床診断
レジオネラ感染症の臨床診断は、以下の検査結果を組み合わせて行います。
臨床診断に用いる主な検査 | 検査内容 |
胸部画像検査 | 胸部X線写真、胸部CT検査 |
血液検査 | 炎症反応(CRP、白血球数)の評価 |
尿中抗原検査 | レジオネラ肺炎血清群1型の抗原検出 |
特に、尿中抗原検査は迅速かつ特異度が高いため、レジオネラ感染症の臨床診断に有用です。
レジオネラ感染症の確定診断
レジオネラ感染症の確定診断は、以下の検査方法により行います。
確定診断に用いる検査方法 | 検査内容 |
菌の分離培養 | 呼吸器検体からのレジオネラ属菌の分離 |
PCR検査 | 呼吸器検体、肺組織、血液などからのレジオネラ属菌の遺伝子検出 |
血清抗体価の測定 | ペア血清を用いた抗体価の有意な上昇の確認 |
これらの検査は、特異度が高い反面、結果を得るまでに時間を要するため、臨床診断に基づいて早期に治療を開始することが大切です。
レジオネラ感染症に対する治療法と処方される薬剤
レジオネラ感染症の治療には、適切な抗菌薬の使用が大切です。
レジオネラ感染症の治療方針
レジオネラ感染症の治療方針は、以下の点を考慮して決定されます。
治療方針の決定因子 | 考慮事項 |
患者の状態 | 重症度、基礎疾患の有無 |
原因菌の特性 | 薬剤感受性 |
薬剤の特性 | 副作用、相互作用 |
一般的に、早期から適切な抗菌薬治療を開始することが重要とされています。
レジオネラ感染症の第一選択薬
レジオネラ感染症の第一選択薬は、以下の薬剤が推奨されています。
第一選択薬 | 薬剤名 |
ニューキノロン系抗菌薬 | レボフロキサシン、シプロフロキサシンなど |
マクロライド系抗菌薬 | アジスロマイシン、クラリスロマイシンなど |
これらの薬剤は、レジオネラ属菌に対して優れた抗菌活性を示し、臨床的にも高い有効性が確認されています。
代替薬
第一選択薬が使用できない場合や、重症例では以下の薬剤が代替薬として使用されることがあります。
- テトラサイクリン系抗菌薬(ミノサイクリンなど)
- リファンピシン(ニューキノロン系やマクロライド系との併用)
ただし、これらの薬剤は副作用のリスクが高いため、慎重な使用が必要です。
治療に必要な期間と予後について
レジオネラ感染症の治療期間と予後は、患者の状態や治療開始の時期によって大きく異なります。
レジオネラ感染症の治療期間
レジオネラ感染症の治療期間は、以下の因子によって決定されます。
- 患者の重症度
- 基礎疾患の有無
- 治療開始の時期
- 使用する抗菌薬の種類
重症度 | 治療期間 |
軽症~中等症 | 7~14日間 |
重症 | 14~21日間 |
早期治療開始の重要性
レジオネラ感染症の予後を改善するためには、早期に適切な治療を開始することが大切です。
治療開始が遅れると、以下のようなリスクが高まります。
- 重症化のリスク
- 合併症の発生リスク
- 死亡率の上昇
予後
レジオネラ感染症の予後は、以下の因子によって左右されます。
- 患者の年齢や基礎疾患の有無
- 治療開始の時期
- 原因菌の種類や薬剤感受性
適切な治療が行われた場合、軽症から中等症では予後良好ですが、重症例では死亡率が10~20%にも達します。
レジオネラ感染症の治療における副作用やリスク
レジオネラ感染症の治療では、抗菌薬の使用が大切ですが、同時に副作用やリスクも考慮しなければなりません。
抗菌薬の副作用
レジオネラ感染症の治療に使用される抗菌薬には、以下のような副作用があります。
抗菌薬 | 主な副作用 |
ニューキノロン系 | 消化器症状、中枢神経系症状、腱障害 |
