リステリア症 – 感染症

リステリア症(listeriosis)とは、リステリア菌による食品由来の感染症です。

リステリア菌は、土壌や水、動物の腸管内に広く生息し、食品を介してヒトに感染することがあります。

感染の原因は、汚染された食品、特に加熱が不十分な肉製品、未殺菌の乳製品、コールドカットや生野菜などです。

妊婦がリステリア菌に感染した場合、胎児感染を引き起こし、流産や早産、死産のリスクが高まることがあります。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

リステリア症の種類(病型)

リステリア症は、感染部位や臨床経過に基づいて、敗血症型、髄膜炎型、胃腸炎型、妊娠関連リステリア症の4つの病型に分類されます。

敗血症型

敗血症型は、リステリア菌が血液中に侵入し、全身性の感染症を引き起こす病型です。

この病型は、免疫力が低下している人や高齢者において重症化しやすい傾向があります。

敗血症型は、リステリア症の中でも重篤な病型の一つであり、迅速な診断と対応が必要です。

病型感染部位リスク因子
敗血症型血流免疫力低下、高齢
髄膜炎型髄膜新生児、高齢者

髄膜炎型

髄膜炎型は、リステリア菌が髄膜に感染し、炎症反応を引き起こす病型です。 この病型は、新生児や高齢者で発症しやすいことが知られています。

髄膜炎型は、中枢神経系に影響を及ぼしたり、脳症や脳膿瘍などの合併症を引き起こす可能性があるので、早期の診断と介入が重要です。

胃腸炎型

胃腸炎型は、リステリア菌が消化管に感染し、胃腸炎を引き起こす病型で、 他の病型と比べて軽症であることが多いです。

ただし、胃腸炎型であっても、脱水などの合併症を予防するための対処が求められます。

病型感染経路潜伏期間
胃腸炎型経口感染数時間~数日
妊娠関連リステリア症経胎盤感染変動

妊娠関連リステリア症

妊娠関連リステリア症は、妊娠中の女性がリステリア菌に感染した際に発症する病型です。

この病型では、リステリア菌が胎盤を通過し、胎児に感染する可能性があり、重大な合併症を引き起こすことがあります。

  • 流産
  • 早産
  • 死産
  • 新生児のリステリア感染症(敗血症、髄膜炎、肺炎など)

妊娠関連リステリア症は、母体と胎児の両方に深刻な影響を及ぼすことがあるため、予防措置と早期発見が極めて重要視されます。

リステリア症の主な症状

リステリア症は、感染が生じた経路や宿主の免疫状態によって、さまざまな臨床症状が現れます。

敗血症型

敗血症型は、突然の高熱、悪寒、全身倦怠感などの敗血症症状を呈し、ショックや多臓器不全を合併することがあります。

また、皮疹、肝脾腫、黄疸などの非特異的な症状を伴うことも。 高齢者や免疫抑制状態の患者さんに多く見られ、予後不良の経過をたどる場合があります。

症状頻度
発熱90%以上
悪寒50-70%
全身倦怠感50-70%
ショック10-20%
多臓器不全5-10%

髄膜炎型

髄膜炎型は、リステリア菌が中枢神経系に感染を引き起こす病型です。

頭痛、発熱、項部硬直、意識障害などの典型的な髄膜炎症状に加え、脳神経麻痺、小脳失調、けいれんなどの多彩な神経症状が現れることがあります。

髄液検査では、細胞数増加(主にリンパ球)、蛋白増加、糖低下などの所見を認めます。

高齢者や免疫抑制状態の患者さんに多く見られ、神経学的後遺症を残すことがあるので注意が必要です。

症状頻度
頭痛80%以上
発熱90%以上
項部硬直50-70%
意識障害30-50%
脳神経麻痺10-30%
小脳失調10-20%
けいれん5-10%

胃腸炎型

胃腸炎型は、リステリア菌が消化管に感染を引き起こす病型です。 下痢、発熱、腹痛などの症状を呈しますが、多くは自然軽快します。

下痢は水様性または血性で、時に粘液を伴い、腹痛は軽度から中等度で、左下腹部に多く見られます。

胃腸炎型の主な症状と特徴

  • 下痢(水様性または血性、粘液を伴うことあり)
  • 発熱(通常は38℃以下)
  • 腹痛(軽度から中等度、左下腹部に多い)
  • 嘔気・嘔吐
  • 全身倦怠感

妊娠関連リステリア症

妊娠関連リステリア症は、妊婦がリステリア菌に感染し、胎児に感染が波及する病型です。

妊婦自身は無症状か、インフルエンザ様症状(発熱、筋肉痛、頭痛など)がある程度ですが、胎児感染により流産、早産、死産のリスクが高まります。

新生児では、早発型(生後1週間以内)と遅発型(生後1週間以降)に分けられ、敗血症、髄膜炎、肺炎などの重篤な感染症を発症することも。

早発型では、敗血症、呼吸障害、肝脾腫、血小板減少などを呈し、遅発型では、髄膜炎が多く見られます。

リステリア症の原因・感染経路

リステリア症は、リステリア菌による感染が原因で発症する人獣共通感染症です。

リステリア菌

リステリア症の原因菌であるリステリア菌は、グラム陽性の桿菌で、自然環境中に広く分布しています。 この菌は、低温環境下でも増殖することが可能であり、食品の汚染源となることがあります。

リステリア菌の特徴詳細
グラム陽性桿菌グラム染色で青紫色に染まる
低温増殖性冷蔵庫内でも増殖可能

食品を介した感染

リステリア症の主な感染経路は、汚染された食品を介した経口感染です。

リステリア菌に汚染されている可能性がある食品

  • 生乳や低温殺菌乳
  • ソフトチーズ
  • 加工肉製品(ハム、ソーセージなど)
  • 未殺菌の魚介類
  • 汚染された生野菜

これらの食品を介して、リステリア菌が体内に侵入し、感染が成立します。

母子感染

リステリア菌は、母子感染を引き起こすことがあり、 感染した妊婦から胎児や新生児に感染が伝播します。

母子感染の経路詳細
経胎盤感染胎盤を介して胎児に感染
産道感染分娩時に産道を通過する際に感染

母子感染が成立した際には、流産、早産、死産などの重大な結果を招く可能性があります。

その他の感染経路

まれではありますが、リステリア菌は、以下のような経路でも感染を引き起こすことがあります。

  • 感染動物との直接接触
  • 感染者との接触(医療従事者など)
  • 汚染された環境からの感染

これらの感染経路は、食品を介した感染や母子感染と比べると頻度は低いですが、注意が必要です。

診察(検査)と診断

リステリア症の診断には、臨床所見、細菌学的検査、血清学的検査を組み合わせた多角的なアプローチが大切です。

臨床所見

リステリア症を疑う臨床所見

病型主な臨床所見
敗血症型発熱、悪寒、全身倦怠感
髄膜炎型頭痛、発熱、項部硬直、意識障害
胃腸炎型下痢、発熱、腹痛
妊娠関連型妊婦の発熱、流早産、新生児の敗血症・髄膜炎