マクロライド系 | 消化器症状、肝機能障害、QT延長 |
テトラサイクリン系 | 消化器症状、光線過敏症、歯牙着色 |
リファンピシン | 肝機能障害、インフルエンザ様症状 |
これらの副作用は、使用する抗菌薬の種類や投与量、患者の状態によって異なります。
薬剤相互作用のリスク
レジオネラ感染症の治療では、複数の薬剤を併用することがあり、薬剤相互作用のリスクに注意が必要です。
特に、以下のような組み合わせには注意が必要です。
- ニューキノロン系とステロイド薬(腱障害のリスク増加)
- マクロライド系とワルファリン(出血リスクの増加)
- リファンピシンと経口避妊薬(避妊効果の減弱)
耐性菌出現のリスク
レジオネラ属菌において、ニューキノロン系やマクロライド系に対する耐性株が報告されています。
耐性菌の出現を防ぐためには、以下の点に注意が必要です。
- 抗菌薬の必要性を十分に検討する
- 適切な薬剤を選択する
- 適切な用法・用量を遵守する
- 不必要な長期投与を避ける
基礎疾患悪化のリスク
レジオネラ感染症の治療では、基礎疾患を悪化させるリスクにも注意が必要です。
特に、以下のような基礎疾患を有する患者では注意が必要です。
基礎疾患 | 注意すべき副作用 |
慢性腎臓病 | 腎機能悪化 |
慢性肝疾患 | 肝機能悪化 |
心疾患 | QT延長による不整脈 |
予防方法
レジオネラ感染症を予防するためには、レジオネラ属菌の増殖を抑制し、感染リスクを減らすことが大切です。
水環境の適切な管理
レジオネラ属菌は、水環境に広く分布しています
特に、温泉水、冷却塔水、給湯設備などでは、レジオネラ属菌が増殖しやすい環境となっています。
これらの水環境を適切に管理することが、レジオネラ感染症の予防に不可欠です。
水環境 | 管理方法 |
冷却塔水 | 定期的な清掃と消毒、適切な水質管理 |
給湯設備 | 貯湯温度を60℃以上に保つ、定期的な点検と清掃 |
温泉水 | 適切な消毒と濾過、配管の定期的な清掃 |
エアロゾルの発生抑制
レジオネラ感染症は、主にレジオネラ属菌を含むエアロゾルを吸入することで発症するため、エアロゾルの発生を抑制することが予防につながります。
特に、以下のような場面では注意が必要です。
- シャワーや温泉の利用時
- 加湿器や噴水の近くでの作業時
- 冷却塔の近くでの作業時
エアロゾルの発生を抑制するためには、適切な換気や水の飛散防止対策が重要です。
免疫力の低下した人への対策
免疫力の低下した人は、レジオネラ感染症の高リスク群です。特に、以下のような人は注意が必要です。
免疫力の低下した人 | 予防対策 |
高齢者 | 水環境の管理徹底、感染リスクの高い場所への立ち入り制限 |
免疫抑制状態の患者 | 感染予防対策の徹底、不要な外出の制限 |
慢性肺疾患患者 | 感染リスクの高い場所での感染予防対策の徹底 |
喫煙者 | 禁煙または感染リスクの高い場所での喫煙制限 |
これらの高リスク群に対しては、水環境の管理や感染予防対策の徹底が重要です。 また、感染リスクの高い場所への不要な立ち入りを避けることも大切です。
治療費
レジオネラ感染症の治療費は、患者の重症度や保険適用の有無によって大幅に変動します。
軽症の場合、外来治療で済むことが多く、治療費は比較的安価ですが、重症化した際には入院治療が必要となり、治療費は高額になります。
また、使用する抗菌薬が保険適用外のことがあり、その場合、自己負担額が増加するので、重症度や保険適用の有無によって数万円から数百万円まで幅があります。
以上
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