これらの所見は特異的ではないため、他の感染症との鑑別が必要です。

細菌学的検査

リステリア症の確定診断には、細菌学的検査が不可欠です。 検体は、血液、髄液、胎盤、新生児の胃内容物などが用いられます。

グラム染色で、グラム陽性の短桿菌を認めることが特徴的ですが、検出感度は高くありません。

検査特徴
グラム染色グラム陽性短桿菌
培養検査低温培養(4℃)で増殖
PCR法迅速・高感度

培養検査では、低温培養(4℃)でリステリア菌の増殖を確認しますが、近年では、PCR法による迅速・高感度な検出法も普及しつつあります。

血清学的検査

血清学的検査は、補助的な診断法として用いられます。 リステリア菌に対する抗体価の上昇を確認することで、感染の証拠とすることが可能です。

ただし、抗体価の上昇には時間を要するため、急性期診断には適していません。

主な血清学的検査法

  • 補体結合反応
  • 間接蛍光抗体法
  • ELISA法

リステリア症の治療法と処方薬、治療期間

リステリア症の治療においては、抗菌薬の投与が中心的な役割を果たし、患者さんの病型や全身状態に応じて、抗菌薬の選択と投与期間の設定が必要です。

抗菌薬治療

リステリア症の治療に用いられる主な抗菌薬

抗菌薬特徴
アンピシリン第一選択薬、細胞壁合成阻害
ゲンタマイシンアミノグリコシド系、タンパク質合成阻害

アンピシリンは、リステリア症の第一選択薬です。 ゲンタマイシンは、アンピシリンとの併用により相乗効果が期待できます。

治療期間

リステリア症の治療期間は、病型や重症度によって異なります。

一般的な治療期間

  • 敗血症型:2~3週間
  • 髄膜炎型:3~4週間
  • 胃腸炎型:7~10日間

ただし、患者さんの状態によっては、治療期間の延長が必要となることがあります。

妊婦および新生児の治療

妊婦がリステリア症に罹患した際には、胎児への感染リスクを考慮した治療が必要です。

妊婦に対して使用される抗菌薬

抗菌薬特徴
アンピシリン第一選択薬、胎盤通過性あり
ペニシリンG代替薬、胎盤通過性あり

新生児のリステリア症に対しては、アンピシリンとゲンタマイシンの併用療法が行われ、治療期間は、通常3~4週間です。

免疫抑制状態の患者さんの治療

免疫抑制状態の患者さんでは、リステリア症が重症化しやすいため、積極的な治療介入が必要です。

使用が検討される抗菌薬

  • アンピシリン
  • ゲンタマイシン
  • トリメトプリム・スルファメトキサゾール

免疫抑制状態の患者さんでは、治療期間の延長が必要となる場合があります。

予後と再発可能性および予防

抗菌薬治療を行えば、リステリア症の予後は概ね良好ですが、再発のリスクを考慮した長期的な管理が大切です。

予後

リステリア症の予後は、宿主の免疫状態や治療開始までの時間に大きく依存します。

健康な成人では、抗菌薬治療により速やかに改善し、後遺症を残すことはまれです。

一方、高齢者、免疫抑制状態の患者さん、新生児では、治療反応性が乏しく、死亡率も高くなります。

病型予後良好因子予後不良因子
敗血症型若年、免疫正常高齢、免疫抑制
髄膜炎型早期診断・治療意識障害、けいれん
胃腸炎型健康成人乳幼児、高齢者
妊娠関連型早期治療介入胎児感染、早産

再発

リステリア症の再発はまれですが、以下のような患者さんでは注意が必要です。

  • 免疫抑制状態の患者さん
  • 中枢神経系感染を伴った患者さん
  • 治療が不十分だった患者さん

再発を防ぐためには、十分な期間の抗菌薬治療と、定期的なフォローアップが必要です。

予防

妊婦、高齢者、免疫抑制状態の患者さんが注意すべき点

  • 加熱不十分な食肉、未殺菌乳製品の摂取を避ける
  • 生野菜は十分に洗浄する
  • 調理器具は清潔に保つ

また、リステリア菌に汚染された食品のリコールにも注意が必要です。

予防対象具体的指導
妊婦デリカテッセン食品、ソフトチーズ、生野菜の摂取制限
高齢者加熱不十分な食肉、未殺菌乳製品の摂取制限
免疫抑制患者上記に加え、生野菜の摂取制限

リステリア症の治療における副作用やリスク

リステリア症の治療では、抗菌薬の使用に伴う副作用やリスクを十分に理解する必要があります。

アンピシリンの副作用

アンピシリンは、リステリア症の第一選択薬として使用され、いくつかの副作用が報告されています。

副作用詳細
アレルギー反応発疹、掻痒感、アナフィラキシーショック
消化器症状悪心、嘔吐、下痢

アレルギー反応は、重篤な場合、生命を脅かす危険性があり、 消化器症状は、患者さんの生活の質を低下させる要因です。

ゲンタマイシンの副作用

ゲンタマイシンの副作用

  • 腎毒性
  • 聴覚障害
  • 前庭障害

これらの副作用は、投与量や投与期間に依存して現れ、特に、高齢者や腎機能が低下している患者さんでは、慎重な投与が必要です。

副作用リスク因子
腎毒性高齢、腎機能低下
聴覚障害高用量、長期投与

抗菌薬関連下痢症

抗菌薬の使用に伴い、抗菌薬関連下痢症が発現する可能性があります。 特に、クロストリジウム・ディフィシルによる偽膜性大腸炎は、重篤な合併症です。

抗菌薬関連下痢症のリスク因子

  • 高齢
  • 長期の抗菌薬投与
  • 複数の抗菌薬の併用
  • 免疫抑制状態

抗菌薬関連下痢症の予防には、抗菌薬の使用が不可欠です。

薬物相互作用

リステリア症の治療に用いられる抗菌薬は、他の薬剤との相互作用に注意が必要です。

併用に注意が必要な薬剤

  • 腎毒性のある薬剤(シクロスポリン、タクロリムスなど)
  • 聴覚障害を引き起こす薬剤(フロセミド、エタクリン酸など)
  • 筋弛緩作用のある薬剤(スキサメトニウムなど)

薬物相互作用による副作用を防ぐためには、患者さんの服用薬を十分に確認する必要があります。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

初診料・再診料

初診料は、3,000円から5,000円程度で、 再診料は、1,000円から2,000円程度が一般的です。

診療内容費用
初診料3,000円〜5,000円
再診料1,000円〜2,000円

検査費

リステリア症の診断には、血液検査、細菌学的検査、画像検査などが行われ、合計で数万円から10万円以上になることもあります。

処置費

重症のリステリア症では、集中治療室での管理が必要になることがあり、 人工呼吸器管理や血液浄化などの高度な治療には、多額の費用がかかります。

処置内容費用
人工呼吸器管理1日あたり数万円〜
血液浄化療法1回あたり10万円〜

入院費

重症の場合入院が必要で、入院費は1日あたり1万円から3万円程度です。長期の入院を要する場合、総額で数百万円に達することもあります。

以上

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